五等分の奇跡   作:吉月和玖

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大変長らくお待たせして申し訳ありません。
最新話の投稿です!



72.日常

「だぁー!疲れたぜ」

 

そう言いながら風太郎が机に突っ伏している。

今日は珍しく僕と風太郎、二乃が同じシフトに入っていた。

入っていたのだが、あまりの忙しさで今三人は休憩室で疲れはてているところだ。

 

「言い方悪いかもだけど、この店ってこんなに繁盛してたっけ?」

「原因はこれよ」

 

二乃が自分の携帯の画面を見せながら僕の疑問に答えてくれた。

 

「んー…?『あの限定ケーキ、本日販売!』って何これ?」

「和義が作ったクリスマスのケーキって結構評判良かったのよ。ただ、その後和義は店でケーキを作らなかった。それで幻のケーキって言われてたみたいよ」

「えー…何それ?」

「そして最近になって働きだした事と週に2日しかシフトが組まれない事から、店長が和義の作ったケーキを限定品で売ったらSNSで盛り上がったって訳」

 

普通そういうのって本人にまず言わない?

あ、でも。

『ふふふ、和義君の作るケーキを限定商品として売れば売り上げも上がるだろう。なんと言っても、クリスマスに作ってくれたケーキが幻のケーキとしてSNSに取り上げられてるからね』

とか店長言ってたなぁ。あの人策士だなぁ。

 

「上杉君、そろそろ戻れるかい?」

 

丁度その時店長が休憩室に入ってきた。

 

「分かりました」

「僕たちはどうします?」

「ふむ…君たち二人はもう少し休んでいると良い。この後はホールの方を手伝ってもらうかもしれないから、その時はよろしく頼むね」

「「はい!」」

 

そこで風太郎と店長が出ていった。

 

「えっと…二乃さん?なぜニコニコしながら近づいてくるのかな?」

「えー、だってせっかく二人っきりになったんだもの。アピールしとかないとじゃない?」

 

そう言って肩に自分の頭を置いてきた。

何言っても無駄だろうから諦めよう。当の二乃はご機嫌だし。

 

「そうだ。誕生日に送ったアロマ使ってくれた?」

「まだだけど、今日明日の勉強時間に使ってみようと思ってたんだ。リラックス出来て勉強捗りそうだよ。ありがとね」

「ふふっ、なら良かったわ……そういえば五月と何かあった?」

「っ…!」

「肩が震えたわよ。分かりやすいわね」

「はぁ…何でそう思ったの?」

 

二乃は自分の頭を僕の肩に置いたままなのでそこまで怒っていないようだ。

 

「べっつにー…今朝の五月はやけにご機嫌だったなと思っただけよ。それで何があったのよ?」

「……昨晩、五月から告白された」

 

抱きつかれた事は、まあ言わなくても良いでしょ。

 

「ふ~ん…あの娘にしてはやるわね。それだけ?」

「それだけ。二乃と一緒で返事は保留にしてるよ。男として情けないけどね」

「あっそ。それで?私と五月にお母さん。それに三玖も多分告ってるわね。他はいないんでしょうね?」

「保留にしてる娘って事であれば他にはいないよ」

 

少しだけ離れた二乃が指を折りながら聞いてきたので正直に答えた。自分で言っててなんだが、これだけの娘を待たせてるなんて情けないな。

四葉は風太郎の事が好きって気持ちは変わってないだろうし、一花は…

そこで一花に頬へキスされたことを思い出した。あれ以来特に変化はなくいつも通り過ごしている。何であんな行動を取ったのか…本当に女の子って分かんないな。

 

「あの後輩はどうなのよ?」

「後輩って諏訪さんの事?」

 

二乃がコクンと頷く。

 

「昨日も言ったけど、彼女は何もないよ」

「…今は和義の事を信じてあげる」

 

少しの間が気になったがまあいいでしょ。

 

「とは言え、三人のライバルより少しでも距離を縮めたいところよね…う~ん…そうだわ、あだ名とかどうかしら?」

「あだ名?」

「そうよ。ねぇねぇ、和義って今までどんな風に呼ばれたことがあるの?」

「え?直江か和義以外はないんじゃないかなぁ…」

「ふ~ん…てことは、あだ名で呼ぶのは私が最初って事よね。良いじゃないそれ!となれば何がいいかしら」

 

まったく、やっぱり二乃が姉妹で一番乙女チックなのではないかと思えてしまう。もしかしたら白馬の王子様とか憧れてるかもしれないな。

あーでもないとキラキラした表情で僕のあだ名を考えている二乃の顔に少し見とれてしまった。

 

「うん、決まったわ。カズ君なんてどう?」

「カ…カズ君!?」

「ええ。いいと思わない?」

「ふふふ…二乃が気に入ったならそう呼べば良いよ」

「本当に!?後から嫌っいうのはなしなんだからね?」

「ああ、良いよ。二乃がそれで喜んでくれるなら」

 

僕の言葉が嬉しかったのかニコニコしている。

普段強がった姿ばかり見ているからか、今の少女のような顔を見せられると何か良いなって思ってしまった。

 

「ねえ二乃?」

「なーに?」

「二乃は僕とキスしたいって思ったりする?」

「ゲホッゲホッ…ちょっ…え?…な…な…何言い出すのよ!」

 

一花の事もあったので聞いてみたかったがやぶ蛇だったようだ。

 

「ご、ごめん。いや零奈が良く頬にだけどしてくるからさ。今思えば零奈(れな)さんとしての記憶がある状態でしてきたって事だし…やっぱり好きな人にはキスしたくなるんだろうか、って思ったわけ。聞いた僕がおかしかったよ。忘れてくれて良いよ」

 

はぁー…何を聞いてるんだろうか。女性に対して失礼だよ。

そう自分の軽率な質問に反省していたのだが。

 

「したいわ!」

「え?」

 

はっきりと答えた二乃に驚き、二乃の方を見るとまっすぐとこちらを見ていた。とても冗談ではないことくらい分かる程真剣に。

 

「したいに決まってる。だって好きになった人なのよ。前にお母さんに聞いたの、キスするってどんな感じか。そしたら『好きな人とのキスはより一層相手を愛おしく思えてくるのではないでしょうか』って。そんな話を聞かされたらしたくなってくるに決まってる。でも…」

 

そこで二乃は下を向いてしまった。

 

「私の軽率な行動でカズ君に嫌われたくないから…」

「そっか…」

 

そこでポンポンと二乃の頭を軽く撫でた。

 

「え…?」

「ありがとね、自分の素直な気持ちを伝えてくれて。その…なんだ…まっすぐな気持ちが聞けて嬉しかったよ」

「あ………ごめん、もう無理!」

「え?」

 

チュッ

 

「なっ……!?」

 

いきなり二乃に頬にキスをされて驚いてしまった。

 

「ふふっ…お母さんはしてるんだからほっぺくらいはいいわよね?」

「え…?え…?」

「そもそもカズ君が悪いんだからね!私をその気にさせたんだから」

「えー…」

 

そこに店長が休憩室に入ってきた。

 

「すまない。二人ともホールとキッチンに分かれて入ってくれ!」

「分かりました!」

 

急ぎ店長のところに向かう。

 

「ん?どうしたんだい直江君?顔が赤いようだが…」

「な、何でもないですよ!あはは…」

 

やばい。かなり意識してるかも。

そんな時後ろから二乃に声をかけられた。

 

「覚悟しててよねカズ君。その内、唇も奪っちゃうんだから」

「なっ…!?」

 

二乃はそのまま鼻歌を歌いながら僕を追い越し店長のところに向かった。

 

「おや。二乃君はご機嫌のようだね」

「ええ!良いことがあったので。さあ頑張りましょう!」

 

そして二乃は終始ご機嫌なまま仕事をこなすのだった。

 

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次の日の朝。といっても昼に近い時間ではあるが、パソコンとのにらめっこに一息つこうとリビングまで下りてきた。

 

「あれ?一花は今朝食を食べてるの?」

「おっはー!いやー、面目ない」

「まったく…仕事が忙しいのは分かりますが、もう少し生活リズムを正しなさい」

「はい…」

 

母親と子どもの何気ない風景で本人達は慣れたかもしれないが、如何せん零奈の見た目が小学生だとまだまだ違和感ある。

 

「あ!直江さんも一緒にお茶しませんか?」

「じゃあご相伴にあずかろうかな」

「分かりました!じゃあ準備しますね!」

 

そう言いながら、四葉はキッチンに向かった。

 

「あら?珍しいですね、家の中でも眼鏡かけてるなんて」

 

零奈の隣に座るとそう声をかけられた。

 

「ああ。さっきまでパソコンで作業してたからね。これはブルーライトカットの眼鏡で度は入ってないよ。一花からのプレゼントなんだ……どう一花?似合ってる?」

 

僕の向かいで朝食を食べてる一花に聞いてみた。

 

「うん…想像通り…カッコいいよ」

「そっか…ありがとう…」

 

照れながら言われるとこっちまで照れるからやめてくれ。

 

「こほん」

 

おっと。零奈がいたんだった。

 

「お待たせしました!ん?どうかしたんですか?」

「いや何でもないよ。そういえばこの間のカップケーキ美味しかったよ」

「本当ですか!?やったー!お母さんやりましたよ!」

「ふふ、良かったですね」

「はい!」

 

満面の笑みで答えている四葉。親子関係は良好のようで良かった。

 

「四葉っていつから料理するようになったのかな?」

「ししし、まだまだだけどね…言ったでしょ、行動あるのみだって」

「ほぉー…」

 

笑顔でお互いを見合っている一花と四葉。仲が良いのか悪いのか。

 

「そういえば来週の日曜日。今度は風太郎の誕生日だね」

「そうなんだよねぇ。二人の誕生日近すぎだよ」

「上杉さんは何を貰ったら喜んでくれるんでしょうね?」

「風太郎は何を貰っても喜ぶよ。反応は薄いけど内心は凄い喜んでるから」

「ですね。去年は隠れて喜んでましたし」

「フータロー君らしいね」

「直江さんは何をあげたんですか?」

「ん?参考書」

「うわぁー…誕生日に参考書って…」

 

一花が引いている。

 

「風太郎さんは普通に喜んでましたけどね」

「う~ん、やっぱり他に探してみようかな…」

「ちなみにお母さんは何をあげたの?」

 

一花が興味本位で聞いてきた。

 

「兄さんとの共同でケーキを作りました」

「上杉家は全員驚いてたよね。何せ小学校に入学したばかりの子がケーキを作って持って来るんだもん」

「「確かに…」」

 

僕の言葉に一花と四葉の二人が同意した。

 

「まぁ自分でこれだって思うものを渡せば良いと思うよ。僕は皆からのプレゼントは嬉しかったし」

「そっか…」

「もう少し色々と考えてみます!」

 

一花と四葉。二人はどんなのをプレゼントするのだろうか。本人ではないが少し楽しみである。

 

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「お前…何か疲れてないか?」

 

次の登校日、風太郎と登校していたのだがそう指摘された。

疲れてる原因は…まあ、人によっては贅沢な悩みかもしれないな。

 

「風太郎に心配されるとはね…」

「いつも一言余計だ!」

「ははは、大丈夫だよ。それより風太郎こそ大丈夫なの?今日は体力測定だけど」

「ふん…問題ない…」

 

現実逃避の如く参考書に目を戻した。

 

「おはよう…」

「あれ?三玖じゃん、どうしたの?」

 

通学路の途中、一人佇んでいる三玖の姿があった。

 

「一緒に登校しようと思って…」

「そっか。良いかもねたまには」

「うん…!」

 

そこで僕の横に三玖が並ぶ。なので僕は二人の真ん中に位置する感じになった。

 

「三玖。お前はどうなんだ?今日の体力測定」

「も…問題ない…」

 

風太郎の質問に三玖が答えるが、どう見ても問題ないように見えないが。

 

「……!カズヨシ、そのキーホルダー…」

「ん?ああ、この間三玖からプレゼントしてもらった物だよ。さすが三玖、センスあるよね」

 

三玖から貰ったのは戦国武将の家紋が束になっているキーホルダーである。それは今鞄に付けているのだ。

 

「ありがとう…嬉しい」

 

口元を両手で隠しながら笑顔を見せる三玖。

 

「お前は相変わらず歴史好きだな」

「良いじゃん。あ、そうだ。三玖、久しぶりにあれやらない?」

「望むところ…」

「何だ、あれって?」

「ふふん。歴史クイズだよ。去年から時間あるときによく三玖とやってたんだ」

「決着はつかないけどね」

「だね~…風太郎もやる?って、ごめん風太郎じゃあ答えられないかもだよね」

「ほう…」

 

軽く挑発したら食いついてきた。

 

「いいだろう。以前の借りをここで返させてもらう」

 

というわけで、学校に着くまでの間で三人での歴史クイズ対決を行うことになった。

 

「それじゃあ僕から。三好長慶の死後に実権を握った三好三人衆と言えば?そうだな…丁度三人だし一人ずつ言っていこうか。風太郎からどうぞ」

「お…おう。んー…三好政康だ!」

「正解…じゃあ私は三好長逸」

「やるねぇ。最後に岩成友通と」

「は…?三好じゃねえだろ!」

 

誰もがツッコミを入れるところである。

 

「合ってるのだからしょうがない…じゃあ次は私…カズヨシの三人衆問題にあやかって、美濃三人衆といえば?これも一人ずつ回答…」

「いいとこつくねぇ」

「なんだよ、美濃三人衆って…」

「お?風太郎ギブアップ?」

「誰がだ!そうだな……稲葉一鉄はどうだ!」

「正解。何だかんだで風太郎正解してくるね。じゃあ…安藤守就」

「さすがカズヨシ…最後に氏家卜全」

「他の二人は全く知らんぞ…」

 

そんな感じでクイズ対決をしているとあっという間に学校に着いてしまった。

 

「いやー、さすが三玖だね」

「結局、今日も決着つかなかった…」

「くっそー…和義はおろか三玖にまで負けるとは…」

 

満足気な僕と三玖に対して悔しがっている風太郎。

元々歴史が好きだった三玖だけど、僕と話すようになってから更に歴史に関する知識量が増えたと思う。

風太郎の場合、授業や参考書に出る程度のものしか知らないから、そんな三玖に負けるのは仕方がないだろう。

 

「ちなみに。三玖の歴史の知識が凄いのもそうだけど、二乃はフランス語読めるよ」

「……は?」

「だから。二乃はフランス語読めるし、ある程度は話せるんじゃないかな…」

「なんでだよ」

「家庭教師を始めた当初から英語を教えながらフランス語教えてたから。フランス料理本見せたら興味持っちゃって。今でもたまにマンツーマンで教えてるよ」

「こいつら姉妹の偏った知識どうかしてるぞ」

C’est incroyable(セ アンクロワイヤーブル)…凄いよね」

 

そう。二乃のフランス語勉強はあれからも続けていたのだ。

うちに住むようになってからは、赤点回避に集中していたからそこまでしていなかったが、コツコツと続けている。

 

「む…二乃ばかりずるい。私もマンツーマンで勉強見てほしい」

「分かったよ」

「うん…!約束…」

 

僕の返事に大満足な三玖。その時。

 

「おい、あれって」

「うわぁ~、きれーい」

 

周りが騒がしくなってきた。

 

「ん?何だ?」

「たぶん、あの子だと思う…」

 

風太郎の疑問に三玖が指差しながら答えた。

三玖の指差した先には諏訪さんが優雅に歩いている姿があった。

僕が振り返ったことで向こうも気づいたようで小走りに近づいてきた。

 

「おはようございます直江先生!」

「おはよう諏訪さん。って、学校では先生の呼び方やめようか。妙に注目されるし」

「そうですね。では、先輩と呼ばせていただきますね。直江先輩も私に敬称付けなくてもいいですよ。桜、とお呼びください」

「…っ!」

「分かったよ。改めてよろしくね桜」

「~~っ、はいっ!」

「そうだ。彼の事も紹介しておくよ。彼は上杉風太郎。僕と同じで学年トップの成績で中野姉妹の家庭教師。そして、僕の唯一無二の親友だよ」

「お前は恥ずかしいことを平然と…」

「そうかなぁ」

「ふふっ、とても仲が良いというのは見ていて感じられます。(わたくし)諏訪桜と申します。この春よりこの旭高校にて勉学に励まさせていただきます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします」

「お…おう!和義から頭が良いって聞いている。俺もこいつの生徒でもあったからな。兄弟子みたいな感じで何かあれば相談すると良い」

「はい。その際にはどうぞよろしくお願いいたします」

 

風太郎とも打ち解けるなんてさすがだなぁ。

前を歩く二人に続いて歩いているとほんの少しだけ引っ張られている感触があった。

 

「ん?」

 

よく見ると三玖が誰にも見えないように僕の裾を軽く引っ張っている。

 

「どうしたの三玖?」

「ううん…そのもう少しこのままでも良いかな?」

「別にいいけど、歩きにくくない?」

「大丈夫…カズヨシの近くにいられるから」

「そっか…」

 

そこで三玖の歩幅に合わせるようにゆっくり歩くことにした。

 

「あっ…」

 

どうやら僕の行動に三玖は気づいたようだ。

 

「ありがとう…」

「何のことかな」

「ふふふ…」

 

何か不安な気持ちがあったのかもしれないが、今の笑顔を見れば大丈夫かなと思うのだった。

 

 




今回のお話で姉妹みんなのプレゼント内容が分かりました。
二乃については原作通りになってしまいましたが…

さて、今回で二乃が和義の頬にキスしたのですが、ここから少しずつ五つ子たちと零奈が攻めていくところを書けたらなと思ってます。

投稿が不定期になっていますが今後ともよろしくお願いいたします。

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