瞳を閉じぬ裁定者   作:レガシィ

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第十二話 獅子の賢者

 ピーチチチ、、、

 

「、、、、、、!?」

 

 ガバッ! 

 

 小鳥の囀り、穏やかな陽気が差し込む窓。

 

 ギルドの一室でテミスは目を覚ました。

 

 ズキンッ

 

「ぅぐっ、、、いったぁ、、、」

 

 あの虫はどうなった? 状況からするに私は助かった? ディアナ達は? 異常にお腹が痛い。

 

「、、、直前の記憶が無い、、、魔力の枯渇で飛んだ?」

 

「んぅむ、、、」

 

 微かな吐息の音と右手に感じる温もり、嗅いだ覚えのある匂いがする。

 

 横を見るとスペルビアが私の手を握り、椅子に座って眠っていた。短い時間しか共にいなかったのに想像以上に懐かれたようだ。

 

(だんだん思い出してきた、、、)

 

 あの虫を倒したと思ったらもっと多くの虫が出てきて、それで、、、。

 

(、、、死にかけたのか、私)

 

 今更ながら恐怖がふつふつと湧いてくる。足先から頭の先までゆっくりと歩き抜けるように、それは私に生を実感させた。死にかけたことは過去にもある。でも、真の意味で命の危機だったのは今回が初めてだ。

 

 カタカタッ

 

(震えてる、、、?)

 

 私の左手はカタカタと震えていた。私は慢心していた。最後はどうにでもなると、結局は自分の方が強いと、私の予想を超えることは起きないだろうと。

 

 狭い世界の中で、本当の悪や恐怖を知らないクセに私は私を綺麗事で騙った。

 

「、、、、、、」

 

 何も考える気になれない。助けられた命は、もしかしたら今頃は既に無かったのかもしれない、反省すべき点や次に活かせる点はあるかもしれないけれど、何も考えられない。

 

(何が師匠を見惚れさせるだ、、、、、、あの虫の言う通り、私なんかただのガキだ、、、)

 

 テミスは唇を噛み締め、無意識に握る手に力が入る。その影響か、スペルビアが起きる。

 

 ギュゥッ

 

「ん、、、。! テミス様! お目覚めになりました!? 大怪我して帰ってきて、それから、、、」

 

 スペルビアが起きて私の安否を確認してくる。前よりも顔色が良いところを見るに、ちゃんとギルドで保護してくれたようだ。

 

「おはよう、、、」

 

「、、、、、、」

 

 フワッ

 

「! どうしたの、、、?」

 

「今はこんな姿でも私、貴方よりもずっと長く生きてるんですのよ。その私から言わせますと、そんなに気に病むことはありません」

 

 私と同じくらいの女の子で、一回り小さいのに、スペルビアの抱擁は、私を安堵させるのに充分すぎた。

 

「ッ、、、」

 

「自らを責める必要なんてありません、寧ろ誇るべきです。貴方がいなければ、みすみす敵に情報を流し、街を危険に晒す可能性もあったんですもの」

 

「でもっ、、、私の慢心のせいで、、、!」

 

「慢心せずして何が人間ですか。敗北を知り、失敗を経験し、成功の味を覚えて強くなる。人間の成長とはそういうものですのよ」

 

「、、、、、、貴方、本当に傲慢?」

 

「謙虚だと思うのならそれは大間違い。私は偉くないのに尊大な態度を取っているわけでなく、実際にあらゆる生の上に立っているのです。上に立つ者としての義。貴方という命の恩人に、恩を返さぬのは傲慢でなく恥知らずですから」

 

 最初に会った時より魔力が戻っているからか、意識がはっきりしているからか、真偽は分からないが、口調はそのままでも重みが違う。

 

「、、、守られてばかりは趣味じゃないの。私にも貴方を護らせて」

 

「えぇ! 勿論です!」

 

 そうだ、こんなところで挫折してはいけない。私は前を向いて、世界を見なければならないんだから。

 

 考えるのを放棄すれば、それはもうただの傀儡だ。

 

「それでは、ギルド長さんから話があるようなので着替えましょうか」

 

 私の服は白い、いわゆる患者服のようなもので、私がいつも着ている服はボロボロで修繕中らしい。

 

 身体はもう大丈夫なのでギルドの用意した服に着替える。

 

「テミス様、年頃の女性にしては少し細めですね」

 

「そう? それなりに食べる方だと思うんだけど」

 

 、、、コッコツッ

 

「私の友人には──」

 

 ガチャッ

 

「よー、テミスは起きた、、、か、、、」

 

 突然ドアが開き、果物を持ったロック達が入ってくる。ノックも無しに女性の部屋に入る男は信用ならないって師匠が言ってたっけ。

 

「ちょっ、目ぇ閉じろ!!」

 

「い、痛てて!!」

 

「見ちゃ駄目です!!」

 

「おぅわっ! 分かったから! 部屋出るから!」

 

 メルとレノンが二人の目を覆って塞いでくれたけど、後でよく言っておいてほしい。

 

「ごめんなさい! 後でまた来ますね!」

 

「ごめんねテミス! また後で!」

 

「ごめーん!!」

 

「ごめん!!」

 

 バタンッ! 

 

「四人とも同じこと言ってたね」

 

「、、、もっと怒らないんですの?」

 

「それなりに不愉快ではあるけど、わざとではないだろうし」

 

「そ、そうですか、、、」

 

 着替えを終え、私とスペルビアはギルド長室の前へと立つ。ロック達は下の食堂の方から私達を見ていて、どうやら呼ばれているのは知っていたみたいだ。

 

(言われたことを守らなかったし。クビか、良くてディアナみたいな罰則かな)

 

 コンコンコンッ

 

「入っていいぞ」

 

「、、、失礼します」

 

 ドアは重たい音を立てながら開く。中に入るのはこれで三度目、変わらない部屋の様相。中にはピリつく雰囲気のマスターと不機嫌なディアナ、そして

 

「、、、店長さん?」

 

「おう、ここじゃただのボルグだがな」

 

 そういえばギルドマスターと知り合いなんだっけ、昔冒険者だったのかな。

 

「さて、、、此度の件、天冥一行から話は聞いた。何か言うことはあるか?」

 

「、、、何も無いです」

 

 コッコッコ

 

 重い雰囲気、やっぱり厳罰か、、、。ギルドマスターは私の目の前まで歩き、立ち止まる。そして

 

 ポンッ

 

「、、、?」

 

「よく生きて戻った。俺は君を称賛する」

 

 肩を軽く叩かれ、何故か褒められた。

 

「、、、え、なんで。厳罰は?」

 

「罰など下すものか、今回はどちらかといえば俺の落ち度だ。君は魔物大発生に幕を下ろし、Aランク二人がかりで苦戦する相手を一人で退け、再犯を防ぐ働きをした」

 

 ギルドマスターは私の横にいるスペルビアを見て言った。

 

「本来、私は恐らく君を行かせるべきでなかった。それでも特殊なケースではあるが君は強敵を退け、生きて帰ってきた」

 

「私は、、、中でも弱い部類のモンスターを倒しただけで、、、」

 

「実力を鑑みるにS級の昆虫型モンスター。ソロ討伐は充分すぎるほどの偉業。誇れ、君は立派に強く、役目を果たしている」

 

「ありがとう、、、ございます、、、」

 

 予想外だ。怒られるどころかムズ痒いほどに褒められた。でも、褒めるためだけに呼んだとは思えない。

 

「だが、、、その少女を保護するとなれば、俺は罰を下さねばならん」

 

(! そうか、S級の鑑定スキル!)

 

 失念していた、ギルドマスターはこの世でも有数のS級鑑定スキルの持ち主、隠し事なんて出来ないに決まっていた。

 

 スッ

 

「まぁ待て、話は最後まで聞け」

 

 片手でスペルビアを守る姿勢を取る私に、ギルドマスターは別の提案をするらしい。

 

「その話はボルグの方から頼む」

 

「あいよ。んで、テミス、お前にゃルーキーを助けてもらった恩ってのがある。ここは一肌脱がせてもらうぜ」

 

「え、急に?」

 

「ちげぇわ馬鹿、ものの例えだ。ったく緊張感ねぇな」

 

(あ、慣用句か)

 

「お前もガスロが助けたのは大罪の悪魔、スペルビア。普通に考えりゃ、保護するとなれば厳罰は免れられない、でも一つだけ抜け道がある」

 

「教えて」

 

「おいおい、即答かよ。まぁいい、教えてやる。それは今回の件、お前は一切関与してないってことにすればいい。ガスロのクエストも確認したが、報告だけで証明できる書類も残ってないし、不幸中の幸いか、魔物大発生と重なってるからいくらでも隠蔽が効く」

 

「じゃあそれで、、、」

 

「でもさぁ!!」

 

 ビクッ

 

「うわっ、びっくりした」

 

「それだとテミスのランクも上がらないし! 今回の活躍を知るのも私達だけになるんだよ!?」

 

「? 別に私はそれでも、、、って、さっきからディアナが不機嫌な理由って、もしかしてそれ?」

 

「当たり前じゃん!! 都合の悪いところ隠して良いところだけ抜粋すればいいのにさぁ!」

 

 ギルドマスターが呆れ果てた顔をしてる。昨日からずっと言ってるのかもしれない。この人の信念というか、考えてることが本当に良く分からない。

 

「何度も言うが、ルールの穴は突けても嘘は吐けん。だからテミスに決めさせると話は終わっただろう」

 

「だってさぁ、、、」

 

 駄々をこねるディアナの真意はともかくとして、この場で私は決断する必要があるらしい。

 

 スペルビアを捨てて名誉を手に入れるか、全てを無かったことにして少女一人を救うか。

 

 当然、私にとっては一択でしかない。

 

「それでもいいよ。私の旅の目的は冒険者じゃないし、それに」

 

 この言葉はきっと酷い傲慢。でも、私にはそれの権化がついてるんだから、少しくらい自信を持ってもいいと思いたい。

 

「すぐにディアナと同じ所まで登ってみせるよ」

 

 私は冒険者を続ける。今回のことで私は弱いことを学んだ。だったら、今するのは挫折ではなく前に向かって歩くこと。横でスペルビアは薄く笑っているけど、これが悪魔の笑みか。

 

「、、、そっか、よし! じゃあ待つよ、君がもっと強くなるのを!」

 

 ディアナは少し私の目を見つめた後、納得してもらえたようで不機嫌な顔から一転して大きく笑ってみせた。

 

「よし、話はまとまったみたいだな」

 

「しかし、、、新人狩りに続き、人為的な魔物大発生、そして帰結したのはガイナスという強力なモンスター。考えたくはないが、、、魔王が復活した可能性が出てくるな」

 

「「!!」」

 

 魔王、大罪の悪魔級の御伽話、、、というわけではなく、全世界が知り、畏怖する存在。直近では七十年程度前に勇者と相打ちになった。

 

「魔王、か。てことは、西が動くな」

 

「西端の聖教国、、、イリャナルセか」

 

「確か、、、女神の信託で独立した国だっけ」

 

「あぁ。転の女神、カルティオが信託を下し、魔王や人的災害とかの対抗策を呼ぶのを売りにしてる国だな」

 

「対抗策を、、、呼ぶ?」

 

「異世界から勇者や知識人を呼ぶんだと。それこそ、特別な固有スキルとかを持ってるらしい」

 

 転移、もしくは転生の手法だ。師匠は趣味が悪いしコストが莫大だから使うだけ無駄って言ってた気がする。でも、呼んだ人全員が固有スキルを持つなら多少のコストをかける価値があるんじゃないのかな。

 

 コンコンコンッ

 

「入っていいぞ」

 

「失礼します、マスターへ伝令です。レオニス様が帰還いたしました」

 

「「「「!」」」」

 

 ギルドの職員が入り、突然報せたのは私の旅の目的の一人、獅子の賢者レオニスの帰還。予定だと明日のはずだけど、早く帰ってきのか。

 

 師匠と同じ十三賢者の一角、勇気と勇猛の賢者。

 

 一体どんな人なのか。

 

「そういえば、テミスの目的はレオニス殿だったな。君、レオニス殿はどこへ? もう城へ行ったか?」

 

「いえ、それがですね、、、実は魔物大発生のことを話したらすぐにここへ、、、」

 

「なにっ!?」

 

 バァンッ!! 

 

「リゼルグゥ!! ボルグゥ!! ディアナァ!! っと、誰だ!?」

 

 またキャラが濃そうな人が来た。この場の誰よりも巨躯な身体。フサフサのマフラーのようなたてがみ、屈強な肉体に背負っているのはバスターソード。賢者って、もっと落ち着きがあるものを想像してたんだけど、、、。

 

「、、、まさか! ディアナの娘か!?」

 

「そんなわけないだろ。ボケたかレオニス」

 

「!? ちょっ」

 

 ディアナは棘のある言葉を獅子の賢者に向けた。

 

 この人、一応この国の重役じゃないの? 

 

「グッはっはっ! いつもどおりのキレで安心したぞ!! リゼルグ、現状とこの少女の報告をせよ」

 

「相変わらず色々と大きな方だ、全く」

 

 この一ヶ月程度のことを端から語る。ただし、私の活躍の一切は暗黙へと追いやって。

 

「、、、話は大方分かった。しかし我輩、この少女達との繋がりが見えてこないのだが、彼女は何をしたんだ?」

 

「テミスはねー、森で──」

 

「沈黙は金(サイレントゲイン)」

 

 パクパクッ

 

「?」

 

 申し訳無いけどディアナには少しだけ静かにしてもらおう。下手に喋られるとボロを溢しかねない。

 

 獅子の賢者には色々と話すべきことはあるけど、これが一番速い。

 

「はじめまして。還らずの龍森に住まう、天秤の賢者の弟子のテミスです」

 

「!!?? 真か!? 少女!!」

 

 賢者の中では一番の変人らしいから、流石に驚いているようで、私も証拠を提示する。

 

「これでどうですか?」

 

「この仮面、、、! なるほど、、、グッはっはっはっはっ!!! あの方もついに弟子をとったか!!」

 

 他三人も面食らってはいるようだけど、私の用事を済ませてしまおう。

 

「師匠を除いた賢者の方々に、顔を見せて回るようにというのが今の私の目標です」

 

「うむうむ、あの方ならやるだろうな。であれば、ここから北に向かうといい。歩いて五日程度の場所に理性と本能の賢者、サジタリアがいる。南の状勢は今は面倒だ、行くのを勧めん」

 

「ご親切にありがとうございます」

 

「さて、我輩はこの三人と話すべきことがある。疲れているだろう、この場を離れていいぞ」

 

「、、、はい、失礼します」

 

 私は重たいドアを開けて部屋を出る。同時に直感を信じて決意する。明日、この街を出よう。多分彼は私の関与に気づいている。

 

 国の戦政を預かっている立場らしいし、そういう考えをしなければいけないんだろう。

 

「、、、テミス様の決断ならば私は止めません」

 

「書き置きくらいしていくべきかな?」

 

 ギルドから出て、いつもの宿へと歩を進める。その間、この街での思い出が頭をよぎっていった。

 

 たった一ヶ月間、私は様々な縁に恵まれていたと思う。ボルグさんに始まり、ロック達に、ギルドマスターやディアナ、初めて完璧な敗北をくれたあの虫にも感謝するべきかもしれない。

 

 でも、一番後悔しそうなのはガス爺さんの墓参り。それくらいはちゃんとしていきかったな。

 

 多少の心配はされたものの、宿で宿泊代を払い、部屋で身支度を整える。あまり物はないからスムーズに終わり、なんとなく窓を開けて外を眺めて見る。

 

 空に浮かぶ満月に、昏く静まった街の風景は心を洗うように澄み渡り美しい。

 

(いい国だった、、、もう寝よう)

 

 ガララッ

 

「そろそろ寝ようか、明日は早い」

 

「! テミス様、後ろ、、、!?」

 

「? どうし──」

 

 ガララッ、バンッ! 

 

「やぁ少女! 今夜は望月、私と夜ふかししよう!」

 

「え、なんで、、、」

 

「ちなみに! 答えはYESしか用意していない!!」

 

 デジャヴを感じる台詞ともともに、ディアナは閉めたばかりの窓を開けて問いかけてきた。

 

 ガシッ! 

 

「へっ?」

 

 固有スキル 天翔

 

 バュンッ!! 

 

 気づくと私は、空にいた。投げ出されたわけじゃなく、文字通りに空を歩いている。別に初めてじゃない、魔法で出来ないわけではない。でも、こんな方法で空を翔けるのは初めてだ。

 

 ブァッッッッ!! 

 

 飛んでいるというより飛ばされている。

 

 街がみるみる小さくなり、雲までいって緩やかに落下を始めた。

 

(え、落ちるの?)

 

「ほらほらボサッしてないで浮かせてよ!」

 

「えっちょっ、もう!」

 

 中位風魔法

 

「浮き足雲(フロートクラウド)」

 

 フワッ

 

「さっすが〜。ほらほら、そんな可愛くない顔しないで。下を見てみなよ!」

 

 雲から下を覗き込むと、宿の二階からとは全く違う、国どころか平原や森まで全てが見渡せる。美しいというより、全てを包み込むような澄んだ景色が広がっていた。

 

「凄い、、、」

 

「凄いでしょー、私もよくこの辺から落ちるんだ」

 

「え、落ちるの」

 

「私魔法使えないからさ、こんなにまじまじ見たのは初! あっはっはっ!」

 

 この間の怒りを見せたときの雰囲気なんて一切ない。まさに満面の笑みで彼女は笑った。でも、それより気になる。

 

「ところで、なんで私をここに?」

 

「、、、レオニスにさ、君をここに引き留めるようにって言われたんだ」

 

「私を止めに? ディアナなら余裕だろうね」

 

「何言ってんの、止めるわけないじゃん。テミスの為になんないし」

 

「? じゃあ、尚更なんで私をここに?」

 

「別に? 特に意味なんてないさ」

 

 本当に何を考えているか分からないなこの人。同情を引きたいのか応援したいのか、私をどうしたいんだろう。

 

「私はね、昔から好奇心にとにかく真っ直ぐだった。好奇心だけで貴族の家を飛び出して、冒険者になってSランクになって、還らずの龍森に挑んだりした」

 

(ほんと向こう見ずな生き方してるな、、、)

 

「後悔なんて何回したか分かんないし、何回も死にかけたし人を助けたさ、、、テミス!」

 

「え、はい」

 

「君はお師匠さんから世界を見て回れと言わているんだろう? 見るというのはただ見るだけじゃないからね! 見るというのは観るということだから!」

 

「、、、観る?」

 

「そう! その地の味を! 人を!! 特徴を!!! あらゆる全てを好奇心の赴くままに全てを知り尽くすこと! 後悔するのを恐れちゃいけない、後悔しない人生は"人生"なんて呼ばない!」

 

「、、、!」

 

 私の中の霧が晴れていく気がする。スペルビアに言われて、もう憂いはないと思っていたのに、心がどんどん軽くなっていく。重みが消えていく。

 

「世界を観て! 知って! 学んで! そして自分に絶対の自信をもって、人として強くなったら!」

 

 ピッ

 

 スキル S級細剣術 電光石火 残影 超集中 一閃 

 

 奥義 宙鳴龍(そらなきり)

 

 キュォォォォォンッッ!! 

 

 キン

 

「本気の私と勝負しよう!!」

 

 ガパァッッ

 

 私の作った雲が割れ、それどころか空に浮かぶ雲全てが真っ二つに両断される。そして後に残った美しい龍のような咆哮。下を見るだけでは決して見えない想像を超えた遥かな光景が眼前を埋め尽くした。

 

「君の師にはなれないから、せめて君の目標くらいにはならせてくれよ」

 

 月光に反射する満面の笑みが、綺麗によく見える。

 

 こんなにあどけなく笑う人、、、きっと大切な縁だ。大事にしよう。

 

「ありがとう、、、迷いはなくなった気がするよ」

 

「ふふん、どういたしまして。あ、そうだ。ガス爺さんの墓はないけど、彼の遺品は私が持ってる。別れくらい告げておきな」

 

 ディアナはそう言うと、私にガス爺さんの杖に嵌っていた魔石を渡してきた。

 

 これも初めての経験、、、人との別れ。それも、二度と合うことのない別れ。

 

「こんな子供の言うことだけど、お疲れ様。貴方の活躍は、きっと色んな人が語り継ぐよ、、、ありがとうございました」

 

 ──ー

 

 その後は宿へと戻ってスペルビアに色々聞かれた。

 

 隠すことでもないから全部話したけど、何故か少しだけ不機嫌だった。すぐに寝床に入り、私達は朝を迎えた。

 

「日が昇る前、、、さっさと出発しようか」

 

「はい、行きましょう」

 

(良かった、機嫌は悪くない)

 

 宿を出て街を後にするために私が最初に入った門とは逆の門から出ていく。

 

「! 、、、昨日から急な来客ばかりだね」

 

「よっ、テミス。やっぱりそう来たか」

 

「多分止める気はないだろうからその前提で聞くけど、何を言いにきたの?」

 

「ははは。ディアナさんほど無鉄砲じゃねぇし理由無しじゃないよ俺は。ちょっとしたおつかいとメッセージだ」

 

 ポイッパシッ

 

 その言葉と共にロックは私に何かを投げた。それをキャッチして確認する。

 

「これは、、、蕾?」

 

「蕾ですわね?」

 

 色の無い無色の蕾を模した髪飾りだった。

 

「お前、ドレスのところの店長に約束してたろ? ディアナさんが注文してたらしいぜ」

 

 すっかり完全に忘れてた。次にあったら謝らないといけないな。

 

「んで、伝言だ。謝罪はいいから、ウェディングドレスはぜひウチで扱わせてくれってさ」

 

「ぜひ、お願いしますって伝えといて」

 

「OK、任された。さ、とっとと行っちまえ。賢者様が捕まえに来るぜ」

 

「、、、、、、」

 

 キュッ

 

「ふふ、、、ありがとう、恩に着るよ!」

 

 ザッザッ

 

 彼女は行き際、頭に髪飾りをつけ、俺の前で初めて大きな声を出してゆっくり視界から消え去った。

 

 パンッ! 

 

「ふぅ、、、うしっ! 俺も頑張るか!!」

 

 アクシデントこそあったものの、上々の滑り出しとも言える結果だった。

 

 賢者の愛弟子の冒険、その序章は一先ず円満の形を迎えたのだった。

 

 




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キャラNO7
ユーリ=シルケンダ
天明パーティのAランク冒険者
エルフ特有の森と対話し、自由に渡り歩ける能力を持っており、森の中の隠密性能と追尾性能は異常なほどに高い。ディアナとはクエストが被った時に意気投合してパーティーを作った。カトレアと共に自由奔放なディアナに苦労させられているが、別にそれが嫌いなわけでもない。
魔法 中位木、土魔法
スキル S級弓術 飛車 三射 集中 剛車 
一〜六射 捻り引き etc…
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