瞳を閉じぬ裁定者   作:レガシィ

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最後のほうを見返して納得できなかったので再掲です。
結果は変わっていないのでご安心を。


第十一話 蟲軍勢ガイナス③

 ビキキッ

 

 高位土魔法

 

大地の槍(ガイアランス)

 

 ズドンッ!! 

 

「おっとぉっ! 良いねぇ!! 魔力タップリなやつは大好きだぜぇ!!」

 

 カサカサカサカサカサカサッッ

 

(ゴキブリみたいなやつ、、、攻撃が当たらない)

 

 視界の端から端に移るような不規則な動き、魔法を撃っても撃ったあとから躱される、、、苛つくな。

 

 スキル 毒液 投射 

 

毒液噴射(アシッドブレス)!」 

 

 高位火魔法

 

火の壁(ファイアーウォール)

 

 ギュォォォッ

 

 自身の前方に横に長い火の壁を生成して攻撃を緩和し、回りの木々や薬草が燃えて煙を立てる。

 

 テミスの魔法の詠唱速度や威力ははレベルとしては最高峰だが、実戦経験が少なすぎる上、相手にしてきたのは賢者や龍、この手の手合はほぼ初見である。

 

「ギハハハッ!! 甘ぇなぁ!」

 

 ドゴォンッ!! 

 

 ガイナスの巨腕が地面を揺らし、テミスの姿勢が崩れる。その隙を逃さずガイナスはテミスに突進する。

 

 低位風魔法

 

 ボワンッ

 

弾く風(エアバウンド)

 

 宙に浮いて動けない間、自らに風を当てて突撃を躱し、即座に反撃の魔法を放つ。

 

 恵廷炎魔導

 

蛇炎(スネークフレイム)

 

 ボォォッッ!!! キシャァッ! 

 

「虫なら蛇に食べられてろ」

 

「!!」

 

 ガブゥッ!! ボッ、ォォォオオ!! 

 

「ウァァ!! アヂァァアヂィィ!」

 

 やっぱり多少強くても虫は虫。火の魔法に極端に弱い。あとはこのままつかず離れずの距離で炙ればおしまい。ディアナ達に助けを求める必要も無さそうだ。

 

 火だるまになったガイナスの様子を見て、作戦は決まり、別の魔法を撃とうとするが違和感に気がつき、警戒を走らせる。

 

 ゴォォォッッ、、、

 

「、、、、、、脱皮、、、?」

 

「半分正解ィッ!!」

 

 ガキィッ!! 

 

「ッ!!」

 

 万蟲進化(ガイナスエヴォリューション) 虹彩擬態形態(ニジイロクワガタ)

 

 見えない空間からの攻撃。ついにテミスの横腹に一撃が入る。

 

(痛、、、くはないな、あんまり)

 

(何だ今の感触、人間、、、?)

 

 ガイナスが攻撃したときの不審感、昆虫の角や針には基本的に痛みなどを感じる神経は無い。ガイナスは、自らの頭に生えた角が欠けていることに気付いていなかった。

 

「へぇ、擬態ってやつ? 姑息だね」

 

「ギハハ、俺は個体で進化する。この形態は熱を反射させて色合いを変えることができる! もうお前にゃ見えねぇぜ」

 

 ゆらゆらと空間が揺れている、存在はそこにいるにも関わらず感知しにくい。隠密魔法を目の前で使われている気分だ。

 

 ドガッ!! ガゴッボゴッ! 

 

「ほらほらどうしたぁ!? 防御すらできてねぇぞぉ!!」

 

 ギュゥゥゥンッ

 

「、、、、、、チッ」

 

 高位風魔法 台風刃(ストームブレード)

 

 ギュォォッ! ガガガガガッッ!! 

 

「俺の甲殻にゃ通らねぇぞぉ!!」

 

 塵や砂を超風速で巻き上げ自身からガイナスを引き剥がし、巻き上がる風の中心で賢者の仮面を頭に着けた。

 

(師匠、貴方の力を借ります)

 

 カチャッ、、、ギョロッ

 

 スキル 軟体 硬化 魔力操作 集中 龍眼 

 

 あらゆる属性の上位系統、恵廷魔導にも弱点は存在する。術式の難易度の高さは勿論、全ての魔導は使用者本人にも影響を及ぼす。

 

 炎を使えば自らが燃え、雷を使えば痺れて動けなくなる。それを打ち消す為に常に反属の魔法を使うか、それに対する耐性が必要なため、魔導とは熟練者しか使えぬ技術。

 

 テミスも例に漏れることはなく魔導を使う際は反属を使用して打ち消しているが、賢者の作った仮面はそのデメリットを完全に打ち消すものである。

 

 フワァッ

 

 風が止み、ガイナスは依然として姿を現さずに殺気だけをテミスにぶつける。テミスは賢者の教えを思い出し、即座に反撃できるように構える。

 

(擬態は完璧じゃない。正面から向かうバカはいない、となれば)

 

 、、、、、、サクッ

 

「もちろん後ろ」

 

 カクンッ、ブワァッ!! 

 

 無属性魔法 身体強化

 

 ガイナスの鎌はテミスが膝を抜いたことによって空を斬る。テミスの拳が角の間からガイナスの顔面を貫く。擬態は依然として続いたままでも、悶える様子は目に見える。

 

 バッギィィッ!! 

 

「ァァァ痛ッてぇぇ!!! このックソガキィ!!!」

 

 無属性魔法 身体強化

 

 スキル 連脚 打連 刺突 

 

 ドドドドッ!! パキャキャッ

 

(俺の甲殻を蹴りで貫いただと!?)

 

 ブブブブッッガシッ

 

 反撃に反応できず反撃を直に受ける。驚愕のあまりに咄嗟に翅を広げて後ろへ飛び、近くの木にしがみつく。

 

「なんだそれは、、、!」

 

 ガイナスが目にして驚いたのは、テミスの足先から生えるようにして伸びている白い槍のような剣のような刃が、足の中へと吸い込むようにしまわれる様子。

 

「なんだっていいでしょ」

 

(どこにしまっていやがった? バッグか?)

 

「ふふふ、どうしたの? 余裕の顔が崩れてるよ」

 

「クソガキ、、、!!」

 

 ガイナスの先程までの笑いは消え失せ、反対にテミスは煽るように薄く笑って見せる。

 

 ギギュゥゥンッ!! 

 

「!」

 

 テミスの手の甲が赤みを帯び、小さな火の玉が三つ回り始める。

 

 スキル 魔導の愛女(まどうのまじょ) 術式構築速度上昇  

 

 恵廷魔導 爆震球(ディトミネイト)

 

「私の魔法の中でも特に威力の高い魔法をたった今構築し終えた。持続時間は二分間で発射数は三発」

 

(どこまでも、、、!! 俺を煽って構築の時間を稼ぎやがった)

 

「二分だけ、私の相手になれ」

 

「一分で充分だクソガキィ!!!!!」

 

 万蟲進化 大黒盾形態(クロカタゾウムシ)

 

 ズンッ! 

 

 中位土水複合 

 

飲み込む泥沼(イートマッダー)

 

 ドプンッッッ

 

「そんなに重たい身体なら、簡単には抜け出せないだろうね」

 

 グググッッ

 

(俺の黒盾は超鋼鉄に匹敵する!! その拳、逆にブチ砕いてやる!!)

 

 全くもって馬鹿な虫。身を持って体感したのに、私の技を受け切るつもりでいる。

 

 無属性魔法 超身体強化(フルスロットル)

 

 スキル 軟体 硬化 魔力操作 剛打 集中

 

 恵廷炎魔導 爆震球(ディトミネイト)

 

超新星爆発(スーパーノヴァ)

 

 ダンッ! ボッゴォォォォンッッッッ!!! 

 

 テミスの拳が黒盾に当たった瞬間大爆発を引き起こす。本来の使い方からかけ離れた使い方だが、仮面に付随されたSS級爆発耐性のスキルによってテミスはほぼ無傷。

 

 土埃が舞い、テミスの前方が扇状に弾け飛び、ガイナスの自慢の装甲も粉々に砕け散っている。

 

(、、、!! 、、、ッ!!!)

 

(もう一発、、、)

 

 グググッ

 

(これ以上は喰らえねぇ!!)

 

 ドプンッ! ボォォォンッ!! 

 

 テミスの作った底なし沼に自ら沈んでテミスの攻撃を回避する。しかし、その沼は元々テミスが作り出したもの。当然のように追撃が始まる。

 

 恵廷炎、氷魔導

 

「出し惜しみは無し」

 

 灼炎の槍(サラマンドランス)

 

 ジョバッッッ!!! 

 

 泥を灼熱の槍が蒸発させながらガイナスへと進み、沼の中は熱湯のようにゴポゴポと煮えたつ。

 

 氷結の槍(フリージングランス)

 

 間髪入れずに超低温の槍を煮え立つ泥に氷の槍を撃ち込む。

 

 ドポポポンッ

 

 沸騰したお湯に氷を入れると内部との温度差で氷は爆ぜる。これだけの温度に極低温の槍。結果、内部で爆発する。

 

 ボォォォンッッ!!!! 

 

 泥が弾け、魔法の効力が切れる。

 

(でも所詮は自然現象の範疇。大したダメージにはなりえない)

 

 魔力探知 指定 昆虫モンスター

 

 キィンッ、、、

 

 一連の戦闘で覚えた奴の魔力を追う。どうやら泥に潜った後、土の中を穿孔して動き回っているようだ。

 

 クラッ

 

(しまった、、、大きな魔法を使いすぎた)

 

 恵廷魔導を今日だけで七発も放った。

 

 しかもそのどれもが環境を大きく変える程の威力を持つ魔法。撃ててあと一、ニ発がおそらく限度。

 

(まだまだ私も甘い、こんな初歩的なことに今更気付くなんて)

 

 スキル 軟体 硬化 魔力操作 集中 

 

 向こうもかなり限界のはず、爆震球もあと一発で一分。

 

 高位土魔法 地震(アースクエイク)

 

 グラグララッ!! 

 

 地面の中を直接揺する魔法、地面の中にいるモンスターはその地の変動に圧死するような圧迫感を味わう。これで、逃げや時間稼ぎの選択肢は消えた。

 

 ボコッズルルルッ!!! 

 

「!」

 

「クソガキャァ!!!」

 

 万蟲進化 土穿顎刃形態(トビズムカデ)

 

 ドドドドッ!!! ガチンッ! ギリギリギリッ、、、!! 

 

 テミスは顎刃に挟まれ強力な力で腹を掴まれる。

 

「ぐぁ、、、」

 

「真っ二つにしてやるよぉ!!!」

 

 バチンッ! 

 

 テミスの身体は真っ二つになる。しかし、それは幻覚、ガイナスが噛み千切ったのは木の幹。

 

 中位火水複合魔法 蜃気楼(ミラージュ)

 

「!!?」

 

「残念、これで最期だね」

 

 無属性魔法 超身体強化(フルスロットル) 

 

 スキル 軟体 硬化 魔力操作 剛打 集中

 

 魔導の愛女(まどうのまじょ)

 

 恵廷雷魔導 雷鳴球(ロアードーグ)

 

「オッオッォォォォオオオオオ!!!!」

 

 ガイナスは身体を縦に伸ばし、その長い身体の全容を現す。テミスは元々右手に生成していた爆震球に加えて雷の珠を生成する。

 

 バチバヂヂバヂヂッッッ!! 

 

 ゴォォォッッッ! 

 

「雷神」

 

 ドジャァンッッッゴォォンッッ!!! 

 

 ガイナスの身体は爆炎に飲まれ、頭とその付近だけがボトリと音を立ててテミスの目の前に落ちる。

 

「はい、、、私の勝ち」

 

 キュルルッ、、、ズッ、、、ズルルルルッッッ!! 

 

「な、わけねぇだろぉぉお!!!!」

 

 ムカデは節目ごとに神経が独立している虫であり、頭さえ残れば生存はギリギリ可能である。

 

 ガイナスの虫としてのしぶとさが発揮される。そして、テミスの魔力は殆ど底をついている。

 

 ガイナスは残った身体のパーツで最後の変態を遂げ、テミスへと襲いかかる。

 

 万蟲進化 惨殺鎌持形態(カマキリ)

 

 スキル 剛腕 鋭斬 連打

 

「細切れになれぇぇ!!!」

 

 グラッ、ガクンッ

 

 しかし、ガイナスは膝と突出した鎌を地面に着きガタガタと身体を震わせる。

 

(限界、、、!?)

 

「半分正解」

 

 テミスは燃えてチリヂリになった薬草を手にとって見せる。

 

「薬は転じて毒にもなる。特に、キガニ草は代表的な毒物。いかに弱いといえど、これだけの数が一斉に燃えた成分が染み込んだ沼に自分から潜っていったんだ。当然の結果」

 

(まさか、、、初めから、、、?)

 

 ガイナスは自らの行動とテミスの行動を振り返る。

 

 何度も派手な大技を使ったのは毒に意識を向けさせないため、魔法を連発したのもわざわざ時間制限や球数の制限を伝えたのも全て。

 

(俺は始めから、、、このガキの手の平の上で転がされてた、、、!?)

 

「ゴポッ」

 

 バチャッ

 

 ガイナスに毒が本格的に回り始め、口から血を吐き出す。しかし、テミスの余裕の笑みが、火のついた怒りに油を注ぐ。

 

「終わらねぇ、、、終わらねぇァァアア!!!!」

 

 ビキビキキッ! 

 

「ギルドのクソ飼い犬が!!駄犬なら牙を剥いて見ろやぁ!!!!」

 

 スキル 怪力 ド根性 激昂

 

 スキル 龍眼

 

 ブオンッ!! 

 

 ガイナスの決死の一撃はテミスに完全に見切られ、テミスの頭上を通過する。

 

 トンッ

 

 そしてテミスはガイナスの顎へと手を当て、掌から白い刃が飛び出して顎から頭上にかけてを貫いた。

 

 スキル 刺突 防御無視(ガードブレイク)

 

 一輪刺し

 

 ドヂュゥゥンッ!! 

 

「まぁ、牙っていうより爪だけどね」

 

 シュンッ

 

 神器 コノハナサクヤ

 

 金属そのものに流動性があり、特定の魔力周波に感応して身体に取り込むことができる。身体のあらゆる部分から白い刃を出すことができる。

 

 賢者の作った最高傑作にして、テミス専用の武器。

 

 ドスゥゥンッ、、、

 

「やっと終わった、、、」

 

 カチャッ

 

 仮面を外し、同じ様に腰にぶら下げる。

 

 結界の魔法も解除されてるから、これで皆と合流できる。もう魔力も空っぽ、流石にこれ以上の戦闘はしたくない。辺りが焦げた臭いと特有の死体の臭い、余韻が残ってる、気持ち悪い。

 

 私は寝転んで空を見上げる。

 

 途端に、警鐘が頭をうるさいくらいに鳴らした。

 

(!!)

 

 バッ! 

 

 メキッ、ズドォンッ! 

 

「ゲホッ、、、」

 

 テミスが跳び上がった瞬間、完全にノーガードの状態で横腹に一撃を食らい、離れた木へと叩きつけられる。

 

 テミスの視界に入ったのは、先程の緑黒い甲殻のモンスターではない、真っ白で虫特有の節がある手が脚を含めて四本。大きく真っ黒の瞳がテミスを見つめていた。

 

「あ~あ、、、やってくれやがって。俺の傑作達をことごとく、、、まぁ、その価値がある拾いもんだな」

 

 ガササッガサガサッボコボコォ、、、

 

「虫は一匹見たら百匹いると思えってなぁ!」

 

「おいおい、どうした俺ぇ。こんなガキに負けるとかよぉ!」

 

(4、8、、、12、、、15体、、、白いのは親玉、他の色が薄いのは栄養ってのが足りてない産まれたて? どちらにせよ分が悪い、ここは死んだふりで、、、)

 

「おい起きろ、あの程度で死ぬわけねぇだろ」

 

「、、、、、、」

 

「なにか策を考えてるつもりなら無駄だぜ。察しの通り、俺以外の俺は大した栄養も取ってない。数体ならなんとかなるかもしれない。が、あと何体いるかも分からねぇ俺を相手にするくらいなら死んだふりで逃げようって腹だろ」

 

 バレてる。そもそも奴なら私を食って栄養にするなりした方がいいに決まっている。だからこれはただの時間稼ぎだ。

 

 スキル 魔力回復速度上昇

 

(体力は二の次、今は魔力を、、、!)

 

 ドゴッ!! 

 

「ガハッッゴホッ!」

 

「ほ〜ら生きてた」

 

 腹に蹴りを入れ、テミスの生死を確認する。

 

「お前は強えよ? でもな、大敗を知らねぇやつはいつまで経っても半人前。自分が強い、最後は勝てるって信じて疑わねぇ」

 

 ガイナスはニヤニヤと笑いながらテミスを踏みつけにする。

 

「テメェのせいで計画が狂った。"傲慢"も取られ、俺の傑作達は尽く殺され、得たものは無い。そこで考えた。俺が今手に入れられるものってなんだろうってな」

 

 グイッ! 

 

 ガイナスは髪を掴み、テミスに顔を近づけてマジマジと見つめ、テミスに提案する。

 

 ガシッグググッ、、、!! 

 

「ふざけるな。触るな汚い、離せ」

 

「俺はお前を奴隷にすることにした。上質で大量の魔力を妊む女、身体も頑丈だし苗床にもちょうど良さげだ。大分疲弊しててタイミングもいい」

 

 ガンッガンッガンッガンッガンッ! 

 

「ギハハ! 無駄だ無駄だ! そんなヒョロっこい腕じゃ千年かかっても割れねぇよ」

 

 抵抗の為にテミスは髪を掴む腕を魔法も使わず非力な少女の力で殴り続ける。

 

「なんなら俺の部下でも構わねぇ、お前の身体の全てを貪ってやる。答えを聞いてやる。奴隷か、部下か、、、選べ!」

 

 低位火魔法 ファイア

 

 ボンッ

 

「誰がなるかこの害虫。お前なんかに私の髪の毛一本でもくれてやるもんか」

 

 ビキキッ! ブンッ! ドゴッ

 

「ガハッ!」

 

「じゃあ死ね! クソガキィ!!」

 

 術者の魔力が底をつくと魔法を使う時に本人の生命力まで削ることになる。

 

 この場を打開する唯一の術にして、テミスに残された最後の手段。

 

 スゥゥー

 

 龍帝魔導 幼龍の叫び(クライベイ)

 

「ッッッッ──ー!!!!!!」 

 

 キィィィィインンンンッ!!! 

 

(ッッッ!!コイツ!人間じゃねぇ、龍人かよ!!!)

 

 ザヮァッ!! 

 

 龍帝魔導は竜や龍の血を持つ者のみが使える大魔法。しかし、テミスが使えるのは成体になる前の龍だけが使えるもの。一、二秒程度のスタン(気絶)を付与するのみで攻撃性は皆無、では何をするための魔法なのか?

 

「ッ! 殺せ!! 今すぐだ!」

 

 ガイナスが命令した瞬間目に入ったのは、自分達の首が飛び、緑色の鮮血が舞う光景。

 

 幼龍の叫びは、親を呼ぶための子龍の最終防衛手段。

 

「よく頑張ったね、、、今回は相手も時期も悪かった。気に病むことはないよ」

 

 既に気絶しているテミスに優しく微笑むは、白と黒のローブを羽織った天秤の賢者。

 

 事態を把握できないガイナス。しかし虫の本能、魔物の生存本能が告げる。勝てる相手ではない。戦っていい相手ではない。逃げれる相手ではない。

 

 もっと恐ろしいのは、それすらも気づけないような覇気のなさ、心の奥で恐怖を理解してもガイナスは全く恐れていない。

 

(なんだコイツ、、、どこから現れた?)

 

「お──」

 

「許可なく喋るな、黙れ」

 

 ギロッ

 

 ガササッ!! 

 

「「「テミス!!」」」

 

 賢者の睨みでガイナスは黙り、直後に木の影から天冥一行が合流する。

 

「おや、、、ふむ、丁度いい。テミスを頼むよ」

 

 とさっ

 

「へっ?おっと」

 

 賢者は崩れてしまいそうな花を扱うかのように優しく、気絶したテミスをカトレアに受け渡す。

 

「待って、私も手伝う」

 

「いやいい。後ろの二人も疲れているようだし、早く街に戻りなさい」

 

 ガイナスは一歩も動けない。動けば死ぬような重圧、だというのに冷や汗の一つも出てこない。

 

「貴方は何者なんだ?」

 

「何者、ね、、、しがない森の引き篭もりかな」

 

「、、、行こう、ディアナ。その人、絶対にヤバい人」

 

「えぇ、早くこの場を離れましょう」

 

 カトレアがそう告げるとユーリも賛同する。ディアナはツクヨミを納め、渋々と従う。

 

 行き際に賢者は告げる。

 

「おっと、その子に私のことは内密で頼むよ。絶対にね」

 

「それって──」

 

 パチンッ、シュンッ

 

 賢者が指を鳴らした瞬間、四人は森の入り口に転移させられた。

 

「さて、待たせたね」

 

「ギハハ、おいおい、待ってやったのにお礼の──」

 

 ゾンッッ

 

「やはり害虫、人の言葉は解せないか」

 

 ガイナスの腕が賢者の指の一振りで転がり落ちる。

 

「アァッいっ──!!」

 

 ゴヂュッッ

 

「喋るなというのが聞こえないのか?痛みですら理解出来ないのか」

 

(さっきからなんだよコイツ! 魔法を使ってる気配すらねぇ!)

 

 スキル 術式構築省略 魔導の頂 気配鈍化 覇気鈍化 穏便  

 

「蝿が飛ぶような耳障りな音とゴミが腐ったような悪臭で、私の大事な弟子に触れるな」

 

 ザヮァッ

 

 森が泣く、賢者の怒りは自然を震わせる。

 

「一ヶ月の間に貴様のような輩に会うのはしばし予想外。物語や御伽話なら、君も私も出る幕には早すぎる」

 

「?意ーー」

 

 バゴォンッ

 

「だから喋るな。君に許可は与えてない」

 

 喋る瞬間に頭や口の中に見えない攻撃が加わり、強制的に中断させられる。

 

(ふざっけんなよこいつ、、、!! 油断した瞬間その頭食いちぎってやる、、、!!)

 

 一切の言動を禁止されたガイナスは立ち尽くす他ない、賢者は表情を変えることなく同じように無造作に立つ。

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい。そら、動いていいぞ」

 

 ビキバキキッ

 

 万蟲進化 全皇帝形態(ヤブキリ)

 

 真っ白の身体に手足からは鋭い棘が何本も長く伸び、顎はさらに強靭に、複眼は獲物を捉える目へと変化する。

 

 スキル 剛腕 顎力強化 絶対防御 吸魔 鉄牙

 

鬼罵伐(ほおばり)!!」

 

 ピンッ

 

「ゴハァッ!?」

 

「数十年ぶりの外。折角だ、体感させてやろう。魔導の頂を」

 

 スキル 詠唱省略 魔導の頂 術式構築高速化 

 

極醒大魔導(きょくせいだいまどう)、ホウライ」

 

 バララララララッッッ!! 

 

 ガイナスの攻撃を指先で弾き、直後に賢者は大魔法を高速で形成する。空間は歪み、死した生命達が復活する。テミスの魔法で絶えた草木は咲き乱れ、ガイナスの身体の傷も完全に癒える。

 

「、、、?」

 

「この森は新人達が育つための場であり、保護されるべき場所だ。君のような外来種が侵していい場所ではない」

 

 いつの間にか賢者の手には色鮮やかな宝石がついた枝が握られている。

 

(なんだか知らんが僥倖!!攻撃系じゃないならこっちの──)

 

 ドブヂュンッ!! 

 

 シャンッ

 

 枝を一振りすることでガイナスの頭に鉄の槍が数本刺さって即死する。しかしそれは、次の瞬間に全快する。

 

「ッはぁッ!?はぁっ、、、はぁっ、、、!?」

 

「一度目だな。それ、二度目だ」

 

 ゴジュンッ!!! 

 

 シャンッ

 

 ガイナスの身体は上からの超重力によってグチャグチャに潰れる。そして再び身体が再生される。

 

「この魔法の効果範囲にいるものは"死ねない"んだ。そして私が枝を振るたび、ランダムで魔法が発動して君を殺す」

 

「ふ、、、ふざけやがっー」

 

 シャンッ

 

 ゴォォッ!!! 

 

「ア"ァ"ァ"ア"ア"ッッッヅゥ"ゥ"ア"ァ"!!!」

 

「おぉ、炎か。虫にはよく刺さるな。さて、次は何が出るかな。あっと、そうそう、時間なら気にするな。この空間は外と隔絶されている。私の気が済むまでやろう」

 

(ふざけやがって! 殺す殺す殺す殺す!! 、、、この魔法が解けるまで! 耐えて見せる!!!)

 

 ──ー

 

 ドジュンッバゴンッメキョッゴジュンッグリュリュリュッッッ!!! グヂャッメシィッミキミキッボギュンッ

 

「五十回程か、、、反省したか?」

 

 賢者は魔法で生成した椅子に座りながら、地を這うガイナスを見下し、あえて問う。

 

「ごっ、、、ごめんなさ──」

 

 シャンッ、ズゴォンッ!! 

 

「喋るな。耳障りだ」

 

(殺してくれ、、、まともに死なせてくれ、、、)

 

 痛み程度ならまだしも、賢者は並行して恐怖心と痛覚過敏と悪夢のデバフをガイナスにかけ続けている。ガイナスには戦う気力も逃げる気力も、生きる気力さえない。

 

「、、、まぁ、こんなものだろう」

 

 パチンッ、シュルルルッ

 

「帰っていいぞ」

 

「、、、え?」

 

 賢者は一瞥し、それ以降振り返ることもなくガイナスを森に置き去る。

 

 、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、

 

 魔法が解け、拷問が終わる。暫くして、生物の生存本能。ガイナスの折れた心が、繋がる音がする。その矛先の向く先は賢者ではなく、先刻逆転の一手を打った魔導士、テミス。

 

 ビキキッ、、、

 

(いや違う、、、!! クソガキ、、、!! クソガキを、、、地の底まで追いかけてでも殺す!!!)

 

 ビギビギバギバギッッ

 

「万蟲──」

 

 進化しようとしたガイナスの甲殻が音を立ててひしゃげ、パンパンに膨らみ弾け飛ぶ。

 

「ア"ッア"ッァ"ァ"ア"ア!!!」

 

(毒!? いや! この感覚! この痛み!!)

 

「ふざける"な"ァ"ァ"ァ"!!!!」

 

 ゴリュンッッパァンッ!! 

 

 首がねじ切れ、首がなくなったガイナスの身体だけがその場に頓挫した。

 

「私がテミスを傷つけた下郎を逃すものか。お前には、せいぜい森の栄養がお似合いだ」

 

 賢者は森で木霊するガイナスの死の音を聞き、一人呟く。

 

 眠りの森に、静寂が訪れた。

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