森を抜けて一時間、歩き続けて見えるのは何もない平原だった。森ではどこを見ても生い茂る木やモンスターや
「疲れたな、、、」
ボフンッ
私は草原に体を預け、ふと上を見上げた。青い空に白い雲。どこまでも吸い込まれそうな深い深い蒼空、決してその場に留まるこなく、悠久的に変化を続ける白い雲、どこも通らなかった新鮮な風。私の知らなかった、知るつもりのなかった世界は、とても綺麗だ。
ザァッッ
「キレイ、、、」
私は立ち上がって再び歩を進める。王国までは少し遠いから、途中の農村で一泊する予定、まずはそこに行かなくてはならない。師匠は一週間分程度の旅銭をくれたから、どこかのタイミングで自分でお金を稼がなければならない。
「集めてた薬草だけで足りるかな、、、念のためにスライムの魔石でも集めようかな」
スライム、一般的にどこにでもいる雑魚モンスター。でも侮ってはいけない、物理攻撃を九割カットする上に、一度捕まれば粘性のある体の中に取り込まれ、消化液で溶かされる。
私も一度経験がある。あれは思い出しくない苦い経験だ。
ボヂョンっボヂョンっ
(弾粘性のある跳ねる音、、、あ、いた)
「色は青、か。まぁ、最初から当たりは引けないよね」
バシュウッ、ヒョイッ
スライムは消化液を飛ばしてくるが、動きは鈍く、ほぼほぼ当たることはない。そもそも、飛ばしてくる消化液は酸性が殆どないから当たっても不愉快に感じる程度のものだけど、当たらないに越したことはない。
私はそれを避けて、魔法を構築する。
「低位風魔法、
キュインッ!
ズパシャァ、、、
三連撃の風の刃、スライムは三つに分かたれ小さな石を落とす。
紫のような黒のような、良く分からない色をしている石。ゴミのようにも見えるけど、魔石は人々の生活に必要な物らしい。
「あと、、、目に見える奴全部でいっか」
バシュウッバシュウッッ!
約十体を討伐。中くらいの魔石が一つ混じっていたのでラッキーだと思う、多分。
その後、スライムは全部無視して歩いていく。
村が見えてくる頃には、季節柄暗くはならないものの、日は少し傾き始めていた。
「ここ、、、だよね?」
村はそこまで広い印象はないけど、言うほど狭いわけでもない。家も少なく、村を占めているのは家畜小屋や畑だった。
「おんや?旅のひどが?めんずらしいなぁ、そっちから来るなんて」
「どうも、こんにちわ」
「こら丁寧に、こんにちわ。めんこい嬢ちゃんだなぁ」
「あの、ここって宿泊できる場所ってありますか?」
「そんならヤドリギ亭だな。どれ、そろそろ終わりにするとごろやし、案内すっぺや」
「ありがとうございます」
初めて師匠以外の人間と出会った。畑で草刈りをしていたおじいさんはとても穏やかに笑い、被っていた日除け帽をとり、汗を拭ったあとに私の前を歩きだす。
「嬢ちゃん、名前は?」
「、、、テミス、です」
「ほー、テミスちゃんなぁ。何しにこだなどころへ?」
「この先の王国に行くためにここで馬車を待とうかと思って」
(良かった、ちゃんと師匠以外の人と話せてる)
私は内心そう思いながら、自分でも分かるほど、ぎくしゃくと後ろを歩いてついていく。
「そうかぁ、成人はしだのがや?」
「今年、成人します」
「んだがぁ、嬢ちゃん運ええなぁ。明後日に馬車がくっから、ゆっぐりしでってな。ほれ、着いたぞ」
おじいさんは立ち止まってヤドリギ亭と書かれた看板を指差す。
「あ、ありがとうございます」
「えぇ、えぇ、気にすんな。ここは飯が上手いし安いぞー」
おじいさんは穏やかに笑顔を作って私にそういうと、スタスタと元の道を戻っていった。
「すぅー、、、」
ガチャッ
「いらっしゃいませー!!」
「はい、いらっしゃい」
私は一つ呼吸を置き、意を決して木製の扉を開ける。直後に中から二人の女性の声が聞こえてきた。一人は私より見た目が三つほど下のおさげの女の子。もう一人は前掛けとエプロンが良く似合う女将さんと思われるお団子頭の女性。
トレーを持った少女は私に近づき、質問してくる。
「旅人さんですね! 一名様で何泊ですか!?」
「今日と明日だから、二泊かな」
「はい! 銀貨三枚です!」
元気が良すぎる少女はそのまま私に料金を開示する。師匠の言っていた相場と殆ど同じだから、詐欺ではないことを理解して、バッグから取り出したお金を払う。
「はい、どうぞ」
「毎度アリです! 今丁度夕飯時なんですが、今すぐ食べますか? それともお部屋に向かいますか!? それとも──」
「落ち着きな、リオ。お客さんが困っているじゃないか」
「あ、すみません。お客さん、、、」
「いえ、あんまり気にしてないよ。元気な子供はきっと好かれるから、そんなに落ち込まないで」
「お客さん、、、! ありがとうございます!!」
女将さんの一喝で、リオと呼ばれる少女は俯いて落ち込む。元気過ぎるのは良いことだけど、流石に驚いてしまった。慰め方は知らないけど、きっと元気なのは良いことだと思うから、それとないことを言ってみたら元に戻ったみたいで良かった。
「じゃあご飯、頂こうかな」
「はい! こっちです!」
リオちゃんは私の手を取ってカウンターの方に案内すると、元気そうに裏の方へとパタパタと小走りしていった。
「すまないねぇ、お客さん。うちの娘が迷惑かけたよ。キライなものはあるかい?」
「特にはないかな。あの子、迷惑なんかじゃないし、元気があって良い子だと思うよ」
「うちのは元気すぎると思うけどね。まぁでも、お客さんの言うとおり、子供は元気が一番さ!」
女将さんは元気そうに笑う。親子だというだけあって、リオちゃんと笑い方がそっくりだった。
(、、、私はどこか師匠と似てるところあるのかな)
「はい、お待たせ。おかわりは自由だからじゃんじゃん食べな!」
目の前には野菜のスープとパン、それとサラダが置かれた。
「すまないね、肉は無いけどここで取れた野菜は新鮮で上手いよ」
「いただきます」
女将さんはニコリと笑って厨房から身体を乗り出す。
私はいつものように手を合わせてご飯を食べた。
すぐに食事を終え、同じように手を合わせて"ごちそうさま"と一言呟き、渡された部屋の番号の場所へと向かう。食べてる間、暇なのか女将さんはずっと話しかけてくれた。あまり他人と話してこなかった私には練習になってありがたい。
ボフンッ
私はベッドに少し勢いをつけてだらしなく身体を預けた。良質とは言い難い素材だけれど、疲れた身体を休めるには充分で、空腹は最高のスパイスという師匠の言葉が自然と浮かぶ。
「そうだ、日記でも書こうかな」
私は備え付けられた机の前に座ってペンを持ち、今日の出来事と反省を書き連ねると寝支度を整え、そう遅くない時間に布団に入り、夢の世界へと落ちていった。
──ー
朝
チチチッチュンッ、コケコッコー! モ"ォ"ー
小鳥の囀り、
「
パァァッ
服や物を綺麗にするだけの神聖魔法だけど、持ち物を大幅に減らせるのでとても便利な魔法だ。これ含めても神聖魔法は三つしか使えないけど。
トントントン
小気味の良い音。軋みがないため、よく整備が行き届いているのが分かる、木製の階段を降りていくと朝から元気そうな二人の姿を見かける。
「あ、おはようございます!!」
「おはよう、今日も元気だね」
「それが取り柄なので!」
昨日と同じ席に座ると、女将さんが話しかけてくれた。
「おはよう、よく眠れたかい?」
「おはようございます、お陰でぐっすりでした」
コトコトンッ
「はい、朝ごはん」
女将さんはパンとサラダにスープ、干し肉を並べてくれる。私は挨拶をして朝ごはんを食べ始め、今日の予定を話す。
「今日はなにをするんだい?」
「そのことなんだけど、ここに薬屋とかってあったりする? 無ければ本が沢山あればいいんだけど、、、」
「こんな田舎じゃ本なんて誰も読まないよ、協会も無いしねぇ。薬屋じゃないけど、雑貨屋ならあるよ、緑の看板が目印さね」
(緑の看板、、、昨日は見なかったな)
「じゃあ、今日はそこに行って見ようかな」
その後ご飯を食べ終え、私は村を見て回るために取り敢えず村の端まで直進してみることにした。
村は平和という言葉がよく似合う場所、私がいた森からは十数km程度離れてるから龍達も襲ったりしない、そもそも襲うメリットすら無さそうな村だ。
「あ、見つけた」
村の端の方に緑の看板に薬草やガラス瓶が描かれた店を発見する。なんでこんな場所に店を構えているんだろう? 明らかに利便性に欠けていると思うのだけれど。
「まぁ、、、別にいっか。私にとっては好都合だし」
カランッ
小さな鈴がなる音と共に、私は店内へと入る。
中は左右に棚があって通路は真っ直ぐ、確かにこの形なら管理も楽だし、わかりやすい。
でも残念ながら薬草や素材の類は薄く、元々出来てるポーションや日用品が主だった。
「よう嬢ちゃん、なにか入用か?」
眼鏡をかけた初老のおじいさん、、、多分元々は狩人かその類の人だろう。相手を図る目線に、間合いを保つかのような独特の雰囲気、鍛えてたであろう腕や肩の太さ、師匠が言ってた特徴に一致してる。
「薬草とか素材があれば欲しいんだけど、ある?」
「悪いな、うちはただの雑貨屋だ。そういうもんが欲しいなら王都に行きな」
「素材の売却もダメ?」
「うちで買い取っても構わねぇが、、、折角ならアンタ、ギルドに登録したほうがいいぜ」
「ギルド?」
「アンタ、見た感じ旅人だろ? しかも結構強いと見た」
おじいさんはカウンターから立ち上がって隠す様子もなく私のことを見つめ始め、そのままギルドの説明をし始める。
「ギルドっつーのは全大陸共通の組織だ。詳しい説明は実際に受けたほうが早いが、ザックリ言うと色んな依頼を受けて金稼ぐやつの集まりだな。窓口で薬草や素材を売れたりもできる。ちゃんとした組織だから相場はしっかりしてるぜ」
(師匠の話には無かったな、、、まぁ、あの人はそんなのに興味ないか)
「それってなにか制限とかついたりする?」
「最下級のうちは、最低7日に一回依頼を受ける必要があるな。あとは特にないはずだし、それどころかギルドカードってのは身分証明にもなる。旅人なら持っといて損はないな」
「なるほど、確かにそれは持ってたほうがいいかも」
「だろ? そこの村に定期的にくる業者に多分護衛がひっついてるはずだから、そいつらにも聞いてみるといい。そろそろ来る頃だろ」
「この辺ってそんなに危ないんだ」
「いや、そんなことねぇさ。ただイレギュラーってのはどこにでもあるし、王都からここまでの護衛は初心者の依頼に丁度いいのさ」
「へー、、、色々と、ありがとうございます。私はテミス、なにか出来ることがあればお礼に協力するよ」
「ほー、だったら、王都のギルドにリゼルグっつー奴がいる。そいつに、ボルグが偶には飲みに行こうって言ってたって伝えてくれ」
「そんなのでいいの?」
「あぁ、会えればでいい。気にすんな、こんくらい客商売の範疇だ」
「でももっと何か──」
ピクッ
私はもう少し、なにかないかと店長さんに聞こうとした。けど、それより先に気になったことがある。
「どうした嬢ちゃん。忘れもんか?」
「、、、いや、濃い血の匂いがする。誰かが重症、、、下手したら死ぬよ、これ」
「はぁ? 血の匂いって、犬かよアンタ」
ドダドダドダ!! ガラランッ!!
「頼む!! ポーションを売ってくれ!!」
店長さんと会話していると、店のドアを壊さんとばかりに乱暴に呼び鈴を鳴らして一人の少年が押し入ってくる。鎧の隙間の肩から血を流し、汗ばんだ肌と息の切れよう、赤い髪も泥だらけで見るからに疲れてそうだ。
「おい落ち着け、その程度の怪我で男がウジウジすんな」
「俺じゃないっ! 仲間が重症なんだよ!」
「ほら、当たった。ポーションは一つ買えれば十分だし、持ってってあげれば?」
「おう、そうだな。おい、俺はボルグ。お前、名前は?」
「俺はロックだ。ありがとう、恩に着るよ。頼む、急いでくれ!」
店長さんは箱に詰められたポーションを、彼の仲間の元へと運びだす。道中、二人は色々話してたみたいだけど、断言できることが一つある。このポーションじゃ、絶対に助からない。
「こっちだ!」
彼は、先程の話に出た業者の馬車の元へと駆け寄る。村の人が何人か集まっていて、それをかき分けて近くにいくと、同じくらいの歳の男女が二人、倒れている。近くには見習いっぽい神官の人が必死に祈りを捧げていた。
倒れている女性の方は首と胸に三本の爪痕の傷。男性の方は傷こそ浅いものの、呼吸が荒く顔が見るからに青い、これは
「女の方はベアウルフだな。んで、男の方は、、、毒だな、しかもこの感じ」
「紫に当たったんですね」
紫、私がスライムを呼ぶ時に使ってる呼称。本当の名前はポイズンスライム、毒の沼地や瘴気の濃い場所で生まれるスライムのことだ。普通のより大分強いし、この辺にはそんな場所ないはずだけど、、、。
「おい、トア! レノン! もう大丈夫だ! 助かるぞ!!」
「いや無理だよ。どっちもそのポーションじゃ助からない、使うだけ無駄」
「、、、、、、は? なんでだよ! ふざけんなよ!! 金ならどうにかして用意する!! 二人に使わせてやってくれよ!」
私は真実を伝えると顔を真っ赤にして少年は怒り出し、私の襟首を掴んできた。簡潔に素早く情報を伝えたのだけれど、いたずらに怒らせてしまったようでなんだか申し訳ない。
「いや違うんだロック、落ち着け」
「おっさん! どういうことだよ!」
「ウチで扱ってるのは、回復力促進のポーションで、瞬間的に回復するものじゃない。しかも運悪く解毒ポーションは今切らしてる。そこの業者の馬車はウチに卸に来たんじゃなくて、小麦とかを買いに来てるんだ。まぁ、だから、、、こう言っちゃ悪いが、今この場に助かる術はない」
店長さんは丁寧に説明する。話が長いから簡潔にまとめると、取り扱ってるポーションと症状の種類が違うから助からないってこと。匂いを嗅いだときから毒があるのも、助かるポーションの種類が無いのも分かってた。
「そん、、、、、、な、、、」
ガクンッ、カランッ
彼はその場で膝をつき、祈り続けていた神官もショックからか持っているメイスをその場に落として目を見開いてしまっていた。
「はぁ、、、店長さん。ガラス瓶ってある?」
「ん? ガラス瓶はそこのポーション空にすりゃあるが、、、まさか、お前ポーション作る気か?」
「今ある素材だと、解毒と中級が精々のところだけど、まぁ十分でしょ。三本くらい貰うよ」
私はマジックバッグからすり鉢と数種の薬草、毒イモリの尻尾を取り出す。
ゴクンッ
「、、、不味い」
スキル 毒物耐性ON
「キガニ草は砕くと毒素が出るから離れてて」
私の作業を見学する村の人に注意を促す。まぁ、単体だと鼻が効かなくなるとかその程度の毒素だけど。
その後にポーションを飲んで空にし、殺菌を兼ねて魔法で熱する。
使う素材は基本のバイタル草とキガニ草、中級にするための二ガライ草、解毒のための毒イモリの尻尾。
ステップ1、乾燥させた薬草を全て粉々にします。
ステップ2、粉末にした薬草をニ種類のガラス瓶に分けます。
ステップ3、同じ力加減で魔法で圧力を加えながら火を通し、同時に冷却を続けます。
これで中級のポーションは完成。
解毒のポーションはこれに毒イモリの尻尾の一部を一日漬けるけど、時間がないので促進魔法を使って強制的に発酵させる。
「アクセラ」
パウッ、、、ゴポポッ
「はい出来上がり、ほらどうぞ」
私はポーションを作り、件の二人に飲ませた。
ついでに、決して浅くはない傷を負っていた少年にも飲ませる。ポーションはすぐに効果を示し、傷がみるみるうちに塞がり呼吸が安定し始める。
「トア!! レノン!!」
「怪我人の耳元で叫ぶのはやめたほうがいいよ、結構しんどいから」
初めて毒で倒れたときの、師匠の慌てぶりと声はとても響いた。物理的に耳がかなり痛かったのを思い出す。
「、、、っアンタ! 名前は!?」
「え、、、テミス、、、」
ガッ
「ありがとうテミス! 本当にもう、駄目かと、、、! アンタのお陰で助かった!!」
彼は私の手を両手で強く握り、涙を流して感謝の意を示してくる。思えば、人を助けて感謝されたのは初めての経験、、、なんというか、悪くないかも。
「助かったのなら良かったね。そこの神官さんと君も休んだ方がいいよ、ポーションを使った後は疲れるから」
「あぁ、ありがとう!! おーい! メルーナ!!」
タッタッタッ
私の指示に従うためか、神官の子の名前を叫びながら走っていった。だから大声出さないほうがいいってば。
あんなに元気なら、彼には普通のポーションで良かったかもしれない。
「アンタすげぇな、、、中級や解毒っていやぁ、中級薬師の資格をもらえるぞ?」
「材料さえあればエリクサーも作れるよ」
「ハハハおもしれぇ、冗談も言えるのか」
「、、、、、、、、、」
「え、マジ?」
「さぁ、どうだろうね」
彼女はその場をゆっくりと立ち去り、店で売っていたポーションを解析するために宿の自室へ戻った。
(やっぱり、あの嬢ちゃんおかしいよな、、、歩いてきた方向が
ボルグの予感が的中するか否かは、神のみぞ知ることであった。
現在公開可能情報
キャラNO2 赤い髪が特徴的な四人パーティーのリーダー。
ロック 剣士
パーティーの名前はまだ無い。基本はBランクを超えた辺りから二つ名が付き始め、誰かの二つ名がパーティー名になるケースもある。
胸当てや肩などを守るための鎧を装備。
愛用しているのはショートソードだが、予備のダガーナイフと剥ぎ取り用のナイフのニ種類を常備している。バッグと同じ程度の容量のマジックバッグを所持していて、ギルドで売っているCランク以下御用達の装備。
スキル
D級片手剣術、E級肉体強化、F級感覚強化
ニ連撃。
魔法 無し