五等分の奇跡   作:吉月和玖

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また遅くなり申し訳ありません。最新話スタートです。

早いものでもう3月ですね。早く暖かくなってほしいものです…


85.行方

~PENTAGON~

 

夏休み初日。この日、五つ子達は零奈を連れて自分達のマンションに戻ってきていた。

 

「まさか、またここに戻ってくるとはねぇ」

 

二乃が高くそびえ立つマンションを見上げながらそう呟いた。

 

「言っとくけど、カズ君が帰ってくるまでの繋ぎだから!」

「カズヨシ君とフータロー君。二人とも家庭教師に戻ったんだし、そろそろ帰ってきてもいい頃だったんじゃない?まあ、私もお母さんと一緒にもっといたいけどさ」

「一花…」

 

そして五つ子は自分達の家に足を踏み入れた。

 

「わっ、綺麗なままだ」

「江端さんかな?ずっと掃除してくれてたのかも」

 

リビングは長期間留守にしていたとは思えないほど綺麗に掃除までされていたので、四葉と一花はそれぞれの感想が漏れてしまった。

 

「お邪魔します」

「どうぞどうぞ。自分の家と思ってくつろいでください」

 

そこに零奈が申し訳ない様子でリビングに入ってきたので、五月が歓迎の気持ちを込めて言葉をかけた。もちろん他の姉妹も同じ気持ちである。

 

「お父さんは…やっぱいないか」

「僕がどうかしたかい?」

「「「「「え!?」」」」」

 

一花の少し悲しげな言葉に対して、つい先程玄関から入ってきたマルオ本人が答えた。

全くの予想外の出来事に五つ子全員が驚きの声を上げた。

 

「皆おかえり…」

「「「「「た…ただいま…」」」」」

「ふむ…君がレイナ君だね?前にREVIVALという店と旅館で会っているから知っているかもしれないが、僕は彼女達の父親で中野マルオという」

 

五月のそばにいた零奈にマルオは挨拶をした。

 

「ええ、覚えております。あの時はとんだ我が儘を言ってしまい申し訳ありませんでした。改めて、直江和義の妹の零奈です。本日よりお世話になります」

 

零奈はマルオの挨拶に対して、礼儀正しく挨拶をして頭を下げた。

 

「さすが彼の妹さんだね。礼儀正しい対応が出来ている………」

 

マルオが零奈のことを誉めたのは良いが、その後じっと零奈を見ている。

 

「あ…あの。何か…」

「…っ!すまないね、少し考え事をしていた…時にまた失礼な事を言うのを許してほしい。僕と何処かで会ったりしたことがないだろうか?無論、この間REVIVALで会った時より前だ」

「「「「「!」」」」」

 

マルオの言葉に五つ子全員がドキッと反応した。

唯一零奈自身だけは変化がないように見えるが、内心では多少の動揺を見せている。

 

「いえ。こうやってお話しするのはREVIVALでお会いした時だけ。もしかしたら、両親とお会いした時に紹介されたのかもしれませんが、私には()()がありません」

 

零奈はそう冷静に答えた。

 

「そうか…いや、すまなかったね。君と話していると懐かしさが出てきてどうも心落ち着く気持ちになるものでね。まったく…小学生の女の子に何を言っているのだろうね僕は…」

「…っ。そうですか…」

「……そろそろ仕事に戻らなければならない。皆、レイナ君の事をしっかり面倒見るように」

 

そう言葉を残して、マルオは仕事先である病院に向かってしまった。

 

「まさかパパがくるなんて思いもしなかったわ」

「だね。私もビックリしたよ」

 

二乃の言葉に四葉も賛同した。

 

「それにも驚きましたが…」

「うん…もう一つ驚いたことがあった…」

 

五月と三玖の言葉で姉妹全員が零奈に注目した。

 

「ええ。多少なりとも感づいているかもしれませんね」

「いやー、愛の力は偉大だねぇ~」

「茶化さないでください一花。私にはその資格がないのですから…

「お母さん…」

 

悲痛な言葉を発した零奈を五月は心配そうに声をかけた。

 

以前、零奈が自分は和義の事を好きだと姉妹全員に告白した後。姉妹全員が同じことを疑問に思い零奈に確認した。

 

『お父さんに自分の事を打ち明けないのか』

 

と。

これまで零奈は、今のマルオの状況を娘達を通して確認をしていた。

自分に見せていた笑顔を娘達が見たことないこと。

それどころか父娘の会話や接点もないことを。

零奈は、自分のせいで現状が起きているのだと自身を責めると同時に、何とかマルオ自身で自分の死を乗り越え娘達と向き合ってほしいとも思っていた。

自分の事を打ち明ければ、もしかしたら昔のマルオが戻ってくるかもしれない。でもそれでは駄目だ。そう零奈は考えていた。

マルオにとっては酷な事かもしれないが、彼なら大丈夫、とも信じている。

 

「……ま、パパがいたのは予想外だったけど…お母さん、本当にカズ君がどこにいるか知らないのよね?」

「えっ…?ええ、私も聞かされておりません。私が知っている情報はあなた達と変わりませんよ」

「そっか…」

 

零奈ならもしかしたら知っているかも、という淡い期待があって二乃が確認をしたが、零奈の回答に三玖はがっかりな気持ちで言葉が漏れた。

その時、六人は先日の和義とのやり取りを思い出していた。

 

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~直江家・リビング~

 

夏休みまで後少しのある夜。五つ子と零奈は和義から大事な話があるからリビングに集まってほしいと言われ、集まっていた。

 

「直江さんからお話しなんて、なんだろう…?」

「夏休みの予定、とか…」

「きっとそうよ!新しい水着買わないと」

「なぜそこで水着の話が…先日も話しましたが、私たちは受験生なんですよ」

「まあまあ五月ちゃん。夏休みも長いんだし、リフレッシュも必要だよ?」

「そんなことを言って…夏休みなんてあっという間ですよ」

 

零奈が皆のお茶を配膳しながらそう口にした。

そこに和義がリビングに入ってきた。

 

「ごめんごめん。集めた本人が遅れて…」

「いえいえ。みんなもさっき揃ったばかりですので。それで何かあったんですか?」

 

和義が謝りながら六人が集まっている所に来ると、四葉が早速話を切り出した。

 

「えっと…もうすぐ夏休みに入るじゃない?その事で皆に伝えたいことがあるんだよね…」

「やっぱり夏休みのことだったのね!何?海にでも行く?」

「私は山がいい…」

「勉強のスケジュールではないですか?」

 

和義の言葉に二乃、三玖、五月がそれぞれ意見を言う。

しかし、和義からは誰もが予想だにしなかった言葉が発せられた。

 

「急で申し訳ないんだけど、皆には夏休みに入ったら自分の家に帰ってもらいたいんだ。中野さんにはもう相談済みだよ」

「え…」

 

和義の言葉に、五つ子達は信じられないといった顔で固まってしまった。かくいう零奈も驚きの表情になっている。

唯一、五月だけが声を漏らした。

 

「な、何言ってんのよ…」

「ど、どうしちゃったの?カズヨシ君…」

「私たちの事、嫌いになったの…?」

 

ようやく思考が戻ってきたのか、二乃と一花、三玖がそれぞれ口にした。

 

「そんな事ないよ………僕の将来の事なんだけど…」

「兄さんの?」

「うん。僕ってまだ具体的にこうしたいってビジョンがないんだよね…一花みたいに女優として頑張っていきたいや五月みたいに先生になりたい、みたいな…」

「それを言ったら私だってまだ何も思いついてないですよ」

「あはは…だね。うん…それである人の所でちょっと修行的な事をこの夏休みでしてこようと思うんだ」

「修行ですか!?」

「ちょっと興味ある事が出来てね。そこで試しに働いてみて、駄目だったら進学しようと思ってる」

「なるほど。それで、和義君もいないので居候の私たちには家に帰ってもらいたいと」

 

五月の言葉に和義はコクンと頷いた。

 

「待って!それじゃあ、お母さんはどうするの?」

 

そこで一つの問題を一花が指摘した。

和義もいない、五つ子も自分達の家に帰るとなると、零奈はこの家に一人残されることになるからだ。

 

「もしかして、お母さんはカズ君に付いていくってこと?」

「いや、そこも母さんにお願いして手を回してるよ。実は中野さんにお願いして中野家で預かってもらう手筈になってる」

「また私抜きで…」

「ごめんって。でも、どうしてもこれは一人でやり遂げたいんだ」

「「「「「「……」」」」」」

 

決意めいた真剣な顔で言われれば六人は何も言えない。

好きになった弱みかもしれない。

 

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「今思い出しても…あの時の決意に満ちたカズ君の顔。カッコよかったわぁ~」

「うん…ドキッとした…」

 

その時の和義の顔を思い出した二乃と三玖はうっとりしている。

 

(はぁぁ…本当はカズヨシ君にこの夏休みで相談したいことがあったんだけどなぁ…うまくいかないもんだ)

 

「一花?」

 

考え事をしていた一花に真っ先に気付いた四葉が声をかけた。

 

「どうかした?」

「ううん。お母さんの寝る場所どうしよかなって考えてた」

「そういえば、そうですね」

 

考え事を誤魔化すように一花が話すと、五月はそれに同調する。

 

「考えてもしょうがないし、お母さんさえ良ければ日替わりで私たちの部屋を使ってもらいましょ」

「うん、それがいい。どうかなお母さん?」

「私は構いませんよ」

「じゃあ決まりだね!」

 

こうして、中野家での六人の生活が始まった。

 

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~塾~

 

夏休みに入り数日。五月は零奈と共に塾に通っていた。

最初は和義がいない事で寂しさがあったが、和義も一人で頑張っているのだから自分も頑張らなければ、という思いで時には零奈に聞きながらも自身で勉強を続けていた。

 

「五月さん!」

 

五月と零奈が塾に入ったところで桜に声をかけられた。

 

「桜さん。お久しぶりです」

「ご無沙汰しております。あの、和義さんはやはり…」

「ええ。今日も来ません」

「やはり、夏休み前におっしゃっていた通りずっと来られないのですね…」

「……」

「五月さん。私は自分の教室に行ってますね」

 

五月と桜が沈黙すると、零奈が率先して動き出した。

 

「は、はい!終わったら連絡してください」

「分かりました。では…」

 

そこで一礼して零奈は自分の教室に向かってしまった。

 

「本当にしっかりした子ですね。初めて会った時もビックリしました」

「そ…そうですね」

 

(本当は中身は自分の母親だって言えないなぁ…)

 

苦笑いをしながら桜の言葉に五月は答えた。

 

「よう。お前らはいつから仲良くなったんだ?」

「「下田先生」」

 

そこに、零奈と入れ替りで下田が二人に話しかけてきた。

 

(そういえば、下田先生は綾さんの事も知ってたよね。だったら…)

 

「下田先生!」

「お?どうした?そんな切羽詰まった顔をして」

「あの!和義君が今どこにいるか知ってますか?」

「あー…なるほどね。あいつがいなくて寂しいって訳だ」

「「はい!」」

「おっと…二人で即答とはねぇ。うーん……悪いね、こればっかりは教えられねぇわ」

「なぜでしょうか…?」

「お前さんがたも知っての通り、あいつは今自分の将来の為必死に頑張ってんだ。その邪魔をすることはあたしには出来ないね」

「それは…」

「分かってはおります…」

 

下田の言葉に五月と桜は下を向いてしまった。そんな二人の姿を見て下田は、

 

(まったく…どんだけ和義の事を好きなんだよこいつらは…たく、そんな顔をされたら、あたしの心が動いちまうだろ!)

 

と、そんな風に考えてしまった。そして、自分の頭をガシガシとかきながら折れたように告げた。

 

「はぁぁ…一つだけヒントをやる。あいつは今ある場所で料理の修行をしている」

「「え…?」」

「そこで自分の可能性を見たいとよ。後な、これは綾さんから聞いた話なんだが……」

 

・・・・・

 

「……分かりましたよ。あいつが抜ける、しかも夏休みにって言うのは痛手ではありますけど、綾さんの頼みとあいつの意志が固いってのが分かりましたからね…」

『ありがとね。助かるわぁ』

「まったく…相変わらずの親バカっぷりですね…」

『……』

「綾先生?」

『それも勿論あるんだけど…あの子ってね、今まで自分の為に行動したことがなかったの…』

「それはまた…」

 

(確かに…塾で働いてくれるようになったのは、五月の為って言ってたな。自分が一緒に働けば一歩踏み出してくれるだろうって…)

 

『私達夫婦は忙しかったから、零奈ちゃんの世話はいつも和義に任せっきりだった。その事もあってか、あの子は自分よりもまずは零奈ちゃんの為に、て行動してきたの。そして次は風太郎君。周りからどう見られようが、気にせず勉強に打ち込む姿を見て、また彼の為にと行動してきた。そして今ではその二人に加えて…』

「五つ子達、そして諏訪ですか…」

『そう…それでも、ようやく最近になって自分の為に行動するようになってきたんだよ。この間の修学旅行を抜け出したって聞いた時は本当にビックリしたんだから。だからね、今回のように自分の為に何かしたい、と言われたら何かしてあげたいって思っちゃうじゃない』

「そうですね…」

 

・・・・・

 

「そんな…」

「……」

 

(そっか。だからお母さんは今回の件であまり騒ごうとしてなかったんだ。今までの和義君を見てきたから…)

 

下田の話に桜は言葉が漏れ、五月は考え込んでいた。

前から五つ子達は疑問に思っていた。今までの零奈であれば、一目散に綾に場所を聞いて突き止めたり、自分も付いていくと和義に迫ったりしていたはず。

しかし、今回はまったく動じず、五つ子達のお願いに対しても、『あの人が決めたこと。邪魔はしたくありません』、と行動を起こそうとしなかったのだ。

 

「とは言えだ」

「「?」」

「見守りたいっていう意見があるが、別に近くで応援したいって思うことも悪かぁねぇ」

「「!」」

 

ニヤリと笑いながら下田が話すと、二人は反応する。

 

「あたしから言えんのはここまでだ。後はお前さんらが決めるこったね」

 

手を挙げながら、そう言って下田は二人から離れていった。

 

「五月さん。実はお婆様にも和義さんの所在について相談していたんです」

「そうなんですか!?」

「はい。ですが…」

 

『桜のお願いであっても、今回の件については私から手を貸すことは出来ません。もし、それでも会いに行きたいなら自分でどうにかするのですね』

 

「と断られてしまったのです。ですので、敢えてお伝えはしなかったのですが」

「なるほど。つまり和義君は桜さんのお祖母さんにも伝えていると」

「そうだと思います。それに、今お婆様は京都にいないので…」

「自分は和義君の近くに行ってる訳ですか…」

「恐らく。先程下田先生が、和義さんは料理の修行をしていると言っていたので、お婆様のコネを使ってどなたかを紹介したのかもしれません」

「あり得そうですね。それで?桜さんはどうされますか?」

「分かってらして聞いていますよね?勿論、和義さんの所に向かわせていただきます!」

「ですよね。良かった同じ考えのようです。ただ…」

「はい。今回は大人の力は借りれないかと。しかも、もしお婆様の知り合いの料亭などにいるとなると数が多すぎて絞りきれません」

「他に知ってそうな人がいればいいのですが…」

 

五月と桜はお互いの意気込みを胸に、今後も強力して探しだそうと誓い合ったのだった。

 

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~街中~

 

「はっ…はっ…はっ…」

 

この日も四葉は一人日課のジョギングをしていた。

そして、休憩のためいつもの丘の上の公園のベンチに座りスポーツドリンクを飲んでいた。

 

「んっ…んっ…んっ……ぷはっ!ふー…」

 

(最近は直江さんと一緒だったからなんか寂しいな…直江さん、一体どこに行っちゃったんだろう…)

 

目の前に広がる街並みを見ていても、四葉の寂しさは抜けずにいた。そんな風にボーッと景色を眺めていた四葉は、後ろから声をかけられた。

 

「あ!四葉さん!」

「え?らいはちゃーん!それに、上杉さんのお父さんも」

「よう」

 

たまたま通りかかったらいはと勇也である。

 

「精が出るなぁ。こんな暑い日だってのに」

 

時間は夕方ではあるが、夏真っ盛りでもあるので確かに暑い。

 

「あはは…何だか走ってないと落ち着かなかったので…」

「四葉さん?」

 

少し元気がないように見えた四葉をらいはは心配そうにしている。

 

「和義がいないから、自分の家に戻ったそうじゃないか?綾先生から聞いてるぜ」

「はい。レイナちゃんも預かっていますよ」

「そっかぁ…和義さんどこに行ったんですかね?お兄ちゃんも聞かされてないんだよ」

「上杉さんも…そうですか…」

 

(多分、風太郎君から私たちに漏れると思ったんだろうな…)

 

「ま、心配すんな。信用できる場所にいるからな。何かあるってことはねえだろ」

「お父さん、和義さんがどこにいるか知ってるの?」

「ああ。綾先生から聞いてるからな。無論口止めもされている」

「むー…」

 

勇也のそんな言葉にらいはは悔しそうな顔をしている。

 

「あの!信用できる場所って…」

「ん?そうだなぁ、俺から言えるのは俺たちも行ったことがある場所だ」

「私たちもですか?」

「ああ…」

 

四葉の質問にどこか優しげな顔で勇也は答えた。

 

「むー…教えてよ、お父さん!」

「悪いな。らいはの頼みでもこればっかりは聞けねぇよ」

「ちぇっ。じゃあ、今日のお父さんの晩御飯は一品なしだからね」

「えーっ!そりゃないぜぇ~」

 

そんな上杉父娘のやり取りを気にせず、四葉は考えていた。

 

(私たちが行ったことある場所、かぁ…)

 

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~REVIVAL~

 

「お疲れ様。今日は二人ともあがっていいよ」

「「お疲れ様です!」」

 

店長に言われて、二乃と風太郎は帰る準備を終え裏口から出た。

 

「うーん、今日も疲れたわねぇ」

「ああ。和義がいなくても客は多いしな……はっ…」

 

そこで余計な事を言ってしまったと思い、風太郎は二乃を見る。

すると、風太郎の思った通り少し沈んだ二乃の姿があった。

 

「カズ君、どこにいるんだろう…」

 

そう言いながら自分の携帯を見る二乃。

和義は毎日メッセージを送ってくれている。とはいえ、忙しいのか夜のほんの少しの時間だけである。

それでも毎日メッセージが来ることに五つ子達は嬉しかった。

ちなみに、最近は桜とも仲良くなったのでグループに桜も追加されている。

 

「まあ、毎日欠かさずメッセージを送ってくれてるんだろ?なら心配ないさ」

「そうだけど…やっぱり直接会って話したいし、あわよくば抱きつきたいわよ」

「そうかよ…」

 

二乃の言葉に風太郎が呆れていると、そこにもう一人やって来た。

 

「二人ともお疲れ…」

「三玖。お前も今終わったのか?」

「うん。ところで、二乃は何に意気込んでるの?」

「もちろん、カズ君に会って抱きしめたいって思ってたのよ」

「そんな風に考えてんのはお前だけだよ」

「分かる…」

「はぁ!?」

 

二乃にツッコミを入れた風太郎だが、横から二乃に同意する意見が出てビックリした。

 

「私も早くカズヨシに会って抱きしめたい…!」

「お前もかよ…はぁぁ…」

 

三玖の言葉に頭を抱える風太郎。そこに、REVIVALの裏口が開かれた。

 

「おや?君たちはまだ帰っていなかったのかい?」

「店長。すみません、こんなところで」

「いいさ。おや、君はたしか向かいの…」

「二乃の姉妹で三玖と言います。向かいのパン屋で働いています」

「パン屋の店長から聞いてるよ。どんどん腕を上げてるんだって?」

「はい。頑張ってます」

「それはそれは…」

「店長!」

 

店長が何か話そうとしたところで、二乃から横やりが入った。

 

「店長は和義から本当に何も聞かされてないんですか?」

「おやおや。彼も人気者だねぇ。前にも言ったが()()()は何も聞かされてないよ。残念ながらね」

「そうですか…」

 

店長の言葉にガッカリする二乃と三玖。

そんな時ふと風太郎はある考えが芽生えた。

あれほど和義を店で働かせたいと思っていた店長が、今回の夏休みの間和義が抜ける事をえらく直ぐに受け入れていたな、と。

 

(あの店長がこんなにすぐ諦めるか?何日かは粘るはずだよな…待てよ…)

 

「そういえば、店長って綾さんと知り合いでしたよね?」

「ん?そうだけど、今聞くことかい?」

「もしかして、和義からは聞かされてないけど、綾さんからは聞いてるんじゃないですか?」

「「!」」

 

風太郎の言葉にばっと二乃と三玖が店長に注目した。

 

「おやおや。上杉君にしては考えたね……君の言った通り綾さんから聞かされてるよ。彼がいる場所もね」

「だったらっ…」

「それとね。誰にも言わないようにとも言われている」

 

二乃の言葉に自分の掌を向けてそう伝えた。

そして、下田が五月と桜に話した内容を、店長もこの三人に伝えた。

 

「分かるだろ?ここまで言われたら、僕は綾先生のお願いを聞かざるを得ない。ま、彼に何かが起きる事もないだろう。彼が帰ってくるのを待つといい」

 

そう言いながら裏口から店に入ろうとする店長に二乃が言葉を放った。

 

「それでも!私が今すぐ会いたい気持ちは変わらないわ!」

「うん…!私だって一緒…!」

「お前ら…」

「はぁぁ…ここまで想ってもらえるなんて彼が羨ましい限りだよ」

 

そう呟いた店長は振り返り三人に伝えた。

 

「君たちの気持ちは理解した。だが、僕だって綾先生の気持ちを尊重したい。だから、一つだけ教えておこう。彼が今行っている場所は、この店では学べない事を教えてくれる場所だ」

 

そう言い残し、今度こそ店長は店に入り裏口を閉めてしまった。

店長の言葉を聞いた三人は、帰りながら和義の居所を考えていた。

 

「REVIVALでは学べないか…」

「業種が違うってことなのかな…?」

「あいつの事だから、今までの自分のやってきた事を活かせる事をしたいって考えてるはずだ」

「そうなってくると、まずは私たちの家庭教師よね」

「後は、歴史関係なのかも…カズヨシは歴史好きだし…」

「それ以外だと、REVIVALに塾の講師だな」

「「「うーん…」」」

 

三人はそこで腕を組み悩みだした。

 

「家庭教師や塾の講師なら、やっぱり五月みたいに先生を目指すはずよね。ならこれは外せるわね。だってそれなら、わざわざ別の場所まで行って学ぶ必要はないもの」

「だな。仮に自分の両親のところで学ぶなら零奈を置いていく必要がない。それにあいつは一人でやりたいって言ってたわけだしな」

「そうなると、後は歴史。それにREVIVAL。つまり料理…?」

「待って!さっき店長さんはここでは学べないって言ってたわよね。てことは、さっきの三玖の業種が違うって言葉が的を得てるかも」

「なるほどな。つまり、REVIVALはケーキ専門だからそれ以外の料理関係か!」

 

だが、そこで三人は振り出しに戻る。

では何の料理でどこで修行をしているのかと。

 

「はぁぁ…綾さんが絡んでくるとあの人の交流関係半端ないからなぁ…」

「それにもう一人カズ君の味方をする人がいるじゃない…」

「うん…桜のお祖母さん。あの人の人脈も相当なものだと思う。下手したら、綾さん以上かも」

「まったく…味方の時は頼もしくもあったけど…」

「敵になるととんでもない壁…」

 

二乃と三玖はそこでお互いを見合って、プッと吹き出した。

 

「でも…」

「うん。倒しがいがある…」

 

ガシっとお互いの腕を絡ませて二乃と三玖はお互い頷いた。

 

「こいつらは...」

 

(まったく...綾さん、あんたも相当な人だが...この五つ子の団結力も相当なものだぜ)

 

二人の様子を見ながら風太郎はそう考えていた。

 

------------------------------------------------

~一花所属の芸能事務所~

 

「それでは、今日は先に失礼します。お疲れさまでしたっ」

「お疲れ様、一花ちゃん」

 

芸能事務所の社員の人に挨拶をした一花は事務所から出ようとしたところで声をかけられた。

 

「あ、一花ちゃん今帰り?」

「社長、帰ってたんですね?お疲れ様です」

 

一花の所属している事務所の社長、織田である。

 

「どうです?リフレッシュできましたか?」

「ああ。娘の菊共に楽しませてもらったよ。はいこれお土産」

 

そう言いながら織田は一花に一つの紙袋を差し出した。

 

「他の姉妹と食べて」

「ありがとうございます」

「それにしても良いところだった。お料理も美味しくって勧めてくれた一花ちゃんに感謝だね」

「それは良かったです」

 

(はて?確かに料理は美味しいけど、こんなに社長が喜ぶほどだったかな?)

 

「後、庭園や部屋のお花の飾りも素晴らしかった。あんな隠れた旅館があったなんて、また行ってみたいね」

 

(あれ?)

 

「あの、社長...本当に私が紹介した旅館でした?」

「ああ。一花ちゃんのお祖父さんにもご挨拶してきたよ。そういえば、お祖父さんの傍らに青年がいたね。あの子も上杉君に並ぶ逸材と見たね」

「あはは...」

 

(おじいちゃんに会ってるならあの旅館で間違いない、か...それにしてもおじいちゃんの傍らにいたっていう青年って...誰だろう...)

 

一花は社長の話を聞きながら、本当に自分が紹介した旅館に行っていたのか終始疑問に思っていた。

 

 




夏休み編スタートしました。

和義が夏休みに入ってすぐにいなくなったことで、零奈が中野家にお泊まりです。
マルオ気付いちゃってますかね。とはいえ、非現実的な事なので半々といったところかもしれません。
そして、修学旅行に続いて和義捜索隊再結成です。
今回は今まで色々と手助けしてくれていた綾が何もしてくれませんので、自分達の力で見つけなくてはいけません。
五月&桜。四葉。二乃&三玖&風太郎。そして、一花とそれぞれが別の場所でヒントを貰っております。

五つ子達と零奈に桜は和義の居所を突き止めることが出来るのでしょうか。

では、また次回を読んでいただければと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
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