瞳を閉じぬ裁定者   作:レガシィ

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第九話 蟲軍勢ガイナス

 完全に見くびっていた、やっぱり人は見かけによらない。

 

 あの僅かな魔力()の供給でここまでの出力、しかもこれが全力の5%? ふざけた話だ。

 

 もし、100%なら師匠にも届きうるのかも知れない。

 

「ふふん、いかがですか」

 

「、、、ふふっ、凄いね」

 

 恐ろしい実力を私に見せつけた。だというのに、まるで子供が自信の成果を親に見せるときのように、無邪気に私に笑いかけた。その姿に、思わず笑ってしまう。

 

「ていうか、足治ってない?」

 

「腐っても悪魔ですもの、魔力さえあればこの程度チョチョイのちょいですわ」

 

 おそらくは自動で発動する回復スキルがあるのだろう。

 

(てことは、回復する魔力さえ無い、、、完全に枯渇してたのか)

 

 魔力は万物に宿る魔素からできるもの。それが枯渇したとなれば生存すら危うい、そんな状態でも平然としてる、、、。

 

「走れる?」

 

「なんなら飛べますわ」

 

「それは説明が面倒だからやめて。あ、やっぱり走らなくていいいや」

 

「問題ありませんわよ?」

 

「いや、ダンジョンで保護した少女って設定だから、傷は私がポーションで治したことにでもするしようか」

 

「また抱っこですか、、、?」

 

「ぶふっ、、、ごめん、抱っこって、、、ふふ。横抱きって言ってよ」

 

 世間知らずのお嬢様って感じだ。私と環境だけ見れば似たようなものかも知れない。書物で読み漁った知識と、森を出てから一ヶ月の知識しかないのはやっぱり困ったものだ。

 

「っと、和んでる場合じゃない。街は多分スタンピードの真っ最中だった」

 

 私は再びスペルビアを連れて街へと走り出した。

 

 静かになった眠りの森を抜けて走り数分、何も無いはずの平野から戦火が見える。魔法が飛び交い、剣士や斧使いがモンスターの返り血で染まっている。

 

 ドォンッバジュンッザシュザシュッ

 

『オォォッ!!』

 

『ヴァァ!!』

 

(不味いな、、、劣勢ってほどでもないけど、D以下はキツそうだ)

 

 ギルドマスターやディアナが出張ってない辺り、想定よりも多くの数に対して対処できなかったのだろう。報酬を下の者に譲ってあげようという優しさが裏目に出ている。

 

「取り敢えず、、、スペルビア、しっかり掴まってて」

 

「はい」

 

 ギュゥゥ

 

 無属性強化魔法 身体強化(ブースト)

 

 中位風魔法 疾風(疾風)

 

 ドヒュンッ!! 

 

 戦火に飛び込んでギルド側の混乱を鎮めよう。負傷者や戦意が削がれている人を救けてギルドへの要請に当てるのが最短で最良だと思う。そのためには、それなりに成績があって声が大きい人を探さなくては。

 

「わぁ! 速いです!!」

 

 ちょくちょく言葉遣いが幼くなるような気がする。

 

 どっちが素なんだろうか。多分幼い方な気がするけど。

 

 中位水魔法 水圧の槍(アクアランス)

 

 バシュシュシュッ!! 

 

「はい救助完了、、、いた」

 

「テミース!!」

 

 ロックの姿を発見して駆け寄り状況を聞く。

 

「簡潔にお願い」

 

「想定よりも規模が大きい、というよりモンスターが強いんだ。かれこれ一時間もこの調子だ。全員疲弊しきってる。皆も頑張ってるがあと何分持つか、、、」

 

 あらかた見たまんまだ。モンスターの骸を見る限り結構やったみたいだし勢いも衰えてはいる。でも私の知る人全員は範囲的に戦うわけじゃない、呼べば一瞬で片がつくわけでもないだろう。

 

「ロックは怪我人や疲弊者の救助を優先して、あと連絡も」

 

「かなりの数いるぞ、二十人くらいか」

 

「そんなの、私が二十人分に代わればいい」

 

「、、、ははっ! 頼もしいな! 訳ありっぽいから聞かないが、その子はクエストで保護した子か?」

 

「うん、お願い」

 

「任せとけ」

 

「テミス様、、、?」

 

 不安そうにこちらを見つめる彼女をなだめるために、私は頭を撫でる。師匠がよくこうしてくれたし、私はされて嬉しかったから苦ではないはず。

 

「じゃあ頼んだよロック」

 

 ダッダッダッ

 

「怪我人はついてこい! 歩けねぇやつは周りが力を貸してやれ! 逃げる隙が今からできるぞ!!」

 

(やれやれ、、、逃げる隙ね)

 

 威圧スキルをオフに、反対に挑発系のスキルを全てオンにする。ただし、対象は私じゃなく、この魔法で生み出されるものに。

 

 恵廷樹木魔導 人食い樹木(カニバルツリー)  

 

 ズルルルッ!!! 

 

(それなりに大きいのを生成したし、暫く放ってもいいかな)

 

 挑発のスキルのおかげで雑魚モンスターは人食い樹木に引き寄せられる。あれは持続力が長く、近寄るものを捕食する性質がある樹、冒険者の皆はそんな余裕が無いために隙ができた今のうちに街の方に走っていく。

 

「ガス爺さん遅いなぁ、、、、、、?」

 

 、、、ッ、、、

 

 森の方からなにか音が聞こえる。ガス爺さんの雷のせいで鼻も効かないし、正体が分からない。

 

一つ目鬼(サイクロプス)、ではないか」

 

 雑魚モンスターは殆ど人食い樹木が倒してるし、ヒプノチョウも残っていた冒険者達が倒したようで殆ど逃げるか狩られた。念には念を、一応確認しておこう。

 

「確実にこっちに向かってる、、、ねぇ君ディアナ達が来るまでどのくらいだと思う?」

 

「えっ? 多分、あと十分もすれば来ると思うけど。あと俺歳上、、、」

 

(う〜ん。十分か、、、取り敢えず正体が分かってから、、、)

 

 バザンッバサンッ

 

「何か、、、変な音が聞こえないか?」

 

「あ、これはやばい。皆逃げたほうがいいよ、ていうか逃げて、今すぐ全力で」

 

「? 新しいやつなら──」

 

「あーもう、面倒くさい」

 

 低位風魔法 弾む風(エアバウンド)

 

 バビュンーンッ

 

「ふぐぉっ!?」

 

 五感が鋭い私だから見えるし感じる。刺すような殺気と、誰彼構わず当り散らかすこの感じは、恐らく飢餓状態。

 

『グルァァァァ!!』

 

 飛竜 ワイバーン

 

 龍の下位種とはいえ普通に国を半壊させる恐れすらある、B+級モンスターだ。特に雌の飢餓状態は産卵を終えたか獲物がいなかった証。

 

「う、うわァァァ!!?」

 

「なんでこんところに!?」

 

 阿鼻叫喚、冒険者のBランクとモンスターのB級は違う。モンスターの位は街や村への被害と、同ランク冒険者の被害率で計算される。飢餓状態のワイバーンは自身をも顧みない凶暴性からA級にも匹敵する危険度を誇る。

 

「ワイバーンは久し振り、、、飢餓状態に至っては初めて、、、問題はないね」

 

 冒険者の皆は逃げている。その方が余計なことを考えずに済むからありがたい。

 

 私には本で読んだ知識と持ちうる数多の魔法がある。自惚れと捉えられても仕方ないが、今はその余裕が欲しい。

 

『ガァァ!!』

 

 ワイバーンはテミスに向かって大口を開けて突撃する。あわよくば捕食しようという意志が見えるが、当然テミスもそんなものにそうやすやすと乗らない。

 

 中位水魔法 水圧の障壁(アクアウォール)

 

 +

 

 特階毒魔法 混濁する毒の棘(クラウドポイズンニードル)ドパンッ!! 

 

『グァ!!?』

 

 本来なら壁として使うはずの魔法を、突撃するワイバーンに合わせて発動。下から突き上げる形で軌道を逸し、おまけに毒の棘を数発身体に刺してお見舞する。

 

 ワイバーンは直撃に耐えられず再び飛び上がり、口元に炎のブレスを溜める。

 

「ちょっと、空は駄目だよ」

 

 特階重力魔法 重力の鎚(グラビドンハンマー)

 

 ズドンッ!! ボンッ!!! 

 

『ガボォッ!?』

 

 ヒュルルッドゴォンッ!! 

 

 一瞬だけ身体の中心を円形に重くする中型以上専用の魔法。特に空を飛ぶモンスターには効果的面で、大体は体制を保てずに墜落する。今回はブレスが口内で爆発しさらにダメージになった。

 

(これの最大出力でも龍に傷一つつけられないんだから、改めて恐ろしい、、、)

 

 テミスの出身におけるワイバーンの価値は殆ど餌。還らずの龍森の生態系において、目の前の竜は空を飛ぶトカゲでしかない。

 

 制空権がないとわかるや否や、ワイバーンは人間より大きな図体を活かしてテミスへ攻撃を仕掛ける。

 

『グルァァ!!』

 

 ガチンッガチンッ! ドゴンッ! 

 

 二度の噛みつきの後に自分の顔を地面へめり込ませて突撃するのをテミスは軽々と回避していく。

 

 ヒョイッヒョイッ

 

「遅いよ」

 

 無属性魔法 身体強化(ブースト) 

 

 バキイッ!! ブシュゥゥ! 

 

 ワイバーンの左のこめかみにテミスの蹴りが突き刺さし血が吹き出てその場で悶える。

 

『ゴァァッ!』

 

(身体はキレイに残したいな、これ以上毒を加えると身が食べられないし、、、)

 

「よし決めた。丸焼きにしちゃおう。、、、人の最たる叡智の炎よ。目の前の敵を焦がし、骨をも残さぬ火力で灼き尽くせ」

 

 恵廷炎魔導 

 

灼熱(しゃくねつ)

 

 ゴォッ、、、ボォォオッ!!!! 

 

『ォォオオオッ!! 、、、、、、』

 

 テミスの目の前が真っ赤な炎に襲われる。苦しさと炎による激痛に上がったたワイバーンの悲鳴も、人間が持つ最大の炎で沈下された。

 

 一般に詠唱は省くほど威力が落ちると言われているが、熟練になるとそんなことはない。しかし、魔法の補助というのも間違いではない。"久し振り"に詠唱を含めた大魔法を使おうものなら、火力を間違えるのも無理はない。

 

「、、、、、、やっちゃったな」

 

 折角だから丸焼きにして食べようと思ったのに、骨しか残らなかった。おまけに出力ミスって私の人食い樹木も巻き込んだし、辺り一帯が焼け野原だ。

 

(まぁ、雑魚モンスターは全員倒したみたいだし、処理ってことにでもしよう)

 

 ヒョイッ、ボリボリ、ボリン

 

「やっぱり美味しくないなぁ、飢餓状態は栄養がないからスカスカだ、、、」

 

 特に理由は無いけどワイバーンの骨を食べていると、ディアナ達が意気揚々とやってきた。

 

 いつもより少し重厚な装備で、カトレアとユーリの弓と斧はかなり使い込まれたもので、ディアナはいつもの大剣と、サブに細剣を差している。

 

「想定よりも強いモンスターってのはどこ?」

 

「、、、なーんか、もう終わりましたって感じの雰囲気してない? すごい焦げ臭いし」

 

「あ、あそこ。テミスがいますよ」

 

 三人がいつもの様子で駆け寄ってくるが、座って骨を食べる私を見てドン引きする。

 

「え、、、なに食べてるの?」

 

「骨」

 

「なんの?」

 

「ワイバーン」

 

「「、、、美味しいの?」」

 

 ポイッ

 

「全然」

 

 一周回って冷静になったカトレアとディアナは味の感想を求めてくるが、栄養もなく丸々焦げた骨が美味しいわけがないので、骨を放り投げて答える。

 

「えっと、魔物大発生は?」

 

「私が来たときにはもう大した数残ってなかったし、ちょっとしたイレギュラーはご覧の通り」

 

 原型を留めないワイバーンの亡骸を指差して伝える。

 

「じゃあ、強いモンスターは?」

 

「いないよ。森の方の一つ目鬼(サイクロプス)亜種もガス爺さんが倒してるだろうし」

 

「そっか、、、、、、」

 

 目に見えて兜越しに彼女は落ち込む。どれだけ退屈なのかは私にも分かる。オドレアの冒険者の質は高いが、近隣のダンジョンや魔物達は大して強くないのだ。近くにイレギュラーすぎる場所が存在するから、実力派の冒険者やディアナ(Sランク)が近くに常に滞在している。

 

「まぁ、収まったんていうならギルドに報告しない「あ、それなんだけど、ちょっと報告があるんだよね」

 

 私は件のことを伝える為にディアナ達とギルドへと戻った。

 

 中に入って分かったのは、決して被害がゼロでは無かったということ。特にCランク以下の被害は大きく、死傷者も出たらしい。私の想像より、かなり事態は酷かったみたいで、、、なんだろう、気持ち悪い? 嫌悪感? 喪失感? のようなものがある。

 

「、、、、、、」

 

「可愛そうだなんて思っちゃいけないよ、テミス。彼らだって望んで死んだわけじゃない。憐れみは、街を守った者達への最大の侮辱だ」

 

 やっぱりディアナは騎士上がりの冒険者なのだと思う。さっきモンスターがいなくて失望していたのは、もしかして怒りを向ける矛先を探していたのかもしれない。横で毅然としている彼女の兜越しに、唇を噛み締めてるのが血の匂いで分かった。

 

 ディアナは凛とした態度で二階へ上がり、ギルド長室へと入る。中では慌ただしく書類を積み上げるギルドマスターと数名の職員がバタバタと色んな書類の承認を仰いでいた。

 

「ポーションの追加と現状把握を急げ! 報酬は全て後に回して金は今救える者の処置に全て注げ! 誰一人として死なすんじゃない!!」

 

「話ができる雰囲気じゃなさそうだね」

 

「! 戻ったか。すまんが今は話をしている暇がなくてな、後で頼む」

 

「私も手伝います。ポーションなら作れるから」

 

 要件を早く伝えるためもあるけど、指を加えて見ているのは私の信条に反する。街を守った冒険者達に対する仕打ちが痛みや死なんてのは不平等だ。彼らには称賛と賞賛があってこそだと思う。

 

「助かる、後で補償はする。なるべく多く作ってくれ」

 

「はい。それと、、、ポーションを作りながらでいいから報告したいことがあるんだけど」

 

「悪いが後に回してくれ、今は余裕がない」

 

「いえ、これは譲れない。下手をこれを遥かに上回る規模の災害が起こる可能性すらあります。それでも後に回しますか?」

 

「、、、手を動かすのを忘れるな」

 

 マスターが真摯な人で助かった。冒険者になって一ヶ月程度の新人の言うことも無下にしない。

 

 ゴリゴリッ、、、

 

「今回の魔物大発生ですが、人為的に起こされたものらしい。ちゃんと元凶も確認の上、無力化しておいたけど」

 

「人為的、、、! 過去に判例はある、しかしそんな兆しは今まで無かった思うが」

 

「ありましたよ。新人狩りとかね」

 

「! なるほど、勢力を潰すのが目的と考えれば、ない可能性じゃない」

 

「それと追加するようで悪いけど、一つ目鬼(サイクロプス)の亜種とワイバーンにも遭遇した。もしかしたらそれなりに大きな組織なのかもしれない」

 

「そんなモンスターまで、、、! なにかの間違いで獅子の賢者がいる国がもし落ちたとなれば、今の世界の均衡が二転三転してもおかしくはないわね。彼は今この街にいないし」

 

「そいつらはどうした?」

 

「森の中でガス爺さんが一つ目鬼(サイクロプス)を、ワイバーンはさっき私が倒しておいたけど、、、ガス爺さんが戻ってきてない」

 

 バササッ 

 

「ガスロが? やつが亜種とはいえ一つ目鬼に遅れを取るとは思えんな、、、。それに、その何者かが動いてたとしてどうやって魔物大発生を? そういう魔道具があるのか?」

 

「ついさっき、偶然ガス爺さんのクエストに同行したんだけど、その時に保護した少女が固有スキルを有していた。その力を利用して魔物を強化し、暴走させたんだと思う」

 

「さっきロックがおぶっていた子共か」

 

 ポウッ

 

「本人が居ないところで言うのは良くないかもしれないけどね」

 

「なるほど、、、ここ数日の事件の点が、線に変わったわね。今不透明なのは、その謎の組織だけ。テミスの報告にあったような奴らじゃ不可能だろうね」

 

「恐らくは眠りの森に、今回の元凶は潜んでる、、、」

 

 カトレアとユーリの発言に緊張が走る。私の憶測も含めた話になってしまったが信憑性は充分にある。新人を狩って新しい戦力の補充路を塞ぎ、森の魔物達を陰ながら集め、近隣の村に潜伏しながらスペルビアのスキルで凶暴化、事の真相はこのくらいか。

 

「レオニス殿が戻るのは明後日、、、不安の種は除かねばなるまいか」

 

 ギルドマスターはこめかみを押さえて低く唸ってつぶやいた。

 

「戻ってこないガスロの安否も気になる、ここは一度冷静に──」

 

 ダンッ!! 

 

 突然、ディアナが痺れを切らしたかのように強く机を叩き、ギルドマスターに詰め寄った。

 

「面倒な言い回しは無しだマスター。クエストを出して。というか私等に依頼して、依頼しろ。私にソイツを一度本気で叩かせろ」

 

 ゾヮッ

 

(ッッ!!!)

 

 魔法を使わず、スキルを使わず、一言の圧と兜越しの眼圧のみで一切の身動きが制御される。息をするのも苦しいような、激しい怒り。それはマスターや二人も同じようだけど私と違う驚きを感じる。

 

「私がいる街に喧嘩を売るって意味を、そいつの身に教え込んでやる」

 

「、、、、、、テミス」

 

 ビクッ

 

「あ、はいっ」

 

「探知系魔法と隠密系魔法、もしくはスキルは使えるか?」

 

「? どっちもありますが」

 

「充分だな。この三人は文字通り、この国の最高戦力。敵の狙いが彼女等だとしたら、何も無いとは思えん。偵察の役割をこなせテミス。罠や待ち伏せの可能性を危惧、三人のサポートに徹しろ」

 

「、、、ランク差があるけど、それでもいいの?」

 

「なにも戦えとは言ってない。見つけるだけでいい。そこから先は彼女等に任せろ」

 

 戦力に思われてないのもそれはそれで複雑だけど、あんな怒気を当てられてしまったら頷く他ない。

 

「準備はできてる。行くよ皆」

 

 ギイッ、バタンッ

 

「、、、ぷはっ」

 

「ごめんねテミス。ギルドの様子を見て、ちょっとイライラしてるみたい」

 

「いや、うん、、、ちょっと怖かっただけ」

 

「無理もない。あれだけの圧、むしろよく会話できたものだ」

 

 師匠がほんの稀に見せる威圧とは違う純粋な怒りだった。

 

「再三言うが、お前は戦わなくていい。敵を見つけたら隠密魔法で即座に撤退しろ」

 

「了解、、、さすがに今回は身の程を弁えます」

 

 ギルドマスターからの二度目の忠告を受け、私は三人と眠りの森へ向かった。

 

 ザッザッザッ、、、

 

「どう? テミス、なにかいる?」

 

「、、、、、、いないというより、目に見えるくらいいすぎだよね」

 

 目の前を飛び交う無数の羽虫。魔力も持っていないただの虫だが、量が異常すぎる。

 

 低位火魔法 燻煙(スモーク)

 

 パチチッ

 

 虫を熱を帯びた煙で炙り、邪魔になるため近づけないようにする。

 

「ちょっと待ってて、別の探知魔法を使うから」

 

 魔力探知に切り替える。瞬間、気持ちが悪くなるような不愉快な魔力を感じた。森の中心に二体。まるで待っているかのようにそれは微動だにしない。

 

「、、、森の中央に二体いると思う。けど、確信はない」

 

「テミス、一応ついてきて。隠密しながらね。やばかったらすぐ逃げて」 

 

「了解」

 

 特階空間魔法 働かない灯り(ノットワーカー)

 

 可能な限り最も隠密性能の高い魔法を用いて後ろからついていく。

 

 開けた場所が前に見える。その道中には食い荒らされたような魔物の死体が数多く転がっていた。

 

 そして、その場所に行き着き、目の前にいたのは、ガス爺さんたった。

 

「ガス爺!! もう、何してるんだよ。終わったんならとっととギルドに、、、!」

 

「ぉ、おぉ、で、ェァナ? わ、ひもど?」

 

 ガス爺さんの動きは酷くギクシャクとしていた。

 

 何者かに操られているかのように、、、既にガス爺さんの魔力反応も、生体反応も途切れていた。

 

「、、、出てこいよ下衆。随分と粋な演出をするじゃないか」

 

 ブチチ、、、グヂャァッ

 

「ギハハハ、人形劇は嫌いかぁ?」

 

 ガス爺さんだったものの中から無数の虫が湧き出て食い破る。スカスカな身体、五感の機能しない身体、死んだことがありありと分かる姿。

 

「ゔぇっ、、、」

 

 グイッ

 

(駄目だ、、、吐いちゃいけない、、、)

 

「ギハハ! おぅおぅ、Sランク様がおいでなすった!」

 

「ギハハッ! オマケにAが二人もいやがるぜ! ってことはよぉ!」

 

「「お前等が"天冥"だよなぁ!」」

 

 二体の姿は、緑黒い甲殻に片手は鋭利な鎌でもう片方は人のような腕、腕は四本で足は二本の昆虫。もう一体も非常に酷似しているが、両手が鋭い針になっている。

 

「なぁ、ガス爺やったのってお前等?」

 

「さぁなぁ? どうだろなぁ?」

 

「人間の言葉がわからないのはいかにも虫らしいね」

 

 ディアナとカトレアは殺意を剥き出しに二体のモンスターに威嚇する。

 

 ユーリも言葉こそ無いものの、鋭い眼光で二人を睨み、明らかな殺意が見て取れる。

 

「予定とは違ったが、この森の栄養で戦力は充分! 俺等だけで充分だなぁ!」

 

「ギッハハハ!! あぁ、そうだなぁ! 逃がす気はねぇけど教えてやるよ! お前等を殺す俺等の名前を!」

 

「「俺等は魔神様の忠実な下僕!! 魔帝六将(まていろくしょう)蟲軍勢(ちゅうぐんぜい)ガイナス!!」」

 

 二体は声を揃えて高らかに名を名乗った。

 

 名前や気になる単語も出たし、私はここで逃げるべきだ。幸いにも口振りから私のことは気付いていない、身体強化でスピードをあげてギルドへと戻ろう。

 

 タッ! 

 

「片方は二人に任せたよ」

 

「それはありがたい。私達も、フラストレーションが溜まっていたので、、、!」

 

 ブブブッ!! 

 

(あの二人は俺の片割れで充分。Sランクのディアナは噂じゃAランク百人分とか言ってたっけなぁ。はっ! 馬鹿らしい。一対一(タイマン)でブチ殺してやる!!)

 

 メキッ

 

「はっ──」

 

 ドゴォンッ!!! バギバギバギッ!!! 

 

一対一(タイマン)だ。向こうで()ろう」

 

 ディアナの俊足の蹴りが炸裂、腹の甲殻を砕きながらガイナスを吹き飛ばす。

 

「おい! 何やってんだ俺!?」

 

「余所見する暇あんの?」

 

 ブォンッ!! ガギンッ!! 

 

「ヌォォオオ!!」

 

 ズンッ!! 

 

 怪力で戦斧を振り下ろし、ガイナスはそれを受け止める。地面に脚が沈み込み、力比べによって硬直する。

 

(なんて馬鹿力! 蟲の力の俺と同等だと!!)

 

 ドズンッッ!! 

 

「ゴッハァッ!?」

 

 ユーリの一射がガイナスの甲殻にヒビを入れる。

 

(俺の甲殻は超鋼鉄並の硬度だぞ!? 矢でヒビが入るのか!?)

 

 各所で戦いの火蓋が落とされる中、テミスはギルドの方へと走っていた。しかし、何かがおかしい。

 

(、、、こんな道、無かったはず。何故、、、? ディアナ達を逃さないための結界?)

 

魔法地図(マジックマップ)、、、駄目だ、魔素が荒れてて機能しない、、、!」

 

 ブォンッ!! 

 

 後ろからの殺気に気付き、テミスはしゃがんで攻撃を避ける。地図を閉じてその本体と向き合う。

 

 目の前のモンスターは腕が膨張したかのようにパンパンなことを除けば殆ど同じ姿。

 

「ギハハハ!! お前! あのビリビリジジイといたやつだろ!」

 

(三体目、、、! どうやってバレた?)

 

「昆虫に気にするなんて人並みの思考なんざねぇさ!! この森の中で生物がいりゃ全てに食らいつく! 半端に高い隠密スキルが仇になったなぁ!」

 

「さすがは虫、低能さが伺えるね」

 

「ギハハハ! お前も俺達の餌にしてやるよぉ、ビリビリジジイみてぇになぁ!」

 

「、、、逃げの選択肢は無し、ね。ふふ、、、」

 

「あ? 恐怖でおかしくなったかぁ?」

 

(魔物大発生、少女の誘拐、冒険者の殺害)

 

有罪(ギルティ)、情緒酌量の余地無し。覚悟しなよ害虫。お前は、、、私の人生初めての怒りだ」




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魔法とスキルの違い

魔法には魔法と魔導といった分別があり、一般に恵廷魔導が一種類使えるだけで魔導師という職業に区別される。
スキルは何級かという区別で成り立ち、A級以上から名前が付き始める。
スキルには常時発動するパッシブスキル(魔力操作等)、任意発動スキル(各種耐性スキル等)、固有スキル(天翔等)があり、特に固有スキルは一千万人に一人の割合と言われている。
基本的に剣士などの近接職はスキルの使用で戦う。

次回 本格バトル回。謎に包まれた実力者達がその力を振るいます。
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