瞳を閉じぬ裁定者   作:レガシィ

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特別スランプってわけでもないんですが、なんか時間がなくて色々滞ってます。
"全てを無くした少女に呪いを授ける"も執筆中ですので気を長くしてお待ち下されば幸いです。


第十四話 グライハム領②

グライハム領。

 

エリザベータ女王が治めるストルグルム王国の片田舎の領地。

 

王国とはいえ、グライハム領の立地は他国との境界であり、多くの山に接した田舎。決して都会とは言えないながらも、果物の香りや豊かな薬草の香りに溢れている。

 

魔法と魔法地図の併用でかなりの時間の短縮に成功した。本来ならゆっくり来ても良かったんだけど、依頼主を無事に目的地に届けるためには仕方ない。

 

こういう機会なんてこれからいくらでもある。

 

(、、、匂いだけで分かるくらい、この場所の土は良質で綺麗。これなら大体の薬草を育てられるし良く果物も育ちそう)

 

「そろそろ私の屋敷に着きます。報酬は爺やとご相談ください。道中ありがとうございました」

 

「大したはことしてないし、少し安くしておくよ」

 

即日依頼制度。ギルドを通さずに冒険者と依頼主の交渉のみで成立する依頼制度。書類やどんな依頼なのかを書き留める必要はあるけど、こういう時には便利なルールだ。

 

ゴトンッ、、、ガチャリ

 

「道中、お疲れ様でございました。さ、お嬢様お屋敷へ。奥方様とご主人様がお呼びでございます」

 

「ありがとう、爺や。テミス様に報酬を」

 

「勿論でございます。ですが、まずはこちらを優先していただきませんと」

 

「、、、クリーン」

 

ポゥッ

 

「!」

 

「汚れた格好じゃ心配かけるよ。ピンクは汚れが目立つからね」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

「うん。目一杯怒られてきなよ。きっと愛情の印だから」

 

「う、はい、、、」

 

「テミス様、優しいですわね。普通の冒険者なら即日依頼なんて届けた後は他人ですのに」

 

「まぁ気持ちは分かるから」

 

娘に一人旅をさせるはずがない。そう思って中の気配を少し探知してみた。多数の使用人とやたらに衰弱している二人、恐らく寝不足なのだろう。

 

(師匠が唯一怒る出来事だったな。懐かしい、、、)

 

「おい、冒険者殿」

 

「ん、どうかした?」

 

「話がある。こっちに来てくれ」

 

敵意と感謝が半々みたいな感じの口調と表情で私達は中庭へと案内される。

 

「広いだろう。ここの中庭は訓練も出来るようになっている。こういう時にはうってつけだ」

 

「ここは執政の場じゃありませんの。そんな遠回しはやめてくださいまし。テミス様に下らない時間を過ごさせるおつもり?」

 

「言葉が悪いよスペルビア。彼女にも色々あるんだから」

 

文字通りの悪魔の眼光で睨みつけるスペルビアと私のやり取りを聞き、一度咳払いして再び話し出す。

 

「、、、私はこの屋敷に仕えて今年で十年。お嬢様とこの領地を守り続けてきた騎士団の隊長だ」

 

「へぇー。隊長さんだったんだ」

 

「だというのに、部下を二人失い。あまつさえ賊に遅れを取り、どこの馬の骨とも分からぬ冒険者というゴロツキを雇う羽目になる始末」

 

(え、口悪、、、)

 

「私の騎士としての誇りがそれを許さない。だから」

 

ビュンッ、ザクッ

 

「決闘だ。私より強ければ貴様を認めよう」

 

私の足元にショートソードが投げられ綺麗に刺さる。彼女はどうやら私と戦って勝つことで自尊心を保守しようと言う腹づもりらしい。

 

(別に勝つ理由も負ける理由も無いなぁ、、、)

 

スペルビアに視線を投げてみるが、どうやらそれなりに頭に来てるらしい。笑顔の中に倒せという合図を感じる。

 

「、、、私魔法使いなんだけど?」

 

「はっ!魔法に頼らねば満足に戦うこともできんか、程度が知れるな!」

 

ムカッ

 

「はぁ、、、魔法を小馬鹿にできるほど強いつもり?」

 

向こうには利があるからわざと負けるつもりでいたけど、魔法は私と師匠を繋ぐ大切なツールだ。

 

バカされるのは腹が立つ。

 

ゆらぁ、、、

 

スキル 軟体 脱力 C級剣術 龍眼

 

「来なよ」

 

ゾワッ

 

(こんな少女に先手を譲られる、、、?)

 

ビキッ

 

「大概にしろ!!」

 

ズダァンッ!!!

 

スキル B級剣術 強腕

 

ブゥンッ!!

 

持ち前のスピードで私との間合いを潰して縦に一閃。良く言えばシンプル、悪く言えば

 

「考え無しも良いところ」

 

くんっ、ドォンッ!!ビッ!

 

テミスは木剣よを横にして構え、縦からの一線を受ける。通常ならば折れて終了だが、当たった瞬間に木剣を傾けて斜めに反らし、その方向に拳で殴ることによって限りなくダメージを減らしたのだ。

 

地面に木剣を叩きつけたイオンの首に剣を当てる。

 

「どう?魔法使いに剣技で負ける気分は?」

 

「ーッ!!まだ負けてない!!」

 

「うん、だと思った。だから今から、貴方の言うゴロツキ(冒険者)の戦いを見せてあげる」

 

キインッ

 

低位風魔法 小波風

 

ビュォッスパパッ

 

ほんの小さな風で相手を傷つける魔法。

 

ただの妨害魔法だけど、この魔法の狙いは相手を傷つけることにない。

 

「くっ、この程度で!」

 

周りの砂利や砂を空気中に巻き上げることにある。

 

「受け身の準備したほうがいいよ」

 

無属性強化魔法 耐久力強化、爆破耐性付与

 

バサァッ!!

 

「!?」

 

バッグからブランケットを取り出し、魔法で耐性を付与し、イオンへと被せる。

 

(師匠の仮面は使わない、やっぱり私には過ぎた代物だった)

 

スキル 爆破耐性 龍眼

 

「低位火魔法、ファイア」

 

ボウッ、ボゥンッ!!パララッ、、、

 

(視界がっ、状況把握ができない!しかしそれは向こうも同じはず!!)

 

中庭に爆風が巻き起こる。大した粉塵でもなければ細かくもないためほんの煙幕にしかなりはしない。

 

それでもゼロ距離であれば確実なダメージであり、人間であれば、視覚と聴覚は一時的に機能を失う。

 

テミスは、普通の人間ではない。

 

スキル B級槍術 

 

ガガガガガッ!!

 

脚、腕、兜、それぞれの留め具を的確に破壊して装甲を剥がし、彼女の首にコノハナサクヤを伸ばして向ける。

 

「貴方の小馬鹿にする魔法使いに完敗した気分はどう?って、、、聞こえてないか」

 

キーーン、、、

 

「、、、私は敗けたのだな、、、これ以上なく」

 

もう回復したのか、流石に鍛えてるだけあって回復も速い。土煙の中で彼女は状況を察して木剣を置いた。

 

「立派な忠義心だと思うよ。実際、私だって師匠に変な虫がついたら怒るだろうし面白くない」

 

「そう言ってもらえると幾分か楽だ、、、」

 

ガチャリ

 

彼女は鎧を脱いで私に向き直る。

 

「テミス殿、先程までの失態、大変失礼した。こんな私でも騎士の端くれ、好きなように処罰を」

 

「いや、私にそんな権利はないし、大したことはされてないよ」

 

「それでも、、、」

 

土煙が晴れ始め、彼女の達観した表情が目に入る。

 

静かに謝罪を告げられるが、私は元々雇われだ。これ以上の依頼がなければこれ以上深く関わることもない。

 

「テッ、テミス様!!前!前!」

 

「うん?、、、あっ、、、」

 

テミスは防護魔法を自身の服にかけるのを忘れていた。結果、大した強度を持たない服は爆発で無惨に破れ、テミスの下着が露出された。

 

バサァッ!

 

「は、話は後でしよう。取り敢えず貴殿のこれを」

 

「いや、、、カッコつかないなぁ」

 

パチパチパチパチ

 

その場に響く私とイオンに向けられた静かな喝采の拍手。その方向に目をやると、匂いからして恐らく

 

エリナの両親だろう。

 

「旦那様!奥方様!!」

 

彼女はその場に跪いてみせる。

 

「そんなに畏まらなくても」

 

「いえ、騎士ですので」

 

「相変わらず固いわねぇ」

 

和やかに笑う二人はイオンの挨拶を受け取る。ていうか、やっぱり固い部類なんじゃないか、この人。

 

「幼い冒険者さん、少々戦いを見学させてもらったよ。私はクレイ、こっちは私の妻のリナだ」

 

「うふふ、よろしく可愛らしい冒険者さん」

 

「丁寧にどうも、私はテミス。一応Bランクの冒険者をやらせてもらってます」

 

「私ももっと若い頃は戦場にいたからね、それだけに、イオンの強さは理解しているつもりだ、、、それを踏まえても君、規格外じゃないか?」

 

私も正直そう思う。でも、規格外までは行かない気がする。確かにBランクは冒険者にとっての目標点である場合が多く、国の規模で見ても数が多いわけじゃない。しかし、探していないわけではないレベルなのだ。

 

「イオン、話はエリナから聞いたよ。事情はどうあれ、見過ごしていい問題ではないね。今回の件に関わった者は全員、三日の謹慎処分とします。その間に、死者への弔いと己の身の振り方を見つめ直しなさい」

 

「はっ!承知いたしました!!」

 

ダッ!!

 

見た目は三十路、実際には四十後半くらいかな?随分若々しく見えるけど、病人特有の匂いがする。

 

誤魔化すための化粧でそう見えているだけか。それでも、あそこまでの貫禄、、、あ、師匠にほんのちょっとだけ似てるかも。

 

「ゲホッゲホッ。待たせてすまないね、冒険者さん。まずは服をどうにかしよう。メイドに君と同じ背丈の子はいたかな」

 

「そうしてくれると助かります。流石に前がスースーするのは、、、」

 

「テミス様!妻子持ちとはいえ殿方の前で詳しいことを語るのはおやめくださいまし!」

 

「貴方も冒険者さん?」

 

「あ、彼女は私の連れです。特にそういうライセンスがあるわけではありません」

 

「あら、どうしましょう、あなた」

 

「構わないさ、一緒においで」

 

そうやって案内されるがままに部屋へと案内される。着替えたあとに通されたのは客間ではなく執務室、かなりプライベートな空間で、メイドも執事も中にはいない。

 

「さて話を、、、如何されたかな?」

 

「いや、、、私にこの手の服はちょっと、、、」

 

「あら?とっても可愛らしいわよ、ねぇスペルちゃん」

 

「はい!とってもお似合いですわ!」

 

フリフリの白いドレス。街や王都で流行りの服らしく、若い女の子は皆こういう服に憧れるらしい。

 

動きにくいし機能性も良くなさそうだし、何より下が心許ない。あとスペルビアと奥さんはいつ仲良くなったのさ。

 

「まぁ、、、冒険者にとっては新鮮かも知れないけど、普通の子はそういうものだよ。後学の為にそれで過ごしてみてはいかがかな?」

 

「いえ、まぁ、別に不満はありませんよ。ただ着慣れていないだけで」

 

「、、、では、無駄話も程々に、本題に入らせてもらうよ」

 

「どうぞ、なんとなくは分かっていますが」

 

「では率直に。君の知り合いで最も腕のいい薬師、医師は誰かな?」

 

何かにおいて一番は誰かと聞かれたら、私は世間をあまり知らないから答えにズレが出るかもしれない。でも、森を出て一ヶ月以上経った今でも答えは変わらない。

 

「私の師匠。贔屓目を無しにしてかつ、どれだけ甘く見ても私の師匠以外にありえない」

 

「、、、その師匠とやらは、依頼を聞いてくれるような人かな?」

 

「それもありえない。あの人は基本俗世に干渉しないもの。でも」

 

一応嗅いだことのある臭い。毒の類ではなく、人ならばなってもおかしくない難病。でも、私にはそれを解するだけの知識がある。

 

「多分、私は貴方の病気を治せるよ」

 

「「!!」」

 

どれだけ全てを公平に、平等に見ようとしても所詮私は人間だ。人を救けたいとは思うし、できることをやらずに見捨てて死なれるのも夢見が悪い。私は天秤の賢者ではなく、その弟子に過ぎないのだから。

 

「色々と材料はいるけどね。でも、この土地なら大半は集まるし、サービスってことで高価な薬草も私が持ってるのを使ってあげる」

 

確か森を出るときにいくつか自分で薬草を取ってきたはず。その中にはかなり希少な薬草もあるけど、

 

きちんと調合すればコストは抑えられる。向こうにもあまり負担はかけたくないし、省エネの薬でいこう。

 

「あとは依頼してくれればーー」

 

「「お願いします」」

 

「、、、ご依頼、承りました」

 

「なんだかんだ理由をつけて救けるんですから、テミス様はお人好しですわね」

 

私が言葉を言い切る前にご夫婦は二人共頭を下げてきた。スペルビアには少し呆れられてしまったけど、負の感情でないことを祈ろう。

 

「じゃあまずは病気の特定から始めるね」

 

「何をすればいいのかな?」

 

「軽く質問するから正直に答えてくれればいいよ。あと、少し血を貰うね」

 

もしかしたらスペルビアなら血を飲めば理解できるのではないだろうか。あぁ、多分無理か。不味いで終わりそう。

 

「主な症状は咳と身体の不自由、あと皮膚や髪のパサツキ?」

 

「えぇ、あとは吐血も時々しますかね、、、」

 

「ふーん。あ、チクッとしますよ」

 

チクッ、チュー

 

「うん、大体目星はついた。候補は三十くらいだから血の検査次第で分かるよ」

 

「え、もう分かったのかい?」

 

「まぁ、なんとなくは。難病だけど今すぐ人間の身体にどうこうする病気じゃないと思うよ。それで薬を作るからちょっと部屋を貸して欲しいんだけど」

 

「あぁ、地下に薬剤室があるよ。薬草や道具もそこに」

 

「ありがと。多分二時間もあればできるよ。スペルビアはどうする?」

 

「私は、うーん、、、」

 

まぁ、薬を作る光景なんて分からない者からすれば暇以外の何ものでもない。気持ちは分からないでもない。

 

「あ、じゃあメンタルケアってことでエリナとお茶でもしてきてよ。出来れば私がさっきしたのと同じ質問を簡単にしてくれると嬉しいな」

 

「分かりましたわ!」

 

タッタッタッ

 

見た目と同じような年相応の態度で彼女は走っていった。

 

「事後承諾だけど構わないよね?」

 

「あぁ、あの子もきっと喜ぶよ」

 

〜二時間後〜

 

「多分これでいいはず、、、」

 

今回の病気はシュベン病。

 

簡単に言うと血液中の物質が変化して体をゆっくりと壊す病気だ。流通する薬でも無いし見つけるのも恐らく困難だろう。師匠が私の健康検査に使う方法はあまり使われていないみたいだから発見に至らなかったのだろう。

 

コンコンコンッ

 

「失礼しますね」

 

「どうぞ、って、もうできたのかい?」

 

手で誘導されながら座ると、メイドは

 

「はい。今回は早めに効果が出るように作ったから効果が出るのは速いはずです。あと、予防薬と効果が出るのが遅いかわりにコストを下げた薬のレシピも用意しておきましたから役立ててください」

 

「そ、そこまで、、、!本当に優秀な薬師なんですね、テミスさんは」

 

「変に否定するのはかえって嫌味らしくなるから認めるけど、私より腕のいい薬師は世界にいくらでもいるよ」

 

「はは、世界と比べる時点で充分さ、、、私も一応医師の知識はあるんだが、どうにもならないね全く」

 

彼は屈託なく私に穏やかに微笑む。やっぱり歳を重ねると貫禄?が出るのだろうか。でも師匠は時々子供っぽい気もする、、、そういえば師匠は何年生きてるんだろう?

 

「そういえば君はどれくらいウチ滞在するつもりなんだい?」

 

「出来るだけ早く王都の方に行こうと思ってますよ。元々ここは一泊するだけの予定だったし」

 

「何か急ぎの用でも?」

 

「私の旅の目的は師匠のご友人達に挨拶をすることと、世界を観て回ることなので。特に急ぎってわけでもないですね」

 

「なら、折角なら明後日から始まる豊農祭を見て行かないかい?ウチ(グライハム)の領地は果物や野菜が多くてね。一年の豊作を木神に祈るんだ」

 

「それっていわゆる、、、お祭り?」

 

本や師匠の話でしか読んだ事も聞いたこともない単語、でも総じて共通する点があった。

 

「うん?そうなるね。出店もそれなりに出るよ。まぁ、あまり興味が無いなら無理にとは言わないけどーー」

 

「い、、、行きたい!行ってみたい!」

 

どれもとても楽しそうで魅力的だということ。

 

「お祭りって皆が踊ったり華やかな露店が並んだり!お菓子とか何かの競い合いとかがあるあれのことだよね!」

 

「あぁ、それであっているよ」

 

「、、、あっ」

 

彼の薄い微笑みで私は自分のしていることに気付いた。

 

「ご、ごめんなさい。忘れてください」

 

「そんなに恥ずかしがることでもないよ。十五なんて成人前というだけでまだまだ子供さ。君の環境では娯楽が少なかったんだろう?ウチの領地もいいが、王都はもっと凄い。沢山見てきたほうがきっと君の為にもなるさ」

 

顔を隠す私に、諭すようにして彼は穏やかに話す。

 

恥ずかしくて私は赤くなっているであろう顔を隠すけれど、彼の言葉や初めてのお祭りという響きに、内心、ワクワクの感情が収まらなかったのも事実だった。




リドルガーネには主に振興されている神がいる。
月の女神、太陽の神、火の神、水の神、土の神、木の神、風の神、闇の神、光の女神、星の神が代表的な神で、細かい区分もいくらかある。
神は稀に加護を"人間にのみ"与えるとされ、作中ではディアナが月神の加護を貰っている。
彼ら、彼女らに固有名詞は存在せず、神とだけ形容される。
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