明日はお祭り。様々な香り漂う屋台や人を楽しませることが目的の催し物、露店に鳴り止まない伝統音楽、そんな初めての妄想で心を踊らせていたというのに、何故だか私は今、魔素が充満した近隣の山に一人でいる。場所としては私が来た道の隣の山。
「元気になったのはいいことだけどさぁ、、、途端に溜まってる領民の不安を解消しろってのはおかしくない?」
領民の不安その1
農家の魔物被害が増加していて、自警団だけでは不安。
その2
道路が所々壊れていて修繕が追いついていない。
その3
雨が振らずに作物の育ちが悪い。
渡されたリストに書いてあることを読んでみたけど、一つ目は私の仕事。二つ目はまぁ、低ランクだけどギリギリ冒険者の仕事、三つ目は知らないよ。
ジョウロで水でも蒔ばいいんじゃないの?
「はぁ、、、こういう時はあれだ。お金を沢山請求すればいいんだ。相場の1,5倍くらい請求しよう」
およそ平等を司る賢者の弟子とは思えない発言と思考だとは理解してるけど、私や師匠だって人間だ。普通に苛つくし発散したくもなる。
ザッザッザッ
(ダンジョンが発生した気配はない。野良が増えただけ、先日の魔物大発生が原因?)
師匠の教えの一つに、安易に答えを求めず常に思考して思案しろっていうのがあったんだけど、やっぱり全て憶測や妄想にしかならない。
「やっぱり目で見つけるか、、、」
ズッ、、、
高位木魔法、
地面に手を当て、植物達の見ている目を借りる魔法。使っている間本体は無防備だけどそこは探知魔法でカバーする。あまり必要はないと思うけど。
、、、、、、、、、
なるほど、草食の魔物が少しだけ増えたのか。
肉食の魔物が元々少ない上に、そこそこの実力の山賊が住み着いてさらに減った。
必然的に草食の魔物が増え、農家が多いこの辺りが影響を受けた。うん、納得が行く。
「少し駆除しておこうかな。もしかしたらお祭りの屋台とかに使えるかもしれないし」
そうと決まってからは速い。ただ見つけた魔物をそこそこに狩っていけばいいのだから。生態系に打撃を与えないように子供だけ、大人だけ狩るのは避けて家族一纏めで狩る。
まだ魔力は全快してないけど明日は何もない予定だし、少し奮発しよう。
スキル 座標計算 暗算加速
コキキッグググッ、、、
テミスは対象の座標計算を終え、見えない何かを掴むようにして手を開いて指をコキコキと鳴らし、魔法を構築する。
恵廷空間魔法
ゴキンッ
山の中で複数箇所から同様の音が聞こえた。解体してバッグに入れるけど、特に大きな個体は解体が面倒だし持っていこう。
「あ、バッグに入らないのは血抜きしなきゃ」
──ー
ザワザワッ、、、
「よいしょっと」
ズゥンッ
約5.5m、体重は2トンくらいかな、流石に魔法無しじゃキツかった。
「えっと、この街の狩猟者? 冒険者? とかっているのかな」
街の入口に
「おう。リーダーとかは無いが、一応山の管理を任されているもんだ。まぁ見りゃ分かるが、何か用か? 嬢ちゃん」
「はい。魔物の被害が増えてたみたいなので、生態系に影響を与えない程度に狩っておきました。何か規則とかあれば申し訳ないと思って」
「いや、領主様から聞いてるよ。俺等が狩るのは、高くてもいつもD級程度だからな。流石にそんな魔物を被害無しじゃ狩れない。ありがとな」
良かった。普通に山へ勝手に入っちゃったから何か文句とか言われるかと思った。普通に良い人だけど、彼みたいなちゃんとした狩人は少ないみたいだ。
「えっと、一応警告ね。普段なら肉食の魔物が間引いてくれるし、見回りもしてると思うんだけど、今回は多分山賊が住み着いたのが原因だから、何かあったらすぐに冒険者に依頼したほうがいいよ」
「おう、了解だ。出来るんなら、また親切なアンタに頼みたいもんだな」
「んー、、、その時までこの国に私がいたらね。それより、他の依頼をこなさないと」
「ははは、俺はジルダだ。よろしく頼むよ、親切な冒険者」
「私はテミス、よろしく。あ、解体した他の魔物も出すから、ちょっと離れて」
バサッドザザッ
握手をして、バッグの口から部位ごとに解体した他の魔物達をシートの上に出す。
「おー、意外と多いな。重かったろだう、こんなに」
「魔法が使えるしそうでもないよ。じゃあ、残りの依頼を片付けに行くね」
「おう、じゃあな」
私はその場を後にして街の中へと入り、壊れている道路やその他の設備を補修して回る。なるべく人力でやったほうが良いのは分かってるけど、流石にそんな時間は無いのでフルに魔法を行使する。
「ここの資材は使っていいんだよね?」
「えぇ、、、でも、大丈夫? 貴方のみたいな女の子に任せるのはちょっと、、、」
「おねーさん力持ち?」
「全く、少し魔法が使えるからって女が冒険者なぞなりおって」
大分不安を煽ってるみたいだけど、これがディアナとかならそんなことは無かったのかな、、、なんか複雑だけど、そこまで言われたら魔法がいかに万能か、見せてあげたくなる。
「、、、見たらきっと、私以外に頼みたくなくなるよ」
スキル 魔導の愛女 暗算加速
流石に無からは作れないので予め用意されていた資材を使わせてもらう。
中位土魔法 ホールリペア
ガゴゴッ、、、ビキバキキ、、、
資材は足りてるみたいだし、このまま直しきってしまいたいけど、地盤が脆いしグラグラで危ないな。
「少し壊すよ、離れて」
「、、、え、あ、はい!」
高位土魔法
本来は戦況を作り変えるための魔法だけど、この辺りの土は少し脆い。叩いて壊して固めてしまおう。
バッコォンッ!! ズドドドドド!!
ガキキキッ、バキバキバキ!
「はい、完成。依頼の場所はここだけ?」
「い、いえ、向こうの方にも、、、」
「了解、すぐに行くよ」
タッタッタッ
「か、、、かっこいい、、、!」
「お母さん! 私も魔法使いになりたい!」
「お、、、おぉ、、、」
住人達の声を後にして私は二時間程度走り回って街のあちこちを修復する。
というより、絶対当初よりも依頼の数が増えてた気がする。結局は実力主義なのがよく分かった。
すっかりお昼の時間だ、、、飲食店を探す気にもなれないし、抜いてしまおうか。
バサササッ
「ん?」
「テミス様、まさか空腹をそのままにするつもりですの?」
「あ、スペルビア。昼間から飛んでていいの?」
「私は蝙蝠がベースであって吸血鬼ではありませんわよ。それより、随分と魔力をお使いになられましたわね」
「私の身体は特殊だし、この程度なら30分もあれば回復するよ」
補助スキル 魔力回復速度増加と魔力保存で回復までが速いし、私のスキル、"魔導の愛女"は使う魔力、回復速度、威力を約5割引き上げるスキル。いつの間にか持っていたスキルだけど、便利なので有効に使わせてもらっている。
「テミス様が努力家なのは短い付き合いながら存じていますが、休みなく働くことは努力とは呼びませんわよ?」
「う、ごめん」
とさっ、かぱっ
スペルビアが諭してきたのを聞いて、私は頭を下げる。すると軽い音の後に、香ばしい香りがふわりと漂ってくる。
「先程街でテミス様のことを聞いている時に、渡すようにと言われましたの。この辺りでお昼にしてはいかがですか?」
「わぁ、、、美味しそう。そうするよ。いただきます」
手を合わせて挨拶し、私は細長いパンを一つ口へと運ぶ。不思議そうにこちらを眺めるスペルビアの視線が刺さるけど、気にしないでおこう。
「んー! 美味しい。スペルビアも食べる?」
「遠慮しておきますわ。それよりもテミス様の魔力か血液をくださいな」
「たまには人間の食べ物も食べればいいのに」
短い会話の後に私はスペルビアに首筋を差し出して見せる。
「毎回思うけど、お腹って満たされるの?」
「いえ、、、というのも、そもそもそういった分散された欲が
「ふーん。賢者でもお腹は空くのにね」
もぐもぐ、、、
「ご馳走さま」
食べ終わって再び手を合わせて挨拶をし、蹴伸びをして次のクエストを考える。
「んーっ。さて、最後のクエスト、、、雨だっけか」
「雨? そんなものジョウロでも使って水を蒔けば解決なのでは?」
「私と同じ事思ってる。でも多分違うんだろうなね、わざわざ冒険者に頼むんだもん」
「それでは、邪魔にならないよう私は館へ戻りますわ」
「はいはーい」
とは、、、言ったけど
「まさか、ここまで広いとは、、、」
忘れてた。この領地は田舎の方で果樹系統がウリだったんだ。見渡す限り、とまではいかなくても従業員数人程度じゃとても手が回らないだろう。
「どうです冒険者さん、なんとかなりそうですか?」
「私がいる限りはなんとかなるけど、そういうわけにはいかないからなぁ、、、」
いい考えが浮かばない、、、ちょっと本気で考えよう。
キインッ
無属性高位魔法
今まで見たものを頭の中で完全再現する魔法。要するに覚えてない出来事を思い出すための魔法だが、こういう探し物には便利な魔法だ。
バララララッッッ
無数の記憶という名の本のページがめくられ、次第に脳に情報が溜まっていく。何かいい方法は、、、。
「あ、
「「「?」」」
「えっとね、、、簡単に説明すると、魔法を記憶させて、好きなときに発動してくれる魔道具のことなんだけど」
付け加えるなら、私が使うコノハナサクヤのような魔力、魔法を覚える生きた結晶を使う魔道具。加工も魔導師なら容易で、少しばかり値が張るが決して高価すぎるものではない。
「それは魔力が無くても動くものなんですか?」
「術式に空気中の魔力を吸収する機能を組み込めば多分完全に自動でできると思うんだけど、今すぐは無理だから明日まで待ってくれないかな」
「ちょ、ちょっと待って下さい。それは、、、一体どのくらいの値段が、、、」
「まぁ、、、安くはないけど、領主さんに全部請求しちゃえば? 一度高いお金払って後が楽になる、いわゆる先行投資だと思うけど」
「うぅん、、、冒険者さんを信用してない訳では無いんですが、、、」
まぁ、依頼先は明らかな子供だし気持ちはなんとなく分かる。でも、私はこれを実現させるだけの道筋は見えてるし、驚いた顔を見てみたい。
「うん、怖いよね。でも、私は貴方達を後悔させるつもりはないよ。どう? 頼んでみない?」
「、、、ははっ。そこまで言われたら農家とはいえ、商いを行うものとして少しばかりそそられますね。是非、お願いします」
「了解、承りました。それじゃあ、完成次第報告するね」
取り敢えずは依頼を全部聞き届けたし、やることも決まった。少しばかり館への滞在時間を延ばして魔法結晶を作ろう。
──ー
「はい、というわけで請求書。違法じゃないからね」
「ふむふむ、なるほど、、、」
彼は私がまとめた書類に隅々まで目を通している。
いくら距離が近い冒険者の請求書でも、しっかり目を通す辺りはちゃんと領主の姿だと思う、、、いや、割と普通か。
「あ、クレイ様、体調はどう?」
「様はやめておくれよ、命の恩人なんだから」
「いや、だって貴方ここの領主でしょう」
「冒険者にはその程度のしがらみは無いよ」
あ、そっか。王とかのレベルじゃなければBランク以上は自由はほぼ確約されるんだっけ。だったら
「じゃあ、クレイさんで」
「もっと軽くても構わないんだけどね」
「一線は引くべきだよ」
「固いなぁ。まぁ、君の作った薬のお陰ですこぶる快調だよ。もう軽い運動なら余裕で出来そうだ」
「それは良かった」
話に嘘は無いようでかれは腕をぐるぐると回して見せ、私の目から見ても前日の症状は極端に減っているように見える。
パラパラッ、ピクッ
「、、、この、魔法結晶の請求書は?」
「雨が振らずに農家が困ってるって言ってたから、作ってあげようと思って。高いけど、払えなくはないでしょ?」
「ほう、、、一定間隔、もしくは任意で魔法を発動させる魔道具。魔法結晶なんて王都にしか無いと思っていたんだが、作れるものなのかい?」
「まぁ、魔導師なら誰でも作れると思うよ。今回は空気中の魔力を集める自動補完と、定期的に雨雲を発生させる高位魔法の術式を組み込もうと思ってて、少し時間が欲しいかな」
「失敗するビジョンは?」
「特に無いよ」
「ん、じゃあいいよ。お金もこの通り、もしちゃんと成功したらさらに倍額払おうかな」
「へ? なん──」
ポンッ、ぴらっ
私が疑問を口にするより先に彼は判子を押して私に承諾書をピラピラと見せてきた。
「領民の過酷な労働がこれから先に簡略化されるというのなら願ってもないよ」
「いや、まぁ、、、私は損しないけど、不平等じゃない?」
「世の中にはお金で釣り合わないことも多くあるんだよ。出来れば受け取って欲しいな」
「そこまでいうなら、、、」
ここであんまり渋りすぎるのも良くない気がするし、ここは素直に引いておこう。
「何か必要なものはあるかな?」
「欲を言えば緑の魔結晶だけど、流石に無いよね」
「いや、無いこともないよ」
「え、なんであるの」
「貴族には色々あってね。どのくらいの大きさだといいのかな?」
書類にサインをする手を止めずに彼は話を進めていく。
「うーん、、、広域魔法じゃなくて雨雲の発生が目的だから中くらい、握り拳二つ分くらいかな?」
「なるべく近い大きさのものを用意させるよ」
結構無茶振りだと思ったのに、思いの外すんなりとことが運んでて怖いまである、、、でも裏は無さそうだし、上手く行く分には別にいいか。
「じゃあ、また地下を借りるね」
「あぁ、好きに使ってくれ」
ギィ、バタン
そういって彼女はドアを開けて執務室を出ていく。
本当に世間知らずなのか、それとも彼女の価値尺度が一般の者より遥かに高い位置にあるのか。いずれにせよ、何処かのタイミングで教える必要があるだろう。
「魔法結晶を作れる魔法使いなんて、宮廷魔導師のレベルなんだがなぁ、、、」
魔法結晶は確かに高いが、彼女の言うとおり一般人の手が届かない代物ではない。しかし、加工の難度の高さゆえ、そうそう上等な物を求められるものではない。
「一体君は何者なんだ、、、」
スキル 五感強化
まずい。
(そうだったのか、、、)
さっきの反応が気になったから廊下越しに聞き耳を立てておいたんだけど、ちょっと面倒なことになるかもしれないな。私は元々五感が普通の人より鋭いらしい。師匠の言う事だから信用してたけど、さっき盗み聞いた彼のぼやきを聞いて少し怪しくなってきた。
(今回は引き受けちゃったから最後までやらないとだけど、、、今度から気を付けよう)
宮廷魔導師というのは、簡単にいうと人生を魔法に捧げた人の集まりだ。師匠が、大分昔に森に侵入してきた魔導師達と戦ったことがあると言っていた。
(いや、どうでもいいか。私とは関係ないし)
──ー
カチャカチャ、サラサラー、ジュワッギギッ
「ちょっと大きいな」
メイドさんが持ってきたのは直径三十cm程度の魔法結晶。握り拳くらいって言ったけど、注文より大分大きい。
「術式は完成したけど、大分余白が出るな、、、」
折角だし私の知的探求心を満たしてしまおうか。
「ま、どうせ試験品の予定だし構わないか」
最初はミッツの魔法を組み込むだけの予定だったけど、勿体ないからもう二つほど別な魔法の術式を組み込む。
雨雲の発生、魔力の自動補完、それらを周期的に動かす時間回路と手動で動かす回路。それらに加えて
雨雲の大小と、手動で雨雲を晴らす機能を追加してみる。
カチャカチャ、サラサラー、ジュワッギギッ
魔法結晶に熱で溶かした魔力粉で文字を書いていく。魔法結晶が術式のレベル差に応じた強度に耐えられるように耐えず補強しながらそれを繰り返して、、、
〜一時間後〜
カチャッ
「ふーっ、完成!」
魔法結晶は完成。理論上は問題なく動くはずだけど、何処かでテストしたい。
「、、、勝手に雨を降らせるのは良くないか」
コンコンコンッ
「? どうぞ」
地下室にわざわざ来るなんて、相変わらず物好きだな。
「失礼するよ。進捗はどうかな?」
「それより、私のところにばかり来るのは良くないんじゃない?」
「ご心配なく、つい今しがたエリナの部屋には行ってきたよ」
抜け目ないというかなんというか。
「、、、殆ど完成したよ、後は問題なく動くかテストするだけ」
私の言葉を聞いて、彼は驚くでもなく笑うでもなく、不思議そうな顔をする。
「、、、、、、聞いてもいいかい?」
「どうぞ」
「君の魔法の技術は、一体どこで学んだんだい? どんな天才でも、普通の生活をしている上で身につくものでないだろう?」
「、、、知ってどうするの?」
「気を悪くしたのなら謝るよ。しかし、私も元々は魔法を扱っていた兵士。純粋な好奇心のつもりだ。是非、教えてくれないか?」
私は不機嫌が分かるように声色を落として話した、なのに彼は一歩も引かずになおも同じように質問してくる。
「はぁ、、、還らずの龍林って、知ってる?」
「もちろん。知らない人の方がそうはいないよ、"実在する寓話"だからね」
「、、、私は、そこに住む天秤の賢者の弟子。それだけだよ」
嘘を言う必要も特にはない。軽い言葉で暴露してしまったがまぁ、大きな問題には発展しないだろう。
「!? 、、、あそこに住める人間がいるのかい!?」
「実際に15年間暮らしてきた人間が目の前にいるよ〜」
「しかし! あそこは生物の最上位種、"龍"が闊歩する場所で! 魔素も瘴気も、人間が住めるような場所では、、、!」
「まぁ、師匠はめちゃくちゃな人だから」
あの人の家の周りだけ極端に魔素や瘴気が安定しすぎている。それもそのはず、賢者という生き物は、理屈に縛られて生きていない。賢者が理屈なのだから。どんな無謀も賢者が勇気と言えば勇気になり、どんな醜悪な物も賢者が美しいといえば美となる。
「その話は、、、簡単に信じれはしないが、、、」
「信じる信じないは貴方の自由だよ。ただ、私はそんな下らない嘘は吐かない」
「、、、、、、、、、そのことを、どれだけの人に話したんだい?」
「オドレアの冒険者ギルドの一部の人、かなぁ」
「、、、その話、全面的に信じよう。恩人の話だしね」
正直信じられるとは思わなかった。でも、確かにいざ言われてしまえば信じれるような話なのかもしれないとも同時に思う。
「信じるついでにその話、出来るならなるべく隠したほうがいいよ」
「別に自慢話にするつもりはないよ?」
「いや、そうじゃない。あの場所はまだ殆ど未開拓、故に貴族連中はこぞって見栄を張るために君を抱きかかえようとしにいくよ」
「まさか、こんな田舎の小娘一人に?」
「自覚が無いのも無理はないと思うけど、王都にいったら嫌でも理解するよ。とにかく、今後の君の自由を確保したいなら黙っていたほうがいい、分かったね?」
「わ、分かりました、、、」
いつもの穏健な雰囲気のまま、彼は私に強く注意を促してくる。年頃の娘がいるからか、やたら私に対して過保護な気がする。
「それと、薄々気付いているだろけど、君は色々と常識がズレているよ。もう少し力を振るう場所を考えてみなさい」
「はい、、、」
「、、、はは、夕食ができる頃だ。エリナも待っているだろうし、行こうか」
「え、いいの?」
「もちろん。いつもの食卓に一人増えようが十人増えようが変わらないよ。シェフもその気で作っているしね」
「はぇー、流石は貴族」
その後は既に待っていたスペルビアに、服装の乱れを指摘されて皆と一緒にご飯を食べた。
欲を言うならもう少し食べたかったし、マナーなんて知らないからスペルビアに注意されてばかりだったけど、食事はやっぱり多いほうが楽しい。
──ー
翌朝
ドンドンッパンッ!!
「!!」
ガバッ!!
急な銃撃音、もしかして山賊の残党の襲撃? いや、とにかく今は皆の安否の確認、必要なら迎撃の準備を!
バァンッ!!
ドアを勢いよく開けてテミスが廊下に出た瞬間、目に入ったのはのんびり歩くエリナと使用人のメイド。
「わっ、テミス様、どうかなさいましたか?」
「えっ、どうって! 銃撃の音!」
「「、、、ふふっ」」
「え? うん? えっ?」
突然二人が笑い出した。どうしよう、何か闇魔法の類の合図だったのかもしれない。だとすると相当な──
「テミス様、あれはお祭りの合図ですよ」
「、、、へっ?」
「お祭りが始まる時には必ず打ち上がるんです。もちろん、火薬を空で爆ぜさせるだけなので、攻撃性は皆無ですよ」
「あ、、、そう、なんだ、、、」
「あ、話は変わるのですが、テミス様のお洋服、修復はもう不可能かと、、、」
「あ〜、あれだけ壊れてたらやっぱり無理だろうね。今日お祭りついでにどこかで服を買うよ」
「、、、それまで何を着るおつもりですか?」
「え、、、これ(寝巻き)じゃだめ?」
一応森から出るときにバッグに入れておいた軽装。師匠のお古を直したものだけど温かいし丁度いい。
「ヒナ、テミス様に合う服をお願い」
「はい、お嬢様。テミス様、こちらへ」
ガシッ
「へ?」
「行ってらっしゃませ〜」
──ー
「テミス様、非常によくお似合いですよ!」
「うふふ~娘が二人になった気分ねぇ」
「ハハハ、これまた随分と愛らしくなったね」
「、、、、、、」
昨日よりもさらにモコモコでフリフリなドレスを着させられた。貴族って、なんでこうも機能性に欠ける服を着たがるんだろう、、、。
「あの、、、流石に動きづらいので、せめてフリルが無いやつに、、、」
「えー、とっても似合っているのに〜!」
「まぁ、無理強いは良くないさ。ヒナ、もう少し軽装にしてあげなさい」
「、、、、、、はい」
不服そうに返事をしたヒナさんは次に、フリルの無い動きやすい服を用意してくれた。
「うん、これならこの髪留めでも違和感はないよね」
「先程の方が私は好みなのですが、、、」
それはもはや私に決定の意志が無いのではないだろうか。まぁ、適当に流せばいいか。
「それはエリナに着せてあげて、私は気が向いたらでいいからさ」
オドレアでもらった蕾の髪留めをして準備は出来た。
「エリナは謹慎中だからね。残念かもしれないがこれも教育の一つだ。我慢なさい」
「は~い。テミス様、行ってらっしゃませ!」
毎年見ているからか、意外と平気そうなエリナだけど、私の心は新しい玩具を手に入れた子供と同じ気持ち。つまり、ワクワクしている。
ちなみに、スペルビアは朝に弱いらしくまだ寝ている。本来の活動時間は夜なのだそう。やっぱり吸血鬼の
(つまり、私一人で心置きなくお祭りを楽しめる!)
ガチャッ
ドアを開けて少し歩くと街まで行ける。国境の領土なだけあって、領主の住む館の土地にも気を使っているらしく、若干遠い。
私はお祭りを堪能するために、街へと踏み入った。
──ー
ワイワイガヤガヤ
老若男女が歳や立場を問わず年に一度、木神に祈りを捧げ、騒ぐ豊穣祭。この日ばかりは街は普段の活気からさらに数段上がった騒ぎようを見せる。
二人の男はフードを深めに被り、祭りを散策していた。
「おいグラニ、見てみろよ。田舎でもやっぱ祭りは盛り上がるもんだな」
「ジル。一人で勝手に動かないでください。これだけ人が多いと探すのも一苦労なんですから」
「おっ、アレなんて美味そうだぞ」
長身の男に注意されても一回り程度小さいもう一人の人物は走っていってしまい、溜息をつく。
「よってらっしゃい!! そこの兄ちゃん! 縁起物の角猛牛(ホーンブル)の串焼きはどうだい!?」
「おー、デカイ肉だな。小腹も空いたし二本くれ」
「あいよ! もうすぐ焼けるから待っててな」
「角猛牛が縁起物、、、? はて、そんな話は聞いたことがありませんが」
「ハッハッハ! いやなに、凄え魔法使いの冒険者が昨日取った肉だよ。んで、その恩恵に預かろうって腹だぜ。さ、焼けたぜ、兄ちゃん達」
男達は串焼きを手に取り、先程の話を考える。
「凄腕の魔法使いですか、、、しかし、いかに大きいといえど角猛牛程度ならDランク程度でも狩れると思いますが」
「凄い冒険者ねぇ、、、よしグラニ、探すぞ。今は少しでも戦力が欲しい」
「期待しすぎると落胆も大きいですよ」
「期待通りなら喜びも大きいだろ?」
「また屁理屈を、、、」
ドンッ
「あ、すいません」
「おっと、すいません、お怪我は?」
「大丈夫です。前見てなくてすいません」
「いえ、こちらも考え事をしていたので」
男は小柄な少女とぶつかり謝罪をすると、浮かれるもう一人の男を追いかけていった。
一方、その少女は広場で行われる豊穣を祈るためのダンスを見るために急いでいた。
(確か広場はこの辺り、、、)
お祭り中は街全体が会場になるから地図を頭に入れておいて良かった。それにしても、、、凄く楽しい。
甘い果物を水飴でコーティングした果物飴にマナー無用のお祭りグルメ、景品が取れるミニゲームに運試しのクジ引き。
せっかく急いで来たのに遅れたせいで見辛いな。
何処か高いところ、、、あぁ、屋根でいいか。
路地裏から行けば迷惑じゃないだろうし、観るだけだから大丈夫だよね。
ヒョイヒョイッ
「わぁ、、、!」
〜〜 〜〜
空気を楽しく震撼させるドラムやフルート、歌詞は知らないけれど皆が歌う歌。とても楽しそうに笑顔で踊っている。混ざらずとも、見るだけで幸福感で満たされる。
(ずっとお祭りなら楽しいけど、きっとたまにやるからこそ楽しさも一層際立つんだろうな)
踊りも一段落した頃、次は何をしようかと考える。
次の屋台を探そうとして少し伸びると、鼻腔に鉄の刺激臭が薫る。
ピクッ
殺し屋の類か、もしくは冒険者か。いずれにせよ、人の血の臭いを被ってるのは面倒なことこの上ない。狙っているのはどうやら先程のローブの男らしい。
(貴族がお忍びで遊びになんて来るから、、、あぁほら
、路地に入ったら格好の的だろうに)
お祭りで見る赤は血じゃなくてトマトソースでいい。私の為の不平等な人助けだけど、構うものか。
トンッ
「中位風魔法──」
テミスは路地に入った二人を、影から狙う刺客の後ろに立ち、拘束系の魔法を展開する。
ガッ! ズダァンッ!!
、、、、、、ポヒュンッ
瞬間、暗殺者と思しき男は壁に盛大に叩きつけられる。建物の壁が凹み、パラパラと小さな瓦礫が落ちるのを見たテミスは攻撃対象を失った魔法を手の中で破壊する。
二人の青年は、空から降って現れた少女をその青と朱の眼光で見つめた。