五等分の奇跡   作:吉月和玖

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67.故郷

「潮風が気持ちいいね」

「ですね~」

 

僕と零奈は今ある島に向かう為に連絡船に乗っている。天気も良かったのでデッキにて景色を眺めていた。

 

「それで。今から行くところは零奈(れな)さんのお父さんが経営している旅館なんだっけ?」

「はい。母さんに頼んで訪問させていただくことになりました。私の仏壇はこっちにあるようですので、そちらのお参りをしようかと」

「へぇ~。お墓の次は仏壇ね。抵抗とかないの?自分のお墓や仏壇にお参りするのは」

「もちろん最初はありましたよ。お参りする事で私が消えるのではないかとも思いました。しかし、直江零奈(なおえれいな)として生きていく為の言わば決別みたいなものでしょうか。まあ、全ての縁を切るわけではありませんが…」

「そっか…」

 

零奈は遠くを見ながら答えてくれている。

恐らく僕には全く分からない何かを零奈は自分の胸に抱えているのだろう。それは聞いてはいけないように感じたから、それ以上聞こうとはしなかった。

 

「着いたー!思ったよりも早く着くもんだね」

 

しばらくすると連絡船が島に着いた。

そして僕は両手を上げ島に上陸しながら感想を述べるのだった。

 

「全く…みっともないですよ」

「良いじゃん。こうやって旅をするとやっぱりテンション上がっちゃうよ」

「良く分かりません…」

 

こういう所はやっぱり女性の大人だな。けど、うちの母親は多分僕と同じ事をするだろうから血だろうか…

 

「さてどうしよっか?すぐに旅館に向かう?」

「そうですね...ちょっと寄りたい所があるのでそちらから先に行ってもいいですか?」

「OK!じゃあ案内よろしく」

「分かりました。では、はい」

 

零奈はこちらに自分の手を差し出してきた。

なるほどそうきたか。まあ、これくらい良いか。

そう思い零奈の手を握る。それだけでも嬉しかったのか零奈は笑顔だ。

 

「それでは出発しましょう」

 

零奈の先導で零奈希望の場所に向かうことになった。

 

それからしばらく歩いているが結構山登りをしている気がする。

 

「零奈大丈夫?」

「ええ...しかしこの体ではやはり大変でしたね...」

 

本人は大丈夫だと言っているがそろそろ体力の限界かもしれないかな。

そう思って零奈を抱きかかえた。

 

「ふぇっ!?兄さん何を?」

「まあまあ、もうすぐなんだよね?」

 

そう言って零奈を右腕で抱え込み、荷物は左手で持ってズンズンと進む。

 

「まったく...兄さんはたまに強引なところが本当にありますよね」

 

そう言った零奈は観念したのか僕の首に腕を回してしっかり捕まっている。

そしてしばらく歩いていると開けた場所にたどり着いた。

 

「おーー!いい景色じゃん!」

 

零奈を降ろしながら視界に広がる景色に目が奪われた。山々が広がり、その向こうには海が広がっている。

 

「ふー...この景色は変わりませんね」

 

隣にいる零奈は目を細めながら懐かしそうにその景色を眺めている。

 

「これが寄りたかった場所?」

「そうですね。これも含みますが本当に寄りたかった場所はあれです」

 

零奈がそう言って指さしたのは...

 

「鐘?」

「ええ。この鐘はこの島随一の観光スポット『誓いの鐘』です。この鐘を二人で鳴らすとその男女は永遠に結ばれるという伝説が残されているのです」

「へぇー、ロマンチックじゃん......ん?」

 

ちょっと待って。ここに来たってのは...

零奈の方に目線を向けるとニコッと笑っている。

 

「えっと...零奈(れな)さん。ここにはどういったご用件で?ああ、何かいい思い出があって寄りたかったとかかな?」

「なぜそこで零奈(れな)呼びなのでしょうか?後、別にここにはこれといった思い出はありません」

「あははは、なんでだろうね。何か呼んじゃった。そっか...特に思い出はなかったかぁ...」

 

じゃあ何でここに?とは言えなかった。

 

「...兄さんの想像通りですよ。鐘を一緒に鳴らしたくてここに来ました」

「そ...そう」

 

何だろう。何か緊張してきた。

 

「今は兄妹としてでも良いんです。ずっと仲良くいられるようにと…一緒に鳴らしてくれませんか?」

 

そんな懇願するような顔をされたら断れないよ。

 

「分かったよ...よっと」

「わわっ。どうしたのですか!?」

「零奈の身長だと届かないでしょ?」

「そ...そうですね。ありがとうございます」

 

零奈を抱えて鐘に近づく。そして...

 

ゴーン...ゴーン...

 

鐘が鳴る。いい音だ。

ふと零奈を見ると満足そうな笑顔をしている。そんな彼女の顔を見れただけでも良しとしますか。

 

------------------------------------------------

「おー、老舗って感じだねぇ」

「言い方を変えれば古いとも言えますね」

「自分の親が経営している旅館に対してその意見はどうなんだろう」

「良いのですよ」

 

気にしないように旅館の中に入っていく零奈。僕はそれに続く。

誰も迎えに出てこないんだが...

零奈は気にせず受付の方に向かっている。その受付にはおじいさんが座っているようだ。

もしかして彼が。

二人で受付の前に来るも何の反応もない。ただの屍とかじゃないよね...

零奈はただじっと見ているだけだ。

 

「あのー...直江と言うものですが。連絡が来てると思いますけど...」

 

僕の言葉にピクッと反応があった。

 

「あんたらが直江先生の子どもか?」

「ええ。景と綾の息子と娘です」

 

僕の紹介の後、零奈は頭を下げた。その零奈をおじいさんはじっと見ている。そしてフッと笑ったように思えた。

 

「部屋に案内しよう。付いてきなさい」

 

そして僕たち二人の前を歩いて部屋まで案内された。

 

「あ、そうだ。両親からのお願いもあったのですが、零奈(れな)さんのお仏壇にお参りさせていただいてもいいでしょうか?」

「...いいだろう。荷物を置いたらまた受付まで来なさい」

 

そう言っておじいさんは部屋から出ていった。

 

「零奈、あの人が零奈(れな)さんのお父さん?」

「ええ...」

「言い方が悪いかもだけど、あまり生気を感じられないんだが。前から...な訳ないか」

「はい。恐らく私の死が原因なのでしょうね」

 

そう言いながら零奈は少し悲しげな表情をしていた。

 

仏壇に御供えするお菓子を手に受付まで行くと、おじいさんに仏壇がある部屋まで案内された。

その仏壇には女の人の写真が飾られていた。

これが零奈(れな)さん。確かに美人だ。中野さんを筆頭に学生達がファンクラブを作ったっていう話も過言ではないと感じられる。

そんな考えをしていたら、隣の零奈から肘でつつかれた。

 

「すみません。写真の方が美人でしたので見とれていました。これつまらないものですが、御供えさせてください」

「ああ…」

 

おじいさんの返事を聞いて、お菓子を御供えした後手を合わせた。僕の後には零奈も続く。

零奈が手を合わせるのを止めた時、おじいさんから声をかけられた。

 

「君は零奈(れいな)と言うんだね?確か零奈(れな)と同じ漢字だと聞いている」

「はい。父と母がこちらの零奈(れな)さんのような立派な人になってほしいと名付けたそうです」

「そうか…いや、君は小さいのに十分立派だ…」

 

おじいさんが満足そうに話していると、ドタバタと足音が聞こえてきた。そして、

 

ガラッ

 

勢い良く戸が開くと見知った顔が現れた。

 

「おじいちゃん、ここ?」

「え、五月?」

 

そこには五月がいたのだが、どうも違和感がある。と言うか、五月はこんな行儀悪く戸を開けたりしない。こんな行動を取るとすれば…

 

「いや、もしかして…四葉?」

「「…っ!」」

「おー、直江さんにおか…じゃなくてレイナちゃんじゃないですか!お二人も来てたんですね」

「まあね…てか、何で五月の格好してるの?」

「あはは…これには色々ありまして…」

 

頭を搔きながら話す四葉。何か理由があるんだろう。ここでは聞かない事にした。

 

「それで四葉何かあったのか?」

「おっとそうでした。五月がお腹空いたって言ってるからそろそろ夕飯の準備お願いできないかなって」

「そうか。今から用意すると伝えてくれ」

「はーい!」

 

返事をした四葉はまた走っていった。

騒がしい女の子だ。

 

「聞いた通り夕飯の用意をしなくてはいけなくなったからそろそろ失礼する。ところで、良く四葉だと分かったな」

「え?ああ、五月はあんな風に戸を開けたりしませんから。で、あんなに騒がしくしてるのは姉妹で四葉だけなのでもしかしてと…」

「なるほど」

 

何かを納得した顔をしているおじいさん。立ち上がり部屋から出ようとしたところで止まり、振り返って零奈に質問をした。

 

「零奈ちゃん、今幸せかね?」

「ええ。父と母、それに大好きな兄がいて楽しく過ごせてます。今では居候として五つ子の皆さんとも過ごせて、毎日が充実していますよ」

「そうか…」

 

零奈が笑顔でそう答えたのに納得したのか、おじいさんも最後は笑顔を見せて部屋から出ていった。

 

「もしかして零奈の事気付いてる?」

「さあ?どうでしょう。さ、私達も行きましょう」

 

零奈に促されながら僕達は部屋に戻ることにした。

 

------------------------------------------------

「はぁー…良い湯だね」

「そうですね~」

「……」

 

部屋に戻り夕飯までまだ時間があるようだったので温泉に入ることにした。

ちなみにこの旅館には男湯と女湯の間に混浴がある。その混浴に今まさに零奈と入っている訳なのだが。

零奈と二人っきりでの旅行なんて初めてだったのでお風呂の事を考えていなかった。確かに中身は大人の零奈(れな)ではあるが体は小学一年生。大丈夫と思うけど一人で温泉に入れるのか心配であった。

その考えを零奈に伝えると、『ではこちらに入りましょう』、と提案され今に至る。

 

「誰か入ってきたらどうしよう…」

「今さらですね。それに小さな妹と入っている事にすれば問題ないですよ」

「そうだよね…」

 

五つ子達はこの旅館に来てるみたいだけど、流石に混浴には入ってこないだろ。

そんな考えをしていると。

 

ガララ

 

誰かが入ってきたようだ。マナーだしジロジロ見ないようにしとかないとね。

 

ペタペタ…

 

何だろう。気のせいかもしれないが足音が近づいてきてるような…

 

「あら、こんなところで会うなんて偶然ね。どうせ一緒になったんだし背中でも流してあげようか?」

「へ?」

 

耳元でそんな事を言われたので振り返ると、タオルを巻いているものの裸の女性がいた。

 

「えっと…」

「兄さん見てはいけません!」

 

その言葉と同時に顔を引っ張られて視界が暗くなった。どうやら零奈が僕の顔を抱きしめて何も見えないようにしているようだ。

 

「二乃!何をしているのですか!」

 

なるほど二乃だったのか。流石にすぐには分からんな。

 

「別に。たまたま温泉に入ったら居合わせただけよ」

「なぜ混浴に入ってるのですか?どうせ私達が入るのを見ていたのでしょう?」

「さあね…」

 

二人が言い合いをしているようだが、息もしずらいからそろそろ離してほしい。

 

「むーっ…むーっ…」

「ひあっ……」

「とても小学生が出す声じゃないわね」

 

零奈の力が緩んだので何とか抜け出せた。

 

「はぁー…はぁー…流石にきつい…」

「す…すみません兄さん」

「何やってんのよ…ほら、入るからあっち向いてなさい」

「恥ずかしいなら出れば良いと思うけど…」

「良いじゃない。勇気出してここまで来たんだから、少しくらい一緒にいさせてよ…」

 

最後の方は声がか細くなっている。

はぁー…本当に僕は甘いね。

 

「ほら、背中同士を合わせればお互いに見えないでしょ。何なら寄りかかってもいいから、背中貸してあげるよ」

 

温泉の中程まで進んで出入口とは反対方向を向いて温泉に入り、二乃にそう伝えた。

しばらくすると、トンと背中に寄りかかる感触があった。

 

「ありがと。わがまま聞いてくれて」

「別にいいさ。端から見れば僕の方が役得でしょ」

「ふふっ…そうよね。こんな可愛い女の子と同じ温泉入れるなんてそうそう経験出来ないわよ」

 

コツンと二乃が自分の頭を僕の頭にぶつける。

自分で可愛い女の子って言うなんて、どんだけ自信があるんだよ。

そんな風に思いながら空を見上げフッと笑った。

 

「全く。兄さんは相変わらず甘すぎなんですよ」

 

そう言いながら零奈が僕の右隣で温泉に入り、僕の腕に寄りかかってきた。

 

「ちょっ…流石にそれはずるいでしょお母さん!」

「はて?」

 

しらばっくれてるなぁ零奈。

僕は二乃が後ろにいるから身動きが取れない。

なるほど、それを見通してのこの行動か。

二乃は『う~…』と唸っているが、後ろを向くわけにもいかないからどんな顔をしているか確認が出来ない。

そんな訳で、しばらくこの奇妙な状態で温泉に入って二乃と零奈と話していたのだが。

 

「そう言えばさっき四葉に会ったけど、そろそろ夕飯出来てるんじゃない?」

「うっ…そうだったわ」

「僕らもそろそろ上がるからさ。二乃、先に出ててくれないかな?」

「分かったわよ。その…今日はありがとう。この旅館に泊まってるならまた会いましょ」

 

そう言って離れていくのを感じる。零奈から脱衣場に入っていった事を教えてもらい、しばらくしてから僕達も上がることにした。何か温泉に入ったのに疲れたぁ…

 

この日の夕飯は新鮮な魚介類が使われたものでどれも美味しかった。やはりプロの味にはまだまだ敵わない。零奈からは、兄さんの料理の方が好きだと言ってくれたが、精進あるのみだ。

 

夜になり眠ることにしたのだが、折角布団が二つ並んでいるのに零奈は僕の布団に入り込んで寝ている。

こうして寝顔だけを見ていると年相応のかわいさを感じられる。

垂れている前髪を搔き上げてあげると『ん…』と寝息をあげた。

ちょっとだけ目が覚めたので、零奈を起こさないよう部屋を出た。

廊下を歩いていると、窓からは月が綺麗に見えていた。

 

「今日は良い夜空だ…」

 

そう口にしたところで物凄い勢いで階段を駆け上がってくる人物を見かけた。

 

「あれ?五月、どうしたのそんなに急いで?」

「…っ!」

 

声をかけたのだが五月はさっさと自分の部屋に向かって行ってしまった。

 

「何だ?」

 

さらにそこに見知った人物が階段を駆け上がってきた。

 

「はぁ…はぁ…」

「何やってんの風太郎?」

「っ!和義。お前来てたのか?」

「それを教えようと思ったけど、どっかの誰かさんの携帯に繋がらなかったんだよ。充電しときなよ…」

「す…すまん。て、今はそれどころじゃねぇ。五月見なかったか?」

「五月なら、僕が声かけたのも無視して部屋に戻っていったよ」

「サンキュー。じゃあ、また後でな」

 

そう言って風太郎は部屋に向かって行った。

 

「あ、おい!そっちには行かない方が…って、こういう時は早いな。まあ、どうせすぐに戻ってくるだろうから待っとくか」

 

そして、しばらく待っていると案の定風太郎が戻ってきた。

 

「お帰り」

「くそ。親父さんに捕まっちまった」

「だろうね。だから止めたのに」

「うっ…全然気付かなかったぜ」

「はぁー…それで何があったの?」

「それが……さっき受付の近くで、五月に家庭教師を辞めるよう促された」

「はぁー!?」

 

本当に…何で普通に旅行を楽しむことが出来ないのだろうか。

そんな儚い願いを胸に風太郎から事情を聞くことにするのだった。

 

 




お待たせして申し訳ありません。

今回のお話で五つ子のおじいちゃん(零奈(れな)の父)が登場です。
おじいちゃんは何言ってるか分からないところが所々原作でありましたが、和義と零奈の前では普通に喋っていることにしました。マルオと話してるときは普通に喋っているようでしたので。

そして、二乃との混浴シーンです。零奈もですが、中身がいくら零奈(れな)でも、見た目が少女ですからね。二乃に関してはもう少し大胆に書こうかと思ったのですが、まだまだ告白したばかりですので押さえさせていただきました。まあ、和義が入っているお風呂に突撃している時点で十分大胆ですけどね。

この旅行の話はもう少し書こうかと思っています。
また次回の投稿まで時間が開くかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
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