「先輩、ここなのですが…」
「どれどれ…ああ、ここは…」
一花が三玖の変装をしてクラスメイトを撒いた次の日の放課後。今日は塾のバイトが入っていたため桜の勉強を見ている。
ちなみに、五月と零奈も塾に来ている。
『兄さん?仕事ですから仕方がないですが、必要以上に仲良くしないように』
『そうです!分かっていますか?和義君』
塾に着いた途端二人から念を押された。
もちろん二人から言われたからではないが、彼女は真剣に勉強をしているので勉強以外の話は今のところ行っていない。
「うん。ちょうどキリも良いし今日はここまでにしようか」
「はい!ふふっ、先輩と勉強を行っていると時間が経つのが早く感じてしまいます」
「そう言ってもらえると嬉しいよ」
「先輩はご自身の勉強出来ているのですか?」
「ああ。今度の模試では負けられない相手がいるからね。少しでも油断すると返り討ちにあっちゃうよ」
「上杉先輩はそこまでの方なのですね」
「ああ。あいつは努力の天才だからね」
「先輩にそこまで言ってもらえるとは、上杉先輩に妬いてしまいます」
「ははは、桜も自慢の生徒だよ」
そう言って頭をポンポンと撫でてあげると嬉しそうな顔をしている。
「それじゃあ、また次回もよろしく」
「はい!またご指導の程よろしくお願いいたします。では失礼いたします」
お辞儀をしながらそう言うと教室から桜は出ていった。
しかし、彼女くらいの実力であればわざわざ塾に通うこともないと思うけど。学校でも積極的に先生に質問してるみたいだし。
まあそれを言えば、零奈こそ通う必要ないんだけどね。
そんな考えをしていると。
タタタタッ...
物凄い勢いで足音が近づいてきている。
「兄さん!」「和義君!」
「何だ二人か。どうした?」
帰る準備をしながら教室に入ってきた二人に声をかけた。
「あれ?諏訪さんは?」
「とっくに帰ったよ」
五月の問いに当たり前のように答えた。
「そうですか。杞憂だったようですね」
「まったく...二人はちゃんと授業受けてきたんだろうね?特に五月」
「もちろんです。ノートもちゃんと書いてますし。あ、帰ったら教えてほしい場所もメモ取ってます」
「ならよし!それじゃあ、下田さんのところに寄って帰ろうか」
「「はい!」」
二人の返事を聞いて、下田さんのところに寄り今日は家に帰ることにした。
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夕飯も終えてみんなそれぞれゆっくりしている頃、一花がソファーでいつものようにだらけていた。
ただ何かを考えているようではある。
「どうしたの一花?何か悩み事?」
「ん~~...今度の日曜日のフータロー君の誕生日なんだけどさ。こんな時にお祝いなんかしてていいのかなって考えてるんだよねぇ」
「ふ~む...」
「今日の勉強会でもくたくたな姿だったからねぇ。目の下には大きな隈なんか作ってさ」
「まったく...体調管理もしっかりとするよう伝えているんだけどね」
一花の前に紅茶を置いて風太郎に対する愚痴を言う。
「相変わらず気が利くねぇ...うん美味しいよ」
「ありがと。しかし風太郎の誕生日ねぇ...あいつもどうせ自分の誕生日の事忘れてると思うよ。何と言っても頭の中は今度の全国模試のことしかないと思うしね」
その時お風呂から上がった四葉がリビングに入ってきた。
「ふぃ~いい湯だったー...って直江さん!?いらっしゃったんですか!?」
「何に驚いてるの?」
「い...いえ。お風呂から上がったばかりでもありましたので...」
恥ずかしがってもじもじしている四葉。何だ?
「ふふふ、四葉も女の子だね。お風呂上りの姿を見せるのが恥ずかしかったみたいだね」
「一花っ!」
「なるほど。ごめんね気が利かず」
「別にいいですよ。私だって迂闊でしたし...」
そう言いながら僕の横に四葉は座った。
「四葉も紅茶飲む?」
「では、いただきます」
四葉の答えに応じるため紅茶を用意して四葉の前に置いた。
「ふぅ...美味しいです。それで、二人で何話していたんですか?」
「ああ、風太郎の誕生日プレゼントを当日渡すのはどうなんだろうって話してたんだ」
「今のフータロー君は模試の勉強でそれどころではないようだしね」
「なるほど...」
「それで模試前に渡すのは勉強の妨げになっちゃうから、この模試をフータロー君が無事乗り越えたらみんなで渡すのはどうかな?」
「うん!いいと思うよ!」
一花の案に四葉は賛成した。まあそれが妥当ではあるよね。
「ただ、当日何もないのもなぁ...」
四葉が何かないかなと思考に入った。
そうだなぁ、風太郎の勉強の妨げにならず、かつ風太郎の士気が高まる事がいいよね。
「そうだ!こんなのはどうかな?......」
僕が思いついた案を言ってみた。
「へぇ~良いんじゃないかな」
「ですね!更にこんなのもどうでしょう?……」
僕の案に四葉が付け加えた。
「さすが四葉。よく思い付くね」
「うんうん。四葉ならではだね。さて、お姉さんも本気出しますか!」
「よーし頑張ろう!」
後は他の姉妹にもお願いをしてみよう。風太郎のやつ驚くだろうなぁ。
ちょっとワクワクしながら準備に取りかかるのだった。
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~図書室~
4月15日。図書室で一人黙々と勉強をする者がいた。上杉風太郎である。
今日は三条先生の厚意もあり休日にも関わらず開けてくれたのだ。
五つ子たちへ勉強も教え終わり、今は時間的には夜と言ってもおかしくない時間である。
(本当はうちや和義の家でやれればいいんだが、うちだとらいはがうるさいし、和義の家は和義がもう止めろとうるさいからな。いけるところまでここで頑張るしかねぇ…だが……)
今までの無理がたたったのか、うつらうつらと風太郎は舟を漕いでいる。
「まだ帰ってなかったのですね。こんな時間まで自習だなんて。ご苦労様です。差し入れです」
ちょうどその時、五月が眠気覚ましのドリンクを机に置きながら風太郎に話しかけた。
「五月…何言ってんだ、苦労なんてしてねぇ。俺を誰だと思ってる」
そう言いながら、風太郎は五月からの差し入れを早速飲んでいる。
「ふふっ、和義君が心配していましたよ。上杉君が自身の体調管理が出来ていないのではと」
「くっ…ここで和義を出すのは卑怯だぞ!」
ダンッと飲み終わったビンを机に置きながら、風太郎は五月に抗議した。
「まったく…そう認識しているのであれば、もう帰られたらどうですか?」
「いや、もう少しだけやっていく!」
「はぁー…相変わらず強情ですね……上杉君もご存知の通り私は今塾講師をされている下田さんという方のもとでお手伝いをしながら更なる学力向上を目指しています」
「ああ。お前の学力が上がっているのは俺にも感じられている。俺じゃあ力不足だったな…」
「拗ねないでください。そうではありませんよ。模試の先、卒業の更に先の教師になるという夢のため、教育の現場を見ておきたいのです」
「……」
風太郎は五月の言葉を黙って聞いているが口角は上がっていた。
「まったく…やることなすこと本当に予測不可能だ。あの旅行の時のあいつといい…」
「ん?何か言いましたか?…っ!」
風太郎の最後の言葉が聞こえなかった五月は、確認しようと声をかけたが風太郎は目を開けたまま机に突っ伏して寝てしまっていた。
「まったく…和義君の予想通り、かなり無理をしているようですね」
五月はにっこりと笑い、机にあるものを置いて図書室から出ていくのであった。
ブブブ…ブブブ…
しばらくすると風太郎の携帯に着信が入り、そこで風太郎は起きた。
「ん…いつの間に…あ」
着信の確認をすると、らいはからのメッセージで、
『お兄ちゃんいつ帰ってくるの?お誕生日会の準備してまってるよ』
の文字とらいはと勇也が誕生日ケーキをバックに写った写真が添付されていた。
「そういや今日だったな。帰るか…っ!」
風太郎は起き上がり帰る支度をしようと机の上を見ると、五羽の折り鶴が置いてあるのを見つけた。
「五羽…鶴…?それに…何だ?何の紙を使ってるんだ?」
よく目を凝らすと透けたところが回答用紙のように見えた風太郎は、折り鶴を全て崩し元の状態に戻していった。
「これは…!」
折り鶴に使っていた紙は五つ子たちのそれぞれの回答用紙であった。そこに書かれた点数は皆元の点数かそれ以上の点数である。
「この問題…おそらく和義が作ったのだろう。しかし、回答を見る限りだと以前俺が出した問題よりもレベルが上がっている。それでこの点数…」
それぞれの回答用紙を見ている風太郎は、五つ子たちがそれぞれ頑張っている姿を想像することができた。
「やってくれるぜ…俺は一人じゃない、か。あいつらも頑張ってる。負けられねぇ」
そこで風太郎の闘志に火が点いたのは言うまでもない。
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ーーー時は少し戻り
校門前でバイクに跨がり待っていると待ち人が現れた。
「五月!」
「え?和義君。どうしたの?」
校門から僕の方に小走りで近づきながら五月は疑問を僕に投げかけてきた。
「頼んどいてなんだけど、辺りも暗いからね。迎えに来たんだよ」
「そっか。ありがとう」
「いえいえ。どう?あれは風太郎にうまく渡せた?」
「大丈夫じゃないかな。上杉君、私と話してる最中に寝ちゃったから、脇に置いてきたよ。きっと起きたときに気づくと思う」
「寝ちゃったの!?まったく、やっぱり無理してるじゃん」
僕は頭を抱えながらため息もついた。
「でもきっと、自分のことを証明することと、なによりも和義君に勝つこと。今はその二つのために頑張ってるんだよ」
五月は優しい顔でそう答えた。
風太郎に対してそんな顔をするようになるなんてね。昔の五月だったら想像出来なかっただろうね。そう考えると少し可笑しくなってきた。
「な、何で笑ってるの?」
「いや、風太郎の話をしている今の五月の顔があまりにも優しい顔だったから…昔の五月はこんな事になるとは想像出来ないだろうなって思ってね」
「そんな顔してた?」
「うん。僕の好きな顔だったよ」
「えっ……!」
「おっと。じゃあそろそろ帰ろうか?はい、ヘルメット」
ヘルメットを受け取った五月はその場でじっとしている。
「どうしたの?早く後ろに乗りな」
「あ…あの…まだ少しくらい時間あるよね?」
「は?」
「だから…少しでもいいから、今からドライブとか…ダメ?」
上目遣いでそう言ってくる五月。まったく、困ったお嬢さんだよ。
「本当に少しだけだよ?あんまり遅くなると、零奈や二乃がうるさいだろうし」
「うん!」
僕の返事に満足した五月は後ろの座席に座り、僕に抱きついてきた。
「だからくっつきすぎだって!」
「い…いいじゃんこれくらい!…うん、やっぱり和義君の背中は安心するね」
そう言って頭も僕の背中に預けてきた。
もう何を言っても無駄だろう。そう結論付けてバイクを出発させるのであった。
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試験日当日。今日は零奈の手伝いで弁当を作っていた。
「あの子たちは中々起きてきませんね」
「まあまだ余裕はあるからもう少ししても起きてこなかったら、起こしに行ってあげて」
「分かりました」
そんな話をしているとリビングに五つ子たちが入ってきた。入ってきたのだが…
「おはようみんな……目の下の隈凄いけど徹夜?」
「ええ…やはり心配になりましたので…」
「まったく…とても人前に出すような顔ではありませんよ。良いのですか?兄さんにそのような顔を見せて」
「「「「「~~~…!顔洗ってきます!」」」」」
零奈の言葉に対して全員が洗面所に向かった。その辺は女の子である。
登校すると皆自席で最後の復習をしている。しかし…
「おい、風太郎。お前その顔大丈夫か?」
「何がだ?」
「何がって…今にもぶっ倒れそうな顔だよ?」
「問題ない。それに、俺にはお前たち六人がついているからな」
「へぇ~…」
「はーい、試験始めますよー」
そこで三条先生が入ってきたので話は終わった。
「机の中を空にして着席してください」
そしてクラスメイトが指示に従いそれぞれの席に着く。
「では今から問題用紙を配りますが、合図があるまでは裏返しにしてお待ちください…………では、全国統一模試を開始します!」
先生の合図で一斉に問題用紙を表に返す音が鳴る。
さあ、勝負といきましょーか!
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一限目の模試が終わった。
「フータロー君、顔色悪くない?」
「き…気にすんな…」
僕の前で一花が風太郎を心配している。本当に大丈夫なのだろうか…
「和義君はどうでしたか?」
「ん?まあいつも通りかな」
「ふーん…余裕って感じね」
「そうでもないさ。模試なだけあって難しいよ」
「一桁いけそう…?」
「まだ一科目目だし何とも言えないけど、自分の力を信じてやるだけだよ。皆もね?」
「もちろん」「ええ」「うん…!」「はい!」
姉妹四人は元気良く返事をしている。これなら大丈夫だろう。
が、一番後ろの四葉は今にも頭から煙が出そうな顔をして固まっている。あっちも大丈夫か?
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午前中の模試が終わりようやく昼休み到来である。
「あ~っ、やっとお昼だよぉ!」
「残り二科目だよ。頑張ろうね」
「消費したエネルギーをしっかり補充しましょう!」
そう言うや否や、五月は早速弁当を広げ食べ始めている。
本当に美味しそうに食べる娘だ。
「フータローは大丈夫かな…頭垂れてたけど…」
「あいつの事は信じるしかないでしょ」
「あれ?その上杉さんはどこ?」
「うーん…それが…トイレに行ったきり戻って来ないんだよねぇ…」
「後で様子を見に行ってみるよ」
「ありがとね、カズヨシ君」
心配そうにしている一花にそう答えながら僕も自分の弁当を食べ始めた。
あいつは寝不足だけじゃないのか?
「それにしても、武田君の上杉君に対する対抗心は異常ですね…」
「カズヨシ君にはそういうのないの?」
「それがないんだよね。何でだろ?」
「きっとカズ君のことを恐れてるのよ」
「二乃のカズ君呼び、いまだに慣れないなぁ」
「あはは…」
四葉の言葉に姉妹皆が頷いている。かくいう僕もまだ慣れず乾いた笑いが漏れる。
「いいでしょ?特別って感じがして」
「「むっ…」」
他の娘を煽らないでほしいんだけど。
これ以上ここにいるのは危険と判断して風太郎の所に向かうことにした。
「それじゃあ風太郎の様子を見てくるよ」
「逃げたね?」
聞こえないね。
一花のそんな言葉に聞こえないフリをして席を離れたのだった。
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あいつはまだトイレにいるのだろうか?
そんな思いで来てみると、トイレから武田の声が聞こえてきた。
「ははは!何を今更!当たり前さ。僕らは永遠のライバルなのだからね!」
そしてスッキリしたような顔の武田がトイレから出てきた。
「おや、直江君か。上杉君ならまだ籠っているよ」
「そっか…寝不足以外も何かあったのかな…」
「ふっ…どうだろうね。それより、君の調子はどうなんだい?」
「僕?僕はいつも通りだよ」
「それを聞いて安心した。父から君とはあまり関わらないよう言われたがそんなのはもうどうでも良い。僕は必ず君にも勝つ!」
ビシッと指をさしてそう宣言するとさっさと行ってしまった。
「な…何だったんだあれ?」
武田のあまりの勢いにただただポカンとしてしまった。
その後、しばらくするとヨロヨロと風太郎がトイレから出てきた。どうにもお腹の調子が悪いようだ。本番に弱いタイプだったっけ?
ちなみに、最後の科目の後半でとうとう風太郎は事切れてしまった。目の前で寝たときはビビったものだ。
先生も何度も起こしたが効果はなく、結局そのまま模試終了。
これに懲りたら体調管理をしっかりして勉強するんだね。
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~中野家所有の車内~
現在運転手の江端がマルオに先日行われた全国模試の結果を報告している。
「旦那様。先日行われた全国模試の結果が届きました」
「ご苦労」
マルオはタブレットを使い結果を確認している。
「お嬢様方は個人差はあれど、前年より大幅に成績を伸ばしております。特に五月様に関しましては大幅に成長をしております」
江端の言葉でマルオは五月の成績表のところで手を止めた。
(全科目五割以上の得点...それに理科については七割の得点。そして順位は...100,304位...)
他の姉妹も三~四割程の点数を取れているが一人だけ成績が群を抜いている。
「家庭教師という選択は結果的に大成功と言えるでしょう。勿論、お嬢様方の努力あってのことです」
江端の言葉にマルオはフッと口元が笑っている。
「武田様は全国九位の快挙でござます」
「......」
「そして、上杉様は...四位」
「おかしな答案だね四科目まではノーミスの満点。最後の科目の数問だけ白紙で提出とは」
「報告によれば突然気を失うように寝てしまったと。試験勉強で根を詰めすぎていたのかもしれません。しかし、もし全問解いていたとしたら...」
「さてね。そんなこと考えても仕方ないよ。それよりも...」
マルオはタブレットを進めていく。そして最後の順位のところには...
「全国一位...直江和義...」
「全く、あのお方には驚きを禁じ得ません。まさかここでも満点を取られるとは」
「全くだね...困ったものだ。だが、上杉君直江君。君たちのその覚悟...見事だ」
マルオは満足そうな顔で窓から空を見上げるのだった。
今回のお話で全国模試終了です。
相変わらず和義は凄いですね。満点で全国一位です。
そしてこのお話では五月の成績を大分良くしました。順位はこの点数ならこれくらいっていうのが分からなかったので適当です…とりあえず全体(原作での全体人数は250,762名)の4割くらいにしておきました。
さて、次回の投稿までまたお待ちいただければ何よりです。
いつも読んでいただきありがとうございます。