66.アルバイト
~直江家・リビング~
零奈が五つ子達に自分の事を明かした最初の休みの日。
この日は和義以外のんびりと過ごしていた。
その和義はと言うとREVIVALに呼ばれたので行っている。
五つ子達の赤点回避が分かった後、週に2日程度で良いのでという事でキッチンスタッフとして働くことになったのだ。
零奈を残して仕事に行く事に抵抗があったが、零奈には
「あーあ、折角一緒に住んでても働きに行っちゃってたらあんまり話せないじゃない」
バレンタインでの告白以降、二乃は積極的に和義と話すようになった。姉妹に隠す事もせずにだ。
「二乃。やけに積極的ですね」
「そりゃーね。恋愛に対して消極的なんだもん和義ってば。積極的にもなるわよ。まあ、あまり行きすぎないようにはしてるけどね、嫌われたくないし」
零奈の言葉に二乃が当たり前といった形で答える。
一方で三玖と五月も一緒にいようとしているが、二乃ほど全面的にはしていない。性格がここで出てきているようだ。
「そう言えば前から気になってたんだけど、お母さんは和義の事どう思ってるの?」
二乃の言葉に姉妹全員が零奈の言葉に注目した。
当の零奈は落ち着いており、マイペースにお茶を飲んでいる。
「好きですよ、もちろん」
さも当たり前のように発言する零奈。しかし、姉妹が聞きたいのはそう言った事ではないと思われる。
「あのっ!前にも聞きましたがそれは兄妹として好きで良いのでしょうか?」
五月がここぞとばかりに聞いている。ちなみに五月の敬語は
五月が聞いている事に他の姉妹は驚いているものの、良く聞いてくれたとも思っている。
それでも零奈は落ち着いている。
「……一人の女性としてです。既に告白もして、考えてくれるとも言っていただきました」
「「「「「~~っ…!」」」」」
零奈の発言に驚きを隠せない五つ子達。
「ちょっと、分かってるの?本当の兄妹だってこと!」
「もちろんです。綾さんにも許可を貰ってます」
あの人は、と姉妹全員が心の中で思っている。
「えっと、お父さんは…」
「中野君は
四葉の問いにも零奈は冷静に答えている。
「まさかライバルが母親なんて思いもしなかったわ」
「私は娘が相手であっても諦める気はありませんよ」
「へぇ~」
二人ともニッコリとした顔であるが二乃と零奈の間ではバチバチと火花を散らしている。
(これは、カズヨシ君いなくて良かったなぁ)
一花は二人のやり取りを見ながら、ここにいない和義のことを案じていた。
「ふふっ。今回私の事を話したのにはもう一つ理由があったのですが…まさにこの事です。知らず知らずのうちに和義さんと私が仲良くなっていたらフェアではないでしょう。身近にもライバルがいると危機感を持ってもらった方が良いと思いました」
「随分と余裕じゃない。でもそういうの私は好きよ」
「わ…私だって負けられない…」
二乃と零奈のやり取りに三玖も参戦する。
「うわぁー…凄い光景だなぁ。ん?五月大丈夫?」
「え!?何がですか?」
「ううん。何か浮かない顔をしてたから…」
「大丈夫ですよ。気にしていただいてありがとうございます」
三人のやり取りを遠巻きに見ていた四葉は、隣で何やら考え事をしていた五月に声をかけるも大丈夫だと言われた。
しかしその後も真剣な顔で考え込んでいる。
(大丈夫だって言ってるし、これ以上踏み込まない方が良いよね…って、何か一花も真剣な顔してる。うーん、何かあったのかなぁ…赤点回避も出来て、お母さんとも会えてで良いことばかりと思ってたのになぁ…)
一花と五月に釣られて四葉も考えに浸るのだった。
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「いやー、こうやってうちで働いてくれて助かるよ」
「まあ、週に2日ですけどね。すみません」
「良いんだよ!それだけでも助かるさ」
REVIVALの厨房で店長さんに教えてもらいながら話をしている。今は生地をオーブンで焼いているところだ。
今は暇な時間帯のためなのか、何故か風太郎も厨房にいる。
「ふふふ、和義君の作るケーキを限定商品として売れば売り上げも上がるだろう。なんと言っても、クリスマスに作ってくれたケーキが幻のケーキとしてSNSに取り上げられてるからね」
何気にハードルを上げるのは止めてほしいものだ。
「しかしお前もここで働く事になるとはな」
「ショートシフトだけどね。ホールは良いの?」
「ああ。閑古鳥が鳴いてるぜ。この時間帯はいつもそうだ。もう少ししたらまた忙しくなるだろ」
「へぇ~」
「そう言えば、君たちは二乃君と友人だったね」
「二乃ですか?そうですけど…」
「もし可能ならばあの娘も雇いたいと思ってるんだよ。バレンタインのチョコをここで作っていたが、彼女の手際はとても良かった」
バレンタインでの告白が印象的過ぎて忘れてたけど、ここで調理してたんだっけ。確かにあの時のチョコは美味しかったし、十分な戦力になると思う。
チラッと風太郎を見る。
「ん?何だ?」
「いや、先生としては二乃のバイトどうなんだろうって思ってさ」
「うーむ…」
風太郎が腕を組んで考えている。確かに成績は上がったがバイトをすることで下がってしまう可能性だってあるはずだからね。
「一花も仕事大変そうだしさ。自分のお小遣いくらい自分で稼ぐようにした方が一花の負担が減ると思うよ」
「そうだな…それにあいつの夢でもあるしな」
「風太郎覚えてたんだ」
「ま…まあな」
最後は恥ずかしがっていたが風太郎から許可が降りた。
「とりあえず本人に聞いてみます。本人が働きたいかどうかですからね」
「いや、声をかけてくれるだけでも助かるよ」
丁度オーブンで焼いていた生地が焼き上がったので、続きの作業のため話はそこまでとなった。
ちなみに、風太郎の予想通りすぐに忙しくなった。僕の作ったケーキも売れたので、とりあえず一安心である。
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「本当!?行く行く」
その日の夕食時に、店長から二乃に働いてほしいと言われた事を二乃に伝えると直ぐに承諾された。
「即決だね。まあ、風太郎も言ってたけど二乃の夢のためにもいい経験になるんじゃない」
「あいつそんなこと言ってたの?」
「うん」
意外だといった顔をして二乃はご飯を食べ始めた。
「上杉さん、ちゃんと私達の言葉覚えててくれたんですね」
「あいつはそういう奴だよ。素っ気なくしているようで、しっかりと人の事を見ている。凄い奴さ」
「そうですね!ししし、直江さんは上杉さんの話になると嬉しそうです」
「そうかな…」
「はい!私も嬉しいです」
今日は隣に座っている四葉が最後の言葉を僕にだけ聞こえる様に話した。それからはずっと上機嫌である。
「ねぇねぇ。和義と一緒のシフトになることもあるわよね?」
「僕のシフトがそもそも少ないから、同じシフトって言うのは少ないかもだけどあり得るかもね」
「それでも一緒の時間が増えるなら全然構わないわ」
「っ…!」
この娘は本当に恥ずかしげもなく言えるよね。僕の反応が良かったのか上機嫌にご飯を食べている。
「二乃。バイトも良いですが勉強も疎かにしてはいけませんよ」
「分かってるわよ」
この親子の会話。違和感ありすぎて今でも慣れないなぁ。
「む~…カズヨシ。そのお店他にバイト募集してないの?」
「え?分かんないけど…最近僕が働きだしたし、そこに二乃を雇うとなると厳しいんじゃない?」
「そっか…」
心底残念そうな三玖。こればっかりはどうしようもない。
「う~ん…そう言えば、REVIVALの向かいのパン屋がバイト募集してたような…三玖の料理の腕も上がってきたしパン作りに挑戦するのも良いかもね。今日の夕飯美味しいよ」
今日の夕飯は僕が横で見ていたものの、ほとんど三玖一人で作っている。見た目はまだまだだが味に関しては問題ない。
「本当!?」
「ああ。パン作りだけは僕もほとんどやったことないから、あんまり教えれないかもだけど、三玖が挑戦するなら応援するよ」
「カズヨシもほとんどやったことないか…考えてみるね」
「ああ、じっくり考えるといいさ」
そんな感じで夕飯を過ごしていると携帯にメッセージが届いた。
中々珍しい人からだなこれは。
食事が終わったところで五月に声をかけた。
後片付けは二乃と三玖がやってるから丁度いい。
「なあ五月ちょっといい?」
「はい、何でしょうか?」
「先生を目指してるって事だけど、下田さんの働いている塾でお手伝いを募集してるそうだからさ一緒にどうかと思って」
そう言って先程届いたメッセージを五月に見せた。
「塾のお手伝い…」
「ああ。勉強をしながら下田さんの手伝いをする。ほとんど給料は出ないみたいなんだけどね」
「……あの、一緒にってことは和義君も行くの?」
「まあね。REVIVALとの兼任にはなるんだけどね」
「そっか…」
周りに僕以外に誰もいない事に気づいた五月は敬語を崩して話し出した。しかし、
当の五月は少し笑ってはいるが即決は出来ないようだ。普通ならそうだよね。
「急ぎって訳ではないけど来月までに決めてもらえると助かるかな」
「分かったよ」
「それじゃあこのメッセージを五月にも送っとくよ」
「うん、ありがとう…」
メッセージを五月に送ったところで零奈がお風呂から上がったのかリビングに入ってきた。
「次どうぞ」
「じゃあ私お風呂に行くね」
そう言い残し五月はお風呂に向かうためリビングから出ていった。
何だろう。避けられてるって程ではないが、以前より話す機会が減ったような。知らない内に何かしちゃっただろうか。
「どうされたのですか兄さん?」
「いや、乙女心ってやっぱり難しいんだなって改めて感じただけだよ」
「はあ…」
零奈には、何を言っているんだ、という表情をさせてしまったが仕方ない。とりあえず勉強して気分を紛らわすか。
そんな思いで自分の部屋に向かうのだった。
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春休みに入ってからすぐに五つ子達は家族で旅行に行った。
何でも三玖が応募した景品にあった旅行券が当たったようだ。
そして住所を元々の家の住所で書いたがために中野さんに知られたそうだ。それで家族で旅行に行くことになったと。
まあ、それがなくてもたまには家族で過ごした方が良いと思っていたのでいい機会かもしれない。
そんなわけで今この家には僕と零奈しかいない。
「久しぶりに二人だとやっぱり静かだね」
「そうですね。私はこの二人の空間も好きですよ」
「そっか…」
二人で昼前の時間をのんびり過ごしている。
しかし出発する時のやり取りは面白かった。
『お母さん。私達がいないからって和義とイチャイチャしないでよ!』
『さて?それは約束出来かねますね』
『む~…カズヨシ、駄目だからね?』
『はいはい。ほら迎え来てるんだから早く行きな』
『それじゃー、行ってくるねお母さん!』
『ええ。気をつけて行ってくるのですよ』
『はい。和義君もいってきます』
『お土産期待しててねカズヨシ君』
『久しぶりの家族の団欒なんだから楽しんできな』
『『『『『はーーーい!!』』』』』
やり取りを思い出し、プッと吹き出してしまった。
「どうしたのですか、いきなり笑って…」
「ごめん。さっきの出発のやり取りを思い出しちゃってさぁ」
「なるほど。まったくあの子達ときたら」
「ははは、良いじゃない。仲良くやれてるようで良かったよ」
「そうですね。嬉しい限りです」
嬉しそうな顔をして話す零奈を見ていると、この奇跡のような出来事が起きて本当に良かったと思う。
「しかしこういう景品って当たらないものだと思ってたよ」
「確かにそうですね。しかも…」
「ああ、風太郎にも当たるとはね」
そうなのだ。風太郎も三玖と同じ抽選に応募をしていて当選したのだ。
おつかいを頼んだ三玖がスーパーで偶然風太郎に会って、その場で二人で応募をしたようだ。
あのスーパー当選率高いんだな。今度行ってもし抽選をしてたら僕も応募してみようかな。
「そう言えば、風太郎さんには伝えてるのですか?」
「ん?何を?」
「いえ。あの子達も当選して同じところに行くという事です」
「ああ…言ってないや」
「何をやってるのですか」
「別に問題ないでしょ。現地で遭遇しても」
「まあそうでしょうね。ところで、何処に行かれたのですか?」
「さあ?どっかの島だったような…零奈も聞いてないの?」
「ええ。急に決まった事だったようですので、あの子達も準備でバタバタしていましたから」
「ま、現地から写真がいっぱい送られて来るでしょ」
「そうですね………あの兄さん」
「んー?」
「私達も旅行に行きませんか?」
「へ?」
「行っておきたいところがあるのですが少し遠いので。旅行という形で行けたらと思いまして」
「別に良いけど、今からで旅館やホテルって空いてるの?」
「そこは問題ありません。既に予約済みです。ではお昼食べたら出発するので準備してくださいね」
「………………は?」
空耳だろうか。零奈がとんでもない事を言ってるような。
「は?ではありません。早く準備してください」
「いやいや。いくらなんでも唐突過ぎでしょ。え?僕が断ったらどうしてたの?」
「兄さんは断ることはないと思ってましたから。では私は自分の準備をしますので。それでは」
そう言って零奈は自分の部屋に向かっていった。
何か行動力が母さんに似てきたな。そんな思いを胸に僕も自分の準備を始めるため部屋に向かった。
お昼を食べ終わったので出発することになるのだが。
「結局何処行くの?」
「ある島へ。県内なのでそこまで遠くはないですが、渡船場までは距離があるのでバイクを出してくれると助かります」
「はいよ。それじゃあ行きますか」
「ええ!」
車庫からバイクを出してエンジンをかける。たまには動かしてあげないと、と思ってたから丁度良いか。
荷物も乗せてチャイルドステップも付けて準備万端だ。
「よし!零奈ヘルメットとタンデムベルトは着けた?」
「問題ありません。お願いします」
両手を上げてる零奈を抱えて後部座席に乗せる。
「荷物があるからちょっと狭いかもだけど我慢してね」
「大丈夫ですよ。体が小さいのはこういう時に役立ちますね」
「確かに。それじゃあ出発しますか。どう?ベルトはしっかり出来てる?ベルトがあってもしっかり捕まってるんだよ」
「分かってますよ」
後ろからギュッと掴まれているのを感じて出発する。
では一路、零奈希望の島へ。
今回は時間を作ることが出来たので、少し早めに投稿する事が出来ました。
ただ、次の投稿はまた来週になると思います。申し訳ないです。
さて、原作より早くなりましたが五つ子がそれぞれのアルバイトに向けて動いていくことになりました。
REVIVALの店長に下田さん。それぞれが既に声をかけていることもあるのと、赤点回避したこともありで少し早めにこの内容で書かせていただきました。
次回は旅館でのお話になります。五月が風太郎に相談をする事が無いので原作通りとはいきませんが、少しは原作の内容を交えながら書かせていただこうかと思っております。