五等分の奇跡   作:吉月和玖

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毎度お待たせして申し訳ありません。
最新話の投稿ができました~
いつもよりちょっと長めとなっておりますが、最後まで読んでいただけると幸いです。



89.血の繋がり、そして...

「はっ…はっ…はっ…」

 

旅館での朝食の準備が終わり、皆で朝食を食べ終わった後、日課であるジョギングをしている。

当たり前だが、夏休みに入ってからはずっと一人で走っていた。しかし今日は。

 

「はぁ…はぁ…」

「一花っ、頑張って!後少しだよ!」

 

前から一緒に走っていた四葉に加えて一花も一緒に走っている。

 

『実は私もジョギング日課にしてるんだ。体型維持や体力付けなきゃだからね。よかったら二人に付いていっていいかな?』

 

朝食の後にそう言ってきた一花。僕達としては同行してくれるのには問題無かったのだが、ペースを間違えたっぽいな。

いつもの四葉とのペースで走っていると、一花には早かったようだ。

 

「ほい、ゴール!」

「ふわぁ~…」

「お疲れ様っ、一花!」

 

今日の目的地である海岸まで着いたところで、一花は倒れこんでしまった。

 

「大丈夫?一花?」

「はぁ…はぁ…はぁ…ふ…二人の体力を…はぁ…あ、甘く見てたよぉ…」

 

四葉が心配そうに話しかけているが、一花は仰向けに寝転がり、息絶え絶えである。

 

「ほい、水分補給」

 

ピトッ

 

「ひぁっ!」

 

近くの自販機で買った水を一花の頬に当ててあげると、冷たさからか、小さな悲鳴をあげてガバッと起き上がった。

 

「もー、ビックリしたよぉ」

「ははは、ごめんごめん。ほらこっちは四葉の分ね」

「いつもありがとうございます!」

 

笑顔で受け取った四葉はグビグビと飲みだした。

 

「ふぅ~、生き返るぅ」

「ん、ん、ん、ぷはぁー。はぁー、ホントだよ。ていうか、二人っていつもあんなペースで走ってるの?」

「ん?」

「今日は割りと慣らしてる感じだったかな。ね、直江さん?」

「ああ、そうだね。一花もいたから」

「あれでかぁ…」

「ちなみに。帰りは競争をたまにしてるから、その時はさすがに二人ともバテバテだね」

「ですねぇ~…あー、まだ直江さんに勝ててないんだよなぁ」

 

四葉は悔しそうに一花の横で仰向けに寝転がった。

ここは海岸沿いに並んでいる木の下。日陰にもなっているからか割りと涼しい。

 

「いつでも挑戦受けてあげるよ」

「むー、余裕そうですね」

「そんな事ないけどね。隣失礼するね」

 

そう言いながら一花の横に座り、さらにそのまま仰向けで寝転がった。

 

「はぁー…たまにこうやると何か良いよねぇ」

「分かります!」

「ちょっとぉ。私の両サイドで何してんの?」

「一花もさっきまでこうしてたんだし、もう一回どう?」

「はぁぁ、しょうがないなぁ」

 

そう言いながら一花も仰向けに寝転がるも満更でもないように見える。

そんな時。

 

ピトッ

 

あっ……

 

僕の手に一花の手が触れた。

それに気付いた一花は、パッと手を自分の胸まで戻してしまった。

一花の方を見ると少しだけ顔を紅くしているようだ。

 

「ぷっ…一花も乙女だねぇ」

「な、なにさ!」

「よっと…!」

 

一花の反論を背に勢いよく飛び上がるように立ち上がった。

 

「おー、さすが直江さんですね!」

「ふふ、さあ帰ろうか。帰りは歩いて行くから、一花動けそう?」

 

そう言いながら一花に手を差しのべる。

 

「ホント、カズヨシ君って、意地悪なところと紳士的なところがあるから困っちゃうよ」

「だよねぇ~…」

 

文句を言いながらも僕の手を握ってくる一花。

 

「それはごめんねっ…、と」

 

一花を立たせるために勢いよく引っ張ったのだが、勢いをつけすぎたのか、一花は僕の胸に飛び込んできた。

 

「きゃっ…」

「と。ごめんごめん、強く引っ張りすぎたみたいだね」

 

一緒に倒れないように何とか抱き留める事ができ、一花は僕の胸に収まった。

 

「大丈夫?足とか捻ってない?」

「大丈夫だよ……て、ごめんっ!」

 

抱き抱えたまま質問をしたのだが、一花はパッと勢いよく僕から離れた。

 

「そ…その、汗臭かったよね…」

「へ?」

 

恥ずかしそうに、目を合わせることもせずにそう呟く一花。

 

「気にしなくていいのに。むしろ、いい匂いがして役得だったよ」

「………変態

 

理不尽すぎる。

そう考えながら四葉にも手を伸ばし立たせてあげた。

 

「ありがとうございます!」

「うん、じゃあ帰ろうか」

 

そう先導して歩きだすのだが、一花は若干距離を置いている。

嫌われちゃったかな。

そんな風に考えていると、前方に見知った人物がいた。

 

「桜ちゃーん!」

 

大きな荷物を持って歩いている桜に四葉が声をかけたので、向こうも気付いたようだ。

 

「皆さん。ジョギングですか?」

「うん、三人でね」

「桜ちゃんも何処かに行ってたの?朝食の時に見かけなかったけど」

 

小走りに近づいてきた桜に質問されたので答えてあげる。

その時に一花が聞き出した。

 

(わたくし)は弓を引いておりました。この近くに弓道場があると聞きましたので」

 

説明をしながら自分の持っている荷物に目線を向けた。

肩から担いでいる荷物には、弓が入っているようだ。

 

「おー、弓を引いている桜ちゃん。見てみたかったです!」

「そんな…お見せする程のものでもないですよ…」

 

桜も合流して四人で旅館に帰ることにした。

 

「どう?調子は?」

「んー…まあまあ、ですかね」

 

僕の質問に、ニッコリと笑いながら答える桜。

 

「ふむ…その顔は調子が良かったとお姉さんは見たね」

 

いつもの調子を取り戻した一花が、指をさしながら伝える。

 

「確かに今日は調子良かったですね…20射行い……皆中でした…」

「は!?20射を皆中!?」

 

桜の言葉にビックリしてしまった。この娘凄いなぁ。

 

「あのー…直江さん。皆中って何ですか?」

 

四葉が、言っている意味を理解できずに質問してきた。一花も分からないようだ。

 

「そっか…あんまり耳にすることがない言葉だもんね。皆中って言うのは、弓を引いて矢が的に全部中った事を言うんだよ」

「つまり、20回弓引いて、それが全部的にあたったってこと?」

「そういうことだね」

 

一花の質問に答えてあげる。

 

「本来は一人4射行い、その全てが中れば皆中。それだけでも凄い実力だけど、それが20射行い全て中るとなれば、相当な技術と集中力が必要だね」

「「おー」」

 

僕の言葉に、一花と四葉は感嘆の声を上げた。

 

「そんな…本当に今回は偶然であって、自分でも驚いているのです」

 

恥ずかしそうにそう告げる桜。偶然ねぇ。

 

「ホント凄いなぁ……て、あれおじいちゃんじゃない?」

 

一花が防波堤の方に指をさしている。

 

「本当だ、おじいちゃんだね!そばにいるのは…」

「お婆様のようですね」

 

三人が言っている通り、以前風太郎も交えて魚釣りをした防波堤でお祖父さんが釣糸を垂らし、その横で楓さんが日傘を片手に佇んでいるのだ。

 

「…………ごめん、ちょっと気になることがあるから先帰ってて」

 

三人にそう指示を出して二人の元に向かおうとすると、一花に呼び止められた。

 

「ちょっとちょっとぉ、一人で行くなんてズルいんじゃない?」

「私たちも気になります」

「お供させてください」

「はぁ…分かったよ。ならさっさと向かおうか。ただ、特に四葉!静かにね?」

「了解です!」

 

そして、四人でお祖父さん達のところに近づいていった。

幸運にも今日は車が何台も防波堤の近くに停まっている。

 

ここまでかな…結構近づけたし話し声も聞こえてくるね

 

そこで他の三人に聞こえるボリュームで話すと、三人も頷いた。

そして、今隠れている車から四人並んで二人を覗き見ている。

 

「いつまでそこにいるつもりだ?そんなところにいても退屈なだけだろ?」

「いいえ、そんなことありませんよ。それにしても、貴方は昔から釣りが得意ですね。今日も大漁ではありませんか?」

「ふん…どうだったかな…」

 

そう言ったそばから釣り上げた。

そして、馴れた手付きで釣った魚をバケツに入れていく。

そこまで終えたら、釣り針に餌を付けまた釣糸を垂らした。

それにしても、昔からか……やはり二人は昔からの知り合いみたいだな。

 

「…………なぜ今になって儂の前に現れた?」

「……ごめんなさい。本当に貴方を見つけることが出来なかったの…色々な妨害があってね……貴方と旅館の事を見つけたのは本当に最近…あの娘にも会いたかったわ…」

 

あの娘?

 

「けれどそれも叶わない……だって…死んだ人間には会えないのだから…」

「……」

「……私達の娘、零奈(れな)。一度でもいいから会いたかった…」

「「「「!?」」」」

 

な!?なにーーーーー!?

楓さんの娘が零奈(れな)さん!?

それだけでも驚きなのに……え!?お祖父さんとの子供ってこと!?

 

「ふん…!お前達諏訪家にとっては、零奈(れな)は忌子なのだろう?なにを今更…」

「私が!!」

「!?」

「私が、あの娘の事を忌子だと思ったことは一度もありません!それは、古いしきたりに囚われていた馬鹿な親族達が勝手に付けたもの!…………私が生涯で唯一愛した貴方との…愛の結晶…なの…ですよ?」

 

そこまで話した楓さんは口を押さえて泣き出してしまった。

 

「……すまん。言いすぎたようだ。儂だって分かっている。お前に当たっても無意味だということをな…」

「すんっ……ええ……私だって、貴方が本気で言っているとは思っていませんでしたから」

「そうか……零奈(れな)を喪ったこの気持ちをぶつける相手が欲しかったのかもしれんな……」

「「「「…………」」」」

 

お祖父さんの悲痛な気持ちが伝わってくるようだ。

 

「時に。お前は儂を生涯唯一愛した男と言ったな?」

「ええ。嘘偽りはありませんよ」

「だが、孫娘がいるようだが?」

「ふふっ、妬いているのですか?」

「何を世迷い言を……」

 

図星をつかれたのか、お祖父さんは楓さんと目を合わせようとしない。

 

「……あの子と私は、血が繋がっていません」

「え……?」

 

楓さんの更なる衝撃発言に、桜が固まってしまった。

 

「私は貴方以外の男の人と契りを結ぶつもりはありませんでした。しかし、父と母は所謂高貴な人間を私の夫にしようと画策していたのです。今でも気持ち悪いと思いますね。その結果が、貴方と零奈(れな)を私の下から引き離したのですから」

「……」

「なので、私はまず仲間を増やしました。父と母に対抗出来得る派閥を作りました。その結果、あの二人を諏訪家から追い出すことに成功したのです」

「お前……」

「ふふっ、あの時の二人の顔。貴方にも見せてあげたかったですね」

 

清々したような顔で楓さんは話している。

 

「そこから、諏訪家を立て直すために奔走したものです。そうしていたら私もいい年になっていました。そこで出たのがお家問題。諏訪家が無くなるのは、ここまで支えてくれた多くの仲間に申し訳なく思っていました。しかし、私の愛した人は貴方だけ…そこで養子縁組の選択をしたのです」

「この事を知っているのは?」

「養子縁組で諏訪家に入った息子と諏訪家を支えてくれている上層部の者達ですね。桜や桜の母親には、私の夫は大分昔に亡くなったと伝えています」

 

衝撃すぎる話だ。というか聞いてて良かったのだろうかと今更思ってしまった。

僕の隣の桜は、下を向いてしまっている。

 

「それでも……桜は私の大切な、可愛い孫であることには変わりありませんよ。血の繋がりなど、どうということはありません。あの娘には私と違い自由に生きてほしい。諏訪家というしがらみなど気にせず、自ら愛した人と結ばれてほしい、と願うばかりです。まあ、和義さんの心を射止めて諏訪家に婿養子として来てくれるのが一番ですけどね」

 

ふふふ、と笑いながら楓さんは言う。

 

お婆様……ひっく…

 

泣いてしまった桜を抱き寄せると、僕の胸に顔を押しつけてきた。

僕は、一花と四葉に帰り道の方を指差しながら帰ろうとジェスチャーした。

二人も納得して頷いてくれたので、泣いている桜を連れ旅館に帰ることにした。

 

------------------------------------------------

その日の夜。

 

あの後は桜が泣き止むのを待ってから旅館に戻った。

あのまま帰ってると何言われるか分からなかったからだ。

そして、あの場で聞いたことは自分達の胸にしまっておくことで結論付いた。

 

「何を今更仏壇に手を合わせているんだ?」

 

お祖父さんの部屋に来て、零奈(れな)さんの写真が飾ってある仏壇に手を合わせていたら、お祖父さんにそうツッコミを受けた。

 

「良いじゃないですか?仮に零奈の中に零奈(れな)さんがいたとしてもね。大事なことだと思いますよ」

「そうか……それで?何か話があって来たのだろう?」

 

お茶を入れて僕の前に出しながらそう切り出した。

 

「最初に謝ります。すみません」

「?なんの事だ?」

「今朝、防波堤でお祖父さんと楓さんが話しているのを目撃しました。以前から知り合いのように話していたので気になってしまい……」

「盗み聞きをしたと…」

「はい」

 

ズズズ…

 

「で?誰と何を聞いた?」

「一緒にいたのは、一花と四葉。後、桜です」

「あいつの孫娘か…」

「はい。それで聞いた内容は……」

 

仏壇にある零奈(れな)さんの写真を見ながら、

 

零奈(れな)さんの母親が楓さんであること。そして……楓さんと桜は血の繋がりがないこと…」

「ふぅぅ…ほぼ全てだな。言っとくが、後者は儂も知らんかったからな?」

「ええ、分かっていますよ」

 

そして、また一口お茶を飲んだお祖父さんは語りだした。

 

「儂はあいつの家、諏訪家に使用人として働いていた。あいつとは年も近いこともあり、主人の娘と使用人という間柄でありながら仲良くしていた。若い男女だ、しばらくすると恋仲になってしまっていた……その事があいつの両親にばれそうになってな、儂は一人屋敷から出ようと決心したんだ。だが……」

「楓さんが付いてきた?」

「ああ…あいつは昔から勘が良くてな…夜中に人知れず屋敷を出て駅に向かうと、大きな荷物を持って佇んでいた…儂は自分の目を疑ったよ」

 

笑みを浮かべながらも、お祖父さんは話を続ける。

 

「もちろん最初は帰るように言ったぞ。今ならまだ間に合うとな。だが、あいつは妙なところで頑固だからな…」

 

その気持ち何となく分かるかも。

 

「結局、儂の言うことを聞かずに二人で出ていったのだ」

「おー、駆け落ちってやつですね」

「ふん、良いことなどではないわい。分かってると思うがやるなよ?」

「やりませんって…」

 

まあ、ロマンチックと感じるだろう人物が一人だけ思い付くが…

 

「それからが大変だった…あいつは機転を利かせてお金をある程度持ってきていたが、それも減る一方…何とか儂が職を見つけても、元の生活とは遠く及ばずな貧乏生活だったよ」

 

懐かしそうに話すお祖父さんの顔には少しだけ笑みも見えたように思える。

 

「だが、あいつはいつも笑っていたよ。儂と一緒にいれば十分とね……そんな時だよ、零奈(れな)が生まれたのは…」

 

そこで仏壇にある、零奈(れな)さんの写真をお祖父さんは眺めた。

 

「ふっ…あの時が一番幸せだったのかもしれんな……まあ、そんな幸せも長くは続かんかったがな。諏訪家の追手が来てしまった……儂が零奈(れな)と一緒に家から出ていた時を狙って、あいつを連れていってしまったのだ。儂らはどこかで追手は来ないと思い込んでしまっていたんだろうな……」

 

お祖父さんは少しだけ天井を仰ぎ、染々と呟いた。

 

「帰ったところに手紙が置いてあった……この旅館を与えること。そして、二度と自分達の前に儂と忌み子、すなわち零奈(れな)の二人の姿を見せないこと、がな」

「そんな…そこまで…」

「そういう風習を重んじる家だったんだよ」

 

そこでお祖父さんはお茶を口に含んだ。

 

「ふぅぅ…儂から話せるのはここまでだ」

「零奈は自分のお母さんの事は……」

「知らんよ。生まれてすぐに亡くなった、と伝えているからな」

「そうですか…」

「この事を零奈(れな)に伝えるかはお前に任せよう」

「!?僕ですか?」

「ああ…零奈(れな)に話すも良し、お前の心に留めるも良し。好きにするがいい」

「楓さんに零奈の事を話すのは?」

「そこも好きにするといい。あいつが信じるかは知らんがな」

 

そこでまたお祖父さんは自分のお茶を飲みだした。それに僕も続く。

僕はどうしたら良いのだろうか…

 

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~楓の部屋~

 

和義がお祖父さんと話をしている時、楓は自分の部屋で月を見ながら花を生けていた。

 

「失礼いたします。夜分遅くに申し訳ありません。お時間よろしいでしょうか?」

 

桜が開いている襖から姿を出さず、部屋への入室の許可を求めた。

 

「桜ですか。構いませんよ、どうぞ」

「ありがとうございます」

 

楓からの許可をもらった桜は姿を表し、部屋に入る前に正座のまま三つ指をつき深々と頭を下げた。

 

「…?どうしたのですか?そこまで畏まるなんて、何かありましたか?」

 

桜は頭を下げたまま口を開いた。

 

「無礼を働いたことに対するお詫びでございます」

「無礼?」

 

何の事を言っているのかが分からない楓は、生け花を続けながら桜に質問をした。

 

「はい…………今朝、中野さんのお祖父さんとお二人でお話しをされていたところに遭遇しまして、会話を遠くから聞いておりました」

 

パチンッ

 

桜の言葉に驚いた楓は、本来切る場所でない部分を切ってしまったため、ハサミと花を置いて桜を見ている。

 

「そうですか…迂闊でしたね。あの人に会えたことでやはり少し舞い上がっていたのかもしれませんね……桜、顔をあげなさい」

 

怒られると思っていた桜であったが、楓の声からはどこか優しさを感じた。

そして、顔をあげ楓の方を見ると少し申し訳なさそうな顔がそこにあったのだ。

 

「お婆様…」

「それで?何を聞いたのですか?」

「……中野さん達のお母様零奈(れな)さんがお婆様の娘であること。後は………(わたくし)がお婆様と血の繋がりがない…ことです」

「ほとんどですね。桜以外に誰かいましたか?」

「和義さんと一花さん、それに四葉さんです」

「和義さんにも知られてしまいましたか……桜こちらに」

 

楓は自分のすぐ横の床をポンポンと叩きながら桜を誘う。

桜はそれに従い楓のすぐそばまで向かった。すると…

 

「お、お婆様!?」

「ふふっ、良いではないですか。たまには…」

 

楓は近づいてきた桜の頭を自分の膝に持ってきた。所謂膝枕の状態である。

 

「桜の髪は綺麗ですね。サラサラもしています」

「うー…恥ずかしいです」

「和義さんにも同じようにしてあげたらどうです?きっと喜びますよ」

「本当ですか!?」

「ええ。ふふっ、本当に和義さんが好きなのですね」

「はい。例え選ばれなくとも、この気持ちに変わりは無いでしょう」

「そこまで…」

「お婆様は中野さん達にご自身でお伝えしないのですか?自分が祖母であるということを」

「……そうですね。あなたとは逆ですね。血の繋がりがあるのに書類上は血縁関係ではない…家族とは何なのでしょう」

「お婆様………っ。あの、今日は一緒に寝ては駄目ですか?」

「あらあら、今日は甘えん坊ですね」

「やはり駄目でしょうか?」

「ふふっ、構いませんよ。何でしたら、一緒のお布団で寝ましょうか?」

「ありがとうございます!」

 

ニコニコしながら答える桜の顔を見ると、楓は嬉しく思えくるのだった。

 

------------------------------------------------

「板長、こちらの味見をお願いします!」

「……うん、問題ないね。和義君、今後は確認しなくて良いから、自身持って料理を出しなさい」

「はい!ありがとうございます」

「二乃君、和義君の料理が出来るよ?デザートの準備は?」

「今進めてます!」

「三玖!悪いけど、皿がそろそろ尽きそう。一花の皿洗いの手伝いお願い!」

「わ、分かった…!」

「ごめんね三玖...」

「問題ない」

 

この日は急な団体さんが入ったため、風太郎だけではなく五つ子や桜、零奈にらいはちゃんまでフル稼働で対応をしている。

 

「ビール瓶お持ちしました!」

「ぜぇ...ぜぇ...こんなに重いなんてな...」

「お前は本当に体力がないのう...」

 

そこに風太郎と四葉がビール瓶を1ケースごとに持ってきた。

風太郎が疲れ果てている姿を見て、お祖父さんが呆れている。

 

「サンキュー、風太郎に四葉。五月、先に団体さんの方にビール追加をお願い」

「え?しかし、個人ではありますが新たに追加で来られた方に持って行った方がいいのではないですか?」

「大丈夫。団体の方はピッチが早いからね。そっちを早く持っていかないと。桜、お通しを何品か作っといたからこれを個人のお客様の方にビール1本と一緒に持って行って」

「もう用意していらっしゃったのですね。分かりました、お任せを」

「四葉はこのまま五月の手伝いをお願い」

「わっかりました!」

「あ、走っちゃ駄目だよ?」

「う、了解です...」

「風太郎はもう1ケースビール瓶持ってきて」

「りょ、了解だ...」

 

一人一人に指示を出していく。皆中々動けていると思う。

 

「風太郎。それが終わったら、零奈とらいはちゃんの手伝いがあるんだから、休んでる暇ないよ」

「お前は鬼か!」

 

風太郎はそう文句を言いながらもビール瓶が置かれている倉庫に向かった。

ちなみに零奈とらいはちゃんには、他の中居さんの手伝いとして布団を敷く作業をしてもらってる。二人は家でもやっている事だから、このくらいなら大丈夫だろうと指示をしておいた。

零奈に至っては昔手伝っていたそうだから尚更だ。

 

兎にも角にも、何とか窮地は乗り越えられたのだった。

 

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「はぁぁ…」

 

まったく、あの娘達がいると濃い毎日を送ることになるねぇ。

その日の夜、一人考え事をしたくていつもの屋根の上に来て夜空を眺めていた。

月も綺麗に見え、星もキラキラと輝いている。

 

「お前に任せるって言われてもなぁ…」

 

あの日、お祖父さんから聞いた話を結局まだ零奈には言えていない。五つ子を見る限りだと、一花と四葉も他の姉妹には言っていないようだ。

 

「どうしたもんかねぇ...」

「何が?」

「おわっ...!」

 

急に横から声をかけられたので、ビックリして危うく屋根から落ちそうになってしまった。

 

「一花!?心臓に悪いよぉ...」

「ふふん。前に私もやられたからね、お返しだよ。隣良いかな?」

「どうぞどうぞ」

 

『ありがと』と言いながら僕のすぐ横に座った。

 

「はいこれ、サービスだよ」

「さっすが一花。気が利くねぇ」

 

一花から差し出されたお茶を受け取ってそれをそのまますぐに飲みだした。

 

「夜とはいえまだ夏だから冷たいお茶は助かるよ」

「それは良かったよ。それで何に悩んでるの?」

 

回りくどく言っても無駄だと悟った一花は直球で聞いてきた。

 

「あー......ほらこの間防波堤でお祖父さんと楓さんが話してた内容。あの後お祖父さんと話す機会があったから、その時に零奈に話すかはお前に任せるって言われてさ...」

「なるほどねぇ...私と四葉も他のみんなに伝えるか迷ってるよ。まさか、桜ちゃんのお祖母さんが私たちのおばあちゃんだったなんてねぇ」

「「うーん...」」

 

二人腕を組んで唸っている。

 

「......でも、私は話してもいいかなって思ってるんだ。姉妹間で共有しておきたいし、ね...」

「そうだよね......うん、僕も零奈に話してみるよ」

「うんうん。うーーん、やっぱりこっちの星空はキレイだね」

「ああ。一花と前に話した時に気に入っちゃって、一人で頑張ってた時は良くここにきて夜空を見上げてたんだ」

「そっかそっか...」

 

一花は体操座りで膝の上に自分の顔を置き満足そうに答えた。

 

「ねぇ……カズヨシ君はもう決めた?」

「ん?何を?」

「…………誰が一番好きか、だよ」

「!」

 

一花の急な問いかけにビックリしてしまった。

 

「何で急に?」

「うーん……本当はもうちょっと早めに相談しようと思ってたんだけど…私ね、女優の仕事を本格的にしていこうと思ってるんだ。だからね、この夏休みで自分の気持ちに決着つけようと思ってるんだよ」

「それって……学校を辞めるってこと?」

「うーん…どうだろう……もしかしたら、辞めなくちゃいけないかもね…」

「そうか…」

「だから私は決めたの!どっちと付き合いたいのか!カズヨシ君は?どう?」

「そう…だね…………うん、実は決めてる…」

「え!?」

 

僕の言葉に驚きの顔をしている。

 

「何で一花が驚いてるのさ...」

「いやー...まさか、カズヨシ君からそんな言葉が出てくるなんて思ってなくってさぁ」

「じゃあなぜ聞いた...」

「あはは、ごめんって。そっかぁ...決めてたんだぁ............じゃあさ、ここでお互い言わない?それぞれの好きな人」

「は!?」

「せーの、で言うの。ふふふ、何か楽しそうじゃん?」

「いやいや、そんな事したらお互いここで振られるかもしれないんだよ!?」

「へ?」

「へ?じゃないって。だってそうでしょ?僕が一花の名前を言って、一花が風太郎の名前を言えば、そこで僕は振られるわけだし。逆だってそうだよ」

「私がカズヨシ君の名前を言って、カズヨシ君が他の子の名前を言えば私が振られるか...」

「そうだよ!」

 

まったく何を言い出すんだか。てか、この提案をしている時点で、一花の好きな人分かりきってるもんじゃん。

 

そっか私が選ばれる可能性もあったんだ...

「一花?」

「ううん。何でもないよ......でもいいじゃん、何かスリルがあってさ」

「あのねぇ...」

「よし!じゃあいくよぉ。せーので言うんだからね?」

「言う前提で話進んでる!?」

「ほらほらいくよ!せーの...!」

「「............」」

 

そして、一花の強引な流れでお互いの選んだ人の名前を言うのだった。

 

 




五つ子のお祖父さんと楓が昔は夫婦だった!?
しかも、楓が零奈(れな)の実のお母さん。

オリジナル展開で書かせていただきました。
僕は五つ子のおばあちゃんの存在を確認できなかったのですが、もしいたら本当にすみません。
更なる衝撃は、桜と楓の間に血の繋がりがないということでしょうか。
しかし、この二人については問題ないみたいですね。更なる心の繋がりを持てたように思えます。

さあ、いよいよ和義が一人を選びます。果たして誰を選ぶのか!
本来は、原作と同じく文化祭で選ぶ予定ではあったのですが、あまりに待たせているかなと思ったので、一花が女優業に集中するこの時期にしてみました。

それでは、また次回のお話までお待ちいただければと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
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