77.手作りパン
「おはよう風太郎」
「おう」
修学旅行当日。新幹線に乗っていくため駅に集合となっていたので、今駅には旭高校三年生が続々と集まっている。
「おい。さっき綾さんと零奈の姿を見たんだが、俺の見間違いか?」
「はぁぁ…見間違いじゃないよ。あの二人、今回も付いてくるつもりだよ」
「マジかよ!お前の家族の行動力半端ないな…」
本当にね。零奈はともかく母さんに常識は当てはめることが出来ないよね。
「ちーす」
「やあ、おはよう」
「おっす」
「おはよう。前田、武田」
「やべぇ。楽しみすぎてあまり眠れなかったぜ」
「小学校の遠足前のガキかっ!」
「何だとっ!コラ」
「良いじゃないか。楽しみだと思ったのは僕も同じだよ」
「だよねぇ。風太郎だって何回もしおり読み返してたんでしょ?」
「なぜ知っている!」
「いや、らいはちゃんに教えてもらったから」
気の合う仲間っていうのは良いものだ。クラスメイトとは今までも何度か話はしていたが、何て言うか友人とまではいかなかったからね。
「ああそうだ。例の件、風太郎からも承諾もらったから」
「おう!やべぇ、一花さんと行動することになるなんてな」
「おや?例の彼女は良いのかい?」
「それとこれとは別だ!憧れっていうか、そういうのだよ!」
「まあ、かなりの大所帯にはなるけどね…」
「何にせようるさくはなるだろうな…」
風太郎が文句を言いつつも口角が上がっているのを見逃さなかった。まったく、素直じゃないんだから。
「でさ。この事を一応三条先生に相談したんだけど、許可を貰う条件として先生も同行することになっちゃった…」
「マジかよっ!」
「良いんじゃないかな、あの先生なら。むしろその方が良かったのかもしれないね」
「は?何でだよ」
「前田君。君は、ここにいる直江君と一緒に京都を回りたいという女子がどれだけいると思っているんだい?」
「武田、君もね」
「ムカつくが確かに結構いるな」
あ、そこはムカついてたんだ。
「そこに中野さん達の班が僕たちに合流するとしよう。そうなると他の班も続々と合流して来るではないか」
「なるほどな。それで予防にもなるって事か」
「うむ」
「めんどくせぇ」
風太郎は心底面倒そうに発言している。まあそうだよね。
「抑止って意味で言えば他にも手はあるけどね」
「ああ、あの二人か…」
「「?」」
母さんと零奈の事だ。どうせ途中から合流してくるだろう。
去年の林間学校でも、男子には人気だったが零奈の目力で女子は近づいてこなかったからね。
そういった意味であれば来てもらって良かったのか?
何の事を言っているんだという前田と武田に説明しようとする時、集合の声がかかったのでまた新幹線の中で説明すればいっか。
ちなみに説明した時は、二人とも信じられないといった顔をしていた。当然である。
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~新幹線車内~
「はいフルハウス」
「ぐぬぬ…」
「負けた~」
中野姉妹は目的地まで仲良くトランプをしている。先ほどから一花の独擅場であり、それを二乃が悔しがっているようだ。四葉に至ってはもう諦めモードである。
「もう一回!もう一回勝負よ!」
「いつでも受けて立つよー」
負けず嫌いの二乃は再戦を申し出ている。そんな中、三玖はカードを持ったままうつらうつらと舟を漕いでいた。
「三玖。三玖。終わったよ」
「!あ、ツーペア」
「遅いし、弱い!」
四葉が起こした事で三玖は起きたが、二乃のツッコミの通り遅いし弱い役である。
「眠そうだね。今朝早起きしてどこかに行ってたみたいだけど」
「うん。バイト先に無理言って朝から厨房貸してもらってた」
「え?じゃあ…とうとう出来上がったんだね」
「うん…!」
三玖は以前より和義に美味しいと言ってもらえるパンを自身で作っていた。その試作品を四葉に時には試食してもらっていたのだ。ほとんどが試食以前の問題ではあったのだが…
そのパンが今朝ようやく完成したようで、それをこの修学旅行に持参したみたいである。
「でも、一緒に行動できないと食べさせる機会がない…」
「あ、そうだった!その事で、皆に伝えなきゃいけないことがあったんだ」
「何です?」
「さっき点呼の時に直江さんと話したんだけど、直江さんの班と私達の班が合流するのを三条先生が了承したみたいだよ」
「「それ本当四葉!?」」
「う…うん…」
二乃と三玖が真っ先に反応した。
三玖に至っては一気に目が覚める案件である。
「さっすがカズヨシ君。先生からも信頼されてるねぇ。人望の成せる技だ」
「ただ…」
「ただ、何よ?」
「三条先生も同行が条件なんだって…」
「「「「……」」」」
四葉の言葉に姉妹全員が黙ってしまった。
「それは…致し方ないことかと思います。私達以外にも、恐らく和義君の班と一緒に回りたい班はいると思いますし」
「だねぇ~。ここで私達が合流なんてしたら他の班も黙ってないよ」
「むー…カズ君と回れるならやむを得ない犠牲ね」
「先生以外にもどうせ合流者がいるしね…」
「確かに…ってことは、私達五人にカズ君ところの四人。後、先生にお母さん(お義母さん)が二人…」
「二乃…綾さんの事をお義母さん呼び崩さないんだ…」
「良いでしょ!綾さんが良いって言ってるんだから。ちゃんと場所は弁えるわよ」
一花のツッコミに二乃は平然と答えている。
「それで、何人だったっけ?」
「12人ですね」
「凄い大所帯…」
「だねぇ~。でも、みんな一緒だから楽しい旅行になりそうだね!」
「そうだね。先生もまだ若いんだしそこまで固くならないでしょ。楽しんだもの勝ちだよ」
一花の言葉に姉妹皆同意の気持ちを込めて笑顔で頷いている。
(フータロー君とカズヨシ君。二人への気持ちはまだ固まってないけど、この旅行をきっかけに何か変化があるかもしれない。頑張ってみよう)
(カズ君と二人っきりになれないのは残念だけど、まだチャンスはあるわよね!絶対にこの旅行で距離を縮めてみせるわ!)
(カズヨシと京都の町を観光…このパンを食べてもらうのもそうだけど、やっぱり一緒に回れるのは嬉しい…お城観光以来で楽しみ)
(せっかく直江さんが協力してくれたんだもん、風太郎君との楽しい思い出を絶対作ってみせる!)
(和義君との京都観光。諦めていたけどこうやって実現して本当に良かった!ふふっ、他の姉妹やお母さんには悪いけど、負けられないね)
メラメラ…メラメラ…
姉妹達全員それぞれの思いを持って静かに燃えている。
この時、中野姉妹の近くにいた他の生徒は、姉妹達の席から底知れない熱さを感じたと証言するのだった。
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「大きい荷物はこちらでホテルに送っておく。貴重品だけ持っていくように。諸注意は以上だ。では解散」
さて、最初から合流すると何かしら問題が起こりそうなので駅から出たところで合流することになっている。なので、とりあえずまずは移動だ。
「そういえば、彼女達はどこか行きたいところのリクエストはあるのかい?」
「いや、あの娘達は五つ子だけど好きなものとかそういうの違いすぎて纏められないんだよねぇ」
「だから俺たちに今回は任せるそうだ」
「へぇー、意外だな。そういうのは大体同じですぐに決まるとばかり思ってたぜ」
前田、僕も最初はそう思ってた時期があったよ。
そんな話をしながら駅を出た時だ。
「和義ー!」
進行方向から僕を呼ぶ声が聞こえた。聞き慣れた声で。
その声の主は足早に僕達に近づいてきた。
「もー、遅かったじゃない!」
「母さん…年齢を考えてください…」
「えー!?酷くない零奈ちゃん!」
「おい!誰だ?」
前田が至極当然の質問を投げかけてきた。初めて会ったらそういう感想持つよね普通は。
「ん?和義の母親と妹だ。新幹線の中で話しただろ」
「は!?だってどう見ても姉妹だろあれは!」
「確かに。冗談は良くないよ上杉君」
「いや、冗談じゃなくてだな…」
風太郎の言葉を信じない前田と武田。そりゃそうだ。
そんな会話をしている三人を置いて、僕の目の前ではいつもの家族の会話が行われていた。
「もう和義聞いてよぉ。零奈ちゃんってば酷いんだよ。年甲斐もなくはしゃぐんじゃないとか言うんだよ!」
「はいはい。年甲斐もなくはしゃぐんじゃないよ、母さん」
「「!…」」
「ほら兄さんも同じ意見じゃないですか」
「えー…和義まで酷いよぉ」
「お…おい…」
「まさか本当に…」
「ああ。僕の母さんと妹だよ」
「「はぁーー!?」」
駅前で前田と武田の叫び声が木霊した。
「改めまして、私が和義の母の綾って言います。綾さんって呼んでね。よろしく」
「直江和義の妹で、零奈と申します」
いつも通り明るく手を上げて自己紹介をする母さんと、頭を下げながら自己紹介をする零奈。本当に月と太陽のように両極端だ。
以前、下田さんが言っていた母さんと
本当に言い当て妙だと実感してしまう。
「前田君に武田君か。いつも和義と仲良くしてくれてありがとね」
「とんでもないっす!俺の方が良くしてもらってるって言うか…」
「そうですね。僕と上杉君、そして直江君はライバルですから。ね!」
母さん、もう馴染んでるなぁ。流石である。
零奈はというと、すでに僕の手を握っていつものポジションにいる。端から見たら甘えん坊の兄大好きな女の子に見えるよね。こういう使い方が上手い。上機嫌でニコニコしてるし。
そんな風に時間を過ごしていると後ろから声をかけられた。
「直江君。お待たせして申し訳ありません。て…その子は?」
「あ、三条先生。実は……」
中野姉妹を連れて合流した三条先生に移動をしながら説明した。
あそこにずっといると、色々な部分で注目されそうだったしね。
「な…なるほど。前例がない事ですね」
「すみません、ご面倒をおかけします」
「いいえ。しかし、修学旅行に付いてくるなんて、お母様はよっぽど直江君の事を好きなんですね」
「ははは…」
渇いた笑い声しか出ないよ。
「それにしても、零奈ちゃんでしたっけ?お兄ちゃんにベッタリですね。兄妹仲良くで良いことです」
「はい!私は兄さんが大好きですから」
「まぁ。良かったですね直江君」
「ははは…はい…」
本当に渇いた笑い声しか出ないよ。
零奈の機嫌がとても良いのは良いんだが、さっきから三つ程殺気に似たものを後ろから感じるのは気のせいだと思いたい。
「あはは…それにしても前田君と武田君。今回は私たちのわがままを聞いてくれてありがとう」
「とんでもないっす、一花さん。俺たちも皆さんと一緒で嬉しいっすよ」
「そうだね。こんなもの感謝される程でもないさ」
「上杉さんもありがとうございます!てっきり上杉さんは嫌がると思ってました」
「ふん…まあ何だ…俺以外の三人が認めたんだ。俺だけ反対する道理はないだろ…」
「ししし…そういうことにしておきます!」
四葉も楽しそうだし、まあ良しとしておこう。
その後僕達はある神社でお参りをすることになった。
「なんだここ…」
「学問の神様が祀られている神社さ。前田君、君の成績は見るに堪えないんだから深ーく祈りたまえ」
「…………」
「んだとコラァ!」
「お前らうるせー!」
僕の前で三人がやかましくもお参りをしている。お参りする態度じゃないなあれは。
「さ、君たちもしっかりお参りしなよ」
「なんか…地味ね…」
「こらこら」
二乃の言葉に一花がツッコミを入れた。
まあ普通はそう思うよね。
「私はしっかりとお参りしますよ和義君」
「私も…」
「当然です。貴方達はまだまだ良い成績とは言えませんからね」
「「「「「……」」」」」
母さんが遠くで先生の相手をしているからか、母親モードで娘達に説いている零奈。それに対してグゥーの音が出ない五つ子達はしっかりとお参りをしている。
まだまだ敵わないようだ。
さて、次の場所に向かいますか。
「わぁっ!これずっと鳥居なの!?」
僕達が今いるのは伏見稲荷大社の千本鳥居。さすがに壮観である。
「写真では見ていましたが、やはり実物は壮観ですね」
「映えるわ~」
四葉と五月、二乃が歓声をあげている。二乃に至っては写真を何枚も撮っているようだ。
「そうだ。鳥居をバックに姉妹の集合写真撮ってあげるよ。ほら零奈も」
「兄さん…」
笑顔の姉妹の中心に零奈が入ったのでそこで写真を撮ってあげた。
「こうやって姉妹で集合写真を撮るのも貴重だね」
「それこそ小学生の頃の修学旅行以来ですよ」
「しかもお母さんとなんて嬉しいことこの上ないわね」
母さんが気を使ってくれて、風太郎達と先生を連れて先に進んでいる。だから、今五つ子達は家族でゆっくり観光が出来ている。
皆楽しそうで良かった。
「それじゃあ次は私とカズ君で写真撮りましょ」
「違う私と…」
「いえ、ここは私からで」
「えー…」
「ねえねえ?ここはお姉さんとでも良いんだよ?」
「あ、あの…皆落ち着いて…ね?」
「そうですよ。ここは兄妹でまず撮るべきですよ」
「お母さん!?」
ごめんね四葉。面倒をかけるようなことになって。
結局じゃんけんで順番を決めて六回写真を撮ることになった。て、四葉もなのね。
その後、少し進んだところで風太郎達が待ってくれていたので合流することが出来た。
「たく、来るのが遅えぞ」
「悪い。写真撮ってたら遅くなった。風太郎の写真も撮ってあげようか?らいはちゃんへの土産話になると思うよ」
「む…」
「お、いいねぇ~。それっ!カズヨシ君、ほら撮って撮って」
「お、おい!」
そう言って一花が風太郎の腕を取ってお願いしてきた。
「はいよ。はい、チーズ………ほら、四葉も」
「は、はい!上杉さん、私もお願いします!」
「はぁ!?」
そう言って四葉にしては積極的に腕を掴んでいる。
「ふっ…ほら!風太郎笑って、ピース」
写真に収まった風太郎の顔は恥ずかしさの中に嬉しさが滲み出ている良い顔だ。らいはちゃんに良いお土産になったのかもしれないな。
この千本鳥居がある伏見稲荷大社には登山ルートがあるのだが、今回は頂上にあたる一ノ峰を目指すことになっている。
「はぁ…はぁ…け…結構長いわね」
「足が痛くなってきました…」
しかし、これは運動靴でない彼女達には辛いかもしれないな。
四葉だけは全然平気そうではあるが。
「先生は大丈夫ですか?」
「ええ。私は動きやすい靴を履いているので」
「母さんは?」
「ええ。私も大丈夫よ」
何気に体力あるよね母さんって。見た目だけではなくて体力も同年代よりあるかもしれないな。
男性陣は風太郎を含めて今のところまだ大丈夫そうだな。
「ふむ...四葉、零奈の事任せてもいいかな?」
「はい!任せてください!しかし、直江さんは...ああ、なるほど」
「そう言う事。四ツ辻にあるお店でお昼にしようと思ってるから先行ってて」
僕の意図を汲んで理解してくれた四葉に零奈を預けて、集団の一番後ろまで下って行った。
「はぁ...はぁ...も…もう…げ...限界かも...」
「ほら、もう少しで休憩に入るから頑張ろう三玖」
「え...?」
下を向いて立ち止まっている三玖の目の前に手を差し伸べながら声をかけた。
「手、貸してあげるから、ね?」
「う...うん...」
三玖が顔を上げて僕の手を握ったのを確認してから先導した。
「よし!じゃあ行こうか」
「ありがと...カズヨシ」
「このくらい問題ないさ。それより振り返ってみなよ」
「え...?」
僕の言葉に三玖は振り返った。
「あ...」
「ね?いい景色でしょ。今日は晴れてて良かったぁー」
もうすぐ到着する四ツ辻は展望としても有名な場所。でもここからも十分な眺めだ。
「この景色を見るだけでもここまで登ってきた甲斐があるってもんだよね」
「うん...そうだね」
ニッコリと笑って景色を三玖は見ている。
「うっし。三玖の元気も少しは戻ったみたいだし、そろそろ出発しようか」
「分かった」
「ちょっ...!?」
そう返事をした三玖は僕の手を取らず、腕に自分の腕を絡めてきたのだ。
「疲れてるからこっちの方が楽だよ」
「いや歩きにくいでしょ」
「大丈夫だよ。さ、行こう」
「はぁぁ...はいはい、お嬢様のお気に召すままに」
「ふふふ、うん...!」
三玖は二乃よりも頑なに意見を曲げないからなぁ。
「あ、そうだ。カズヨシに食べてもらいたくてパンを焼いてきたんだ」
「へぇ、パン作れるようになったんだ。て、まずったな...」
「え...どうしたの?」
「いや。お昼はこの先にあるお店でって事になってるから、皆はもうお店に入ってるかも」
「そ...そうなんだ...」
あからさまにガッカリしてるよねこれ。
「そのパンってその紙袋の中?」
「え...うん」
「それじゃあ今貰っても良いかな?」
「え…?いいの?」
「もちろん!」
三玖が紙袋を開けたので、そこからパンを取り出した。
「へぇー、クロワッサンかぁ。ではではいただきます。あむ……」
「………」
「うん。美味しいよ!三玖、料理の腕あげたね」
そう言いながら次のパンを取り出して口に運んだ。
「ほ…本当!?」
「……ああ。ここで嘘ついてどうすんのさ」
「だって…カズヨシって優しいから…」
「ありがと。本当に美味しいよ。良くできました」
そう言いながら絡ませていた腕をほどいて、その手で三玖の頭を撫でてあげた。
「…っ!」
「美味しさとは別に、三玖の努力も味わえた。頑張ったね」
「…うんっ」
そこで感極まってしまった三玖が、顔を両手で覆いながら泣いてしまった。
「私…頑張ったんだよ…」
「ちょっ…泣かなくても良いじゃん。まったく…三玖は出来る子だって分かってたから、パン屋でのバイトも心配してなかったよ」
「ずるい…」
「え?」
「ずるいよカズヨシは。今そんなこと言われると私…」
言葉を言い終わる前に、三玖が正面から抱きついてきた。
「ちょっと、三玖!?さすがにここでは…」
「やっぱり好き…大好き…!」
えーと、他の参拝者の方々に見られてるのですが…
三玖ってばいつの間にここまで度胸がついたのだろうか。
そんな風にこの状況をどうしようと考えていると、更にどうしようと思うような展開が待っていた。
「ちょっとぉ、いくらなんでも遅いわよ!て、はぁー!?」
「へぇー…」
「ほぉー…」
「あー…直江さん。そういうのは、時と場所を考えた方がいいと思いますよ…」
まさか四葉にそういうツッコミを入れられる日が来るなんてね。
五月と零奈に至っては、もう目が怖いんだが。
「ちょっと三玖!何やってんのよ!」
「別に…カズヨシに抱きついているだけ」
「あら、三玖も言うようになりましたね」
「二乃たちこそ、もう少し気を遣ってお店でゆっくりしてても良かったのに…」
「ふ…ふふ…ふふふふ…」
「い…五月。お…落ち着こ?ね?」
「何を言っているのですか四葉?私は落ち着いていますよ」
ニッコリと四葉に笑みを向ける五月。
「どこが!?」(どこがだよ!?)
見事に四葉のツッコミと僕の心の中のツッコミがシンクロした。
「ほ…ほら三玖。そろそろお店に行ってご飯を食べないと」
「もうちょっとだけ…スゥー…カズヨシの匂い…落ち着く…」
だぁーもう!肝が据わってますねぇ、このお嬢さんは!
僕はもう背中に変な汗がダラダラと流れてるんだけど!?
その後は、風太郎や先生達も待っていることもあり、なんとか宥めて皆が待つお店に入店した。
どうやら四人でのテーブル席を三つ取っていてくれたようだ。
また席取りで揉めそうだったので、僕は風太郎と一花に四葉と一緒の席で収まったのだった。
注文を終えた後、限界とばかりに僕はテーブルに突っ伏した。
「ヤバい…ここまでの登山道よりさっきのやり取りの方が疲れた…」
「何をやっているんだお前は」
「あはは…四葉から聞いたよ?まさかあの三玖がここまで行動に移すなんてね」
「本当だよ…」
体を起こしながら僕は答え、三玖が座っているテーブルに目を向ける。
三玖は今、二乃に五月それに零奈の四人でテーブルを囲んでいる。
あんなことがあったのに、皆楽しそうにお喋りをしているようだ。
「……君たち姉妹は本当に仲が良いね」
「どうしたんですか急に?」
「いや、本当に楽しそうに笑って話してる彼女達を見るとそう思えたんだよ」
「ふっ…確かに」
「まぁねぇ~」
「ししし…私たちの自慢ですから!」
屈託のない笑顔で四葉はそう答えるのだった。
いよいよ始まりました修学旅行。
とりあえず初日のメインは今回のお話で終わりにしたいと思います。
次回は、初日の残りと二日目に入らせていただきます。
今回のお話では、原作では最終日に風太郎に渡したパンを初日から和義が食べるシーンを書かせていただきました。
原作とアニメとであった、パンを食べた後の風太郎への三玖の告白。最終的には三玖は誤魔化しましたが、あのシーンは何度見ても素晴らしいですね。
では、また次回まで。今後ともよろしくお願いいたします。