五等分の奇跡   作:吉月和玖

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64.親心

遡ること放課後。

帰りのホームルームも終わり、後は帰るだけなのだがそこに一通のメッセージが届いた。

何でこの日かなぁ。

 

「…?カズヨシ。帰らないの?」

 

帰る支度を終えている三玖が、中々帰ろうとしない僕に問いかけてきた。

 

「悪い、知り合いから連絡が来てて。ちょっと用事が出来たから寄り道して帰るよ」

「ん…分かった」

 

さてさて吉と出るか凶と出るか。

 

そして、メッセージに書いてあった場所に向かうことにした。

向かった先はお馴染みのREVIVAL。

まあ呼び出した人の馴染みの店と言えばそうか。用事もあったし丁度良いかも。

そんな風に考えながら店に入った。

 

「いらっしゃい。おや、直江君じゃないか。あれを取りに来たのかい?」

「こんにちは店長さん。いえ、先に待ち合わせをしてまして」

「ああ、あの人達か。なら案内しよう」

 

店長さんの案内で一つの席に案内された。

 

「あら、以外に早かったわね」

「だな。もう少し待つと思ってたが」

「久しぶりだね。父さん、母さん」

 

案内された席では、父 直江 景(なおえ あきら)と母さんが向かい合って座っていた。

 

「ほらほら、私の隣に座りなさい」

「はいはい」

 

母さんからの勧めもあり、母さんの隣に座った。

 

「和義は何飲む?」

「じゃあ、ミルクティーを」

 

オーダーを取った店長さんは席から離れていった。

 

「今回の試験はどうだった?」

「いつも通りだよ」

「ははは、そうかそうか。あんな事があっても変わらずか。全く、お前の精神は半端ないな」

「父さんと母さんが動いてくれてたからね」

「あら、嬉しい事言ってくれるわね」

「それで?呼び出したって事は進展があったって事だよね?」

「まあな…少し待ってくれ。後一人来るんだ」

 

そんな父さんの言葉の後、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。

 

「すみません、お待たせしたようですね」

「気にするな。こっちこそ忙しいところ悪いな」

「中野さん…!」

 

驚いた。まさか中野さんがここに来るとは。

僕の驚きにはあまり気にせず父さんの横に中野さんは座った。

 

「コーヒーを」

「かしこまりました」

 

僕のミルクティーが運ばれたと同時に自分のコーヒーを頼んでいる。

 

「今回の事で中野君も動いてくれたからな。時間が合えば来てくれるよう頼んだんだよ」

「え、そうなんだ…」

 

意外な言葉が父さんから出たのでビックリした。

中野さんのコーヒーが運ばれてきたので、そこでようやく父さんが経緯を話し出した。

 

「早速だが、まずは結果を伝える。和義、お前は来年度も旭高校に通ってもらう。大学への飛び級入学は無しだ」

「そっか…」

 

大丈夫だろうとは思っていたが何とかなってホッとした。

 

「あなたが望めば、スムーズに入学手続き進めれたのに」

 

母さんの言葉を聞いた後、チラッと中野さんを見た。

中野さんはいつも通りの雰囲気でコーヒーを飲んでいる。

 

「卒業したかったんだ。今僕の周りにいる人達と…」

「ほう…」

「……」

 

僕がこんな事を言うとは思わなかったのか、父さんは少し驚いていた。中野さんは特に反応がないように見える。

 

「勉強だって何処でも出来るし。それに零奈は多分僕に付いてくるって言ってくるだろうしね」

「むっ…」

 

僕の言葉に少し顔をしかめている父さんを母さんはニヤリと笑っていた。

母さんは僕と零奈二人を異常なほど好き過ぎるが、父さんの場合は零奈を異常なほど好きだからなぁ。

海外への出張で零奈が、『絶対に兄さんから離れません』、と言って父さん達に付いていこうとしなかった時、父さんめちゃくちゃ泣いたもんね。本当にマジ泣きだったっけ…

 

「そうよねぇ。零奈ちゃんは和義が大好きだもんねぇ」

「ま、まあ…兄妹仲が良いのは良いことだからな。うんうん」

 

父さん無理してるなぁ。

まあ、兄妹として好きではないことは母さんは知ってる訳で。本当に面白そうな顔をしてるなぁ。

 

「それで?結局何でこんな事になったわけ?」

「それについては僕が説明しよう」

 

話を反らすため今回の原因を聞くと、今まで黙っていた中野さんが話し出した。

 

「端的に言えば理事の一人の暴走だ。理事長の息子が同じ学年にいることを君は知っているかね?」

「いえ…」

「まあ、そうだろうね。その理事長の息子はどうやら医者を目指しているようでね。そこで、理事長は僕にその息子の事を紹介してパイプを繋ごうとしていた。実際に成績は良いものだよ。ただ、君と上杉君がいるからか目立っていないのだよ。特に君は学力だけではなく運動の成績も良く、更に人望もあるようだ。その事で理事長は悩んでいたようだね」

「はぁー…」

「まあ、自分の息子の為を思っているのだろう。多少行きすぎているかもしれんが」

「…そんな理事長を見て、件の理事の者が動いたようだね。後は君の知るところだよ。ちなみに理事長には、君は飛び級入学を喜んでいると勝手に報告したようだ。この学校から飛び級入学者を出せば入学希望者が増えるという言葉を付けてね。理事長に気に入られたかったのだろう」

 

まったく…大人の事情に学生を巻き込むんじゃないよと思ってしまった。

 

「今回の事を受け、色々と動いた理事の者は退任。直江先生達の力もあり教育関係からは追放となった」

 

相手が悪かったね。御愁傷様。

 

「理事長に関しては本当に何も知らなかったようなので、厳重注意で終わったよ。申し訳なかった、と直江君に伝えてくれと伝言を預かっている」

「そうですか。まあ、何もなく終われたので良かったです」

「ふむ…それはどうだろう」

「え?」

 

中野さんの意味深な言葉に疑問が出た。まだ何かあるのだろうか。

 

「お前の作成した論文だが…何だあれは!?」

「え?何かまずかった?」

「僕も見せてもらったが、とても高校生が書くようなものではなかった。まあ、粗削りな部分も多少あったがね」

「さすがよね!」

 

父さんと母さんは対照的な反応をしている。何だろう?

 

「母さんから本気でやれって言われたからそうしたんだけど…」

「はぁ…お前の実力を見誤ってたよ。論文だが、もちろん向さんも見ているわけだが…大いに気に入ってな。是非来てほしいと返事があったからそれを断るのに苦労した…」

「えっと…ごめん…」

「良いのよ。向こうの人達悔しがってたわよぅ」

「とりあえず飛び級での入学は断れた訳だが、これからが大変かもしれん」

「?」

「和義の論文だけど今色々な大学関係者に閲覧されててね。あちこちからのスカウトがひっきりなしよ。とりあえず卒業までは待ってくれることになったけどね。下手に引き込もうとして本人の機嫌を損ねるのは良くないって判断したのね」

「はぁ...」

 

まあこれで皆と卒業できるからいいけどね。

そんな風に軽く考えているとメッセージが届いた。どうやら風太郎からだ。

 

「っ...!」

「ん?どうしたの和義?」

「いや、今風太郎から連絡があって五つ子達皆赤点回避出来たって」

「ほぅー」

「...」

「あら、やったわね」

「四葉が240点、二乃と三玖と五月が257点、そして姉妹トップの一花が264点だってさ」

「全教科赤点だった子たちが良くここまで頑張ったものだ。中野君も嬉しいんじゃないか?」

「そうですね」

 

中野さんはいつも通りに見えるが若干口元が緩まったように見える。

とりあえず何かアクションをしとかないとかなっと。このスタンプいいんじゃないかな。

そして、一つのスタンプをグループに送った。

 

------------------------------------------------

~直江家~

 

「実は...」

 

二乃が話を始めようとした時五つ子全員の携帯にメッセージが届いた。

『たいへんよくできました』と書かれた花のスタンプが。

 

「和義君...」

「おや、カズヨシ君は結果を知らないはずだよね」

「俺が今送っといた」

 

そう言いながら風太郎は自分の携帯を掲げた。

 

「フータローにしては気が利く」

「三玖は厳しいなぁ」

 

三玖の言葉に四葉が笑いながら答えた。

和義のスタンプで皆和んでいたがお構いなしに二乃に詰める者がいた。零奈だ。

 

「それで、兄さんは何を隠していたんですか?」

「っ...あいつは、私達の結果に関係なく卒業を前に海外の大学に行くかもしれない...」

「え...?」

「に、二乃...何言ってるの...?」

 

二乃の言葉に信じられないといった顔をして反応をしているのは三玖と五月である。

もちろん他の姉妹や風太郎も驚いている。

 

「何を言っているのですか二乃さん。そんな重大な事であれば相談するはずです」

「そ、そうだよ。カズヨシ君の性格なら......」

(待って。彼の性格ならどうする?この話がもし試験前であったら...)

「どうしたの一花?」

 

途中で言葉の詰まった一花に心配になり四葉が声をかける。

 

「ねぇ二乃。カズヨシ君からその話を聞いたのはいつ?」

「?一花さん。それがどうしたのですか?」

「...バレンタインの日よ」

「やっぱり...」

 

一花は納得した。恐らく和義は自分たちの事を最優先にしていることを。

 

「え、何?どういう事?」

「あの人はこの事を言えば私たちの試験に支障が出ると考えたのですよ。だから自分の中に留めたのでしょう」

「そんな...カズヨシ...」

 

四葉の質問に五月が答えた。そして、その五月の言葉に三玖は嬉しさと悲しさが混ざった感情が渦巻いた。

 

「あいつ言ってたわ。この話をすれば動揺して私達が試験に集中できないって」

「あの人は本当に...本当に...」

「レイナちゃん...」

 

下を向いてしまった零奈を心配して五月が声をかけながら肩に手を置いた。

 

「くそっ!何でだよ。何でお前はいつも…」

 

風太郎も今日ばかりは感情を露にしている。

 

「で、でもきっと大丈夫よ。あいつは行く気はないって言ってたし。誰かが勝手にやった事だから綾さんに相談してるって言ってたし」

「母さんに...?」

 

二乃の言葉に反応する零奈。そこですぐに行動にでる。

零奈が向かった先は電話。零奈は綾に電話をするようだ。

綾は和義と一緒にいるが電話には直ぐに出てくれた。

 

「母さんですか?お聞きしたいことがあるのですが」

『どうしたのよ。何?少し怒ってる?』

「もしかして今日本にいますか?」

『あれ?何で分かったの?愛の力かしらぁ』

「兄さんもいますか?」

『あ~...なるほどね』

「いるんですか?いないんですか?」

『分かった、分かった。怖いよ零奈ちゃん...いるわよ和義が。来るの?』

「もちろんです。どこですか?」

『REVIVALってお店だけど...』

「分かりました。ありがとうございます」

 

そこで零奈はさっさと電話を切ってしまった。

 

「兄さんの居場所が分かりました。REVIVALって言うお店のようです。どうやら母さんも一緒にいるみたいですね」

「REVIVALなら私知ってるわ。行くなら直ぐ行きましょう」

 

二乃がそう言うや否や全員が玄関に向かった。

そこにらいはがやって来た。

 

「わわっ。皆さんどこかに行くんですか?」

「悪いらいは。少し留守番を頼む!」

「え、分かったよ。気をつけてね」

 

らいはの見送りを背に一路REVIVALに向かった。

 

------------------------------------------------

しばらく両親と中野さんの昔話に花を咲かせていた。

母さんは面白おかしく話していて、中野さんもいつもより表情が柔らかくなっていた。

 

「そろそろかなぁ...」

 

時計を見ながらそう呟く母さん。こんな時はいつもろくでもない事が起きる前兆である。

 

「何がそろそろなの?」

「直ぐに分かるわよ。そう言えば今回の飛び級の話って誰かに話したの?」

「あー...二乃に職員室で話していたのを見られてたみたいでさ。二乃にだけ話してるよ。さすがに皆に話すと試験に影響が出ると思ったしね。零奈にも話してないよ」

「そっか...」

「何だ零奈くらいには話して良かったんじゃないか?」

「う~ん、決まったわけではなかったからね。心配されるだけだし」

「まあそうだな...」

 

そんな時、

 

バタバタ

 

何やら騒がしいなと思いそちらを見ると予想外にも中野姉妹と風太郎、それに零奈がこちらに向かってきている。

ちなみに三玖と風太郎は力尽きて死にそうである。

 

「え?え?何でここに?」

「零奈ぁー!会いたかったよ。父さんに会いに来てくれたのかい?」

「父さんは黙っててください」

「はい...」

 

おい。一家の大黒柱がそれでいいんかい。

ていうか何かすごく怒っているけど...

 

「兄さん。何か言う事はないですか?」

「へ?」

 

周りを見ているとごめんとジェスチャーをしている二乃が目に入った。

それに先ほどの母さんの話から予想すると零奈に知られちゃったか。

 

「あー...ごめん黙ってて」

「まあそれは許しましょう。それで、結局どうなったのですか?」

「大丈夫。このまま旭高校に在学できるよ。卒業までね」

 

わーっと皆が喜んでいる。

その後、それぞれの家族に分かれて席に座った。ちなみに風太郎は直江家側の席に座っている。

 

「父さんと母さん頑張ったんだよ、零奈」

「そうですか。ありがとうございます」

 

零奈が父さんに礼ををしているが、何かよそよそしい。

それを父さんも感じ取ったようだ。

 

「あの零奈?何かよそよそしいけど、どうしたのかな?」

「別に、家族の中で私だけが知らなかった事に怒っている訳ではありませんよ」

「これは怒ってるね零奈ちゃん」

「まあ僕で宥めとくよ」

「よろしくね和義...」

 

零奈の言葉にガックシと落ち込んでいる父さん。折角頑張ったのに本当に可哀想である。

直江家で話をしている横の席では、中野家でテーブルを囲んでいる。

 

「お父さんもいたんだね。カズヨシ君の事をお父さんも助けてくれたんだね」

「直江先生の頼みだったからね」

「そっかぁー。それでもありがとうございます!」

「ふっ...」

 

娘に心からのお礼を言われたからか、今までで一番良い笑顔が見れたように思える。

 

「ところで今回は全員赤点回避をしたようだね。おめでとう」

「ありがとう...」

「君たちは見事やり遂げたわけだ。どうやら二人の事を認めざるを得ないようだね」

「~~っ!」

 

僕と風太郎の事を認められたことが嬉しかったのか、口を手で覆って五月が喜んでいる。

 

「二人の家への出入りも認めよう。いつでも帰ってくると良い」

「パパ、あのね...」

「あの!」

 

そこに零奈が中野家の席に行き中野さんに話しかけた。

 

「ん?何だね?」

「あの!もう少しだけうちで暮らすことはできないでしょうか?」

「なんだって...?」

「もう少しだけ皆さんと一緒にいたいんです。お願いします」

 

そう言って頭を下げている。

まあそうだよね。娘たちともう少し一緒にいたいよね。とは言え、さすがに中野さんは許さないでしょ。

そんな風に見ているとチラリとこちらを見てから中野さんは答えた。

 

「君たちはどうなんだね?まだいたいのかね?」

「え?う、うん...」

「許してくれるのパパ?」

「ふむ。直江先生の家でもあるしね。君たちが望むのであればもう少しだけ許そう。もちろん、直江先生達の許可が降りればの話だが」

「本当に!?良いのお父さん」

「ああ。ただし今後もしっかりと勉強を続けるように」

「はい!」

 

四葉が敬礼ポーズで元気に答えている。

 

「ちなみに、こっちとしては全然問題ないわよ」

「そうだな。零奈も皆の事を気に入ってるみたいだしな」

「ありがとうございます」

 

うちの両親の言葉に五月がお礼を言った。

その後、僕に目線が集中した。

 

「まあ、もうすぐ春休みだしね。良いんじゃない」

 

僕の言葉に姉妹皆がハイタッチして喜んでいた。

自分の部屋で寝たりした方が良いと思うんだけど、皆が望んでるのであれば何も言うまい。

 

「では僕はそろそろ仕事に戻らなくてはならないから失礼させていただくよ。直江先生、綾先生良かったら空港まで送りましょうか?」

「それは助かるな」

「そうね。じゃあ、和義、零奈ちゃん二人に会えて良かったわ。たまにはそっちから連絡してね」

「ああ、分かったよ」

「体には気を付けてください」

 

仕事の関係上ほとんど日本に留まることが出来ない両親を空港まで中野さんが送ってくれるそうだ。本当に体を壊さないでほしいものだ。

そして両家の親は中野家の車に乗って行ってしまった。

 

「さてと。じゃあ帰ろうか。らいはちゃんも待ってるだろうしね」

 

ということで、皆でらいはちゃんが待つ家に帰るのだった。

 

 

 




長らくお待たせして申し訳ありませんでした。

今回は和義の入学についての話で終わってしまいました。
ちょっとグダグダしてたかもしれません。すみません。。。

で、何とマルオさんが直江家に姉妹が残ることを許可するというビックリ展開にしてみました。
姉妹全員の赤点回避に、論文の出来。そして、そんな中でも自分の成績を落としていない事から和義の事を認めているのかもしれませんね。

次回投稿は、まだまだ私生活が落ち着かないこともあり、来週になると思います。
なるべく早めに投稿したいと思いますのでよろしくお願いいたします。
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