五等分の奇跡   作:吉月和玖

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60.準備 前編

翌週の土曜の夜。

自分の部屋で勉強をしているとメッセージが来た。

珍しく四葉からである。

 

『明日のジョギングの時に相談したいことがあるので、少し早めに出ませんか?』

 

この間の遊園地の時の元気がない原因については風太郎が解決したからまた別の事だろうか。

ちなみに、その時の四葉は自分が一番成績が悪いのを気にしており、勉強をしなければという気持ちで楽しめておらず、また観覧車の中で一人勉強をしていたようだ。

そこで風太郎が例の皆で家庭教師案を思いつき四葉を励ました。

後、前の学校での落第の件も話したそうだ。

相談事はとりあえず聞いてみないと分からないし、早めに出る事には問題ない。

 

『良いよ』

『ありがとうございます!では、1時間ほど早くでお願いします』

『了解!』

 

さてさて、どういった内容なのだろうか。

 

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翌日。

少し早めにジョギングに出て、いつもの高台にある公園に着いたので水分補給で休憩することにした。

ここまで来る中では特に四葉に変わったところはないように思える。

 

「はい、四葉の分」

「いつもありがとうございます!」

 

近くの自販機でスポーツドリンクを買ってベンチに座っている四葉に渡した。

そしてその隣に座り自分の分を飲んだ。

 

「ふぅ-...で、相談って何かな?」

「えっと...もうすぐバレンタインじゃないですか...それで、今年は頑張ってみようかなと思いまして...」

「あぁ-、そう言えば今週だっけ?ふむ、それで僕はどうすればいいのかな?」

「その-、手作りのチョコを渡したいなと思いまして...風太郎君に...」

「良いんじゃない。それで、そのチョコ作りを手伝ってほしいと?」

「はい」

 

そのくらいなら全然問題ない。ただ、どこで作るかが問題である。

うちで作ってもいいが、他の姉妹が怪しむだろうしな。

 

「ふ~む、手伝うのは良いんだけど場所がなぁ...」

「ですよねぇ」

 

そこである人が頭を過ぎった。

 

「ダメ元で頼んでみるか...ちょっと電話するね」

「はい」

 

そして、そのある人に電話をした。

 

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「お前さんの図々しさは綾先生並みだねぇ。いきなり電話してきたと思えば台所を貸してほしいとはねぇ」

 

先ほど家の台所を貸してほしいと電話して、了承をもらえた下田さんの家まで来たらその言葉で出迎えられた。

 

「いや-、助かりました。材料は買ってきましたので」

「えっと...初めまして!中野四葉です!」

 

玄関で四葉はそう言って頭を下げた。

 

「その男から聞いてるかもだが、お前さんのお母さんの元教え子の下田だ。ま、固くならんでくれ」

「その男は止めてくださいよ」

「んあ?そうだなぁ、さすがに直江と呼ぶのは気が引けるから和義でいいかい?」

「ええ、構いませんよ。じゃ、お邪魔します」

 

そう言って玄関からキッチンに向かう。四葉もそれに続く。

 

「しっかし、五つ子ってのは知ってたが、本当にそっくりだな」

「でしょう?最初は見分けるのに苦労したんですから...」

「え?そうなんですか?直ぐに見分けれていたので、全然苦労してないと思ってました」

「あれは髪飾りとか特徴的なもので見分けていたからね。苦労してたのは本当だよ。風太郎の前だったから、苦労しているところを表に出さないようにしてたんだよ」

「へぇ~...」

 

そんな話をしながらも準備をしていく。

 

「そうだ。下田さんは何時くらいに出るんですか?なんだったらお昼も作りますよ?」

「お、そりゃ助かるねぇ。二時くらいに出れればいいから頼めるかい?」

「了解です。じゃあ四葉始めようか」

「はい!お願いします!」

 

四葉は敬礼をして返事をする。

 

「今回はチョコラスクを作ってみようと思ってね。ラスク部分はこれを使う」

 

そこで取り出したのは、

 

「フランスパンですか?」

「ああ、一から作ってたら手間だからね。じゃあ、このフランスパンを一センチくらいに切り分けてもらえる?」

「はい!」

 

そう返事して包丁を使っているが特に問題なく使えている。まあ、僕や二乃程ではないけど昔の三玖よりは明らかに器用だ。

 

「包丁普通に使えているみたいだけど、なんで料理しないの?」

「えっと...どうも私って感覚で分量を量っちゃうところがあるみたいで。そこを指摘されてからはずっと二乃が料理してます。この間のおにぎりとかだったら、私でもたまに作りますけどね」

「ふぅ~ん...」

 

まあ、料理に慣れてくれば感覚で作るのはいいかもしれないが、初めて作るような料理でも感覚で作るのはやめた方がいいかもしれないからね。

そんな会話をしながら作っていたが、今はオーブンで焼くところまで進んだ。

四葉はオーブンの中をジッと見ている。その姿は可愛いものだ。

 

「さてと、今の間にお昼ご飯の準備に取り掛かりますか」

「しかし、お前さんの手際は半端ないな。この間ヘルプで働いたと言っていたが頷けるよ」

 

キッチンを覗き込みながら下田さんが感想を言ってきた。

 

「これくらい毎日料理していれば身に付きますよ。まあ、料理は趣味でもありますし」

「お前さんを他の一般人と同じベクトルで測るんじゃないよ」

 

何故か呆れられてしまった。

その時丁度焼きあがる時間のタイマーが鳴った。

 

「直江さん、取り出してもいいですか?」

「いいけど、火傷しないように注意してね」

「は、はい!」

 

そう言って、四葉はオーブンの扉を開けて中身を取り出した。

その瞬間チョコレートの甘い匂いが一面に立ち込めた。

 

「うわぁー、いい香りです!」

「だなぁ」

「うん!いい感じだね。じゃあ、裏面も焼くからフライパン返しで裏返しにしたら同じ時間でオーブンで焼こうか」

「はい!」

 

出来上がりが良かったからか、四葉はご機嫌な顔でラスクを次々に裏返していった。

この顔を風太郎のやつに見せてやりたい。風太郎を好きになった娘がこんないい娘で良かった。そう思っていると下田さんが話しかけてきた。

 

「今のあんたの顔は綾先生そっくりだねぇ。生徒を優しい顔で見るあの顔に...うん、いい顔だ!」

「え、そうですか?」

「ははは、綾先生が自慢するだけはあるよ。どうだい?もし興味があるなら私の勤め先の塾でバイトやってみる気はないかい?もちろんこの間の五月ちゃんも誘ってもらって構わないよ」

「考えときます。今は五つ子達の勉強を見ることしか考えていないので」

「そうかい。気が向いたら連絡しな」

「ええ」

 

そんな話をしている脇では四葉がまたオーブンにラスクを入れて、またそれをジッと見ている。ニコニコしながら。

 

後は冷蔵庫で冷やすだけになったので、その間に僕の作ったお昼ご飯を皆で食べることになった。

零奈にはお昼は四葉と知り合いの塾講師の家で食べてくると前もって伝えているので問題はないだろう。

ちなみに、どうやら三玖以外の姉妹もどこかに出かけているようだ。

お昼を食べた後には、「ホワイトチョコ&ドライイチゴ」と「ビターチョコ&アーモンドクランチ」も作ってみた。

どれも美味しそうに作れて良かったな。

 

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~二乃side~

 

和義と四葉がジョギングに出た頃、二乃の携帯にメッセージが届いた。

 

(綾さん?何だろう...)

 

若干の不安を抱きながら二乃はメッセージを開いた。

 

『二乃ちゃんの気持ちはその後どんな感じかな?もしバレンタインチョコを作るのなら、私の知り合いにお願いして場所の提供できるけど』

 

二乃は以前から個人で綾とメッセージの交換をしていた。

その時に恋愛相談的なことをしていたのだ。

ある人の事を目で追ってしまう。その人が他の姉妹を含む女性と仲良くしているのを見ると嫌な気持ちになってしまう、などだ。

そうすると綾から返事が返ってきた。

 

『二乃ちゃんはきっと恋をしてるんだね。だけど、もしかしたら無意識にそれを拒んでるのかもしれないね。どうかな?今度のバレンタインでチョコを渡すだけでもいいんじゃない?お世話になってますって』

 

綾はもしかしたら相手の事を知っているかもしれないが、敢えて聞いてこなかった。

それが少し嬉しく二乃は思っている。

 

(バレンタインか...)

 

三玖が先日より零奈の指導の下、夜中にチョコ作りに励んでいるのを二乃は知っている。そして渡す相手も。

二乃は、チョコを作っている時の真剣な顔をしている三玖を見ているとからかう事も出来なかった。

むしろ、二乃は自分の気持ちに一直線になって行動している三玖を羨ましくも思っていた。

 

(よし...!)

 

二乃は決心して綾に返事をした。『お願いします』と。

 

綾からの連絡はもの凄く早く、今日からでも場所を提供してくれるそうだ。

しかも、驚くことにその場所というのが普通のお店であったのだ。

 

(えっと、『REVIVAL』っと...あったここね?外観は良い感じのお店だけど、本当にここでいいのかしら?)

 

意を決して入口から中に入ってみた。

 

「いらっしゃいませ!って二乃じゃないか。何してんだ?」

「げ!?何で上杉がここにいんのよ?」

 

二乃が店の中に入ると出迎えてくれた店員は風太郎であった。

 

「何でも何も、俺は仕事中だ!」

「え?あんたここで働いてたの?」

「ああ」

「上杉君。どうしたんだい?」

「ああ、店長。いえ、知り合いが来たもので」

 

店長と呼ばれた男の人が出てきたので二乃は綾の事を聞いてみることにした。

 

「あ、あの!綾さんからここに来るように言われて来たのですが、何か聞いてますか?」

「ん?ああ、君が綾先生の言っていた子かい?確か二乃君だったかな?」

「はい!」

「え?綾さんに言われて来たのかよ」

 

綾の名前が出て風太郎は驚いた。

 

「おや?上杉君は綾先生の事を知っていたんだね?」

「ええ。この間ヘルプに来てくれた奴がいたじゃないですか。あいつの母親なので」

「え?ああ、そう言えば結婚して直江になっていたね。綾先生呼びだからすっかり忘れていたよ。そうか彼が...」

「あ、あの...」

 

風太郎と店長が綾の話で盛り上がってしまっていた為、忘れられてないか心配になり、二乃は声をかけた。

 

「おっと、すまないね。事情は聞いてるよ。案内するよ」

 

歩き出す店長の後を二乃は付いていく。店の厨房を借りる程の綾の人脈に驚く二乃。

厨房用の制服に着替えて厨房に案内された二乃は、店長に一区画を使っていいと言われた。

 

「今日はここの区画を自由に使ってもらって構わないよ。ああ、器具や材料はある程度出しといたから自由に使っていいからね。何か他に必要なものがあったら声をかけてもらって構わないよ」

 

場所の提供をしてもらうことにとても感謝はしている。しかし、二乃には気になる事があった。

 

「あ、あのー...場所の提供をしてくれるのは大変ありがたいのですが、綾さんとはどういった…?」

「あぁ、彼女は僕の恩師でね。学生時代以外でも色々と面倒を見てもらったんだよ」

「そうだったんですね」

 

改めて綾の交友関係などに驚くも、とりあえず自分のやるべき事に集中することにした。

 

(午後からは家庭教師があるしあまり時間はないわね。さて何を作ろうかしら。あいつの事だし、多分当日はたくさん貰うんでしょうね。じゃあ、たくさんある中で一番のものを渡したいわね。見てなさいよ)

 

そう意気込み二乃は作成に取り掛かった。

しばらくして、店長が二乃の様子を見に来た。

 

(まったく綾先生は昔から無茶ぶりをしてくるものだ。まぁ、それに逆らえない僕も僕だけどね...ふむ、集中しているみたいだね。邪魔をしないように、どれどれ...ほぅ、中々の手際だね。この間の直江君に負けず劣らずといったところか)

 

二乃の手際の良さに感心する店長。

 

(もしかして綾先生はこれを見せたかったのか?う~む、ただ場所を提供してほしかっただけかもしれないし。本当にあの人は読めないね...)

 

「よし、後はオーブンで焼くだけね」

 

そう言って、二乃はオーブンに入れるともう一つ作るのだろうか、また作業に入ろうとしていた。

 

「見事な手際だったね。もう一つ作るのかい?」

「あ、店長さん。はい、ここを貸してくれたお礼にと思いまして、お店の方にも作るつもりなんです」

「何ていい娘なんだ。どうだろう、もし興味があればここで働いてみないかね?」

「え?ここでですか?」

「ああ。実はもう一人にも声をかけたんだけども断られてしまってねぇ。ほら、さっき上杉君と話をしていた直江和義君だよ。彼にはこの間のクリスマスイブの時限定で働いてもらったんだが、そこでの手際に感動してね。働いてみないかと声をかけたんだが、今は他に集中したいと後日断れてしまってね」

(イブってことは、あの時出した手作りケーキを作ったのはここだったのね。それに、集中したいことって多分私達の事。なら私の答えも決まってる)

「すみません。せっかくのお誘いなのですが、今は私も集中しないといけないことがあるので。また機会があればお願いします」

 

そう言って二乃は頭を下げた。

 

「おや君もかい。ふむ、その集中することと言うのは結構時間がかかるのかい?」

「いえ、最短でも来月までです」

「ならば、来月まで待たせてもらうよ。君のような才能を持った子を他の店に取られたくないからね。その集中することが解決して、働く気があれば連絡してくれ」

「はい、ありがとうございます」

 

話はそこまでと言った形で店長はまたホールに戻っていった。

それを見送った二乃はまた作業に取り組み始めた。その日に作った『チョコテリーヌ』は店の冷蔵庫で保管してくれることになった。味は店長のお墨付きであったようだ。

 

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~三玖side~

 

和義と四葉、そして二乃がチョコ作りに奮闘している頃。直江家でもチョコ作りに奮闘している者がいた。

三玖と零奈である。

いつもは皆が寝静まった夜中にちょっとずつ練習をしていたのだが、今日は皆が出かけて誰もいなくなったので急遽作成に取り掛かることになった。

 

「大分手馴れてきましたね。まあ、まだまだ目が離せないところもありますが、最初に比べれば見事な成長です」

「ありがとう。これもレイナちゃんのおかげだよ......」

 

感謝の言葉を言うが、どこか沈んだ気持ちが表に若干出ている三玖。それに気づかない零奈ではなかった。

 

「兄さんと四葉さんが気になりますか?」

「えっ...?うん...また二人で出かけていると思うと気になっちゃって...」

「詳しくは言えませんが、あの二人は大丈夫ですよ。また四葉さんの相談に乗っているだけです」

「そ、そうなんだ...」

 

零奈の言葉にホッと安心する三玖。その姿を見て零奈は一つ疑問に思ったことを聞いてみた。

 

「三玖さんは兄さんが好きなのですか?」

「ふぇっ...!?.......うん」

「そうですか。まぁ、こうやってチョコ作りをしている段階で薄々気づいていましたが」

「あ、あの…この事はカズヨシには…」

「言いませんよ。ただ、兄さんも薄々感じ取ってるかもしれませんよ?」

「どうだろう…カズヨシは私の事を歴史好き仲間としか思ってないと思うよ」

「まあ、そうかもしれませんね…」

「だから決めたんだ。今度の期末試験で赤点回避する。しかも五人の中で一番の成績で。そうやって自分に自信を持てたら、カズヨシに好きって伝えるんだ…」

 

三玖は調理の手を止めず、そう意気込んだ。その顔には笑顔も見える。

しかし、零奈は知っている。既に自分と五月が告白をしていることを。

だが、この事を今三玖に言うわけにもいかない。

まだ自分の気持ちが異性に対する好きなのか分かっていないとは言え、五月の気持ちを勝手に言い触らす訳にもいかないし、自分の事をここで話すのも何か違う。もし自分の正体を話すのであれば、娘達が揃っているところと零奈は決めているからだ。

 

「三玖さん…」

「ん?どうしたのレイナちゃん?」

「いえ……ただ、どうか後悔をしない選択をしてくださいね?後悔をするのは辛いことです…」

「え?急にどうしたの?」

「お願いです。この事は胸に秘めていてください!」

 

いつにも増して真剣な表情で自分の事を見ている零奈に対して、自分も真剣に向き合わなければいけないと思った三玖は、

 

「うん…!分かったよ。その時が来たら、後悔しない選択をするね」

「約束です」

 

笑顔で語る零奈に対して、三玖もまた笑顔で頷いた。

 

「じゃあ、続きを作っちゃいましょうか。もうすぐ皆さん帰ってくるかもしれませんからね」

「うん…!よろしくね、レイナちゃん」

 

その日に作ったナッツ入りチョコは、三玖史上最高の出来となったのだった。

三玖の料理の腕は着実に成長しているようだ。

 

 




と言うわけで、今回はバレンタインの準備をする五つ子の話を投稿しました。

原作では三玖だけが作ったのですが、これは全員バレンタインのプレゼントを送ってもいいのでは、と思い書いた次第であります。
今回のお話では、二乃・三玖・四葉、と書きましたので次回は一花と五月を書こうと思っています。

準備があると言うことはお渡しもあると言うことで。その辺りも考えてはいますので、読んでいただければ何よりです。

また、今回のお話では下田さんとREVIVALの店長さんも出演させていただきました。
まず、下田さんですが。すみません、既婚者なのか分からなかったので、今回は独身の体で書かせていただきました。いや、下田さんの事だから結婚してるだろと思いもしたのですが、ここは敢えて独身でいかせていただきました。本当は結婚していたらすみません。
次に、REVIVALの店長さんですが、この人の事も出自などが分からなかったので、綾先生の元生徒という設定で書かせていただきました。

では、次回のお話もどうぞよろしくお願いいたします。
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