五等分の奇跡   作:吉月和玖

63 / 137
62.バレンタインパニック

「ふわぁ~…」

 

最近は勉強以外にある事を始めたから寝不足である。

後、この季節はやっぱり布団から出るのが億劫だ。

とりあえず顔を洗ってキッチンに向かうと先客がいた。

 

「おはよう二人とも」

「おはよ」

「おはよう、カズヨシ…」

 

二乃と三玖である。

二人は既に身なりを整え、弁当作りに取りかかっていた。

三学期に入り、皆の弁当作りはこの二人が手伝ってくれているのだ。本当に助かる。

 

「最近のあんた起きるの遅いんじゃない?」

「いやー、二人がいると分かってるからか中々布団から出られなくって…」

「ふ~ん。ま、そういう事にしといてあげるわ」

「?」

 

二乃はそう言いながらも調理の手は止めなかった。

何だろう、この私は知ってるけど今は聞かないでおいてあげる的な答え方は。あの事はまだ風太郎や零奈にも話してないんだけど…

 

「カズヨシ。寝坊の原因は他にあるの?」

「ないない。本当に布団から出るのが辛いだけだって」

「そう…」

 

あまり納得がいっていないようだが、三玖も準備に戻った。

今話してもただ不安にしてしまうだけだし、試験が終わってからでもいいでしょ。

そう一人納得し、僕も準備に取りかかった。

 

そして、今日も別々に家を出る。家に残っているのは僕と零奈だけだ。

 

「零奈ー!もう出るけど、まだかかりそう?」

「待ってください。はい!ハッピーバレンタインです!」

 

そう言いながら零奈が包みを渡してきた。

 

「もちろん本命です。ちゃんと味わって食べてくださいね!」

「ははは…ありがとう。嬉しいよ。帰ってから食べていいかな?」

「はい!後……」

「?」

 

零奈が手招きをしてきたのでしゃがみながら近づくと、

 

チュッ

 

「ちょっ…!」

「ふふ、油断大敵ですよ!いってきます」

 

キスをされた頬に手を添えながら元気に学校に向かう零奈を見送った。

 

「まったく…油断も隙ないな。本当に鉄仮面って言われていた零奈(れな)先生を想像できないよ」

 

そう言葉を溢しながら自分の部屋に零奈から貰ったチョコレートを置き、僕も学校に向かうことにした。

 

------------------------------------------------

暫く学校に向かって歩いていると、前に一花と偶然会ったコーヒーショップの前に一花と四葉の姿があった。

 

「あっ!直江さーん!」

「遅かったね?」

「どうしたの二人とも?」

 

二人に近づきながら素朴な疑問を聞いてみた。

 

「君を待ってたんだよ」

「僕を?」

「そうですよ!学校や家では渡しずらかったので…」

「「ハッピーバレンタイン!」」

 

二人で揃えてそう言いながら、それぞれ包みを渡してきた。

 

「え?僕に?」

「当たり前じゃん。カズヨシ君には普段からお世話になってるからね」

「はい!私達の気持ちです!」

「そっか…ありがとね。予想もしてなかったから素直に嬉しいよ」

「ふふん。サプライズ成功だね」

「ししし」

 

その後三人で学校に向かうことになった。

 

「う~む…視線を感じる…」

「ははっ、本当に二人がいて助かったかな…」

「直江さんはいつもこんな中を過ごされてるんですね…」

「毎日って訳じゃないけどね」

 

そんな話をしながら昇降口に着いた。

自分の靴箱まで来て開けようとしたところで少し躊躇った。

 

「どうしたの?まだ履き替えてなかったの?」

「一花。この紙袋を広げて持っててくれない?」

「へ?」

 

鞄の中に用意をしていた紙袋を一花に渡して僕は靴箱を開けた。

そこには予想通りの光景が広がっていた。

 

「これは…」

「こんなの初めて見ました…」

「やっぱりか…」

 

靴箱の中は包みや箱でいっぱいであった。

いつも思うのだが、皆はどうやってここまで入れているのだろうか。

そんな思いの中一花が持っている紙袋の中に次々と入れていった。

 

「ありがとね一花」

「いやー、流石に私もビックリだったよ」

 

半分以上は溜まった紙袋を預かりながら中身を見てみる。

色々な包装がされており、色も鮮やかである。

さて、今年はどれくらい貰うことになるのやら。

 

一花と四葉、二人と別れて教室に入ると注目が集まった。

主に男子の怨念のような視線だが…

自分の席に向かうと、机の上にはいくつかの贈り物が乗っていた。

 

「ふぅ…おはよ三玖…」

「お、おはよう…カズヨシ、大丈夫?疲れた顔してるけど…」

 

隣の席の三玖に挨拶しながら机の上を片付けていたのだが、三玖に心配された。

 

「ありがとう心配してくれて。まぁ大丈夫だよ」

 

そんな風に答えたのだが、心配そうに見てくるのは変わらない。

しっかりしないと、と思いながら授業を受けるのだった。

 

------------------------------------------------

あれからは休み時間になる度に呼び出しをくらった。

最近は減ったと思ったのだが、どうも一年生からの呼び出しが多いように思われる。

告白までは行かないのが唯一の救いか。

そして今は昼休み。流石に誰もいないと思い屋上に向かったのだが、屋上の扉を開けると意外な人物がいた。そこで、少し戻り自販機で飲み物を買いその人物に近づいた。

何やら考え事をしながら外を眺めているようで全く気付かない。

 

ピトッ

 

「ひゃっ…!」

 

買ってきた飲み物を頬に当ててあげると可愛い声をあげて驚いた。いい反応だ。

 

「なーにしてんの、三玖?」

「カ、カズヨシ…何でここに…」

「誰もいないかな、と思って来てみたんだよ。けど先客がいたみたいだね。ほい、お裾分け」

「あ、ありがとう…」

 

そう言って三玖に渡したのは抹茶ソーダのホットである。

 

「安心して。鼻水は入ってないから」

「ふふ、懐かしいね」

「だよねー。あれからもうすぐ半年かぁ」

 

そう言いながら外を眺め、僕は自分用に買ったほうじ茶のホットを飲んでいる。

 

「何か考え事?」

「え?」

「いや、僕が近づいてるの全然気付いてないみたいだったから」

「……うん…」

 

三玖はまっすぐ外を見て何を言おうか考えているようだ。

僕は急かすことせず、言わなくてもいいとも言わず、黙って待っていた。

 

「改めて思ったんだ…カズヨシってやっぱりモテるんだなって…」

「最近は三玖や他の姉妹と一緒にいることが多かったから、告白とかなかったからね。今日は一年生が多かったかな…」

「そっか…同学年だけじゃなくて後輩からも…」

 

------------------------------------------------

~三玖視点~

 

和義が来る少し前。

 

少し考えたい事があって屋上に来た。

考えたい事はもちろんカズヨシの事。今日一日でカズヨシが学校の女子から人気があることを改めて感じてしまったから。

クラスの女の子達からはそんな話が出てこなかったから忘れていた。ううん。忘れようとしたのかもしれない。

朝、登校して教室に着いてみるとカズヨシの机の上にはバレンタインの贈り物が何個も置かれていたのは驚いた。

それに、休み時間の度に呼び出されては手に何かを持って帰ってきた。

それが続くから、表には出してなかったけど疲れているように感じた。少しとは言え、一緒に暮らすようになってからそういうのを感じれるようになってきている。

 

『兄さんはいつも笑ってはいますがたまに無理してるときがあります。周りに悟られないようにしていますが、案外分かりやすいんですよ。三玖さんもその内分かってくると思いますよ』

 

レイナちゃんがいつかそんなことを言っていたけど、良く見ると言ってた通り分かりやすい。

今日の朝だって何かを隠してるのは分かった。けど、多分悪いことをしてるとかではないように思えてきたからそこまで追及はしなかった。

 

「私って本当にカズヨシの事好き…なんだなぁ…」

 

多分カズヨシの事を好きなのは私だけじゃない。

二乃は林間学校から名前で呼ぶようになって、五月はクリスマスくらいから名前で呼ぶようになってた。

二人とも特別な意味はないって言ってるけどそんなことないと思う。もしかしたら今日プレゼントを渡すかもしれない。

レイナちゃんに手伝ってもらったチョコレートは今も上着のポケットに入れている。

けど、たくさんプレゼントを貰って疲れているカズヨシを見ると、渡して嫌われるかもって思ってしまい躊躇してしまう。

カズヨシが屋上に来て、一年生から貰う事が多い話を聞いた時レイナちゃんの言葉が頭に響いた。

 

『どうか後悔をしない選択をしてくださいね?後悔をするのは辛いことです…』

 

その言葉を思い出しある決心をした。

 

------------------------------------------------

「ねぇ…前に好きな人の話をしたの覚えてる?」

「ん?急だねぇ。もちろん覚えてるよ。いやー、我ながら会ったばかりの人に話すことじゃなかったね」

 

笑いながらその時の事を話すが三玖は真剣な顔をしていた。

 

「三玖?」

「私は嬉しかったよ。私達の事をそれだけ真剣に考えてくれてるんだって思えたから…あれから今も考えは変わってないの?」

「え?まあ、このままじゃいけないと思ってね。少しずつではあるけど恋愛について考えるようになったかな。未だに好きって感情が分かんないけどね」

「そっか…」

「三玖は?好きな人できた?って、三玖の好きな人は髭のおじさんだっけ…」

「できたよ…」

「へ?」

 

冗談のつもりで聞いたのだが予想していなかった言葉が返ってきた。

 

「そっかぁ。三玖も恋したんだね」

「うん…!私の好きな人はいつも私を助けてくれるんだ。それに、私と同じ歴史好きだから話してても楽しいんだよ」

「へぇー、それはそれは。知らなかったな僕、以、外に、男子と話し、てるなんて…」

 

そこまで言ってハッと思い、外を眺めるのを止め三玖の方を見た。だって、昨日話したばかりじゃないか。僕といるから男子から声がかからないって。

三玖は上着のポケットから包みを出して、それを両手で持ち僕の方に差し出した。

 

「ハッピーバレンタイン…!本命だよ…もちろん変な意味で」

「え?」

「レイナちゃんに教えてもらいながら作ったんだ。自信作だから食べてくれると嬉しいかな…」

 

笑顔で言っているが包みを持っている手は震えている。それだけ勇気を振り絞って伝えてくれているのだろう。

 

「ありがとう。けど、今の僕は女性として好きという感情が持てないんだ…」

「それは今聞いたよ。でも、少しずつでも考えてくれてるんでしょ?だったら私を好きになってもらえるように頑張るだけ。これはその一歩。食べてみて?」

 

三玖の言葉に後押しされ、包みを受け取り中身を見た。

どれも不恰好なチョコレートで手作り感は凄く出ている。

いくつかあった内の一つを口に含んだ。

 

「……美味いよ!ナッツ入りって僕の好きなチョコじゃん。零奈から?」

「うん…!レイナちゃんに教えてもらった。美味しく出来てて良かった…!」

 

笑顔でそう答える三玖を見ているとどうしようもない気持ちになってきた。

 

「三玖。僕は友人として君の事が好きだ。そんな三玖にここまでされたのなら僕も一生懸命考えるよ。時間はかかるかもしれない。それでも待ってくれるかな?」

「ふふっ、もちろんだよ…!見ててね。次は期末試験。ここで赤点回避して、更に姉妹の中で一番の成績を出すから…!」

「ああ、期待してるよ!」

 

三玖の真っ直ぐな気持ちを受けながらも、今だけは彼女達の赤点回避。それだけを目標に頑張っていこうと思うのだった。

 

------------------------------------------------

放課後。

帰りのホームルームが終わりを告げた瞬間、急いで学校を離れることにした。ここにいても良いことはない。

そして、学校を出た辺りでメッセージが届いた。

 

『忙しいかもだけど、付き合ってほしい場所があるの。良かったら現地集合で。場所は…』

 

そのメッセージに従ってある場所に来た。

 

「そう言えば、今日も月命日だったね」

 

お墓の前で手を合わせてる五月に声をかけた。

 

「来てくれてありがとね。内心来てくれないかもって思ってたから」

「まあ、場所が場所だったしね」

「そっか…そう言えば上杉君が提案した全員家庭教師案。良い傾向だよ。教わること以上に教えることで咀嚼出来ることがあるって実感してるんだ」

「そいつは何よりだね」

「ふふっ、和義君の言ってた通りだね」

「そんなこと言ったっけ?」

「言ってたよ。『人に教えることで自分の学力向上にも繋がるしでメリットも多いと思うよ』って。和義君の言った言葉は忘れないようにしてるから」

「またそんな恥ずかしい事を…」

「好きな人。それ以前に尊敬できる人が言った言葉だもん。忘れたりしない」

「そっか…ありがとう」

「うん。今回の全員家庭教師。これを通して、教えた人に感謝される喜びを得たんだ。もしかして、和義君も私達に感謝されて嬉しかった?」

「ああ、もちろん。それに、教え子の成長を間近で見るのはもっと喜びを感じられるよ。風太郎や五月達姉妹を見てるとね、そう感じられるんだ」

「そっか…この気持ちを大切にしたい。そして、和義君が感じている気持ちも感じてみたい。だから……」

 

そこでお墓を真っ直ぐに見て五月はこう宣言した。

 

「お母さん…私は先生を目指します」

 

五月の宣言の後、二人で墓地から離れることにした。

 

「それにしても凄い量だね。毎年それだけ貰ってるの?」

「ああ。だから食べるのが大変でさぁ…」

「え?全部食べてるの?」

「当たり前でしょ。どういう経緯があったとしても、僕のために作ったり買ったりしてくれてるんだ。処分なんて出来ないよ。あー…でも上杉兄妹や零奈にも手伝ってもらってるんだけどね。それでも、絶対に一口は食べるようにしてるよ」

「君ってば…」

「ん?」

「何でもないよ…好きになった弱みかな。そんな事言われるともっと好きになっちゃうよ

 

何かを言ったような気がしたが、何でもないと言ってるのであれば聞かない方がいいだろう。

暫く二人静かに歩くことにした。

 

「あっ、そうだった…」

 

何かを思い出したのか五月は鞄の中を漁りだした。

 

「はい、これ!バレンタインプレゼントだよ」

 

そう言って包みを渡してきた。

 

「和義君は毎年たくさんのチョコを貰ってるってらいはちゃんから聞いてたから、チョコ以外にしてみたんだ。開けてみて」

「う、うん…」

 

五月に勧められるがまま包みを開けてみると…

 

「手袋?」

「うん!普段着けてるところ見たことがなかったからどうかなって思って…」

「そっか。ありがとね。早速使わせてもらうよ」

 

そう言って手に着けてみる。

 

「うん…暖かいね。大事に使わせてもらうよ」

「えへへ…良かった」

 

そう言って五月は首に巻いているストールを口元まで持っていった。

 

「そのストール、ちゃんと使ってるんだね。他の姉妹もだけど」

「もちろんだよ!このブレスレットと同じで大切な人からの贈り物だもん」

「ストールはサンタからの贈り物でしょ」

「うん。物だけでなく色々な事を持ってきてくれる人だから、私にとってサンタでもあるかもね」

 

笑顔でそう返されると何も言い返せないな。

 

「これからもよろしくね、私のサンタさん!」

 

少し前に出て振り返りながら、笑顔でそう言ってくる五月。

色々な物を持ってきてくれるか…それは君たち姉妹もだよ。

そう心の中で返すのだった。

 

------------------------------------------------

家に着き荷物を部屋に置いて、夕飯は何にしようと考えてると母さんからメッセージが届いた。

 

『ハッピーバレンタイン!和義の為に用意したものがあるから取りに行ってね』

 

そんな言葉で始まったメッセージには場所とある事が指定されていた。

何でこんなことしなきゃいけないのかねぇ。とは言え、時間も時間だし使わないと遅くなるか。

あまり気乗りしないが、母さんの指示のため車庫に向かうことにした。

 

「あれ?カズヨシ君今からお出掛け?」

 

ちょうどリビングで寛いでいた一花に声をかけられた。

 

「ああ…母さんの頼まれ事でね。あれ?二乃はまだ帰ってないんだ」

「二乃なら寄り道して帰るって言ってましたよ」

「ふ~ん…僕より早く帰ったら夕飯の準備始めといてって伝えといて」

「分かった。なんなら私が始めてても良いよ」

「まだ目が離せないからね。帰りを待っててね三玖」

「ぶ~…」

 

僕の言葉にぷくーっと頬を膨らませて抗議の目を向けてくるが、事実なので仕方がない。でも良かったいつもの三玖だ。

 

「ところで、その手に持ってるのはヘルメットですよね?」

「もしかしてバイクで行かれるのですか?」

「うん。何故か母さんがバイクで行けって」

「直江さんってバイクも乗れるんですね。凄いです」

「僕だけじゃなくて風太郎も乗れるよ。たまに僕の貸すし」

「へぇ~…」

 

想像したのか、素っ気なくも口角は上がっている。

 

「見てみたいかも…」

「え?バイクを?」

「違う。運転してるところ。見送りに出ても良い?」

「別に良いけど寒いよ?」

「問題ありません!私も見てみたいです!」

 

三玖に続いて四葉も見たいと言ってきたので、何故か全員が外まで出てきた。

車庫からバイクを出し、バイクに跨がり、エンジンをかけただけで歓声があがった。

 

「じゃあ行ってくるね」

「ええ。気を付けてくださいね」

 

零奈の言葉に手を上げ出発した。

 

------------------------------------------------

~二乃視点~

 

「いやー助かったよ。君のおかげで難を乗り越えた」

 

REVIVALに預かってもらっていたチョコを取りに来たら、少しだけでいいから厨房を手伝ってほしいと店長さんに言われた。

何でも元々入っていたシフトの人が体調を崩したとか。で、代わりの人が来るまでの間だけでもと言うことで頼まれたのだ。

まあ、厨房を貸してくれたお礼と思えば良いと思ったし、実際の調理が見れるのは興味があったから手伝うことにした。

 

「いえ、少しでも助けになったのなら何よりです」

 

とは言え少し長居をしてしまったかもしれないわね。

外はすっかり暗くなってしまった。

あいつ喜んでくれるかしら。

そう思いながら手に持っている手作りチョコの入った袋を見た。

すると渡した時の笑顔を想像して口元が緩んでしまった。

 

「羨ましいねぇ。君にそこまで想ってもらえるなんて」

「そ、そんなんじゃないですよ!」

 

否定しながら裏口から出る。そんな私を見送ってくれるのか店長さんも付いてきてくれた。

 

「いやいや、君のその顔を見れば…」

 

ブロロロ…キィィッ

 

店長さんの言葉を遮るように音を鳴らして止まった方を見ると、ライトの光に眩しさで直視出来なかった。

 

「何…?」

 

ブオオオン

 

「え…」

「あれ?何でここにいるの二乃?」

 

バイクに跨がりながらこちらを見ているのは和義。

バイクだって分かっていても、その姿はさながら白馬に乗った王子様だと思えてしまった。

 

------------------------------------------------

母さんの指示でREVIVALにバイクで来たのは良いんだけど、何故か二乃がそこにいた。

 

「あれ?何でここにいるの二乃?」

 

二乃に質問するも返事がなく何故か呆けている。

 

「おや、直江君ではないか。どうしたんだい?」

「あっ、店長さん。ご無沙汰してます。実は母さんから用意した物があるってことを聞いて来たんですが」

「ん?綾先生がかね?おー、そう言えば取り置きを頼まれてたね。ちょっと待ってるといい」

 

そう言って、店長さんは店の中に入っていった。てか、店長さんも母さんの教え子なのか。

そんな事を考えていると、ようやく二乃が我に戻った。

 

「はっ…和義!何でここにいるのよ」

「今言ったじゃん。母さんに頼まれたの」

「綾さんに…?」

「そうだよ。それよりも、二乃こそ何でここにいるんだよ?買い物だったら裏口から出てくるのおかしいよね」

「そ、それは…」

「お待たせしたね。これが綾先生から取り置きに頼まれてた物だよ」

 

二乃と話している途中、店長さんが店から出てきた。

 

「ありがとうございます。えっと、お代は?」

「ああ、今度綾先生から直接貰うからね。君は気にしなくて良いよ」

「はぁ…それじゃあ、はい二乃」

「え?」

 

もう一つのヘルメットを二乃に渡す。

 

「いつも予備で付けてるんだよ。もう遅いし送るから後ろに乗りな」

「う、うん…」

 

二乃には珍しい程しおらしく僕の指示に従った。

 

「それじゃあ、店長さんありがとうございました!」

「ああ。気が向いたらいつでもここで働いていいからね」

「ははは、分かりました。二乃、しっかり掴まってなよ?」

「うん…」

 

腰に回されるように掴まってるのを確認してバイクを出発させた。

バイクを走らせていると二乃から質問される。

 

「このバイクどうしたの?」

「風太郎がバイトの為に免許取ることになってね。それで僕も取ったんだよ。折角だからって、父さんが昔使ってたのを貰ったの」

「ふーん…あんたには似合ってるけど、上杉のバイク姿なんて似合わなさそうね」

「そんな事ないさ。意外に様になってるよ」

「意外って言ってるじゃない」

 

そこで笑い声が聞こえてきた。どうやらいつもの二乃に戻ったようだ。

 

綾さんの指示って事は、こうなることも織り込み済みか…

「え?何か言った?」

「何でもないわよ」

 

バイクでの会話は風が邪魔をして中々聞き取れないのがネックだ。

 

まったく、嫌になってくるわね。他人に指摘されないと自分の気持ちに気付かないなんて…本当に最低、最悪。自分の事が嫌になる

 

風で所々しか聞こえて来ないが何やら物騒な言葉が聞こえているような気がした。何か怒らせるような事ってしたっけ?

 

「やっぱり認めるしかないようね…………あんたの事好きよ」

「へ?」

 

何か聞いてはいけないような言葉が聞こえてきたので、ビックリして急ブレーキをしてしまった。

 

「ちょっと!危ないじゃない!」

「いやいや、二乃が急におかしな事言うからでしょっ!」

 

バイクを止めた後後ろを見ると、目が合った瞬間真っ赤にした顔を僕の背中に埋めている二乃の姿があった。

 

「本気なの…?」

 

僕の質問にコクンとほんの少しだけ頷いたように見えた。

 

「そっか…」

「私の事を何とも想ってないことは分かってる。けど、それは私だけにって訳じゃないでしょ?」

 

背中から顔を離した二乃が真っ直ぐこっちを見ながら問いかけてくる。

 

「まあ、そうだね」

「なら、直ぐに返事をする必要はないわ!これから私の事をもっと知ってもらう。私がどれだけあんたの事を好きなのかも知ってもらう。だから……覚悟してなさいよね」

 

人差し指で僕を指差し二乃はそう宣言した。

 

「わ、分かった…」

「なら良し。ほらとっとと出発しなさい!」

 

そう言いながら先程よりもくっつくように僕に掴まってきたのだ。

 

「ちょっと、くっつきすぎだって!」

「あら良いじゃない。さっきみたいに急ブレーキがあったら危ないわ。だからこうやってくっつかないと」

「いや、だからってそこまでしなくてもいいでしょ。それに僕も男なんだよ!さっきは気にしないようにしてたけど、胸が背中に当たって大変なんだから!」

「ふ~ん、案外初なところあるじゃない。ほら、早く出発しなさいよ!夕飯作らないとなんだから」

「あーもう!分かったよ」

 

結局、二乃は折れずに僕が折れる形で出発することになった。

もう少し女の子としての恥じらいを持ってほしいものだ。

しかし、この時の僕は知らなかった。その時の二乃は、その後顔を今までで一番真っ赤にして恥ずかしさに悶絶していたことを…

 

何とか無事(?)に家に着いたので、車庫にバイクを入れることにした。

 

「う~ん…バイクでドライブも中々良いわね。また乗せなさいよ」

「気が向いたらね」

「もう、何よ!そんな態度を取られると私だって傷つくんだからね」

「ごめんって。ただ、今はどんな難解な問題を解いている時よりも大変な状況なんだから…」

「やっぱり迷惑だった?」

 

泣きそうな顔でこっちを見ている二乃。

 

「そんな事ないよ。僕は二乃の事を大切な人だって思ってるから。だからこそ真剣に考えなければいけないと思ってるんだ!」

「そ。なら良いわ」

 

そう言ってそっぽを向いてしまった。

 

「あ、そう言えばあんた何か隠してるでしょ?しかも結構重要なこと」

「何の事?」

「……放課後。職員室。これで思いつく事は?」

 

何で知ってるの。まさか。

 

「見てた?」

「たまたまよ。その日は放課後たまたま職員室に用事があったから。そしたら神妙な顔をしたあんたが先生と話してるじゃない。それは気になるわよ」

「内容は聞いてないんだ…」

「そこまでしないわよ。ただ、その日から寝不足そうなあんたを見てたら心配にもなるわよ。好きな人の事ならなおさらね」

「そっか…ありがとね」

 

皆には勉強に集中してもらうために言わなかったけど、二乃には言わないと逆に集中出来ないか。

 

「二乃。今から言うことは誰にも言わないでほしい。もちろん、風太郎や零奈にもだ」

「は?上杉は分かるけど、レイナちゃんまでって…」

「頼む」

 

真剣な目で頼んだからか二乃も折れてくれた。

 

「分かったわよ。それで何があったのよ?」

「……飛び級での大学進学の話が出てるんだ。場所はアメリカ。この話がうまくいくと、僕は皆と卒業できない。今年の9月に入学するために色々と用意が必要だから、三年生の一学期が終わる頃にはアメリカに行くことになると思う。と言うか、多分ほとんど学校に行けないと思うけどね…」

「え…?」

 

僕の言葉を聞いた二乃は、信じられないと言わんばかりに固まってしまった。

 

 




かなり早いですが、二乃と三玖が告白してしまいました。

書くときからかなり悩みました。
しかし、バレンタインでの出来事や零奈と綾の後押しがあれば告白するんじゃないかなと思い書かせていただきました。
まあ、もう五月もある意味告白してますからね。

恋愛に関して暴走列車の二乃。結構ぐいぐい行く三玖。この作品では和義に本当の自分を見せてる五月。更には、血の繋がっている零奈と和義争奪レースがスタートしていきます。
その前に期末試験が控えていますから、こんなことしてる余裕があるわけないんですけどね本当は。

前ちょっとだけ出ていたあの事。それはアメリカへの飛び級進学でした。
この辺りも次回以降もチョロっと書かせていただこうかなと思っております。

次回ですが、もしかしたら週末まで書けないかもしれません。
予めご了承いただければ嬉しく思います。
今後も頑張って書かせていただきますので、よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。