世界ノ興廃此ノ一戦ニアリ  ーついでにみんなを曇らせたいー   作:作業員Daoloth

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phase 2 はじめまして大戦艦のお二人さん

 

 少女が女性の多機能な車椅子を押しながら散歩をしている。知っていた世界の横須賀のような米軍基地も自衛隊の基地もなく、活気のある市街地も全ては海の水底。そして生前に愛したあの戦艦三笠も錆びて朽ちるのを待つのみ。

 そしてこの世界の横須賀は近代的な軍事的都市である種の偉大な発展を遂げていた。しかし前日の戦闘で横須賀は見るも無惨な廃墟だ。無意味な壁には大きな大穴。人々は諦観を覚えているためか内地へ逃げ出すことさえしない。

 そしてその郊外は刑部家の広大な私有地。その土地の倉庫に空いた愉快な人形の穴以外は何も変わりはない。

 

「ミカミカ、なぁにあれ?」

「笑えるねー。人でも飛んできたのかな」

 

 分かりきってること言いながら件のコートをみると刑部蒔絵は面白そうに手に取る。これから彼女にとっても素敵な出会いになるだろう。自身の部下の【キクヅキ】【スズツキ】【フユツキ】に連絡を取り政府組織の動向を監視させながら思案を巡らす。

 

「ミカミカ?どうしたの?」

「ごめんごめん、少しお仕事をね」

「もう、ミカミカ、この扉開けてくれる?」

「おkオッケー。さぁて御開帳」

 

 ナノマテリアルの銀砂で開かれた先には痴女にしか見えない少女が倒れている。母親ならば子供に見せつけたくないものだろう。⋯書籍の服ぐらいは来ていても良かったと思うのだけれど。

 

「ミカミカ、お姉さんが倒れている」

「そうねー、蒔絵はどうする?」

「お持ち帰りー」

「わかったわ。私とパパが面倒見るからお仕事に行ってらっしゃい」

 

 ロボットメイドに連れられていく蒔絵に手を振りながら、二人に活動できるナノマテリアルを分け与える。

 

「⋯なぜわたしたちを助ける人間」

『いやまて、人間がナノマテリアルを私達に与えることなど出来ないはずだ』

「さぁてお二人さん。とりあえず話は後でね。ハイ、コート」

「シャキーン」

 

 ハルナのお約束をしてから刑部邸の蒔絵の部屋に招く。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 蒔絵の部屋はメルヘンチックのぬいぐるみが沢山置かれている。タンスには刑部藤十郎とのツーショットの写真が沢山飾り置かれている。そこには私の写真はない。というより私は蒔絵の友達である資格はない。眞とはとても仲良くしているのだけれど。

 ハルナと一緒に主のローレンス姿の藤十郎が私が即席のナノマテリアルで作られた椅子に腰を掛ける。

 

「さて、自己紹介から始めよう。私は刑部藤十郎。霧には振動弾頭の発明者として知られているかな」

「あぁ⋯そうだな、死んでいるはずだが。私は大戦艦ハルナ。そしてこれは」

『キリシマだ。そしてお前は一体何者だ?』

「私の名前は東郷三笠。そうねぇ、ネットワークで検索するといい」

 

 ハルナがオレンジ色の光のコンソールを開いて調べている姿が見える。懐かしい友の写真が流れて、秘匿された事件の名前で動きが止まる。

 

「どういうことだ?学園の名簿貴方は死んでいることになっている。いやそれ以外も⋯」

「そう。私の同学年の人はある一点共通点によって死んでいる。貴方達にとっては見知った顔もいて驚きでしょうけれど。まぁ私も無事ではないわ」

 

 ハルナとキリシマが東郷三笠の姿を見ると痛々しい姿であった。

 片足左腕は機械仕掛けの義手。右足も動かせないためか筋肉がない。そして右目と耳は抉れているため頭から機械が着けられている。

 しかしそんなことよりも、異常な点がある。

 

「なぜ人間が見たこともないユニオンコアを持っている?」

「さぁ?アドミラリティ・コードちゃんに聞くといいじゃないの?あ、今は失われているのよね」

『何?アドミラリティ・コードが失われているだと!?』

 

 明らかに二人に動揺が走っている。いやそういやムサシが日本近海の艦隊を弄ったとか言っていたわね。正気だと面白い子だ。

 

「それは追々。キリシマこのままだと話しづらいわね」

『そうだ、お前。私の体を構成できる量のナノマテリアルを渡せ』

「いいや、ヨタロウにしばらく入ってもらうわ」

「ヨタロウ?あ、キリシマ」

『オイ何をする‼離せ‼』

 

 ハルナの手から奪ったユニオンコアを蒔絵の一番のぬいぐるみに入れる。そして強制的に体として認識させ、キリクマを作り上げた。自分の姿見を見ようとキリシマが動かすたびプチプチという音が聞こえて面白い。

 

「やっぱりアナタはこの姿でないと」

「何だこの姿は‼嫌がらせか‼」

「似合っているぞキリシマ」

「ハルナ、お前もか⋯仕方がない。帰ったら一番に体を再構成するか」

「愉快な大戦艦のお嬢様だ。さてコーヒーでもいかがかね。三笠はいつもの紅茶で?」

「えぇ」

 

 テーブルに藤十郎がコーヒー3杯と私好みの今では最高級なセイロンティーを最高の状態で持ってくる。やはり執事としての才能のほうがあるのじゃないのかしら、この博士。

 

「バトラー。今日は一段と美味しいじゃない」

「えぇ、湿度と温度からしっかりと測定して抽出しました。料理は科学です」

「⋯料理は科学。タグ添付、分類、記録」

「それで、お前たち二人は一体何者だ?霧の戦術ネットワークには【ミカサ】の名前はない。そして刑部藤十郎は既に故人として扱われているがこの場にいる」

「霧には政治取引という概念はまだないようだ」

「覚えとくといい。相手の弱みを握ってこちらの主張を押し付ける。理不尽な交渉は英国の嗜みですわ」

「まさしく今の私達がソレに値するか。望みは?」

 

 私は笑みを浮かべながら茶菓子を嗜む。

 表情が少し読み取りにくいハルナは明らかにこちらの警戒を強めて睨みつけている。キリクマはプチプチという効果音でとてもわかり易い。そして刑部藤十郎の口が開く。

 

「蒔絵の友だちになってくれないか?三笠は身体含めて性格的に蒔絵の本当の友達に離れないからな」

「友達ぃ?何だソレは」

「友達、親しい人の総称。心という精神構造から分かり合う事象」

「簡単に言えば姉妹愛のようなもの。そう貴女ら二人のように、コウゴウとヒエイの関係ね」

「あーそうか。ヒエイとコンゴウか、っておい‼なぜそんなことを知っている‼」

「普通に戦術ネットワークに上っているじゃない。多分私の友人の仕業ですわ、盗撮とは嫌なお趣味なこと」

「うわホントだ。一体誰が」

「まぁそれはどうでもいいこと。さてお二人の回答は?と言いたいけれど私達ももうすぐ仕事に行かなければいけないから夜にでも聞くことにするわ。バトラー、椅子お願いね」

「私がこの館の主なのだが。はぁ、昼過ぎには蒔絵も帰ってくる。よろしく頼む」

 

 

 

 

 自らは()()()動けない私は車椅子を押され部屋から出ていく。この後あの二人はコンゴウと連絡でも取るのだろう。あのお茶空間に美味しい英国茶でも持ち込もうかしらね。思考をしていると藤十郎が話しかけてくる。

 

「霧のメンタルモデルは案外面白い存在だ。人類の姿形まで真似るとは」

「えぇ、人類の戦略戦術を得るというそれらしい理由が関係しているわ。でもあの二人が面白いのは別の理由があるわ」

「別の理由?」

「霧には様々なプラグインが実装されている。メンタルモデルが構成される前から人格の概念があるように。例としてはとある重巡洋艦には乙女プラグインなるものがある」

「ラブコメか。ジョークセンスはあるようだ」

「そう。そして全てにおいて共通しているのが、【負けたらギャグ要員】」

 

 藤十郎は吹き出して笑いを堪えることが出来なかったようだ。本当に霧は面白いことをする。いや、彼女らメンタルモデルがより人間に親しい存在へと繋げる可能性の追求か。私はこれから動き出す情勢を口を歪ませて期待に胸を膨らませた。

 

 

 

 ○ ○ ○

 

 

 白に染まる殺風景な空間。味も湯気も存在しない紅茶を嗜む大戦艦コンゴウの姿がそこにある。そしてそこに愉快な姉妹のハルナとキリシマの姿も見える。イ401に総旗艦ヤマトのコアが存在するからこそ構成された概念伝達空間。

 

「キリシマ、面白い姿だな」

「好き好んでこんな姿になったんじゃないぞ。しかし面目ない。まさかあのような戦術があったとは」

「状況はモニターしていた。コアのみとはいえ脱出できて何よりだ。ひとまず相模湾の鎌倉沖にいるマヤに回収してもらえ」

「⋯コンゴウ、我々は複雑な状況にいる。現在の情報を共有ネットワークにアップロード。確認」

 

 情報をダウンロードしたコンゴウは今の冷静沈着な兵器の表情を少し歪めて驚いているようだ。それなにより、

 

「ハルナ、なぜ英国の紅茶の成分味覚状態情報が紛れ込んでいる?」

「⋯何?」

「ホントだ。あのミカサとかいう奴こんなものを‼」

 

 コンゴウは今飲んでいる見た目だけの紅茶を削除して、新たに送られた紅茶を作り出す。今までにはなかった湯気や温度が構成された紅茶を嗜むと若干の笑みが溢れてしまう。

 

「⋯良いセンスだ。初めてこの体を得たメリットを感じる」

「珍しい、お前がそんなふうに笑うなんてな」

「笑う⋯兵器である私が笑っているだと⋯」

 

 自身の肉体を得たことによる変化に驚く姿はハルナとキリシマは理解と姉妹艦としての驚きと共感を隠せない。人間としての肉体を得たことによる影響は否定できないことを三人の兵器は理解してしまった。

 

「コンゴウ、ミカサの話がもし本当ならば信じているアドミラリティ・コードの命令も正しくない可能性がある」

「⋯失われているなど信じたくはない。⋯我々は兵器だ、命令に従う道具である。だが、頭に入れておこう。何も知らずにいれば簡単に私は狂う気がするのだ」

「コンゴウが?まさか!?」

「めんどくさいことに肉体を得て感情を得た私たちは心などという不確定要素までシュミレートされている可能性がある。実際私は今こうして生まれ故郷の紅茶を口にした時に感情を得た。それは事実として認識すべきであろう」

「確かに、私たちはイ401との戦闘で後悔という感情を得た」

「⋯恥ずかしいが、私はあの時消えたくない、死にたくないという感情を持っていた」

 

 各々に生じた感情は括りの違いは有ろうが、知的生命体としての存在の確立を表すものである。彼女らはそれを論理的に自覚は出来ていないものも固定的な概念や思想、生命体としての本能が生まれたことを表した。

 

「コンゴウ、ミカサ以外に総旗艦ヤマトのことも調べた方がいい」

「⋯ヤマトか。今、戦術ネットワークから情報を閲覧しようとした際プロテクトが張られた。我々の手元にある情報は401に乗る千早群像らを含む名簿のみ。しかし」

「あぁ、データベース上の三人のメンタルモデルのヤマトのうち二人が【天羽琴乃】にそっくりだ。いや片方は本人じゃないのか!?」

 

 移りだされるヤマトの姿は黒髪の大人から、栗色の女性と発育途中の少女。メンタルモデルの姿形は規定や決まりのない本人の意志や趣味で構築される。その点ではヤマトという戦艦は特異的ではあった。

 そして

 

「【東郷三笠】、この人間もメンタルモデルとして確認できた」

「だが、【ミカサ】は肉体をもっており、人体の欠落箇所が多く見られた。そしてスキャンした限りでは見たこともないメンタルコアを心臓という臓器の箇所に持っていた」

 

 キリシマがその画像を映し出そうとした瞬間エラーが発生する。そして3人が共有したデータからも強制的にミカサの情報が消される。ただ唯一の痕跡は残して。

 

「メンタルモデルの記憶としては残してやるという温情か⋯めんどくさい」

「今のはミカサの仕業ではないようだな」

「は、ハァー!?ちょ、超空母【シナノ】!?」

 

 アドミラリティ・コードの司令を直接受けれる大和型の姉妹【ヤマト】【ムサシ】。そしてその知名度に隠れるように戦艦ではなく空母として生み出された【シナノ】

 二次大戦の艦艇の情報から調べないとまず名前が出てくることのない秘匿された存在。そして霧の艦隊の中で殆どの空母が海域強襲制圧艦と改装されるなか未だに航空母艦とカテゴライズされている特異存在。同型艦から予想するに演算能力は超戦艦級の2人を基準にする必要がある。

 

「我々は見逃されたということか」

「いや、わざわざミカサはこちらに接触してきたということは向こうの思惑もあるかもしれない」

「そういえば、振動弾頭の開発者の刑部藤十郎が娘の友になってほしいとか言ってったな」

 

 コウゴウは深く考え込むかのように頭を少し下げる。そして演算が終わった後に頭を上げて命令を発する。

 

「ハルナ、キリシマ、このまま【ミカサ】の監視及び名簿の死亡者等の情報収集。そして刑部藤十郎を利用し振動弾頭のそのものの確保または博士本人自身を確保しろ。その際に娘を利用すればいい」

「それは【友達】という関係を構築しろということか」

「手段は問わない。⋯私たちはめんどくさいことに首を突っ込んだようだな。401の撃沈さえも偽のアドミラリティ・コードの命令の可能性がある。方針を改める必要性がある。何か有ったら連絡しろ。あぁ面倒くさい⋯」

 

 各々、概念伝達を切り行動を開始する。規定されていた道筋は少しずつズレていく。それが蒼き鋼にどのような航路を。人類にどのような歴史を。そして霧に生命という認識を与えていくかは誰にもわからない。

 

 

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