「直江、6秒1!」
「四葉さん、6秒9!」
現在体力測定の真っ只中だ。
「凄ぇー6秒台!しかも二人かよ…」
「鬼速ぇ…」
「てか、直江の速さおかしくないか?もうちょいで6秒切ってたぞ」
そして今最後の測定である50メートル走を行っている。
「はぁー…負けちゃいましたー」
「ふぅー…危なかった…」
四葉の希望で競争することになったのだが、久しぶりに本気で走ったなぁ。いつもは流す感じで走ってたけど、それじゃあ多分四葉には勝てないと思ったからね。
「おーい学級長!これ片づけておいてくれ。体育委員が休みみたいでな」
「「分かりました」」
体育教師に今日使った器具の片づけを頼まれた。
「さてと…」
「大変だねー学級長さん」
「手伝う」
「一花に三玖。ありがとう!」
「いや、三玖はめっちゃ疲れてんじゃん。あっちで風太郎と休んでなって」
そう言いながら、近くの階段に腰掛けはぁはぁ言っている風太郎を指差した。
「くっ…不毛だ…50メートルのタイムなんて計ってもなんの役にも立たないというのに…」
風太郎は文句を言いながら頭を垂れ下げている。
「まったく…だから普段から体力つけとけって言ってたのに…」
「まあ、それが上杉さんですよ」
「よし!じゃあ運んじゃおうか」
一花の号令で運ぶことになった。
「それじゃあ、僕がこのでかいやつ運ぶから細かいのを四葉と一花でお願い。よっと…」
結構重いな。
「大丈夫?」
「手伝いますよ?」
「大丈夫、大丈夫……て、え?」
「二人で運んだほうが早いだろ」
目の前に風太郎がおり、取手部分を無理やり奪ってきた。
「休んでなくていいの?」
「問題ない…」
無理しちゃって。
「男の子だねぇ」
「上杉さんかっこいいです!」
「うるせぇ」
「照れない照れない。それより今日の放課後あたりから始めないとだね」
「だな」
僕の言葉に風太郎は気づいてくれたが、一花と四葉は何のことを言ってるんだという顔をしている。
「お前ら、まさか忘れたとは言わせないぞ…」
「来週には全国模試があるでしょ」
「「ああ!」」
「こいつら本当に忘れていやがった」
「はは…ということは他の姉妹もかな。あ、でも五月とは塾で話したから認識してると思うよ」
「はぁ…先が思いやられるぜ」
風太郎はそう言いながらため息をつくのだった。
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その日の放課後、担任の先生に呼ばれて職員室に来ていた。前にもあったような気がするんだが…
「失礼します。三条先生何かご用でしょうか?」
「直江君、ごめんなさいね。あなたに渡したいものがあるんです。これなんだけど」
そして机の上にある書類の束を差し出した。
「何ですかこれ?」
「色々な大学からの…そうね所謂招待状ですかね。あなたを歓迎しますって書類です」
「これ全部ですか?」
「ええ。この間の論文が高評価だったようでして…」
そういえば、母さんが色々な大学からのスカウトがひっきりなしだって言ってたっけ。今のうちに自分の大学のことをアピールしたいのか…とはいえこの量か。
「と言うわけで、これはお渡ししておきますので今後の進路を決めるための材料にしてください」
「は…はい」
三条先生に紙袋に入れられた書類の束を渡される。
「直江君」
「はい?」
「この中から必ず選びなさいというわけではありません」
「…」
「あなたがしたいと思うものがあれば、それを優先して良いんです。私はそれを全力で応援します」
「先生……分かりました。ありがとうございます。では、失礼します」
「ええ。気をつけて帰ってくださいね」
そこで職員室を後にした。今日は放課後に図書室で勉強会だから少し急がないと。
そして図書室に向かおうとした時。
「こんにちは、直江先輩」
「あれ、桜じゃないか。まだ帰ってなかったんだ」
「はい。先生に分からないところを聞いていました。そちらの荷物は?」
「ああ、これ?大学の資料だよ。僕も受験生だからね」
そう言って紙袋からひとつの書類を出して桜に見せた。
「これは…海外の大学ですね。先輩は海外の大学に進学されるのですか?」
「うーん…どうだろう…」
「先輩の実力であれば十分かと思いますよ」
「まぁ、一つの選択肢として考えてみるよ」
「……失礼かと思いますが、先輩はあまり乗り気ではないように見えますね」
「あー…分かっちゃう?」
「はい」
「そっか…まあ、まだ少し時間があることだしもう少し考えてみるよ」
そう言いながら桜から書類を受け取り紙袋に戻した。
「あら?先輩は帰られないのですか?」
「ああ。これから図書室で勉強会なんだよ」
「勉強会…あのっ、
「ん?用事がないなら構わないよ」
「ありがとうございます」
というわけで桜と一緒に図書室に来たのだが。
「何か騒がしいな」
「ですね」
まあその騒がしいのは今から向かおうとしている場所なのだが。
「一桁だ!こいつらの家庭教師を続けたうえで全国模試一桁を取ってやるよ。そしてこいつらが足枷なんかじゃないって証明してやる」
「上杉さん!」
「……大きくでたね。無理に決まってる。それも五人を教えながらなんて」
「本当に大きくでたね、風太郎」
「…っ!和義」
「直江君か…」
「それで?何でこんな話になってるの?」
「なるほどね。これからの風太郎には五つ子たちに教えながらだと足枷にしかならないと…大丈夫でしよ。そもそもいまだに満点しか取ってないんだし。それに僕だっている」
「カズヨシ…」
「学校での試験と模試とでは大きく違う。だから今度の模試で全国二桁を取れなければ僕の言っていることを認めてもらおうと思っていたが…」
「なるほど、風太郎が全国一桁を取ると言い出したと…」
「そうだ!君からも無理に決まっていると言ってやってくれ」
「……ふっ…なら僕も一桁を目指そうかな」
「なっ!?」
「風太郎、今の君の実力見せてもらうよ。勝負といこうか」
「ほぉー…面白い。負けた時に泣くなよ?」
僕と風太郎はお互いにニヤリと笑いながら話すのだった。
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「なるほど。そんなことが…」
その日の夕食時に今日あった事を零奈に話した。
「まあ、兄さんは問題ないでしょう。風太郎さんも無理をするかもしれませんが案外いけるのではないでしょうか」
「零奈にそう言ってもらえると嬉しいね」
「それよりも気になった事がいくつかあります。まず一つですが…」
そう言って姉妹みんなを睨んでいるように見回している。
「勉強を疎かにしないよう伝えたはずですが?五月以外の四人は赤点だらけとはどういうことでしょうか?」
「「「「……」」」」
五月は、今回零奈の厚意で僕の隣でご飯を食べているが、それ以外の姉妹はまさに蛇に睨まれた蛙状態である。
零奈が言った通り、今回の勉強会で風太郎が用意した模試対策の問題を見事赤点だらけになっていたのだ。
「ま…まあまあ、得意科目については今まで通りだったんだし…」
「兄さんは甘すぎます!」
「は…はい」
「いいですね?今度の模試の成績によっては…分かってますね?」
「「「「はい~……」」」」
これが母親の力なのか。
「それともう一つ…兄さん、なぜ後輩の子と一緒に図書室に来たのですか?」
にっこりと笑いながらこちらを見ている零奈。絶対怒ってるよね。
「そうよ!あの時はそれどころじゃなかったから聞かなかったけど、何であの女と一緒だったのよ!」
「たまたま職員室前で会ったんだよ。それで勉強会の事を伝えたら付いてきたの」
「ふ~ん…」
三玖?その目信じてないね。
「それよりカズヨシ君は何で職員室に呼ばれたの?」
「ああ。年度末に僕の飛び級入学の話があったじゃない?」
「え…?まさか和義君にまたそのお話が?」
五月の言葉にみんな箸が止まった。
「ないない。あの話は僕の両親と中野さんでちゃんと終わらせてるから」
「じゃあ、何で飛び級入学のお話を?」
四葉の質問にみんな頷いている。
「ああ。その飛び級入学の話があった時に論文書いてたって話したよね?」
「ええ。母さんが本気でやれと言ったのでその通りにしたら大学から気に入られたと」
「そうそれ!その論文なんだけど、色々な大学で閲覧されてるみたいで、それを見た大学側からスカウト的なものが来てるらしくてさ。その書類を受け取りに行ってたんだよ」
「なるほど。和義君なら引く手あまたですよね」
「それで?やはり全国から来ているのですか、招待は?」
「あー…そうだね…」
零奈からの質問に答えたのだが曖昧過ぎたかもしれない。
「ふむ…その反応…それだけじゃないと見た」
一花は察しが良いなあ。
「それだけじゃないって…まさかっ…」
「はぁー…一花は察し良すぎるよ。後、二乃の想像通りかもね」
「んー?どういう事でしょうか?」
「全国だけじゃない。つまり日本だけじゃない…」
四葉の疑問に三玖が答える。
「えー!?それって直江さんが海外に行っちゃうってことですか!?」
「四葉。行儀が悪いですよ」
急に立ち上がった四葉を零奈が注意し、『ごめんなさい』とすぐに座った。
「ははは。別に招待を受けたからって行くとは限らないよ。今日貰った書類、良かったらみんなも見てみなよ」
そして夕食後に紙袋ごと五つ子に渡したのだった。
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~客間~
客間には今五つ子と零奈の六人が集まっている。
先ほど和義から渡された書類をみんなで見ているのだ。
「アメリカにイギリス、それにドイツもありますね」
「もちろん日本の大学もありますね。ほとんどが東京ですが…」
「「「「「……」」」」」
零奈の言葉に言葉が出ない五つ子。卒業後の事なのだから自分たちに引き留める権利は無いことは十分理解している。しかし、その現実が重くのし掛かっている。
「まさか海外とはねぇ…」
「卒業後はみんなバラバラになることは分かってた。けど海外は遠すぎるわ!」
「国内だったら休みの日に会いに行くこともできた。けど海外なら話は別…」
「ほらみんな!直江さんだって言ってたじゃん。招待受けたからって海外に行くとは限らないよ?」
「それはそうなのですが…選択肢もあると分かると、行ってしまうのでは、と考えてしまうのです…」
「うーー…」
自分に言い聞かせるために言った四葉であったが、五月の言葉でそちらの考えも出てきてしまった。
「そういえばカズヨシ君って将来何になりたいとか考えてるのかなぁ?」
一花の言葉に全員が零奈を見た。
「何ですか?みんなで私を見て」
「いやー、何だかんだでやっぱりお母さんが一番直江さんの近くにいるわけだし」
「何か知ってる?」
三玖の言葉でまた零奈に注目が集まった。
「言っておきますが私も知りません。あの人は私の本当に知りたいことを表に出しませんから…」
そう伝えた後、悲しげな表情で零奈は下を向いてしまった。
「あーもう!うじうじこんなところで考えててもしょうがないわ!」
そう言って勢い良く立ち上がる二乃。
「そもそもまだ付き合うことすら出来てないじゃない!あいつの口から好きだって言わせてやるんだから!その先の事はその時考えればいいしね」
「待って…!カズヨシに好きって言ってもらうのは私。二乃じゃない」
「あら言うじゃない」
バチバチと睨みあう二乃と三玖。
「二人とも落ち着きなさい」
「そ、そうだよ!二人ともお母さんの言う通り落ち着いて!」
零奈の言葉に反応するかのように四葉が二人の間に入る。
「和義さんは私を選ぶのですから、二人が争っても意味ないでしょう」
「お母さん!?」
「へぇ~…」
「聞き捨てならない…」
「はわわわ…」
先ほどの睨みあいに零奈も加わり、その近くで四葉はあわあわしていた。
「あはは…凄いことに…ん?五月ちゃんどうしたの?」
「え?」
「いや、神妙な顔で書類を見てたから」
「……私も和義君の事が好きです。もちろん他の姉妹やお母さんに負けるつもりはありません」
「わお!」
「ふ~ん…」
「むっ…」
「五月っ!?」
「……」
五月の言葉に一花と四葉は驚き、二乃と三玖は聞き捨てならないといった顔を、そして零奈は目を瞑り五月の言葉を聞いている。
「しかし、その想いが和義君の将来を潰しているのではないかと思ってしまって…私は教師になることを目標に、今では塾でのお手伝いをしながら頑張っています。その事を近くで応援してくれる和義君には感謝しかありません…しかし、そんな和義君に何も返せていない、とつい思ってしまったのです」
「五月ちゃん…」
(五月ちゃん、君はそこまで……でも私だって負けてられない…!カズヨシ君自身に背中を押されたんだ)
「ならば今度の全国模試、少しでも返せる場ではないのですか?」
そこで目を開いた零奈が言葉を発した。
「まさか今回の模試でも和義さんと風太郎さんにおんぶにだっこでいるつもりですか?」
「そんなことっ…!」
「ですよね。結果楽しみにしていますよ」
「「「「「はい!」」」」」
「良い返事です」
五つ子の返事に満足した零奈は笑顔でいた。
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夜のベットの上で寝転がりながら、五月から聞いた図書室でのやり取りを思い出していた。
『だが去年の夏までは…あるいはこの仕事を受けていなかったら…俺は凡人にもなれていなかっただろうよ。教科書を最初から最後まで覚えただけで俺は知った気になってた。知らなかったんだ、世の中にこんな馬鹿共がいるってことを。俺が馬鹿だったってことも』
やっぱり五つ子達と出会ってから風太郎は変わってきている。
かく言う僕もそうだ。
『こいつらが望む限り俺は付き合う』
給料に関係なく五つ子達に付き合うと宣言した風太郎。
「本当に最初の頃に比べれば天と地だよ...」
僕もそろそろ気持ちの整理をしなくてはならない、か...
それにはまず全国模試だ。校内だけではないのであれば多分あいつらとも久しぶりに勝負ができるね...
「ふふっ、血がたぎってきた。風太郎、悪いけど手加減はしないからね」
天井に向けて腕を伸ばしてそう自分に宣言した。
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次の日の朝。教室には風太郎と一花の姿がまだなかった。
「上杉のやつ遅いな」
「何やってるんだろ?あいつに限って遅刻はないだろうから体調でも崩したかな?」
全国模試に向けてかなり無理しているようだったしなぁ。
「おい!それよりも一花さんの事聞いたか?」
「ああ、本人にね...」
前田が興奮して話しているのは一花がとある映画に出演していて、その試写会に参加していたことが大々的にテレビで放映されたことだ。
今までは自分が女優をしていることを周りに話していなかったが、この事で周りに知られることになった。
今クラスではその話でひっきりなしだ。
その時。
ガラッ
風太郎と一花がギリギリに登校してきた。あいつら一緒だったのか。
「一花さん、朝のニュース見たよ!」
「女優ってマジー!?」
「びっくりした!」
「同じクラスにこんなスターがいるなんて!」
「ずっとこの話題で持ちきりだよ」
クラスのみんなは一花の到着を待っていたようだ。
「そんなにでかい映画だったのか...」
「ま、まあね...」
「...どうでもいいけど。オーディション受けて良かったな。もう立派な嘘つきだ」
そう言いながら風太郎は一花から離れ自分の席まで来た。
「おはよう風太郎。一花と一緒だったんだ?」
「おう。ったく、あいついきなり授業をサボろうとか言いだしたんだぞ。困ったもんだ...」
うーん...一花なりに攻めたんだろうけど風太郎には効果がなかったか...
頑張れ一花。
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今日も放課後の図書室で勉強会だ。ちょっとトイレに行ってから図書室に向かう事になったから少し遅れている。
図書室に向かう途中の廊下で三玖の姿を見かけた。
「あれ?三玖まだこんなところにいたの?」
「あ、ごめん私...」
「う~ん?ごめん、三玖じゃなかったか...」
「えっ...」
違和感に気づいた僕はじっと三玖(?)を見つめた。あまりに見すぎたからか照れている。
「う~ん...あっ、そのブレスレット...ごめん一花だったか」
「あ...」
一花は自分のブレスレットに手を添えた。
「ごめんね、まだすぐに判断が出来なかったよ」
「ううん。三玖じゃないって分かっただけでも十分だよ。さすがだねカズヨシ君」
「そう言ってもらえると助かるかな...てか、何で三玖の恰好なんてしてるの?」
「あー...クラスの子たちから逃げるためにね。こうしないと勉強会に遅れそうだったから」
「なるほど。人気者は辛いですなぁ」
「もうからかわないでよ!」
「あははは、じゃあ図書室に行こうか」
「うん...」
三玖の恰好をしたままの一花がすっと僕の横に並んできたのでそのまま図書室に向かう事にした。
「そういえば、朝風太郎をサボりに誘おうとしたんだって?」
「まぁね。あっけなく失敗したけど」
「風太郎だしね...」
「......ねえ。カズヨシ君だったら誘いに乗ってくれた?」
「そうだねぇ...とりあえず理由を聞くかな。一花がサボりたいってよっぽどの事じゃないかって考えるよ。それで理由によっては付き合うかもね」
「そっか...」
「こんな答えしかだせなくてごめんね」
「ううん。満足だよ」
そう言いながら笑顔を向けてくれた。
「ふーん」
「え、何?」
「いや...やっぱり五つ子といっても笑顔が違うなって思ってさ。なるほどそこで見分けることもできるのか。今後の参考にしようかな」
「あ......まったく。本当に君ってばたらしだよね」
「ん?何か言った?」
「なんでもないよ!それじゃあ、今日もよろしくお願いします、先生!」
そう言って先に図書室の扉を開いて、一花は中に入っていった。
全国模試がいよいよスタートです!
この作品では風太郎が二年生最後の試験で満点を取っていますので、武田とのやり取りをどうしようか考えたのですが、このままでは模試では良い結果が出せないという感じにしました。
無理やり感がハンパないですが暖かい目で読んでいただければ幸いです。
さて、模試以外にも和義の卒業後の進路を取り入れ五つ子たちを焚き付けてみました。
実際に和義がどういう進路を選ぶのかは今後のお楽しみということで。
※ここから原作ネタバレしちゃいます。すみません。
原作ではこのあたりで一花が行動を起こすのですが(ネット上では闇落ちなんてのも言われてますね…)、そもそもまだ一花自身の気持ちが固まっていないのと三玖が好きな和義には変装が通じない事を鑑みて無しにしました。
ただ、こうなってくるとこの後の修学旅行はもうオリジナルでいくしかないですね…
今後もどうぞよろしくお願いいたします。