瞳を閉じぬ裁定者   作:レガシィ

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一ヶ月も空くとは、、、とほほですね。
メインの方も若干停滞気味ではありますが、必ず完結はしますので、よければ評価や感想などよろしくお願いいたします!


第十七話 エリザベータ女王

「どうだ? ここが俺の国の中心部、オドレアより遥かにでかいだろ?」

 

 テミスは街に入る前の巨大な防壁を見て感想を述べる。

 

「凄い。人がこんなものを作れるのもそうだけど、これにかかってる防衛魔法の数が、10個? これだけの魔法をこれに付与したの、、、?」

 

「凄いだろ? その魔法を付与したのはたった一人の男なんだ」

 

「例の賢者?」

 

「いや、我が国のギルドが誇る最高精鋭。Sランク冒険者のウルカだ」

 

(Sランク! ディアナと同じ、、、あの蟲を圧倒した彼女と同ランクの魔導師、、、!)

 

「Sランク冒険者は世界全部で7人。言っちゃ悪いが、オドレアはそんなにデカくないから会っただろ?」

 

「会ったっていうか、一ヶ月くらい一緒に行動してた」

 

「そうか。まぁ、噂じゃ相当の戦闘狂って聞いたし、お前を見つけたら当然かもな」

 

 ジルバートはニヤニヤ笑い、効かない鑑定スキルをテミスに向けるのを、無視して外を眺めるテミスはつぶやく。

 

「過大評価が止まらないね」

 

「俺は常に結果を期待する。成功を前提にした行動には、必ず期待以上の結果が待ってるからな」

 

「それは成功したらの話でしょ。失敗するとは思わないの?」

 

「勝率の低い賭けをするつもりは無いね。俺が動くのは勝ちを確信するときだけだ」

 

(凄い自信家。王の素質? 本でしかみたことないから知らないけど)

 

 心の中で呟くが、グラニの声が聞こえて思考は中断される。

 

「殿下、そろそろ入れますよ」

 

「テミス、窓のカーテン閉めろ」

 

「うん」

 

(街を観たかったけど仕方ない。目の前にいる人は一応王子だし)

 

 シャッ

 

「悪いな。ことが終わったらいくらでも案内してやるよ」

 

「いや一人で回るよ。王子と散歩とか怖い」

 

 テミスはカーテンを閉め、中を見れないようにしてジルバートの提案を受け取らずに静かに馬車の音に思いを馳せる。

 

(師匠元気かな、ご飯ちゃんと食べてるかな、、、私以外の女の人に会ったりしてないかな、、、)

 

 年頃の恋する乙女らしい思考を広げながら、テミスは心の中で全てがありえないと分かっている。

 

 賢者が住む場所に人は立ち入れない、ご飯の作り方を教えたのは賢者本人、彼の畑にはエリクサーが育っている。

 

(、、、ないな)

 

 ゴトゴトッ、、、

 

 馬車の揺れが大人しくなる頃、目的地についた馬車は止まる。

 

「着いた?」

 

 ガチャッ

 

「ほら」

 

 ジルバートは王子、馬車から降りる時の紳士の振る舞いを魅せるように手を差し出す。

 

 しかしテミスは世間知らず。その行動の意味を解さない。

 

「? 降りれるよ?」

 

「取っとけ、貴族の間じゃ当たり前なんだよ」

 

「じゃあ、、、ありがと」

 

 ソッ、、、トンッ

 

 テミスの眼前に広がるのは大きいではなく、巨大と言う言葉が真っ先に思いつく綺羅びやかな城。

 

 オドレアでは城へ入る機会は無く遠目に見るだけだったものが、目の前にある光景に言葉を失う。

 

「じゃ、グラニ。面倒事は任せた」

 

「承知しました」

 

「行くぞ、付いてこい」 

 

「あ、うん」

 

 コッコッコッコッ、、、

 

 城の中は見かけ通りに当然とても広く、ジルバートとすれ違う者は皆一様に頭を下げる。

 

「改めてだけど、王子って本当なんだね、、、」

 

「今更か? もっと尊敬していいんだぜ」

 

「今からでも敬語にしたほうがいい?」

 

「それは遠慮する。さて、今から陛下に会ってもらうが、診察の準備はいいか?」

 

 ジルバートは慣れた足取りで大きな扉の前に立ち、テミスの方に振り向いて言う。

 

「えっ、今すぐ!?」

 

「時間がないって言っただろ。大丈夫、ある程度の無礼は俺がいるから気にしなくていい」

 

(ある程度って何処まで、、、?)

 

 コンコンコンッ

 

「第二王子、ジルバート。帰還の報告と新たな薬師を連れて参りました」

 

「〰〰」

 

 ガチャッ 

 

 扉の奥から、掠れるような薄い返事が帰ってくるのが二人に聞こえ、部屋へと入る。

 

 二人の目にまず入ったのは大きなカーテン付きのベッド。部屋は全ての窓のカーテンが閉まり暗く、驚くほど広い。テミスが前に賢者と暮らしていた家のリビングよりも尚広い。

 

(個人でこんな広い部屋っているのかな。っていうか、、、)

 

「く、臭い、、、」

 

 部屋には薄い煙が漂っており、それが香炉だとテミスはすぐに気が付く。普通の人より五感が鋭いテミスは鼻を抑えて香炉の元へ向かう。

 

 スタスタッ

 

「陛下、お体の方は、、、」

 

「〰〰」

 

 弱りきった女王陛下の声はか細く、今にも消え入りそうなほどに拙い。

 

「今度こそ、とびきり優秀な薬師です。きっとすぐに良くなります」

 

 ジルバートは細い手を両手で握って優しく呟く。

 

「テミス、早速頼む、、、って、何やってるんだ?」

 

「この香炉、こんなに焚いたら寧ろ体に悪いよ。消していい?」

 

「まぁ、構わないが」

 

 ジュッ

 

「窓も開けるね」

 

「カーテンは閉めたままで頼む」 

 

「分かった」

 

 テミスは指先でつまんで香炉を消し、窓を開け放ち、続いて女王陛下の元へ向かう。

 

「えっとじゃあ、診察を始めます。少し腕をまくりますね」

 

 バァンッ!! 

 

 その時、扉が大きな音を立てて開く。

 

「なりません! 今、陛下は治療中ですぞ!!」

 

「おい、陛下の前だぞイシーノ。分を弁えろ」 

 

 扉を開けて入ってきた白衣を着て、白髭が生えた非常に小柄な男が急に大声で喚くのを、ジルバートは怒気の籠った声で睨む。

 

(、、、消音)

 

 テミスはベッド周りに消音の魔法を使って取り敢えずの処置をする。

 

「こ、これはご無礼を。しかし、お許しください。陛下は今、香療法の最中なのです」

 

「「?」」

 

「身体の毒を浄化すると言われるアヘニア花の種! それを粉末状にして燻すことで薬効のある煙を部屋に満たすのです!」

 

「、、、それ、要するに薬漬けにするってことだよね」

 

「何だと?」

 

 その一言にイシーノは大きく目を見開いてテミスを睨みつける。しかし、それに臆することなくテミスは言葉を続ける。

 

「確かに、アヘニアには痛みを緩和したり、身体に一時的な快楽をもたらして苦痛を和らげる成分を分泌する効果がある」

 

「はん、小娘程度の知識でも存外勉強してるのだな。分かっているのならその俗な──」

 

「でもその反面。強い依存性があり、服用を続けると効果が薄くなっていく。最初は少量でも、そのうち倍、倍々と増えていきやがて毒になる。それを薬漬けって呼ばないならなんて呼べばいいの?」

 

「ぅぐっ、、、!」

 

「今だけ収まれば、薬を使えば。それは一時的な誤魔化しでしかなく、恒久的な処置にはならない。目先の利益に囚われすぎたらそれは医師じゃない、ただのペテン師にすぎないよ」

 

「ーッッ!!」

 

 イシーノは今にもテミスに取ってかかりそうなほどに顔を真っ赤に、怒りを顕にする。

 

「、、、今の話、事実か? イシーノ」

 

「そ、そやつの虚言でございます! そこな小娘程度の知識より! この国随一の医師である私の方を信用ください! この国に忠を──」

 

「いやいい、俺に薬の知識は無いからな。だが、結果を出せていない以上、新たな方法を探った方が良いと思い始めてた頃だ」

 

「そ、それはつまり、、、?」

 

「今日この日から、女王陛下の治療をコイツに任せる」

 

 ポンッ

 

 ジルバートはテミスの肩を軽くポンと叩き、相手は王族なこともあり、静かに手を掴んで降ろす。

 

「そんな、、、! 、、、今に後悔しますぞ、、、!」

 

「後悔上等、俺は常にここ一番で賭けて勝ってきた。今回も勝ってみせるさ」

 

 悔しい、或いは憤慨。そんな表情をして、イシーノは部屋から乱暴に立ち去る。

 

「、、、で、本当なのか?」

 

「これ? 言ったことは本当だよ、嘘はない。でも、一国の王子が肩入れしすぎだと思うけど」

 

「いいんだよ、一番上じゃないしな。自由が効くってのは楽でいいぞ」

 

「ふーん、、、じゃ、早速始めるけど、どうする? 見てる?」

 

「見させてもらおう。無いとは思うがお前が危険なやつだったら困るからな」

 

「えっと、、、待たせてごめんなさい。失礼しますね」

 

 テミスは魔法を解除し、手首を軽く握って脈を測る。

 

(正常、、、内蔵ではない) 

 

 チャキ

 

「少しチクッとしますね」

 

 チュウー

 

 テミスは採血して立ち上がり、一度日に照らして血の色を見る。

 

「、、、色が悪いし粘度も高い」

 

「血の色なんかで分かるのか?」

 

「少しね。でも、これは明らかに異常」

 

 テミスはそう言いながらスペルビアに血を渡し、スペルビアはそれを飲む。

 

 ゴクン

 

「不味い血ですわね。病気ではなさそうですが、食生活の乱れでは?」

 

「うぉ、喋れるのかよ」

 

 コウモリ状態で喋るスペルビアを見て少し驚きながらも、話題を戻す。

 

「まぁ、いい。それで、もう原因が分かったのか?」

 

「いや全然。こんな血は検査に使えないし、まずは生活から見直さないと」

 

「具体的には?」

 

「ご飯のリストと予定見せて」

 

 ジルバートは廊下のメイドに指示し、3食のメニューを持ってこさせる。その内容に、テミスは思わず口に手を当ててぐったりする。

 

「重い」

 

「ん?」

 

「まず病人に食べさせる量じゃない。残していいと言うかもしれないけど、匂いや見た目だけで食欲が失せる。あと栄養をつけるって考えは正しいけど動物性の物が多すぎ、消化に悪い」

 

 あれもこれも。そのような指摘を淡々と語るテミスの言葉をジルバートは呼んできていたメイドにメモさせる。

 

「最後、これなに?」

 

 テミスが指した果物をメイドは丁寧に解説する。

 

「あ、それはこの国名産のカリムという果物ですね。そこにもありますよ」

 

 ジルバートが指す先には、赤黒いような果物が皮付きで置いてあり、テミスは一つ手に取る。

 

「よろしければ、調理して──」

 

「そのまま食えるぞ」

 

 メイドの言葉を遮るようにジルバートは一言放つ。

 

「ふ~ん、、、」

 

 ボリンッ!! 

 

「「!?」」

 

 テミスが齧ると同時に鈍い音が部屋に響く。同時にジルバートとメイドは驚愕の表情を浮かべる。

 

「うわ硬。皆歯と顎が凄く丈夫なんだね」

 

 ボリボリゴリンッ

 

「馬ッ鹿おまえ!! 食えるわけねぇだろうが!!」

 

「確かに皮は食えたものじゃないや。美味しくない」 

 

 ジルバートの言っている意味を解さず、舌を出して不味そうな表情でテミスは淡々と話す。

 

「ちげぇよ! それは加熱して柔くして食うんだよ!! 生で食えるわけねぇだろうが!?」

 

「え、中身は結構美味しいけど」

 

「はぁ? 中身なんて、、、言われてみれば、生は食べたことないな、、、?」

 

「え、無いんだ。じゃあ、、、よっと」

 

 ビキビキッ

 

 テミスはもう一つカリムを取り、コノハナサクヤを掌から出して刺突でヒビを入れて二つに割る。

 

「はい、良かったらメイドさんも」

 

「構わん。お前も食ってみろ」

 

「では、失礼して、、、」

 

 パクンっ

 

「「美味しい、、、」」

 

 二人は揃って同じ言葉を口に出し、感想を述べる。

 

「クリーミーというか、滑らかだな」

 

「えぇ、まるで加熱して蕩けたチーズのよう」

 

「加熱したらどんな味なの?」

 

「硬くなるな。でも、反対に皮は柔らかくなって調理が容易になり、中身は甘くなる」

 

「ふ~ん、、、ま、取り敢えずは少しでも健康になって貰わなきゃ検査のしようもない」

 

「健康にって、時間にしてどのくらいだ?」

 

「あんな話ししておいてアレだけど、ちょっと薬草も使うと、、、速くて一週間かな」

 

「イシーノに使った時間に比べりゃ全然だな。おい、こいつに滞在の部屋と、あと薬師部屋を」

 

「よいのですか?」

 

「あぁ、兄上は出払ってるし俺の権限でいい。それと念の為だがイシーノはこの部屋に近づけるな」

 

「承知しました」

 

 テミスに与えられた部屋は流石に女王の部屋程でないにしろかなり広く、なれぬ経験を再び積まされるようであった。

 

 コンコンッ

 

「失礼しますね」

 

「〰〰」

 

 テミスはワゴンに数種の料理を小皿に盛ったものを持ち込んで部屋に入る。

 

「えっと、自分で食べれないですよね」

 

 ベッドの横までいき、テミスはスプーンを手に取る。

 

「あ、毒は入ってないけど、美味しくはないですよ。食べれないことはないと思いますけど、しっかり噛んでくださいね」

 

 スプーンに果物と薬草を煎じた物をすくい、女王に食べさせるようなものでは決してないことに緊張しながら口元へと持っていく。

 

 ズズ、、、

 

「〰〰」

 

「?」

 

 女王は食べると同時に喋るが、掠れ声で聞こえず、テミスはその言葉に耳を傾ける。

 

「ま、ず、、、い」

 

「うーん、やっぱり梨類程度の果物じゃ味は変わらなかったか、、、」

 

「でも、、、食、、、える、、、」

 

「そう、、、なら良かった」

 

 ──ー

 

 四日後、厨房の隅にて

 

 コトコト、、、トポンッ

 

 ズズッ、、、

 

「甘すぎかな、、、?」

 

 テミスは薬膳料理を作るために厨房の隅を借りている。他の料理人達も了承しており、薬草以外は城のものを使っていた。

 

「やや、テミス殿! 今度の料理はどのようなものを!?」

 

 味見をするテミスの後ろから口から髭を長く伸ばし、長いコック帽を被った料理長が話しかけてくる。

 

「あ、サボックさん、ちょっとこれ味見してみて」

 

「喜んで、、、甘いですな?」

 

「やっぱり? 薬膳だから苦いし、砂糖を多めに使ったんだけど、、、」

 

「なるほど、、、しかし、あくまでも薬膳なのでしょう? ならば、少々苦くとも王女には治療と思っていただくのは駄目なのですかな?」

 

「そうだけど、でも、せっかくなら美味しく食べてほしいよ」

 

「うむ、我ら料理人にその思いはよく分かります。でしたら、少々お任せを」

 

 サボックはそういって数種の香草を切って練り始め、それをテミスの料理人加える。

 

 トントン、ゴリリッパラパラ、、、

 

 ズズッ

 

「うむ、これならばどうですかな?」

 

「! 凄い、甘いけどマイルドになってて口に残らない。これならきっと美味しく食べてくれるよ」

 

「お役に立てたなら何より、相反する物を入れるだけでは味は良くなりませんからな。それでは」

 

 ペコリと頭を下げてサボックは仕事に戻っていく。テミスはワゴンに料理を乗せ、女王の部屋へ向かう。

 

 コッコッコッ

 

(あ、、、)

 

 途中に第一王子。つまりジルバートの兄にあたる、ギルバートが対面から向かってきていたため、廊下の端に寄せて待機した。

 

 ピタッ

 

(、、、え、なんで? 私頭下げてるよね)

 

「君が今回の薬師かな?」

 

「? はい、、、」

 

「ふ~ん、、、どう? 治せそう?」

 

「えっ、、、恐らく、、、?」

 

「そう、頑張りなね」

 

 ポン、コッコッコッ

 

(えぇ、、、なにあの人、、、)

 

 奇怪な行動に呆気に取られるが、女王の部屋にの入る。

 

 コンコンッ

 

「失礼しま、、、あ」

 

 部屋に入ると寝巻きのまま立ち上がり、窓から国を眺める彼女の姿が目に入る。

 

(あれ、大分回復早い?)

 

「テミス! そなたは素晴らしい薬師だな! もうこんなに回復したぞ!」

 

 以前のように若干の掠れ声ではあるが、長い金色の髪をたなびかせ、彼女はすたすたとテミスに向かって窓から歩く。特効薬を使ったわけでもなく、何か特別なことをしたわけでもないのに彼女の回復は非常に早すぎた。

 

「そう、、、身体の痛みは大丈夫です?」

 

「特にはないな。今すぐ走り出したいくらいだ」

 

(絶対おかしい。病気に関係なくずっと床に伏してたのなら、急に動いたら関節の痛みがあるはず)

 

 スキル 感覚強化

 

「、、、ベッドの下」

 

 ギクッ

 

「、、、いや、その、、、テミスの料理は薬膳だが美味いぞ? ただその、な? たまには甘味も欲しくなるわけで、、、」

 

「駄目ですよ。ちゃんと治るまでお菓子の類は禁止です。没収しますから」

 

「、、、どうしても?」

 

「どうしても。カリムの飴ですか?」

 

「イシーノが持ってきてな、独特な甘さと香りが癖になってしまって」

 

 テミスの五感の強化、それによってその飴の正体は既に分かっていた。カリムの甘さと香りで巧妙に隠されていたが、アヘニアの匂いがテミスには嗅ぎ分けられた。

 

 コッコッコッ、、、

 

 テミスは部屋に近づく足音に気づく。

 

「少し用事があるので席を外しますけど、食べれますか?」

 

「手は動くし問題ない。用事など後にして私の話し相手にでもならないか?」

 

「すぐに終わりますから、少しだけ待っててください」

 

 ガチャッーバタン

 

 コツンッコツンッコツンッ

 

「やっぱり」

 

 グイッ! 

 

「! お前ふぁっ!?」

 

 テミスは廊下に出て少し歩き、足音の正体へと詰め寄り、壁へと追い詰めて頬を力強く握る。

 

「あのさぁ、、、私の言ったこと覚えてないの?」

 

 ギリギリギリッ、、、!! 

 

「アレは毒になるって言わなかった? アンタは国の女王さんを殺したいの?」

 

「ご、、、ごめ、、、な──」

 

 ギギギッ! 

 

「何? 聞こえないんだけど」

 

 テミスの握力は剛腕そのもの。岩をも粉砕するほどの負荷が、人体の柔部へ向けられているのは想像を絶する苦しさだろう。

 

「アンタにこの国最高の薬師とやらのプライドがあるのは結構だけど、今彼女は私が治療してるんだよ。私のプライドに傷をつけるな」

 

 ブンッ! ドガッ!! 

 

「分かったら二度と来るな」

 

「ひっ、ヒィィっ!」

 

 イシーノは頬を掴まれた跡を作り、腰の抜けた走りでその場を去っていった。

 

(別に私が怒る道理はあんまりないけど、、、でもなぁ)

 

「なんか不愉快、、、ていうか、なんで近くにいたんだろう、、、まぁいいか」

 

 テミスは部屋へと戻った。怒りのあまり疎かになった索敵を掻い潜り、石柱の背後に隠れていた人物に気付くことはなく。

 

 コンコンッバタン

 

「戻りました」

 

 テミスは笑顔を向け、先程の怒気を完全に分散する。部屋の中ではベッドに座り、料理をゆっくりと食べる彼女の姿がある。

 

「本当にすぐだったな。ほら、早う座れ!」

 

 待ちわびたと言う感じの仕草で彼女が指した椅子にテミスは座る。

 

「陛下、ゆっくり食べてくださいよ」

 

「、、、その陛下呼びはなんとかならんのか?」

 

「?」

 

 スプーンを口に入れたまま不服そうにそう唱える。

 

「そもそも主は冒険者だろう。妾の名はエリザベータ。名前で呼ぶのを許可しよう」

 

「エリザベータ陛下?」

 

「違う違う。エリザでよい」

 

 急なフラットすぎる呼び名の提案に流石にテミスもたじろぐ。

 

「そーっれは、良くないんじゃ、、、」

 

「妾がいいと言うとる。なんだ? それとも妾の名前を呼ぶのは不満か? んん?」

 

 ジドリとした目でエリザベータはテミスのこめかみを指差す。

 

「じゃあ、二人の時だけ」

 

「駄目だ。妥協点は親しい者といる時くらいだ。ついでに敬語もなるべくやめい」

 

(我儘だなぁ)

 

「じゃあ、それで妥協します、、、」

 

「うむ」

 

 満足そうにエリザベータは薬膳の料理を、王族らしいマナーで、しかし、どことなくあどけなさが残る顔で頬ばった。

 

 




因みにエリザベータは味の違いからサボックが手を加えたとわかったらしいです。心優しい、庶民に寄り添う女王様ですね。
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