『はぁ~い。もう、和義から電話なんてどうしたの?もしかして寂しくなっちゃった?』
深夜。
母さんに電話したのだが間違ったかもしれないと考えてしまう。
「切るよ?」
『もうー、兄妹揃ってお母さんを泣かせるのが流行ってるのかなぁ…』
「そう思うなら普通に出てくれない?」
『分かったわよ……それで?どうしたの?』
いきなり真面目になる時があるので接し方に困る。
「零奈の事だよ…心当たりあるでしょ?」
『ふーむ…告白でもされた?』
「うっ…」
『あらー、あの子も中々やるのねぇ』
「焚き付けた本人が何言ってんの?」
『あら、私は背中を押してあげただけよ………ねぇ、
「ん?そんなに知らないよ。月命日のお参りに行った時にたまたま下田さんと会って、その時にどんな教師だったかを教えてもらえたけど」
『あの子も面白いよねぇ…じゃあ、
「確か、お腹の中に五つ子がいると知った途端に失踪したんだっけ?」
『へぇー、零奈ちゃんから教えてもらったの?』
「いや、姉妹の一人から教えてもらったんだよ」
『おやおや、随分と信頼されてるわね?まさかその娘からも告白されてたりして』
「…………」
『わお!誰?誰から告白されたの?』
「それは今いいでしょう。今は零奈の事だよ」
『はいはい。元旦那さんの事を知ってるのなら話が早いわね。あの人は
「なっ…!?」
衝撃的な事を聞かされた。じゃあ、五つ子の父親は元教え子と結ばれ、五つ子と知るや否や失踪したのか。
『
その頃の事を懐かしみながら話す母さんの言葉には、少しだけ寂しさを感じられた。
『後は貴方が知っている通り。五つ子だと知った後姿を消した…多分、育てていく自信が無かったのでしょうね…相談してくれれば、少しでも助けてあげたのに…でも、私達家族もお父さんの転勤があって引っ越す事になったから、あまり人の事は言えないわね』
「そんな事ないでしょ」
『ありがとう……引っ越しの後も連絡は頻繁に取ってたんだけどね。場所が場所なだけあったからね、あまり助けることが出来なかったんだ。でも、マルオ君が体調を崩した
そうなのだ。以前、母さんに中野さんはどんな人なのか聞いたことがあり、その時に五つ子のお母さん、つまり
それほどまでに、中野さんは
だからこそ、彼女の残した娘達をここまで立派に成長させたのだと思ってしまった。自分は最愛の人を病気から救うことが出来なかった強い悲しみがあったにも関わらず…
根は優しいが、それを伝えることが下手。まるで風太郎みたいだ。
だからこそ、彼の事を嫌いになれなかった。
『献身的なマルオ君の行動がようやく実を結んで、
「でも、血の繋がった兄妹だよ?」
『良いじゃない!ロマンチックで』
「あのねぇ…」
『零奈ちゃんの恋は応援するわ。けど、和義に無理強いはさせない。貴方は自分で考えて、本当に好きになった人と結ばれなさい。ただ、その選択肢の中にあの子を入れてあげて…お願い…』
多分、母さんは今頭を下げながら電話をしてるのだろう。そんな光景が容易に想像できる。
「……分かったよ。零奈にもその事は伝えてる。もし、零奈を選ばなくても恨まないでね」
『もちろんよ!』
その後軽く世間話をして、そこで電話を切った。
そして、カーテンを開け夜空を見上げた。今日は天気が良く星もちらほらと見える。
「五月…零奈…」
想いを伝えられた人の名前を口に出す。まあ、四葉にも好きと言われたが、あれは風太郎に対する想いとは違うように思える。五月の言葉を借りれば、姉妹に対する好きが僕にもあるといった感じだ。
五月はまだ自分の気持ちが分かっていないと言っているが、告白後の彼女を見れば何となく分かってくる。自意識過剰でなければ、彼女も僕に対して恋をしてるのだろう。
僕にはまだ異性を好きになる気持ちが分かっていない。もちろん、五つ子全員と零奈の事は好きだ。けど、この好きは友人として、家族として一緒にいて楽しく思える好きだ。
「まだ試験で問題を解いてる方が楽だよ」
机の上の勉強途中の光景を見ながらそう呟くのだった。
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2月になり、試験まで一ヶ月を切ったある土曜日。
今日も勉強に励んでいるのだが…
「ここでは作者の気持ちを答えるというより、読者のお前らが感じたことを書くわけであって……」
風太郎が皆の前で力説をしているが、当の五つ子達が全員行き詰まっている。
これは問題を解く以前のような感じだが。
風太郎は何かを考えているようだが、どうせろくでもない事を考えてるのだろう。
「よく分からないけど、失礼なことを言われてる気がするわ」
「二乃に同意」
「むっ…!」
「…と言うか、問題を解く以前に…皆集中力の限界だよねぇ…」
やはりか。
「連日勉強漬けですからね…」
「わ、私はまだ出来るよっ!」
あまりやり過ぎは良くないと思って、家庭教師で風太郎が来た日の夜は自由時間を設けてあげてるけど、元々が勉強に苦手意識を持っていたのだ。こうも連日勉強をしてたら気が滅入るだろう。
「はい、皆さん差し入れですよ。兄さんの特製クッキーです」
「わぁー、ありがとうございます!」
「いつの間に作ってたのよ」
「皆が自習してた時にね」
「う~ん、相変わらずカズヨシ君の作るお菓子は美味しいね。紅茶と良く合うよ」
「うん、甘さも丁度いい…」
「直江さん、いつもありがとうございます!」
「むむむ…」
五つ子は皆クッキーに夢中であるが、風太郎は何やら本を読みながら唸っている。
「あれ、何読んでんの?」
「ああ、『良い教師になる為のいろは』って本だよ。この間たまたま書店で会ってね。いつもお世話になってるお礼で買ってあげたんだ」
「へぇ~、あの風太郎がねぇ…」
まさか試験に関係ない本を読んでるなんて、それだけこの娘達と向き合っていく気になったってことか。
『この手でお前達を進級させる、そして全員揃って笑顔で卒業。それだけしか眼中にねぇ!』
先日の中野さんと五月が話していたコーヒーショップで風太郎が口にした言葉。これは今でも覚えている。
笑顔で卒業か…
その時、ついこの間学校の教師に勧められた
そんな時だ。風太郎から予想だにしない事が提案された。
「明日、一日だけオフにしよう」
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次の日。僕達は電車に揺られ、遊園地まで来ていた。
「ふふ、オフの行き先が遊園地だなんて、フータロー君もベタだねぇ」
「他に行きたいとこあったなら言えよ」
「良いんじゃないかな。気分転換には」
「ですね。私達も久方ぶりなので楽しみです」
「お母さんに連れていってもらった以来かしら」
「…」
「ん?四葉、どうかした?」
「い、いえ!久しぶりだなぁと思いまして」
テンションが高くなっている他の姉妹と違い、どこか上の空の四葉に声をかけたがその返事もどこか元気がなく違和感を覚えた。
「私達も久しぶりですね兄さん」
「そうだね。父さん達も忙しいから仕方ないけどね」
手を繋いでいる零奈もいつもより浮き足立っているように思える。
「ねぇ、カズヨシ。どこから回る?」
「そうだな…なるべく零奈が乗れるアトラクションから回ろうかと考えてるよ」
「ならメリーゴーランドとかどうかな?」
「うん、良いんじゃないかな」
「お前ら、今日だけは勉強の事を忘れることを許そう。思う存分羽を伸ばせ」
風太郎の言葉で遊園地巡りがスタートした。
皆、思い思いのアトラクションで楽しんでいた。絶叫系やお化け屋敷、メリーゴーランドなどなど。
零奈も楽しんでいるようで、今は二乃と三玖の二人と手を繋いで歩きながら雑談をしている。
普段であれば五月と一緒にいるのだが、その五月は絶叫系にハマっており、それらのアトラクションは身長制限で零奈が乗れないため、別行動を余儀なくされている。
ちなみに、その五月の相手は一花が努めているがそろそろ体力の限界のようだ。
「次はあれに乗りましょう!」
「五月ちゃんちょっと待って...」
「五月元気だねぇ。あの一花が疲れ果ててるよ」
「レイナちゃんは疲れてない?」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます、三玖さん」
「元気と言えば、四葉は今日静かだね。いつの間にかいなくなってるし」
「本当ね。どこいったのかしら?」
そんな話をしていると三玖の携帯に着信があったようだ。
「おなか痛いからトイレだって」
「なぜ直接言わない」
「風太郎...もう少しデリカシーについて学ぼうか...」
そう風太郎にツッコミながら観覧車の方に目線が行った。
あいつは...
「三玖。零奈の事お願いね。僕もちょっとお手洗いに行ってくるよ」
「ん...任せといて」
「風太郎も行こうよ」
「何故だ?」
「いいじゃん。たまには男同士でさぁ」
「分かった分かった」
肩に腕を回しながら言うと承諾を得られた。
「あんたらの仲良しこよしを見せられても、私達には何も得がないからさっさと行ってきなさい」
二乃にそんな事を言われながら送り出された。
「ん?おいトイレに行くんじゃないのか?」
「風太郎あれ」
そう言って観覧車の一つのゴンドラを指さした。
「あれは...」
「て事で、風太郎よろしく!」
「は?」
風太郎の肩に手を置いて伝えると、自分が任されるとは思わなかったのか驚いた顔で僕を見た。
「いやいや、お前が行った方が良いだろ」
「何言ってんの。家庭教師としての真価が問われるときだよ。ほら、もう着いちゃうよ」
「分かったよ…ったく」
ブツブツと文句を言いながら観覧車に向かっていく風太郎。
確かに僕が行っても良かったけど、今の四葉に必要なのは風太郎だと思う。
「頑張れよ風太郎」
二人が、風太郎と四葉が乗ったゴンドラがまた上っていくのを見ながら、そう呟くのだった。
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そして次の日。
今日も今日とて家庭教師の為風太郎がうちに来ていた。
そこで風太郎はある提案を出した。
「これからは全員が家庭教師だ」
「え?どういう事?」
風太郎の提案に一花が反応した。
「もしかして、自分の得意科目を他の姉妹に教えていくってこと?」
「流石だな和義!そうだ。俺や和義が教えることが出来ない時間帯があるはずだが、そんな時にお互いに高め合ってくれ。そうして全員の学力を一科目ずつ引き上げるぞ!」
「うん、いいんじゃないかな。人に教えることで自分の学力向上にも繋がるしでメリットも多いと思うよ。それに五つ子同士だから感じたままを言えばきっと伝わるでしょ」
「あんた五つ子の力を過信しすぎよ」
「でも何となくできるような気がする...」
「.....」
何かを考えている五月の頭をポンッと叩きながら皆に伝えた。
「ま、物は試しだよ。頑張って行ってみよう。ね?」
五月の頭に手を置いたまま同意を求めてみた。
「はい!やってみます」
「うん!」
「こほんっ」
そこで零奈が咳ばらいをした。
「カズヨシ、いつまで五月の頭に手を置いてるの...?」
「え?」
「え?じゃないわよ!さっさと離れなさい!」
「おっと...ごめんね五月」
「あっ...いえ...」
頭から手を離し五月から離れるとき、少し残念そうな声が聞こえたような気がしたが零奈の目が怖かったので気にすることができなかった。
「とにかく、赤点回避に向かって全員で挑んでいくぞ!」
そんな風太郎の声が部屋に響いていた。
最新話、ようやく投稿できました。遅くなり申し訳ありません。
今回は、零奈先生の元旦那さんの話を出しましたが、あえて名前は出しませんでした。
和義に知られるのはまだ早いかなと感じましたので。
そして、和義が生まれてすぐに直江家は引っ越しをしていた訳ですが、その辺りのお話も後々に書こうと思っています。
和義が教師から提案があったある事。これについては、もう想像が出来ている人がいるかもしれませんが、あまり遠くないお話で出そうと思います。
次回はあのイベントに入ろうかと思いますので、次回投稿までお待ちいただければ幸いです。
今後もどうぞよろしくお願いいたします。