五等分の奇跡   作:吉月和玖

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第10章 夏休み
84.新しい日常


「あはは、五月ちゃんこれは頬張りすぎだよ」

「うー…こんなところまで撮られていたなんて…」

 

休日の昼下がり。キリの良いところまで勉強したので、昼御飯の準備のためリビングまで降りてきた。

 

「なんだ、また見てたんだ」

 

そこには風太郎からプレゼントされたアルバムを楽しそうに見ていた一花と五月の姿があった。

 

「お、カズヨシ君。もう勉強は良いの?」

「もうお昼だからね。キリも良いからご飯の用意をしようと思ってさ」

「お昼ごはん!今日は何を作るんですか?」

「んー…今日は焼きそばでも作ろうかな…」

「焼きそば!いいですね!私もお手伝いします」

「ありがと。そういえば他の皆は?」

「二乃と三玖、それに四葉はバイトに行ったよ。二乃と三玖はほぼ一日だからお昼いらないんじゃない?四葉はそろそろ帰ってくると思うよ」

 

一花が話していると…

 

「ただいまー!」

「ほらね」

 

玄関から四葉の元気な声が聞こえてきた。そして、

 

「ただいま!」

「おかえり四葉。今からお昼作るから待っててね」

「おー、いいタイミングで帰ってこれました!あ、何かお手伝いしましょうか?」

「いや、今回は五月が手伝ってくれるから大丈夫だよ。心遣いありがとね」

「いえいえ、では着替えてきますね!」

 

そう言って四葉は客間に向かった。

 

「そういえば零奈は友達の家に行ったんだっけ?たしかお昼も食べてくるって言ってたような…」

「ええ。私もそう聞いてます」

「お母さんも小学生を謳歌してるねぇ」

 

一花がしみじみ言っているが、言葉の内容が凄い。

ちなみに母さんは今回は早めに父さんの所に戻っている。

 

「それじゃあ始めますか!五月よろしくね」

「はい!」

「今日は人も少ないからいつもより少なめに…」

 

少なめに作ろうかな、と言おうとしたところで五月と目が合った。

 

「いや、いつも通りでいっか」

「どうして私を見た後に訂正するのですかっ!」

「じゃあ、少なめで良いの?」

「……いつも通りでお願いします…」

「ふっ…了解!」

 

そして、いつもより少ない人数ではあるがそんな中でも楽しい昼食タイムであった。

ちなみに、いつも通りの量で作った焼きそばは見事完食。

五月の胃袋を甘く見ていたようだ。まあ、バイトの後でお腹すかせた四葉もいつも以上に食べていたのもあるのだが。

 

・・・・・

 

色々あった修学旅行から数日経ったが、五つ子達とは変わらず日々を過ごしている。

風太郎と四葉も最初はギクシャクした事もあったが、少しずつ元の状態に戻っている。

 

「だから!そこの綴りがおかしいと何度言えば分かるんだ!」

「う~…すみませーん!」

 

いつもの如く風太郎は四葉のリボンを上に引っ張りながらミスを指摘している。

 

「あの二人も相変わらずね」

「ギクシャクしているよりはマシでしょ」

「そうだね…ということで、カズヨシここ教えてほしい…」

 

そう言いながら隣の三玖がノートを持ってズイッと近づいてきた。

 

「三玖?そんなに近づかなくても良くないかな?」

「ちゃんと教えてほしいから問題ない」

「いやいや、ここまで近づかなくてもいいでしょ!てか、胸が当たってるって

嬉しい…?

 

ニヤリと笑いながら聞いてくる三玖。

確信犯か!

 

「何してんのよ三玖!」

「何って、勉強を教えてもらってる…」

「そこまで近づかなくてもいいでしょ」

 

向かいの二乃がすかさず反応した。

 

「あ、次は(わたくし)に教えてください。(わたくし)も分からない箇所がありますので」

 

そう言いながら三玖とは反対隣にいた桜が近づいてきた。

 

「あんたは何便乗しようとしてんのよ」

「しかし、本当に分からない箇所がありますので…」

 

さも当然のように言う桜。

本当にこの娘達は仲が良くなったものだ。

 

最近では、お昼も一緒に食べることも増えてきている。

 

「和義さん。このおかずは自信作なので食べてみてください。あーん…」

「桜?」

「あら?このようにすると男の方は喜ばれると聞いたのですが…」

「えっと…桜ちゃん。誰から聞いたのかな?」

「?クラスメイトの方々ですが」

 

一花の質問に桜は『間違ってますか?』という顔で答えた。

 

「あんたクラスメイトにカズ君の事言ったの?」

「いえ、そこまでは。和義さんにご迷惑をお掛けしたくはありませんので。ただ、最近柔らかくなって話しやすくなった、とクラスメイトの方々に言われまして。それで何かあったのかと聞かれましたので、愛する殿方が出来ました、と伝えたところ色々と教えていただきました」

 

桜が言っている通り、前よりも話しかけやすくなったのか、桜はクラスメイトとしっかりと交流が出来ているようだ。

別に嫌われているという事ではないのだが、あまりに凛とした佇まいに、礼儀正しい話し方であったために近寄りがたく、大袈裟に言えば神化扱いされていたのだ。

交流が増えることで成績が落ちるかとも思ったのだが、杞憂に終わった。落ちるどころか、益々学力向上している。

 

『和義さんの隣に並ぶ女性として恥ずかしくないようにいなくてはいけませんから』

 

と、以前桜が言っていた。

学力だけではなく、弓道や華道にもより一層力を入れているみたいで、たまに楓さんから、感心するくらいに頑張っているから誉めてあげてほしい、とお願いされるくらいだ。

その時に誉めてあげると凄い喜んでくれるのだが。

そんな訳で、放課後が忙しい事もありこうやって休み時間に皆と交流しようとしているのかもしれない。

 

「な…なるほどー…」

 

四葉は桜の言葉に納得して風太郎を見るが。

 

「言っとくが、俺はやらんぞ」

「ですよねぇ…」

 

風太郎の言葉にしゅんとなっている四葉。心なしかリボンも垂れ下がっているようだ。

 

「えー、いいじゃんこれくらいしてあげなよ。ほら、あーん…」

「むぐっ…」

 

問答無用に風太郎の口に、一花が自分の弁当からおかずを掴んで突っ込んだ。

 

「……ごくんっ。一花お前なっ」

「どう?美味しい?」

「……いきなりで味なんて分かんねぇよ」

「そっか…じゃあ…」

「じゃあ、私のをどうぞ!あーん…です」

「ぐっ…」

 

一花に負けじと自分のおかずを四葉は差し出した。

チラッと風太郎が僕を見るが、『諦めろ』という表情で返してやった。

 

「はぁぁ……あむ……」

あっ…ししし、どうですか?美味しいですか?」

「まぁ…和義が作った弁当だからな」

「ん?さっきのおかずは四葉の手作りだよ。今朝は頑張って手伝ってくれたんだよ。ね?四葉」

「はい…」

「そ…そうか…」

 

おー二人とも照れちゃって。しかし…

チラッと一花を見るが笑顔で二人を見ている。

いや、あれは笑顔を作ってると言った方が良いかもしれない。

と、一花の事を心配してると飛び火がこちらにきているのに気づかなかった。

 

「上杉先輩もされたのですから、はい…あーん…」

「いや…」

「何だ?和義はやってやらないのか?」

 

ここぞとばかりにニヤリと笑って風太郎が言ってくる。

こいつ…この後どうなるか分かってて言ってんな。

 

「あむ…」

「どうですか?」

「ああ。しっかり味が染みてて美味しいよ。さすがだね。弁当の盛り付けも綺麗だったしね」

「~~~っ…ありがとうございます!幸せな気持ちです。クラスメイトの方々に感謝の気持ちを伝えないとですね」

「お、大袈裟だなぁ」

 

僕の言葉にうっとりとしている桜。

 

「桜にやったんだから…」

「私たちも…」

「良いですよね?」

 

ニッコリと笑いながら聞いてくる、二乃と三玖と五月。

桜の行動を止めないと思ったら、やっぱりこれが狙いだったか。こういう時は本当に息ピッタリだよね、ホント。

結局、その後は順番に差し出されたおかずを食べることになるのだった。

 

------------------------------------------------

~教室~

 

「毎日あっついわねぇー」

「もう夏ですからね」

「もうすぐ夏休みだね!」

 

3年1組の教室では、五つ子と桜が集まって話していた。

二乃の暑い宣言に桜と四葉がそれぞれ答えている。

 

「やっほー!桜ちゃんまた来てたんだ」

「皆さん、こんにちは」

 

そこに、五つ子のクラスメイトの女子が近づいてきて、桜に声をかけてきた。

それに対して桜はお辞儀をして挨拶をしている。

クラスメイトが言っているように、修学旅行が終わってから、桜が3年1組の教室に来る頻度が増えているのだ。

増えた理由は和義の事もあるが、何より五つ子と仲良くなったのが大きな原因かもしれない。

 

「ほとんど毎日来てるし、しっかり通い妻できてるじゃん」

「そんな…妻だなんて…まだ、お付き合いも出来ていないのに良いのでしょうか…」

「「えっと…」」

 

一人のクラスメイトの発言に対して、両手で顔を覆い恥ずかしがっている桜。

そんな桜の反応にクラスメイトの女子二人は戸惑ってしまっている。

 

「はぁぁ…その娘に冗談は通じないわよ」

「そ...そうなんだ...」

 

その後二人は五つ子達から離れていった。

 

「まったく、少しは冗談にも慣れなさいよ」

「冗談...?」

「まずはそこから...」

「あはは、五月みたいだね」

「私ってこんな感じなんですか!?」

「自分ではわかんないよねぇ~」

「一花酷いです!」

 

五月の文句に他の姉妹は笑っている。

 

「ねぇ、夏といえばやっぱり…」

「海よね」「山だね」

 

二乃の言葉に対して、二乃と三玖の意見が割れた。

 

「は?信じられない。山なんていつでもいいじゃない」

「夏にしかできないことがある。それに騒がしいところは苦手」

「私たちは三年生なんですから、夏休みは受験勉強しかないでしょう…」

「うっ…考えたくもないわ」

(わたくし)も勉学に弓、それに華道と忙しいですね…」

 

五月の受験勉強宣言に二乃がげんなりし、桜も少し元気がないようだ。

そんな時。

 

「私...大学行かないよ」

「え...」

 

三玖の爆弾発言に四葉が驚きの声をあげた。

 

「どうして...期末試験だって三玖は五月についで姉妹で良い成績だったのに...」

「.........笑わないで聞いてほしいんだけど...お料理の学校に行きたいんだ」

 

四葉の質問に三玖は恥ずかしそうに答えた。

 

「お料理の学校ですか...」

「あんた正気?」

 

三玖の質問に桜と二乃がそれぞれ反応する。

 

「それはまた...上杉君はなんて言うでしょうか...」

「だねぇ。カズヨシ君はむしろ応援すると思うよ」

 

五月と一花が話した後、全員が教室の後ろで前田と武田と話している、和義と風太郎を見ている。

この四人も修学旅行以前よりも仲が良くなっている。

 

「相変わらずあの四人は一緒...」

「そうですね。特に和義君と上杉君はいつも一緒です」

「四葉ももっと上杉と話したいんじゃないの?」

「ふぇっ!?べ、別にそんな事ないよ!」

(わたくし)はもっと和義さんとお話をしたいです」

「あんたは本当に変わったわね...」

「いいんじゃない?それがあったから桜ちゃんとこうやっていっぱい話すことができるようになったんだし」

 

そこで六人全員で笑いあった。

それぞれがもうすぐ始まる夏休みに思いを募らせながら。

 

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もうすぐ二学期も終わる頃の夜。母さんから電話がかかってきた。

 

「どうしたの?電話してくるなんて珍しいね。いつもメッセージ送ってくるのに」

『たまには良いでしょ?声を聞きたい時もあるわよ』

「そっか」

『それで?もうすぐ夏休みでしょ?私達のところに来る?』

「いや、これでも受験生なんだけど...」

『そういえばそうだったわね。進路は決めたの?』

「それがまったく...これをやりたいってのが思いつかないだよねぇ」

『ふ~ん。歴史関係の進路は取らないの?』

「あー...やっぱそれは今まで通り自分の趣味として持っときたいかなって」

『なるほどねぇ』

「後は、今のバイトを活かしたのも考えてるよ」

『今のバイトっていえば、家庭教師に塾の講師、後は調理スタッフね。何?お母さん達と同じ教師の道を進んでみる?』

 

教師か...たしかにそれもいいかもと思っている。

父さんに母さん、そして零奈(れな)さんが務めた職業。今の塾の講師をやってても面白いと思うときもあるわけだし。

となると、五月と同じ教育大学か...

 

「うーん。一応それも候補の内に入れてるかな」

『そう。後は料理関係も良いかもね。なんて言っても和義の作る料理は美味しいから』

「ありがとね」

 

料理関係となると大学ではなく専門学校になるな。

そういえば、この間三玖から料理の専門学校に進学したい事を言われたっけ。

 

『私ね、料理の勉強がしたいんだ。だから、お料理の学校に行きたい。ダメかな...?』

『そんな事ありませんよ。貴女が考えて決めた事。私は応援してます』

『そうだね。三玖の料理の腕はどんどん上がってる。頑張って。僕も応援するよ』

 

僕と零奈はもちろん賛成して、それを聞いて三玖も喜んでたな。

風太郎なんかは複雑な顔で応援すると言っていたから笑ってしまった。でも...

 

『俺はあいつらの夢を見つけてやりたい』

 

あの言葉があったから三玖の進路を応援する気持ちになったんだよね。まあ、大学に受かる可能性のある生徒が大学に行かないと言えば、家庭教師としては複雑になるよね。

 

「料理関係の道に進むなら、専門学校に行くか、どっかで修行をす...る...の...が...良い...かもだね」

 

そこでふとある事を思い出した。

 

『ん?どうしたの和義?』

「あのさ母さん、ちょっとお願いがあるんだけど。頼めるかな?」

『もちろんよ。和義からのお願いなんてそうそうないからね。で?どうすれば良いのかな?』

 

・・・・・

 

『へぇー、そんな事があったんだ』

「うん。僕も今思い出したんだけど」

『うん。良いんじゃない?じゃあ、私が連絡しといてあげようか?』

「ううん。これは自分でしたいから、連絡先を教えてくれるだけで十分だよ」

『分かったわ。そうなると、零奈ちゃんと五つ子ちゃん達はどうするの?』

「う~ん。彼女達には申し訳ないけど、こればっかりは僕でもやれるか確認するためにも一人で集中してやりたいんだ」

『そうよねぇ...分かったわ。その辺りは、私からマルオ君にでもお願いしてみるわよ』

「良いの?」

『ええ。何と言っても大事な息子の将来が決まるわけだしね。まあ、あの娘達にはちょっと悪いとは思うけどね』

「助かるよ」

『後、他のバイトの事も気にしないでね。私から根回ししとくから』

「ありがとう。僕からも頭を下げとくよ」

『大丈夫よ。あの二人ならね』

 

その後少しだけ話して母さんからの電話が切れた。その後すぐに、母さんから連絡先がメッセージとして送られた。

 

そして次の日。

 

「ご無沙汰してます。直江和義です。以前言われた事で今日はお電話しました」

『.........甘やかすつもりはない。覚悟はあるんだな?』

「はい!僕に出来るか試してみたいんです!」

『そうか...夏休みに入ったら来ると良い...』

「っ!ありがとうございます。では、また後日連絡します。失礼します!」

 

そこで相手との電話が終わった。

さて、これで僕の夏休みの予定が全部埋まったかな...零奈と五つ子達は怒るだろうなぁ...

そんな考えを持ちながら、夏の代名詞ともなるセミの大合唱の中、青空を見上げたのだった。

 

 




さあ、新しい章の始まりです!

修学旅行で培った絆によって新しい日常が送られております。
その大まかな内容は桜の交流ではあるのですが。
そんな中、和義が高3の夏休みまで捨てて向かう先は何処なのでしょうか?
まあ、予想できる人には簡単かもしれませんが…

次回は、和義がいない五つ子と零奈、そして桜の夏休みの話を書いていこうと思います。

また次の投稿まで時間がかかるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします。
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