うちに帰った後の夕飯時のこと。
「そうそう。今日はデザートがあるから」
「そう言えばあんた、REVIVALから出るときに店長さんから何か受け取ってたわね」
「へぇ~、良く見てたね」
「ま…まあね」
今日は僕の向かいに座っている二乃が照れながら答えた。
「少し早いけど赤点回避のお祝いに合わせてバレンタインのお返しを用意しといたんだよ。ほら風太郎」
「お…おう」
風太郎は緊張した表情で冷蔵庫から箱を取り出した。
「まあ何だ…お前たちも良く頑張ったからなお祝いだ。大したものではないが食べてくれ」
そう言いながら差し出した箱の中には。
「プリン?」
「そうだよ。何と、風太郎の手作りです!」
一花の言葉に僕が答えた。
そう。これは僕が教えながら作った風太郎の手作りプリンである。最初に風太郎から作り方を教えてほしいって言われた時は、ビックリしたけど喜んで教えた。
三玖並みの不器用さがあって苦労はさせられたが、中々の出来に仕上がったと思う。
「へぇ~、フータロー君の手作りかぁ」
「あんたにしてはやるじゃない」
「お兄ちゃんがこんな事までしてくれるなんて…」
「それではいただきましょう」
五月の号令のもと皆が口に運ぶ。
「美味しい…」
「美味しいですよ、上杉さん!」
「そ…そうか。そいつは良かった」
皆が美味しそうに食べている姿を見てホッとしている風太郎。
あの風太郎が誰かの為に料理をする日が来るなんて。
「何を泣いているのですか…」
「良いじゃない。本当に感動してるんだから!」
泣いているところに零奈からツッコミを入れられた。この気持ちは誰にも分からないよ。
「それじゃあ次は僕からね。ちょっと待ってて」
そう言いながらキッチンに向かい準備をした。
本当は出来立てを食べてほしかったが仕方がない。
アルミホイルに包みトースターに入れ出来上がるのを待つ。
「ふわぁ~…いい匂いです」
キッチンの方から香ばしい匂いが漂ってきたのか、四葉が反応した。中々の嗅覚である。
温め終わったのをトースターから取り出し、切り分ける。
うん、パリッと出来上がったようだ。
そして、切り分けたそれを皆の前に配膳する。
「ふ~ん。アップルパイかぁ」
「美味しそうです!」
「これは香ばしいいい香り」
「さ、食べてみてよ」
二乃と五月、それに一花が反応してくれた。
そして、僕の合図で皆が口に運ぶ。ちなみに風太郎の分も用意している。
「う~ん…美味しいです!ね、零奈ちゃん」
「ええ…とても」
「うん…文句無し…」
「良かったぁ。本当は出来立てが一番美味しいんだけど、今日はそうもいかなかったからね。トースターで温めてみたんだ。今度また出来立てをご馳走するよ」
僕の言葉にワァーと歓声が上がる。近いうちに作ってあげよう。
僕と風太郎の手作りデザートは好評だった。風太郎が用意していただけでもサプライズだったようだ。
そしてその風太郎はらいはちゃんと一緒に家に帰っていった。今日は勇也さんが帰ってくるので泊まりは無しだ。
五つ子達は順番にお風呂に入っており、僕は夕飯の食器の後片付けをしていた。いつもであれば、二乃か三玖が手伝ってくれているが今日は違う。
「ありがとね一花。てか、珍しいよね。一花が皿洗いを手伝ってくれるなんて」
「たまにはねぇ~」
僕が洗った食器を拭いていってくれている。いつもならソファーで休んでいるのに本当に珍しい。
「そう言えば、一花が姉妹でトップの成績だったんだってね。やるじゃん」
「まぁね…と言いたいけど、カズヨシ君のマンツーマン授業のお陰だよ。ありがとね」
「僕はほんの少し手助けしただけだよ。一花の実力。誇って良いんじゃない?仕事もしながらだったんだしね」
「そっか…」
「もしかして、このお礼がしたかったから手伝ってくれてるの?」
「ま…まあねぇ」
「本当に一花って律儀だよね。まっ、そこが良いとこで、好感持てるとこなんだけどね…よし。終わった!ありがとね一花」
そう言って一花の頭をポンポンと、撫でるように叩きキッチンを後にしようとした。
「むぅ~…カズヨシ君って私の事を手のかかる妹みたいに思ってない?」
「一花だけじゃなくて五つ子皆をそう思ってるよ。手のかかる生徒であり、妹でもあるってね。だからこそ困ってるんだけどね」
「ん?何か言った?」
「いーや。ま、一人の女の子として見られるよう精進するんだね。って、僕じゃなくて風太郎かもだけどね。君にとって女の子として見られたいのは」
「……」
僕の言葉に一花に反応がない。
「どうしたの?何か悩み事?」
「ううん。フータロー君は君よりも大変だなって改めて思っただけだよ。さてと、私もお風呂に入ろっかなぁ」
僕を追い越し客間の方に向かう一花。その後ろ姿に向かって声をかけた。
「一花。風太郎はきちんと君たちの事を考えてる。今回の手作りプリンがその証拠だよ。それに一花からプレゼントされたマフラーだって、温かくなってきた今でもまだ肌寒いって言って使ってくれてる。それでも心配だったら相談して。恋愛事に関しては役に立たないかもだけど、一人で悩むよりましだと思うから」
一花は立ち止まってくれたものの振り返らない。
けど、暫くしたら笑顔で振り返った。
「心配させちゃったかなぁ…うん。その時は頼りにしてる。よろしくね、先生!」
そう言った一花はそのまま客間に行ってしまった。
一花は確かに笑顔だった。けど、その笑顔は初めて会った時に見せていたあの作り笑顔のように思えてしまった。
やはり僕には、まだまだ女の子の気持ちを理解出来ていないようだ。
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~直江家・客間~
現在客間では、零奈に呼ばれて五つ子達が集まっている。
まあ、もう寝る時間でもあるので全員いるのは当たり前ではあるのだが。
「なんだろうね?レイナちゃんの用事…」
「そうですね…急に、皆さんにお話ししたいことがあります、と言って集めるだなんて」
四葉と五月は集められた理由が分からずソワソワしていた。
「あれじゃない。和義にまた近づきすぎです、みたいなやつじゃないの」
「…けど、それだったらカズヨシも一緒に話すはず。客間だとカズヨシ入れないし…」
「それもそうねぇ…」
二乃と三玖もそれぞれの意見を言っている。
「まぁ、本人が来れば分かるよ。レイナちゃんが来るのを待っとこ?」
それもそうね、と二乃が言った瞬間客間の戸が開けられた。
「すみません。お待たせしてしまったようですね」
そう言いながら零奈は、客間の上座にあたる場所に正座で座った。
それを見た五つ子達は、零奈の前にそれぞれ座っていく。
「それで、レイナちゃん。何かお話ししたいことがあるとの事ですが、一体…」
姉妹を代表して五月が切り出した。
「そうですね。まずは改めて、皆さんの赤点回避を心よりお祝いいたします。おめでとうございます」
零奈はそう言って頭を下げた。
「わわっ、レイナちゃん。そこまでしなくてもいいですよ!」
「そうよ。まぁ嬉しいと言えば嬉しいんだけどね」
零奈の行動に四葉と二乃が言葉をかける。もちろん他の姉妹も頭を上げるよう促している。
「ふふっ。とても嬉しかったので、つい行動を取ってしまいました」
「ありがとう...」
「そっかぁ。お姉さん達頑張った甲斐があったもんだ。それで...まずはってことは、他に目的があるんだよね?」
「ええ...」
そこで真剣な顔で五つ子を見渡している零奈。その雰囲気からただ事ではないと全員が感じ取った。
そこで零奈は目を一度閉じ、ふぅ~と息を吐き口を開いた。
「皆さんは生まれ変わりというのを信じますか?」
「生まれ変わりですか...」
突然の事を言う零奈に五月が何を言っているんだといった気持ちで聞き返した。
「生まれ変わりって?」
「輪廻転生...人は死ぬと新しい生命に生まれ変わると言われている...」
「それが何だっていうのよ」
四葉は言葉の意味が分からず疑問を口にすると三玖が説明をする。それに対して二乃が疑問に思うが、確かにそれが何なのかと言わざるを得ない。姉妹全員を集めて真剣な表情をして話し出したと思いきや、生まれ変わりというのを信じるか、である。こんな事を言われても、と言うのが普通の反応である。
「まあ普通はそういう反応ですよね」
「……もしかしてレイナちゃんは、自分が誰かの生まれ変わりだって言いたいのかな?」
一花の問いに対して姉妹全員がまさかという気持ちでお互いを見合って零奈を見るが、その零奈は真剣な顔でこちらを見ている。
「え、まじ?」
二乃の問いに対して零奈はコクンと頷いた。
「う...嘘...」
「えーー!」
「ま...待ってください。と言うことは、その...つまり生前の記憶もあるということでしょうか?」
「はい」
零奈の言葉に五つ子全員が固まっている。無理もない。こんな突拍子もない事を言われても信じる事は普通に考えればできるはずがない。しかし、目の前にいる少女はこんな出鱈目な事を言う子じゃないと全員が理解していた。で、あれば彼女が言っていることは本当である、と全員がたどり着く事になる。
「ちょ...ちょっと待ってよ。混乱してきたんだけど...えっと、つまりレイナちゃんには生まれてくる前の記憶があるってことよね?」
「正確には、死んで目が覚めたら2才の誕生日でした」
「ふえ~、まるで小説の世界みたいだね。ん?ちょっと待って。何でそんな重要そうな事を私達に話してるの?」
そこで一花は、至極当然のことが頭を過ったので聞いてみた。確かに零奈とはそれなりに一緒に生活もしてきた。
しかし、自分たちとは言い方が悪いかもしれないが赤の他人、もちろん零奈の事を妹のように思っているが本当の家族ではない。こんな事をなぜ自分たちに言ってくるのか疑問が出てくる。
「......愛」
「え?」
「愛さえあれば自然と分かる。そう思っていたのですが...」
「そ...それって...」
零奈の言葉に五月と四葉が反応した。
「一花。この五年間妹達の事をよく支えてきましたね。子どもの頃から姉妹全員をよく引っ張っていましたが、今ではしっかりとお姉さんが出来ていますよ」
「...っ!」
「二乃。貴女の姉妹を想う気持ち、昔から変わりませんね。少し強く出る節もありますが、それは姉妹の中で誰よりも繊細でそれを隠すためかもしれませんね」
「え...」
「三玖。貴女は昔からいつも姉妹の中で一歩後ろに引いていました。しかし、いい出会いがあったのでしょうね。今では前に出る勇気を得たように思えます。それに、昔から姉妹の中で一番の物知りでしたしね」
「...っ...っ」
「四葉。貴女の運動神経の良さは子どもの頃から片鱗が見えていました。今まで努力をしてきたのでしょうね。その努力が実を結び、今では色々な部活動で活躍をしている。とても誇らしく思います」
「な...なんで...」
「五月。貴女は姉妹で一番の甘えん坊でした。それが今では甘えを見せずしかっりとしている。誰よりも真面目に。もしかしたらその原因を作ってしまったのは私かもしれませんが...」
「うっ...うっ...」
零奈はそこで一度話すのを止めた。既に三玖と五月は涙を流している。
「ここまで言えば貴女達に話した理由が分かりますか?」
ニッコリと笑いながら五つ子に笑顔を見せる零奈。姿は小さな少女。しかし、そこから出ている雰囲気は子どもを思う母性が出ていた。そして、その零奈の目からもツーっと涙が流れている。
「姉妹全員、ここまで仲良く立派に育ってくれてたこと嬉しく思いますっ...」
その言葉を皮切りにそこにいる全員の気持ちが弾けた。
「おかーさんっ!」
真っ先に五月が泣きながら零奈に飛びついた。
「「「「お母さんっ!」」」」
それに続くように姉妹全員が次々に零奈に飛びつく。
しかし零奈は小さな少女。高校生五人が飛びついたらどうなるか、誰もが分かるところである。まあ、今はそんな事まで考えることができる人間はそこにはいなかったことも、もう一つの真実である。
そんな訳で、零奈は今仰向けに倒れ五人の下敷きになっている状態である。
「あいたたっ...まったく私は今小さな女の子なのですよ。考えて行動してください!」
「あははは。ごめんね。でも、そんな事今は考えられないよ」
「だね~」
「同意...」
「まったくよ。一人、私達の会話が聞こえていない人間がいるけどね」
「お母さんっ、お母さんっ」
五月はなおも泣きながら零奈のお腹あたりに顔を埋めている。
「よしよし。まったく。やはり一番の甘えん坊のようです」
「うん。でも、こんな五月ちゃんを見るのは懐かしいかな」
「そうね。ずっとお母さんの代わりになるって、気を強く持っていたから」
「...」
そんな一花と二乃の会話を聞きながらも零奈は五月の頭を撫でていた。
「それにしても、何でもっと早く言ってくれなかったのよ」
「そうだよ。私達と会ってずいぶん経ったよ」
「...本当は名乗り出ないつもりでいました」
「え...?」
二乃と四葉の問いに零奈が答えると、三玖が驚いたのか声が漏れた。もちろん驚いているのは五月以外の姉妹全員である。その五月はまだ会話に参加していない。
「生前の記憶があるといっても私はもう直江零奈として生きています。ですので、貴女達には直江和義の妹として接していこうと決めていました。あの花火大会で再会した時から...ほら五月、そろそろしゃんとしなさい」
「うん...ぐすっ...」
零奈は五月の頭を撫でながらも起き上がらせた。
「しかし駄目でした。やはり私も一人の親です。貴女達と色々と係わりすぎたからか、これ以上は我慢ができないと思った次第です。ですから、試験で赤点回避が出来たら明かそうと...それにしても、何をしていたのですか、全員が赤点しか取れない程成績が悪かったなんて」
「なはは...面目ない」
一花が答えるが、これには五つ子全員反論が出来なかった。
「まあいいでしょう。これからはしっかりと勉強をして成績を落とさないように!」
「「「「「はい...」」」」」
「まあ、和義さんと風太郎さんがいれば大丈夫でしょう」
「うわぁー...レイナちゃんの姿で和義のことを和義さんって呼ぶと違和感しか無いわぁ」
全員がそれに納得して笑っている。
「でも何か納得だわ。たまにレイナちゃんと話していると懐かしさを感じていたから」
「うん。私と二乃に姉妹の事を話していた時に、レイナちゃんがお母さんがいつも言っていたことを話した時はビックリしたけど納得...」
「へぇ~、そんな事もあったんだ」
「私も慰めてもらった時がありましたが、なぜかレイナちゃんの前では全てをさらけ出しても良いように感じてしまいました」
「五月もなんだ」
「ふふっ、あの時は見てられませんでしたからね、少しお節介をしました」
その時の事を思い出したのか、零奈は優しく笑った。
「さて、私の話したいことは以上です。しかし、この部屋に来てもう一つ用事が出来ました」
そう言った零奈からは笑顔が消えた。
「一花!何ですかこの散らかし様は!今すぐ片付けなさい!」
「ひえっ!ちょっと待って。今から?」
「今からです!新年にあれだけ言ったのにまだ散らかしているなんて...」
「うっ...分かったよぅ。ごめん、四葉手伝って」
「了解」
そして急遽零奈の号令の下一花の荷物の大掃除が夜間に開始された。一花と四葉で行っているが自分の部屋程広くないので直ぐに終わりそうではある。
「そうだ!今日はお母さんも一緒に寝ませんか?」
「え?ここにですか?」
「はい!」
「あら、いいじゃない」
「うん。賛成...」
「そうですね。貴女達がそこまで言うのであればいいでしょう」
「やったー!じゃあ、私の隣に...」
「ちょっと、あんたはさっきまであんなに抱きついていたでしょ。ここは私達に譲りなさいよ」
「うん。私もお母さんの隣が良い」
「分かりました…」
「じゃあ、私も...」
「四葉は却下よ!お母さんが潰されるでしょ」
「う~...」
片付けをしながら四葉が立候補したが、四葉の寝相の悪さで二乃に却下された。そして話し合いの結果二乃と三玖の間に零奈が眠ることに決定した。
林間学校に付いていった時に、旅館で六人一緒の和室で寝て以来の家族での就寝である。しかし、あの時とは違って今は母親と一緒に眠れるという気持ちがあるので、五つ子にとっては五年ぶりに一緒に寝ることになるのだった。
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「話は終わってると思うけど、今日は一緒に寝ているのかな...」
一人部屋で勉強をしていた時にふと時計を見ると、もう日付が変わるくらいの時間だった。そんな時間になっても零奈の部屋のドアが開け閉めされる音がしなかったためそう考えたのだ。
『兄さん。今からあの子達に自分のことを話して来ようと思います』
そう意気込んで零奈は客間に向かった。何も無いってことはうまくいったんだろう。良かったね零奈。
そう思いそのまましばらく勉強を続け、キリが良いところで寝ることにした。
「みんな。良い夢を...」
ベットに入り目を瞑る前にそう呟いて眠ることにした。
五つ子達の赤点回避も出来た。零奈と五つ子達の事もうまくいったようだ。後は自分の事か…
自分に告白してきた、二乃・三玖・五月・零奈。彼女達の今後の事も考えていかなければならない。
それに…
『和義の論文だけど今色々な大学関係者に閲覧されててね。あちこちからのスカウトがひっきりなしよ。とりあえず卒業までは待ってくれることになったけどね』
母さんが言うには卒業まではこのままの生活が続けられる。でも、卒業後の事で色々と話が出てくるだろう。そうなると、進路によっては皆とは遠く離れ離れになるかもしれない。
恋と進路。別々のようで実は一緒に考えなければいけないのかもしれない。
そんな考えが出てきたが、今はゆっくり休もう。その思いから考えるのをとりあえず止め眠りに落ちたのだった。
この話で零奈の事を五つ子全員知ることになりました。
早すぎるかもしれませんが、この後の展開的にも明かさせていただきました。
しかし、五つ子達の子どもの時の情報が見つけることが出来なかったので、ほぼ僕の予想で書かせていただいております。
本当は違うかもしれませんがそこはご了承いただければと思います。
次回投稿もなるべく早くしたいですが、やはり仕事との両立は厳しいですね。
投稿は続けていきますので、温かく見守っていただければと思います。
次回は、原作で言えば風太郎が当てた旅行の話辺りでしょうかね。実際に投稿した話が違うかもですが、そこは勘弁を。
では、今後もどうぞよろしくお願いいたします。