五等分の奇跡   作:吉月和玖

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98.パンケーキ

『皆さまお疲れ様でした。これにて旭高校学園祭二日目を終了とします』

 

パチパチパチ……

 

「やべぇ~~お客さん多すぎだろぉ~~」

「もしかして、最優秀売り上げ本気でいけるんじゃない?」

 

 

二日目が終わりを迎える放送が流れている中、クラスメイト達が忙しさからの疲れとは裏腹に興奮しながら話している。

ふと、パンケーキを焼いていた二乃の方を見ると、ぼーっとしながらパンケーキを焼いている姿があった。

焼きそば側は他の人に片付けを任せて二乃に声をかけた。

 

「二乃。終わったよ」

「え、あ……」

 

僕が声をかけた事で二日目の終わりに気づいたようだ。

 

「ご、ごめんなさい。すぐ片付けるわ」

「いいって。それまで焼いちゃいな」

「うん……」

 

ジュウウウ……

 

「お父さんの事やっぱり気になる?」

「!……もういいわよ。招待状読んだのにパパは来なかった。つまり、私たちのことなんか微塵も考えてないのよ。学園祭は明日もあるけどもう嫌よ。どうせ叶わないのなら、望んだことすら後悔しそうだわ」

 

フライ返しをぎゅっと握りしめながら言葉を吐き捨てる。

 

「僕は…君たちの家族の事をそこまで知らない。分かっているのは普通の親子関係とは違うってことだけ」

 

二乃の握っているフライ返しを手に取り、代わりにホットプレート上のパンケーキをひっくり返しながら話す。

 

「だけどね......僕や風太郎に対する警戒心はめちゃくちゃ怖いんだよ?僕は、両親に中野さんがお世話になったって事で、多少の信頼があるみたいだけど。風太郎に対する警戒は半端ないからね...風太郎怖がってるし...」

「......」

「だけど、その時の中野さんの目を見るたびに思うんだ。あれが父親の目なんだろうって。あんなの君達への愛情がなければできないよ、きっとね」

 

そこでパンケーキが焼き上がったので皿に移し余ってたソースをかける。

 

「丁度余ったから誰か食べていいよ!」

「え...やったー!直江君の焼いたパンケーキだー!」

「あ、私も食べたーい!」

 

差し出した皿は女子達の手で持っていかれた。処分しなくて良かった。

 

「......だからね、僕は常々思っている訳ですよ。君達は本当に面倒くさい、てね」

「...っ!」

 

たたた......

 

「おーい、直江君!」

 

そんな時、放送部の椿さんがタブレットを持って走ってきた。

 

「例の人見つけたよ」

「?」

 

僕達に近づいた椿さんはタブレットを操作しながらそう呟くも、二乃には何を言っているのか分からないようだ。

 

「テープ見直したら、君が探してた特徴と一致する人がいてさ。もしかしたらと思ったんだけど」

「本当に!?さすがー♪............!二乃これを。頭から流すよ」

 

タブレットには、椿さんが中野さんに丁度インタビューをしようとしている動画が流れている。

 

『どうもー、日の出祭楽しんでますかー?』

『なんだい、君たちは?』

 

「パパ...?」

 

『突然すみません、放送部です。保護者の方ですか?シュッとしてますね!』

『おや、職場から電話だ。すまない、失礼するよ』

『そんな~~』

 

携帯に目を落とし、離れていく中野さんを悔しそうに見ている椿さんの姿が映ったところで動画は終了した。

 

「どう?これだけなんだけど...」

「問題なし!ありがとね、すっごく助かったよ。さて、やっぱり来てたんだね。勇也さんの言ってた通りか」

 

そこでポケットの中からある鍵を出して二乃に見せながら聞いてみる。

 

「どうする二乃?」

「それは?」

「今日はたまたまバイクで来てたんだよねぇ。備えあれば患いなし、てね」

「......カズ君...パパの所へ連れてって!」

「ふっ、そうこなくっちゃ!」

 

・・・・・

 

ゴォォォォ......

 

二乃にお願いされてすぐさま準備して、バイクで今病院に向かっている。

 

「そうよね。何、弱気になってたのかしら。押しても引いても手応えがなくても...さらに攻めるのが私だわ」

 

ブォォォ......

 

そんな二乃の言葉を受けながらバイクを走らせた。

 

・・・・・

 

ガチャ

 

院長室で二乃がパンケーキを焼いてるのを横で見ていると、中野さんが入ってきた。

 

「どうも。お邪魔してます」

 

入館証を見せながらそう挨拶をする。

 

「......暗くなる前に帰りたまえ」

「待って、もうすぐ焼けるから」

 

ジュゥゥ......

 

「......」

「まあまあ、少しでも食べてあげてくださいよ。学校に来てたのは知ってますよ」

 

そう伝えると二乃が焼いているパンケーキをじっと見つめている。

何か思うところがあるのだろうか。

そんな風に考えていると、丁度焼き上がったようだ。

 

「この生地、三玖が作ったのよ」

 

焼き上がったパンケーキにバターだけを載せたお皿を差し出しながら二乃は言う。

 

「あんな料理が下手っぴだったあの子が、目指すものを見つけて頑張ってる。三玖だけじゃない。私たち五人全員、あの頃よりもずっと大きくなったわ。その成長をそばで見ていてほしいの、お父さん」

 

二乃の真摯な気持ちを受け止めたのか、中野さんはパンケーキを食べだした。

しかし、ポーカーフェイスにもほどがある。その顔は美味しいのか、美味しくないのか...

 

「この味...君たちは逃げずに向き合ってきたんだね」

「え?どういう......」

「それにしても量が多いな。僕一人では食べられそうにない。次は家族全員で食べよう」

 

その言葉に二乃は泣きそうな顔で喜んでいる。

 

「きゅ、急に何よ!...でも、みんなきっと喜ぶわ...」

 

まったく二乃も素直じゃないんだから。さて、お邪魔虫はここいらでお暇しますか。

 

「よかったね二乃。じゃあ、僕はこの辺で...」

「待ちたまえ直江君」

 

立ち上がった僕を中野さんが呼び止める。

 

「これは君の計画かい?」

「計画だなんて...ただ彼女の背中を押してあげただけですよ」

「そう。彼がいなかったら私はここに来なかった。彼に連れてきてもらったの」

「それは...どうだろう。いくらなんでも家庭教師としての範疇を超えていると思うのだが?君は一花君と付き合っていると報告を受けている。まさか二乃君ともということはないだろうね?」

 

この親バカめー!

 

「あるわけないじゃないですか......一花さんが大切に想っている家族であれば、僕にとっても大切な人達です。なら、放ってはおけませんよ」

「そうか......私にはできなかったことだ。君に家庭教師を頼み、一花君の彼氏でいてくれて良かったと心から思う。不出来だが親として、これからも君が娘たちとの関係を真剣に考えてくれることを願う。上杉君にも伝えてくれ」

 

そんな中野さんの言葉を受け院長室を後にした。

 

駐輪場で二乃を待っていると、荷物を持った二乃がやってきた。

荷物の事を考えると残ってた方が良かったかな。

 

「お待たせ」

「ああ。お父さんとは話せた?」

「ちょっとだけね。すぐにまたお仕事が増えたみたいだから...」

「そっか」

「それでも、こうやって面と向かって話せる日が来るなんて思わなかった。カズ君、今日はありがとね。それに...今までも...」

「どうってことないさ。さ、帰ろうか」

 

二乃から預かった荷物をバイクの後ろに括り付けた後二乃の方を向く。

その二乃は下を向いて何か考えているようだ。

 

「二乃?」

「先に謝っておくわ。ごめん」

「は?」

 

二乃の言っている意味が分からなかったが次の瞬間。

 

チュッ

 

「ん...!」

 

二乃の唇で僕の口が塞がれた。

 

「に、二乃!?」

「言ったでしょ。先に謝っておくって...」

「それはそうだけど...」

「大丈夫。これをきっかけにやっぱり私と付き合ってなんて言わないから。これからも一花と仲良くしてあげて」

「二乃...」

「これは今までのお礼とカズ君が好きだって気持ちは変わらないって意味のキス。それに前にも言ったでしょ、努々油断しないようにって」

 

自分の唇に人差し指を当ててウィンクしながら言ってくる二乃。

 

「いや、言ったけども...」

「さ、帰りましょ!夕飯の準備しなくっちゃっ」

 

はぁぁ...すみません中野さん。この娘達との関係は真剣に考えているのですが、この娘達の考えには付いて行けそうにないかもです。

心の中でそんな風に嘆きながら、後ろに二乃を乗せてバイクを走らせるのだった。

 


~院長室~

 

和義と二乃が院長室から出ていった後、マルオは仕事をしながら昔のことを思い出していた。

 

『パンケーキ...ですか?』

『えっと、意外に安く作れて、娘たちも喜んでくれるのです。最後に作ってあげたかった...』

 

それは生前の零奈(れな)がこの病院に入院しており、その担当医としてマルオが付いていた頃。

 

『最後なんて...そんなことありませんよ』

『中野君。あなたには感謝してもしきれないわ。でも、これ以上あなたの貴重な時間を余命僅かな私に注ぐことはしないで』

『余命だなんて、そんなこと言わないでください。零奈(れな)先生は僕の恩師ですから』

 

零奈(れな)に優しい笑顔を向けながらマルオは自身の言葉を伝える。

 

『先生だなんて...もう何年前のことでしょう。君は生徒会長。そして、私のファンクラブ会長を見事勤めあげていましたね』

『そ、そのことは忘れてください』

 

零奈(れな)の言葉に珍しくマルオは焦っている。

 

『一分一秒でも長く生きていただきたい。僕がしたくてしていることです。あなたがいなくなったら娘さんたちも悲しみます』

 

顔を赤くしてマルオは零奈(れな)に伝える。

 

『そうですね。あの子たちだけが心残りです。まだ小さなあの子たちの成長を見届けることが私の使命...ありがとうございます、中野君。もう少しだけ甘えさせていただきます。退院した際はぜひご馳走させてください。パンケーキ、君も気に入ってくれると思いますよ』

 

少し頬を紅くして微笑みながら伝える零奈(れな)

この時の顔をマルオは忘れることはない。

 

(あの頃は本当に楽しかった......彼女の前では自身をさらけ出すことも出来ていた。しかし......)

 

今では零奈(れな)に向けていた表情を、彼女の残した娘たちにすら向けられていない。

 

(僕は彼女たちから距離を置くことで、受け入れがたいあの人の死を避けていたのかもしれない)

 

その時マルオは、夏休みに電話越しに零奈に言われた言葉をふと思い出した。

 

『君なら大丈夫。きっとその悲しみを自力で乗り越えられるでしょう。娘たちも君が向き合ってくれるのを待っていますよ』

 

(ふっ...申し訳ありません、零奈(れな)先生。あなたは僕が自身の力で乗り越えられると言いましたが、あなたの娘さんたちが歩み寄ってきてくれたおかげで、ようやく壁に手をかけることが出来ました。でも安心してください。この手を離すことは今後ありません。見ていてください、僕が乗り越えるところを。出来る事なら......僕の近くで...)

 

マルオは仕事中のペンを机の上に置き、椅子から立ち上がり窓際へと歩いていく。

夜空に輝く月と星を見上げながら、零奈(れな)によく向けていた笑みを零すのだった。

 


夕飯の後に部屋で勉強をしていると携帯に着信が入った。どうやら電話のようだ。

 

『やっほー、こんばんは』

「どうした一花?」

『うーん?ただ声が聞きたいなって思っただけ。カズヨシ君は何してたの?忙しかった?」

「いや、勉強してただけだよ」

『うへぇ~、進学しないことに決めたのによくやるなぁ~』

「まあ日課みたいなものだからね。一花はちゃんと課題やってる?」

『やってるよぉ。今もやっててその気分転換に電話したの』

「それは、次に勉強を見るときが楽しみだね」

『うっ...そ、それよりさ。今日は何もなかったの?』

「え?」

『えって。学園祭二日目。何もなかったの?』

「えーっと...」

 

さすがに二乃にキスされたことは黙ってた方が良いよね。まさか二乃から聞いて確認のために連絡してきたとか...

 

『どうしたのさ、どもっちゃって?......何かあったね?』

「えーっと、小学校の時の同級生が遊びに来てて、偶然そこで桜も含めて全員集合してたんだよね、一花と風太郎以外」

『えぇーーー!ずるいよ、そんなの!カズヨシ君の小学生時代の話とか聞きたかったぁ』

「そんな大したことはないよ。知りたかったら、他の姉妹に聞きな。僕からは言わないから」

『ちぇー、いいじゃん教えてくれたってさ』

「本当に面白くない話だしね......後は、二乃と中野さんに会いに行ってきたよ」

『え、お父さんの所に?』

「ああ。放送部の人に協力してもらって、中野さんが学校に来てることが分かったんだ。ただ、病院に呼び出されたみたいですぐに帰ったんだけどね」

『そうだったんだ』

 

あの後二乃から聞いた話だと、入院している患者の容体が急変したためにマルオさんは病院に急遽戻る事になったそうだ。

 

「少しは前進出来たと思うよ」

『そっか。ありがとカズヨシ君。昨日、私がお願いしたことをちゃんと守ってくれてたんだね』

「ま、まあね...」

 

やりすぎないようにって言われたけど、キスは絶対やりすぎに入るよね…

 

『………』

「?一花?何かあったの?」

『うん……これ以上カズヨシ君に頼み事をするのも悪いとは思ってるんだけど…実は五月ちゃんの事で…』

「五月…二乃からも言われたけど、一花から見てもヤバそう?」

『そっか、二乃が…うん、実は今日帰ってからまだ会えてなくって…帰ってからずっと部屋にこもってるみたいなの』

「なるほど。それで今日何かあったか聞いてきたわけだ」

『うん…』

 

やはり無堂先生と接触して何か言われたか?

でも、僕が大丈夫か聞いても問題ないとしか返ってこないし…

 

『カズヨシ君?』

「ああ、ごめん………一花はさ、昨日僕が勇也さんと話してたの覚えてる?」

『え?あの、今は言えないって言ってたやつ?』

「そう、それ。実は、一花達の元父親がこの町に来てるんだよ」

『嘘...』

「それで勇也さんと協力して、一花達姉妹と接触しないように水面下で動いてたんだ」

『それはまた...』

「そして、その男が五月と接触した可能性がある」

『そんな…なんで…』

「とりあえず明日僕からもう一度声をかけてみるよ」

『お願い。私も午後からオフだから学校に向かうね』

「ああ。じゃあおやすみ」

『うん。おやすみなさい』

 

そこで一花との電話が終わる。

五月。何を言われたか知らないけど、自分の気持ちを強く持って。

窓から見える月を見上げながらそう心の中で思うのだった。

 


日の出祭最終日の朝を迎えた。

直江家の朝はいつも通り、僕が朝食を作りその補助に零奈が入っていた。

いつもと変わらない朝。けど、テーブルについている父さんも母さんもどこか落ち着かない様子である。

そんな時、零奈からお願いをされた。

 

「兄さん、お願いがあります。今日一日、兄さんと一緒にいてもいいでしょうか?」

「え?でも...今日は母さんと一緒にいるんじゃないの?」

「兄さんは五月と話すのですよね?おそらく無堂先生と接触をしたであろうから」

「なんでそれを!?」

「私も五月と話すために連れて行ってほしいのです。お願いします」

 

僕に対して零奈は頭を下げながらお願いをしてくる。本気のようだ。

 

「はぁぁ...分かったよ。学校に来たら一直線に屋台まで来な。僕はそこで待ってるから」

「ありがとうございます!母さんにも相談してみます」

 

配膳のために料理を持って、父さんと母さんのところに零奈は向かった。

五月と話すとなると、無堂先生とも接触する可能性が高まる。それを知ってのお願いなのだろう。

五月の事もそうだが、零奈の事も守ってあげないと。

その思いを胸に学校に向かう準備に取り掛かった。

 

 




学園祭での二乃の一番の見せ場を書かせていただきました。
ここは映画で観ても感動した場面です。

そして、最後まで迷ったのですが、二乃が和義にキスをしてしまいました。
ここから修羅場突入は特に考えていないのであしからず。

さて、次回はいよいよ最終日の山場に突入です。
また読んでいただければ幸いです。

今後ともよろしくお願いいたします。

外伝的に他のヒロインのお話も書いた方が良いでしょうか?

  • 外伝はいらない
  • 二乃
  • 三玖
  • 四葉
  • 五月
  • 零奈
  • ハーレム
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