瞳を閉じぬ裁定者   作:レガシィ

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第七話 スタンピード

 あの人を捕え損ねて二日。今日は試験の日だ。

 

 昨日はディアナ達とクエストに行った。その時に聞いた話によると、どうやら新人狩りとやらがあるらしく、ギルドも頭を抱えていたようだ。

 

 でも、あれは個人で動いている感じがしなかった。

 

 ただ単に快楽殺人鬼が集まってる感じでもないだろうし、どこか引っかかる。

 

「、、、えっと、テミスさん?」

 

「? はい」

 

「筆記試験の途中ですが、、、終わったんですか? まだ二分ですよ?」

 

「はい、もう終わったので少し考え事を」

 

 今は筆記試験の真っ最中。でも、内容は私が小さい頃にやったものばかりで退屈なものだった。薬草の種類や効能、モンスターの知識程度のもの。冒険者はあまり大した学がなくても入れるようになっているようで、覚えるものも最低限でいいらしい。

 

「えっとぉ、、、では、もう回収しても構いませんか?」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 回答を渡してもう一度思考に至ろうとするが、予定を繰り上げるらしく、その場で採点が終わった。

 

「満点です。筆記試験合格おめでとうございます!」

 

「はい、次の会場は闘技場ですか?」

 

「いえ、ギルドの地下には鍛錬スペースがあるのでそこで行います。試験は三十分後に開始しますのでそれまでお待ち下さい」

 

 他の冒険者にGランクはいないのか、私以外に筆記試験者はいなかった。おそらくは新人狩りの影響だろう。

 

(、、、やっぱり逃した魚は大きいかもしれない)

 

「筆記試験、お疲れテミス」

 

「大分早かったねぇ」

 

 コトッ

 

 思考にふけっていると飲み物を持ってディアナ達がやって来る。

 

「ありがとう」

 

「なんだか昨日から浮かない顔ですね、やっぱり何かありました?」

 

「んー、、、」

 

 昨日は気にしていなかったけど、今にして思うと伝えたほうがいい案件だ。皆に伝えた後にギルドにも検めて報告しよう。

 

 私は先日襲われた男の特徴と、それを逃した経緯を掻い摘んで話した。

 

「狩り、ね。そういえば新人潰しなら一時期居たっけ」

 

「でも被害は全く違うものです。さすがに命まで取る手合はいませんでしたから」

 

 昔とはギルドのルールが改定されている部分も多らしく、それらの残虐な人間が息を潜めているとの噂があるらしい。

 

「、、、OK、私がギルド長に直接言っておくよ。さすがにこれは問題だしね」

 

「ありがとう、Sランクの言葉なら組織もちゃんと動きそうだからありがたいよ」

 

「ほら、早く行っといで。そろそろ時間だろ」

 

「頑張ってね〜」

 

 私は軽く手を振って相槌を返し、ギルドの職員の元へと向かった。

 

「、、、ディアナ、また悪い癖でてる」

 

「ふふ、、、自分じゃどうしようもないんだ」

 

 ディアナは笑っていた。邪悪にも思える、純粋な気持ちを表す顔で。

 

「そろそろ、とっておきを準備しようかな」

 

「常備してくださいよ、いくら専任で暇だったとはいえ」

 

 ──ー

 

「では、試験を開始します。テミスさんは魔法使いですので、魔法で形成された土人形(ゴーレム)に得意な魔法を当てて破壊してください」

 

「、、、え、以上?」

 

「はい。鍛錬所の端からこちらに向かって直進してきますので、その歩いた距離によって点数が決まります。タッチされたらその場で失格ですのでお気を付けて。それでは、よーい」

 

(、、、取り敢えず、様子見で中位魔法を2発くらいぶつければいいかな)

 

「どんっ!」

 

 キインッ

 

 中位風、土魔法 同時発動

 

風弾狙撃(ウィンドスナイパー)岩の弾丸(ロックショット)

 

 バォンッ!! ズドドドドッ!! 

 

 一発の貫通力威力が高い風の魔法と、質量と数で押す土の弾丸を数発飛ばす魔法。

 

(さて、次は水の高位魔法の構築を、、、)

 

「お、終わり! 終わりです!!」

 

「? あ、壊れてる」

 

「これってGランクの昇格試験ですよ!? あのゴーレムは通常よりかなり脆く作ってあるんです!! そんな魔法連発されたらギルドが壊れちゃいますよ!?」

 

「魔法で強化されてるから平気だと思うけど、、、」

 

「ものの例えですよ!!」

 

「ご、ごめんなさい、、、」

 

「はぁ、、、いえ、とにもかくにも。壊したことは事実です。試験は両方とも満点、、、あ、飛び級ですね。Eランク、おめでとうございます!」

 

「? あぁ、両方満点なら一つランク飛ぶんだっけ」

 

「はい、過去にも数人いました。まぁ、ディアナさんよりは大分マシな方です」

 

 あの人の噂、どこに行っても必ず聞く気がする。

 

 それだけの名声と実力。それだけに、私はとんでもない世間知らずの大馬鹿なんだろうな。

 

「では、受付でランクを改めますのでついてきてください」

 

「はい」

 

 受付へ行くと他の冒険者から注目を浴びた。

 

 たった三日で色んなアクションを起こしすぎたから当たり前ではあるにしろ、いくらなんでも見すぎ、全員に盲目の魔法かけてやろうかな。

 

「それでは、ギルドカードの提示をお願いします!」

 

「はい、どうぞ」

 

「、、、確認しました! 改定しますね」 

 

 ボウッ

 

 文字が焼き切れ、Gの代わりにEの文字が浮かび上がる。これで私は晴れて、Eランクへと昇格できたことになる。

 

「おめでとうございまーす!! 三日でEランク、過去最短記録です!」

 

 パチパチパチ! 

 

「へぇ、最短なんだ」

 

「一ヶ月ごとの試験の運もありますが、運が良かったんですね。これで今日から冒険者手前から、冒険者見習いに昇格ですよ!」

 

 さっきは怒って今は喜んで、忙しい人だ。

 

 それはさておいて、私の予想が正しければそろそろ、、、。

 

 パチ、パチ、パチ

 

 空白を作る嫌な拍手と共に、二階からマスターが降りて来た。

 

「ハハハ、やはり飛び級か。伊達ではないな?」

 

「一々危なっかしい言い回し。嫌な人」

 

「コラ、声に出てるぞ」

 

「失礼。次は正面から言いますね」

 

(、、、やはりあの方の弟子だな)

 

 私もだけど、この人も顔に出すぎでしょ、普通に失礼。

 

「さて、合格おめでとう。これからも君の活躍を期待──」

 

「合格おっめでとう!!」

 

「またアンタは、、、」

 

 ギルドマスターを押し退けてディアナが元気よく祝ってくれる。後ろの二人も、こめかみに手を当てて呆れながらも、私を祝ってくれるようでありがたい。

 

「テミス、昇格おめでとう!」

 

「おめでとうございます。飛び級とは流石ですね〜」

 

「皆ありがとう。でも、これで専任は終わっちゃうと思うと少し寂しい気もするね」

 

「そんなの、早く私達と同じレベルまで上がってくればいいんだよ。ぱぱっと竜でも悪魔でも倒してさ」

 

「ぱぱっとの範囲に持ってきていい種族じゃないと思うけど、、、」

 

 冒険者としての基礎は覚えた。Sランクを目指すわけではないけど、冒険者として高みを目指すのもいい修行になるかもしれないし、視野には入れておこう。

 

「それじゃあ、改めて! Eランク昇格、おめでとう、テミス」

 

 マスターと話していたディアナは私に向き直り、今度は落ち着いた声色で私の昇格を祝ってくれた。

 

 やっぱりこの人、こっちの方が色々と得をする気がする。

 

「やっぱり合格か。おめでとう」

 

「あ、ロック」

 

「よう、今日は試験だったんだな。その様子だと合格みたいだけど」

 

「懐かしいわね」

 

「そうですねー」

 

 後ろから他の三人も合流する。

 

 森を出てからの短い間に、結構多くの知り合いができた。意外とやればできるものだと、何かを達成するたびに思うことだけど、その度に嬉しさは湧いて出る。

 

「よし、今日は祝賀会でもしよう、俺の奢りだー!」

 

「祝賀会?」

 

「説明は面倒だから省く! ただ騒ぎたいだけだ!」

 

 そう言うとロックは私を強引に座らせて、テーブル一杯になるような注文をする。

 

 お祝いごとはいつも師匠と二人、いてもスカイを入れて三人? くらいしかいなかったから、皆で騒ぐというのはとても新鮮だ。

 

 

 

 魔力探知には獅子の賢者らしき人はまだ引っかかってないし、当面はクエストをクリアして旅銭を稼いでおくことにしよう。取り敢えず、一区切りがついたということで。

 

「カンパ~イ!!」

 

「「「乾杯!!」」」

 

「ふふ、、、乾杯」

 

 ──ー

 

 あれから約一ヶ月が経過した。のに、獅子の賢者は全く帰ってこないらしい。別に急いでる旅でもないから気にしていないけど、ここは龍森からせいぜい八十キロ程度しか離れていないから、なんとなく師匠が近く感じる。

 

 それに、長居しすぎると別れが辛そうで自分に不安を覚える。

 

「ゴブリンの討伐、、、国の外、西の穴蔵に目撃情報。近隣の村が襲われる可能性があるため潰してこいと」

 

 私は先日Dランクに昇格した。ロック達も私に触発されてなのか、ロックとレノンがCに昇格したようで、中堅冒険者を名乗れるようになったらしい。

 

 ちなみに、Dランクの私は称号的には半人前に当たるらしい。

 

「さて、穴蔵か、、、」

 

 中位風魔法  

 

反響特定(エコーロケーション)

 

 ォンンンンッッッッ

 

(、、、短い。5、60メートルってところかな。他の冒険者が来てる気配も捕虜がいるわけでもなし。予定通り、水攻めでいいか)

 

 高位水魔法 

 

洪水への道(フラッドロード)

 

 こぽっこぽぽっドボボボボボボッ!!! 

 

 穴の中に流れ込む大量の水。探知魔法で一匹も残らないように確認し終えて、討伐の証拠を取りに行こう。

 

 ゴブリンはどちらかの耳が討伐の証拠になるため、剥ぎ取って私はギルドへ戻った。

 

 ザワザワ、、、ザワッ、、、

 

(なんだか騒がしいな)

 

 ギルドに戻ると冒険者が皆騒がしい。何かお祭りでもするんだろうか。こういう話をなんとなく聞いてて、かつ話しやすい人、、、

 

「いたいた。ねぇ、何があったの?」

 

「ん? おぉ、テミスか。なんか眠りの森の方で、魔物大発生(スタンピード)の予兆があったんだと」

 

 白髪に顎を覆うもさもさとした白髭の彼は、Aランク冒険者の魔導師、ガスロ。初日に私の戦いを見て賭け事をしてい人だ。ちなみに一人勝ちだったらしい。愛称はガス爺さん。

 

「眠りの森で? あそこって生態系崩れるくらいにモンスターが湧く場所だっけ?」

 

「今まで一度もそんなこと無かったから不思議なんだと言っとったな」

 

 魔物大発生(スタンピード)とは、生態系のリズムが狂い、特定のモンスターが大量に発生すること。龍森ではありえないことだが、普通の森だと数年に一度起こる。

 

 でもここは勇気と勇猛の賢者が住まう国。小さいながらも戦力としてはそこらよりは揃ってるはず。

 

 Bランク以下が約40人にAランクが3人、Sランクが1人いる。

 

「こりゃあ、祭りだな。お前さんは参加するかい?」

 

「祭り、、、あぁ、稼ぎ時ってこと? 私はいいや。ガス爺さんはいかないの?」

 

「若いモンに譲ってやらんとのう。金には困っとらんし」

 

 ガス爺さんは持っている杖をクルクルと回しながら笑う。

 

「ふーん。飲んでないってことは今からクエストにでも行くの?」

 

「おう、一人じゃがな。テミスも来るか?」

 

「ソロの魔導師って大変だね」

 

「お前もソロの魔法士だろうに」

 

 私は近接もできるから正確には魔法剣士に近いんだけど、普段武器は隠してるから周りからは完全に後方役に見られているらしい。

 

「じゃあ折角だし行こうかな」

 

「おう、臨時パーティ結成じゃの」

 

 受付に報告し、私とガス爺さんは依頼の場所まで向かう。眠りの森を抜けた先の村。今朝方ゴブリン討伐を依頼してきた村だ。二つも依頼するなんて、余裕があるのかよほど切羽詰まっているのか。

 

「、、、妙じゃの」

 

「何が?」

 

「わしの探知魔法に小型モンスターが引っかからん。魔物大発生(スタンピード)の予兆には違いないが、増えてるはずのモンスターもおらん」

 

「、、、、、、確かに。何にも引っかからない」

 

 ガス爺さんの魔力探知と違って私の魔法は生体反応を追う。それを使っても殆ど引っかからない。コボルトくらいなら引っかかってもおかしくないのに。

 

「気味が悪いのう。さっさと抜けようぞ」

 

「そうだね」

 

 森を一時間ほどで抜ける。その間もやはりモンスターとは接敵せず、不可思議な不安だけが募っていった。

 

「お、見えたのう。あの村じゃい」

 

「まぁ、村ですね」

 

 のどかな農村。私が最初に泊まった村より少し大きく。子供が走り回っているのが遠目から見える。

 

「ていうか、クエスト内容聞き忘れたんだけど何なの?」

 

「なぁに、難しいものじゃないわい。若いもんがずっと放ったらかしにしてた洞窟の調査じゃよ」

 

「洞窟? 新ダンジョン?」

 

「大きさからしてF級程度じゃがな」

 

「あー、報酬まずいからか」

 

「そういうことじゃの。さて、村長に挨拶に行くとしよう」

 

 取り敢えず村に入り、依頼主である村長のところへと向かう。役場も兼ねているようで、周りの建物より少し大きい。中に入ると、杖をついているものの、村長にしては若い男の人が迎え、二階の応接室へ通される。

 

「よくぞ来てくれました冒険者の皆さん。まさかAランクのガスロ様に来ていただけるとは。そちらのお嬢様はお孫さんですかな?」

 

「同じ冒険者じゃよ。冒険者になって一ヶ月じゃが、既にDランク。見込みのある魔法士じゃわい」

 

「なんと。素晴らしい実力者ですねぇ」 

 

 物腰が柔らかい。でも依頼するほど焦ってる様子は微塵も感じない。やっぱり経済的に余裕があるのかも。

 

「おっと、森を抜けたんですよね。お茶でも淹れましょうか」

 

「おぉ、助かるわい。歳でのう、喉がカラカラじゃ」

 

「、、、お構いなく」

 

 台所にお茶を淹れにいく村長。私は聞き耳を立ててみた。いくつかの棚や机の引き出しを開ける音の後に聞こえてくる。

 

 カパッ、コトッ、トポポッ、サラサラッ

 

(瓶を開ける音、土瓶の蓋を開ける音、茶を濾す音、、、、、、)

 

 村長が戻ってきて、薄く紅く色づいたお茶を私とガス爺さんの前にだす。

 

「いい香りじゃの、いただくとしよう」

 

「ガス爺さん。熱そうだし、冷ましてから飲んだほうがいいよ」

 

「む、そうか? 確かに舌を火傷するのは嫌じゃのう」

 

 念には念を。ガス爺さんなら私が動けなくなってもうまく立ち回るだろう。さて、私の毒物耐性はC級程度だけど、どうかな。

 

 コクンッ

 

「、、、美味しいお茶ですね」

 

「はは、村で作って──」

 

「とても、刺激的な味。隠し味はエンドクダケかな」

 

「!?」

 

 バチャンッ

 

「熱っ!」

 

空気拘束(エアバインド)!」

 

 思ったより強い毒だったけど、この程度なら耐えられるし支障もない。村長を偽った男の顔面にお茶を投げつけ、状況を理解したガス爺さんが拘束魔法を使って動きを封じる。

 

「これは驚いたのう。テミス、大丈夫か?」

 

「ちょっとだけ効いたけど、この程度なら大丈夫」

 

 舌先がビリビリして身体が震える程度。これ以上の悪化はないしさっさとポーションで解毒しよう。

 

 ゴクゴク

 

「さて、本物の村長はどこで何が目的じゃ? そしてお前は何者じゃ? 順に答えよ。否定するたびに少々痛い目にあってもらうぞ」

 

 ガス爺さんはAランクの冒険者、さすがに歳を感じさせない魔法精度をしている。

 

「へっ、誰が話すかよ」

 

「むぅ、困ったのう。拷問でもする他ないかのう」

 

 後ろで少し尋問してる間に私は考察をまとめることにした。

 

 なりすましをしている理由は大きく分けて二つだろう。一つは単純に先程犯行を行ったばかりで、私達が来たから誤魔化したというもの。でも、だとすれば浅はかがすぎる。

 

 もう一つの可能性は、私達のような冒険者を潰したかったという可能性。鑑定スキルで見た感じはそこそこ戦える部類の人だし、こっちのほうが可能性はある。

 

生体探知(クリーチャーズサーチ)、、、)

 

「ガス爺さん」

 

「何か思いついたかのう?」

 

「いや、村長は物置部屋にいるみたい。その人賞金首でもないし、何も吐かないなら縛ってギルドにでも預ければいいんじゃない?」

 

「そうする他無いかのう」

 

 とりあえずそう決めた後に本物の村長を助け出した。あくまで私達は依頼を受けに来たので、とりあえず男を気絶させて話をすることにした。

 

「ありがとうございますありがとうございます!!」

 

 本物の村長は顎を覆う大きな白髭に、腰は曲がっていて、先程の男が持っていた杖もサイズがぴったりだった。

 

「そんなに声を荒げると身体に障りますよ」

 

「今は誰もおらんでのう。それは困りますなぁ」

 

「ほっほっ。元気なようで良かったわい。テミスの薬はよく効くからの、安静にしとるとええわい」

 

 さっき渡した飲み物は、少しだけ身体を回復させる薬。後からの倦怠感はあるけど、早いところクエストの詳細を聞きたいから手渡しておいた。

 

「では、依頼の内容をお聞かせ願おうかの」

 

「はい。この村から少し離れたところに少し大きな樹がありましての。そこの木の根元から洞窟につながっていましての。冒険者の皆様にはそこの調査を依頼したいのですじゃ」

 

「理由を伺っても?」

 

「あの周辺には猟犬が怖がって近づこうとしないのですじゃ。狩りに影響が出るやもしれませぬ。男連中も近づこうとしませんで、冒険者の方に依頼しようと」

 

 嘘は無さそうだし、さっさと調査して終わらせよう。

 

「まぁ、おそらくダンジョン化して日が浅いんじゃろうな。モンスターを生み出す前の魔力が溢れとるんじゃろ」

 

(そんなことあるんだ)

 

「大した報酬はありませんが、お願いします」

 

「ほっほっ、こんな老いぼれで良ければ。それ、行くぞテミス」

 

 立ち上がったガス爺さんについていく。あの男が暴れないかだけ心配だけど、多分それはないだろう。クエストの方に集中しよう。

 

 暫く歩いておそらく例の樹に辿り着く。自然に発生したダンジョンというのは間違いがないようで、人の手が加えられた感じはしない。

 

「未踏破ダンジョン。思えば初めて、、、じゃ、無かったっけ、そういえば」

 

 私の出身地もそういえば未踏破だった。師匠は勝手に住み着いてるだけみたいなこと言ってし。

 

「気張ることも無いわい。ほれ、灯りをつけんか!」

 

「はいはい、私が前だったね」

 

 ワクワクしながら笑いかけるガス爺さんに促され、魔法鞄(マジックバッグ)からランタンを取り出し、火を灯してダンジョンに侵入する。

 

 入り口は狭いが、中に入ると思ったよりは広い。

 

 樹の下の空洞がそのままダンジョン化したのだろう。

 

「暫く歩いてみたけどなにもないね」

 

「ふわぁぁ暇じゃのう。トラップでも発動せんかのう」

 

「その時は自分で避けてね」

 

「壊したほうが早いわい。っと、終わりじゃの」 

 

 突き当りに辿り着くまで一切モンスターとの遭遇は無かった。

 

「魔素が溢れとるだけじゃったの。調査は終いじゃ。帰るぞい」

 

「、、、風の音、血の匂い」

 

「どうしたんじゃ?」

 

 突き当りの壁から匂いがする。溢れるとまではいかないけど、確実な血の匂い。

 

 コンコンッ

 

「隠し方が雑だね」

 

 無属性魔法 身体強化(ブースト)

 

 バッゴォンッ!! 

 

「みっけ」

 

「ほう! これは明らかに人工物じゃの」

 

「奥から血の匂いがする。魔物大発生の予兆に、偽村長の件、偶然にしては少し出来すぎな気がしない?」

 

「もしかしたら中々大事に首を突っ込んでいるかもしれんのう」

 

「どうする、一旦やめる?」

 

「わっはっはっ! 抜かせぃ。冒険者たるもの、危険と未知が恋人じゃわい」

 

 コツコツッ

 

 壁を壊して現れた石の階段。さらに深くへと潜る。

 

 かなり降りたところで階段が終わる。現れたのは、とても広い大広間。遺跡などに近い構造だ。しかし、それより目を引くのは中心の魔法陣と、、、気配からして、最上級悪魔の女性。二本の赤黒い角と魔力からしておそらくは純血種。

 

「なんと、、、!?」

 

「最近まで人のいた痕跡もあるし、、、もしかしなくてもビンゴじゃないかな」

 

 ギルドカードも数枚、雑多に投げられていることから新人もここに連れてこられていたのだろう。

 

「なるほどのう。新人狩りの冒険者達はここで何らかに贄に使われたようじゃの」

 

 ギルドカードは持ち帰ろう。弔いにはならないけど、ギルドに生きた証拠にはなる。

 

「さて、問題はこれだよね」

 

 今は昏睡状態にあり、鎖と枷で繋がれているようだけどいつ起きるか分からない。けど下手に刺激もできない。でも、魔素を見た感じ、ここがダンジョン化した原因にも思える。

 

「どうしたもんかのう、、、取り敢えずはギルドに報告じゃろうが、それまで放っといていいものか。誰か来たら侵入したのもバレるじゃろうしの」

 

「あ、入口壊したの失敗だったね」

 

 ピクッ

 

「ほっほ。噂をすればなんとやら、どうやらここの持ち主様が来なすったようじゃの」

 

 私達の探知に引っかかった三人の人間。さて、迎撃するか隠れてやり過ごすか。

 

「どうする? 風魔法を使える私達なら簡単にやり過ごせるけど」

 

「ほっほ!! 言わんでも分かることを聞くでない!」

 

 コツンッ

 

 短い言葉で二人の意見が合致する。

 

「なっ!? クソッ、ギルドの連中か!! あの野郎しくりやがったな!」

 

「「風刃(ウィンドカッター)!」」

 

 ガス爺さんと二人で低位の魔法を放つが、いつもの出力が全く発揮されずにそよ風が吹く。

 

「「!」」

 

「こりゃいい、二人共魔法使いだ! この空間は魔法の出力が20分の1になるからなぁ! 近接で潰せ!」

 

「「オォォ!!」」

 

「ふーん。じゃ私はそっちでもいいよ」

 

「死ね! クソあまぁ!!」

 

 お粗末なナイフ術。魔法を使えないのは多分向こうも一緒だろうし、近接で十分。

 

 ガシッグルンッドゴッ! ボキッ

 

「ッアァ!!」

 

 振りかざした右手を掴み、足を蹴飛ばして転ばせる。追撃に右腕を反対に曲げておこう。

 

「ほら、どうしたの。来なよ」

 

 ゾォッ

 

(なんだこのガキ、、、!?)

 

「お、俺は1抜けだ! 付き合ってられねぇ!!」

 

「おいバカ!」

 

 男の一人が逃げ出そうとする、ガス爺さんが許すはずないのに。

 

「阿呆じゃのう」

 

 恵廷雷魔導 雷玉(サンダーブリッツ)

 

 ボボボボッ──バヂィンッッ!! 

 

 ガス爺さんの十八番、風魔法の派生である雷魔法。

 

 六つの雷の弾丸が逃走する二人の男の背中を捉え、雷撃が弾けた。

 

「ガハッ、、、お前まさか、、、"雷轟"、、、!?」

 

「懐かしい呼び名じゃのう」

 

 Aランク冒険者、雷轟のガスロ。

 

「そんな二つ名あったの?」

 

「昔はやんちゃしたもんでな」

 

 男二人は黒焦げ。死んではいないようだけどあの様子じゃ動けないだろう。二十倍の出力って考えるとかなりの出力だ。直撃は考えたくもない。

 

「さて、一口に悪魔と言っても全てが悪ではないものじゃ。話だけでも聞くとするかの」

 

「えっ、嘘でしょ!?」

 

「この下の魔法陣は中心にいる者から魔力を吸い上げるもの。この娘はもしかしたら利用されているだけなのかもしれんしの。ほれ嬢ちゃん起きれるか」

 

 パキンッ

 

 信じられない、昔はやんちゃしたとか、、、今もじゃないか。簡単に魔法陣を壊して話しかけに行くガス爺さんに私は軽く呆れた。

 

「、、、貴方達、、、は、、、?」

 

 薄っすらと目を開けて紅い瞳を彼女は覗かせる。

 

 ていうか、衰弱してるのにいきなり質問攻めはやめたほうがいいでしょ。

 

「はい水。飲める? 私達は敵じゃないよ」

 

「あ、ありが、、、とう」

 

 よほど疲弊していたのかごくごくと喉を鳴らして水筒の水を飲んでいく。警戒はしているようだけど、取り敢えず敵意はないようで一安心。

 

「さて、わしらはオドレアの冒険者。わしはガスロ、その嬢ちゃんはテミスじゃ。よろしくのう」

 

「よろしく」

 

「オドレア、、、! は、速く戻ったほうがいい!」

 

「なんで?」

 

「あの人達が言ってた! 私の魔力で──」

 

 悪魔の少女は、悪魔の囁きなどという生易しいものではない、狂気の事実を話す。

 

魔物大発生(スタンピード)を強制的に引き起こすって!」

 

「「!!?」」




現在公開可能情報
E級中規模ダンジョン 眠りの森
ギルドが指定している踏破済みダンジョン。
G級でもランクが上のメンバーがいれば冒険可能で、危険性も少ないためオドレア周辺の初心者向けダンジョンとして扱われている。
ダンジョンのランクははそこにいるモンスターの中で一番危険度が高いモンスターに当てられている。
ヒプノチョウがE級モンスターな為、このダンジョンはE級となる。
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