愛を知らずに生きてきた。兄貴には疎まれ、周りにボコられる日々。俺に愛を教えてくれる人間なんて居ないと思っていた。弱くても強くても、必ず最後には裏切られ衰退していくんだ。アメリカもカナダも他の奴らもみんなみんな俺から離れていきやがる。
「どうせ俺なんかと一緒に居てくれる奴なんて居ないんだろ!!」
感情が昂り、心のままに叫んだが生憎ここは自宅なので宥めてくれる人間なんか居ない。虚しさが増す。あぁ、なんだか急に冷めてきたな、酒が抜けちまった。
もう一杯だけ寝酒に…と、非常に癪だが、フランス産の高い良いワインを開ける。半透明の液体をグラスに注げば心が満たされるような気がした。
ゆっくりとワインを飲み干して、酒の空き瓶もそのままにさっさとベッドに潜り込んだ。いつもより体が重くて深くベッドに沈む。それに伴い意識も沈んで行くのがなんだか懐かしい感覚で、昔はこんな風に眠っていた様な気がするな、だなんて事をぼんやり考えながら眠りに就いた。
「ガイジンさん、ガイジンさん、遊んでくださいまし!」
「ガイジンさん、アナタはどうしてエゲレスさんって呼ばれているの?」
「ガイジンさん、ガイジンさん、私をエゲレスに連れて行って!」
「エゲレスさん、私英語を少し学んだのよ、聞いてくださいな。」
「イギリスさん、異国の地ってなんだか緊張しますわね!」
「アーサーさん、私アナタと逢えて良かったわ」
「アーサーさん、私ね、アナタが…」
がばりと飛び起きた。懐かしい夢を見たせいだ…思い出した、最初から最後まで俺から離れなかった日本人の女がいたんだ。ァあ、思い出した思い出した、すっかり忘れていた。
「はは…そういや人間が傍に居ても良い事なんて無かったな」
なんだか胸がモヤモヤして気持ち悪い。時計の針はまだ夜中の1時。寝る前に飲んだワインをもう1杯呷ってから眠りについた。
日本が開国をしたらしい。あの、日本がだ。俺がアヘン漬けにしてやったあの男の弟分、俺と違って弱く野蛮でチャイナ野郎の後ろで引きこもるしか生きる術がない負け島国の日本が開国をしやがった。なんでも、調子に乗ってきやがったアメリカの圧によるらしい。普段なら"少し拘った"褒め言葉の手紙でも送り付ける所だが、今回はお手柄だ。少しは国として実力があるみたいだ。
日本との貿易はアメリカの居ぬ間にやってきたからか、明治維新後の日本は技術を求めて俺に歩み寄ってきた。
着々と日本との貿易が進んできた頃、商談をしに日本の屋敷を訪れると、ガキに話しかけられた。女のガキ。
「わぁ、ガイジンさん!」
「あ?」
「素敵素敵!頭は金色なのね、お目目は緑色なのね!」
足下でキャッキャとはしゃぐ良い艶の黒い頭。それがなんとも美しくて…
「イギリスさん?」
「ッ、あぁ、日本…」
見惚れていた。あぁ、ここは日本の屋敷前だった。
「あー…すまないなレディ、俺はこの爺さんと大事なお話があるんだ、また今度遊んでやるよ。」
「!お国様とお話するのね!また今度!」
たたたっと走り去っていく小さな体に、昔のアメリカが重なって少し微笑ましくなった。
誤字脱字たくさんあるかもしれない