最後は幼馴染に負ける悪の話   作:チキンの山椒漬け

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第12話

 

 試験としてダンジョン攻略を目前に控えた前日。姫や白川さん、それにウルルさんを含め、人があまり来ることが無い丘の上で特訓をしていた。いや、主に姫の特訓を。

 

 姫の相手は主にウルルさんが行っているが、姫相手に全力を出してはいないという前提にも拘らずとてつもない性能だ。その小さな身からは想像もできないような身体能力だ。竜族という存在は魔力が使えない代わりに気鱗というまた別の力を扱える物理戦闘に優れた種族。その中でも最上位の性能を有するウルルさんは正直に言って警戒しすぎて損は無い。

 

 そのバカみたいな身体能力から繰り出される一撃は手加減されているからこそ、姫でも防げている。しかし本気になれば一発耐え切る事すら不可能かもしれない領域に位置する。

 

 竜族に関しても僕自身、研究を進めてはいるが数体攫って解剖、研究してみても情報不測の今ではクローン兵士に反映することが難しいと判断した。故に竜族が他種族を迎え入れる現象そのものに注目しているわけだが、そこまでのサンプルを得る事が出来ていない。

 

 そこで考えた解決策としては姫を頼るというもの。正確には未来の、二つ目の扉の姫にだ。竜族最上位の金鱗との契り、迎え入れる現象は研究材料としては最高だ。デクスに仕込んだ機能の一つを使って観測させてもらう腹積もりだ。

 

 楽しみだなーと思っていたその瞬間、姫が吹き飛ばされていた。あっ、南無三。そんな事を考えていると一人の少女が姫に近づいていた。

 

「あれは……そうか、あれが」

 

 思わず呟いてしまう。あれが可能性の世界の住人であるカミシアこと、シャルなのかと。正直、研究にはもってこいではあるのだが、流石にカミシアに勘付かれるだけでなく他世界の権力者に人界が疚しいことを考えてますと宣伝するようなものなので断念した経緯がある。

 

 可能性の世界に関してもデクスを用いて何とかならないかなとは思ってる。姫自身は動けていた。つまりは身に着けた物品は可能性の世界で停止せずに動いているという事に他ならない。故に可能性の世界に対しても何らかの干渉を起こせないかと考えていたりはする。

 

 そんな事を考えているとシャルが姫に対してキスをしていた。そんな姫に対して僕は姫の肩を後ろから叩き言った。

 

「姫……人界なら犯罪だよ」

 

 姫の肩に手を置きながら、とどまるように説得する。駄目だ、姫! 君がいくら女性を落とすのが上手くても子供は駄目だ、子供は!

 

「違うわっ! 慧、オマエの勘違いだ! 確実にっ!」

 

 という事があったり、なかったり。ともかく原作は順調に進んでいる。ついでに僕の計画もね。

 

 

 そして迎えた当日。ダンジョンで行われる試験。開始の合図とともに始まった試験。僕達三人はモンスター達を危なげなく攻略しながら進んでいった。僕と白川さんがメイン、姫がサポートに回りながら。原作でも特に苦戦していない筈のそれに、僕という戦力が加わった事により問題があるはずも無い。あるとすれば……。

 

「おかしい……」

 

 姫が壁に埋め込まれた水晶を見て呟いた。

 

「確かに……まだ進んで一時間だ。なのに脱落したパーティー四割か。モンスターも対処できない程の強さじゃない」

 

 姫の言葉の真意を汲み取って違和感を言語化するのは白川さん。

 

「そうだね……どうせどっかのパーティーが大暴れでもしているんじゃない?」

 

 僕は編入性であるヴェル=セインが大暴れしているんだろうな、と考えつつも投げやりに言った。これはヴェル=セインが姫に会う為の策だ。自分が全部倒せば、姫は倒されないだろうというもの。そして最後は……。

 

 結局、議論を重ねつつも最後には現状維持をするほかないという結論に至った。まあ仕方あるまい。僕達に出来ることといえば大真面目に試験を行う事しかないんだから。

 

「まあ、進むしかないよ。この試験は全てを見ている筈なんだから」

 

「ああ、そうだな。けどこの試験、一筋縄じゃないかな……」

 

 内情を知らずに苦々しそうに呟く姫が何だか印象的だった。

 

 そして進んでいくダンジョン攻略。僕達が進んでいくとともに。脱落していくパーティーは増えていく。ペースは落ちているが、それでも半数以上が脱落している。ヴェル=セインが原作と違わぬ魔力を内包しているだろうと考えると、今から対峙するのが恐ろしくなってくる。それに実質的な師匠の敵でもある。少しだけ緊張してきた。

 

「ここが最下層か……」

 

 姫が確認するように呟く。確かにここは最下層のようだ。空気が違う。ここでラーロン達と一緒にヴェル=セインが待ち構えているかと考えると怒りが湧き出てくる。他世界に攻め込む為にゲームのように楽しんでいた時は違う純粋な怒り。

 

「おっと、笑顔。笑顔」

 

 自分に言い聞かせるように言葉を吐きだす。両手を使って自分の口を横に広げて笑顔を作る。常に笑顔で楽しみを。全ての種族を滅ぼすんだ、楽しんでやらないと。

 少し歩くと広間が見えた。そこはとても大きく、とても高かった。

 

「……こんなもの、良く作ったなあ」

 

「全くだ、こんな高さのダンジョンを降りてきたのか……」

 

 二人の感嘆の声を聴きながら周りに気を配る。ここは戦闘まで秒読みに入っているから。

 

「あーはっはっはっはっは!」

 

 するとラーロンの特徴的な笑い声が響き渡った。そこにはラーロンとその取り巻きを含めた四人の男女。そこからはいつもの流れと言わんばかりのラーロンの皮肉というか嫌味というか。しかも姫の煽り一つでブチ切れ不可避というクソ雑魚メンタル。しかしヴェル=セインが後ろで控えていると勘違いしているせいか、少しだけ機嫌はいいようだ。

 

 互いに見合い、武器を抜く。俺と白川さんがラーロン以外の三人を持ち、姫がラーロンを受け持った。傲慢で遊び癖のあるラーロン以外の三人をさっさと片付けて処理するという作戦だ。

 

因みに俺の武器、剛鬼は使わない。改良型儀式兵器でイメージするのは両手剣のように扱えるチェーンソー。簡単に力を使わずにぶった切れるし、剣の鍔迫り合いをすれば相手はビビるし、使ってて楽しいお気に入り武器。……姫と白川さんからの受けはとても悪いけど。

 

 戦闘が始まれば相手は一人が後衛で魔法を、二人がそれぞれ僕らを相手取ろうとしてくる。しかし白川さんと事前に打ち合わせていた通りに僕が魔法を、ここでは目くらましとなる土魔法をぶちまける。

 

「ふっ!」

 

 瞬間、白川さんが風魔法により加速する。眼を潰された敵前衛二人の間をすり抜ける。手が気づいたようだが、もう遅い。数舜で後衛との距離を詰め切った白川さんの一撃が無防備な敵後衛を襲う。

 

「がっ!?」

 

 後衛は叫び声とともに崩れ落ちる。しかし残り二人は状況をすぐに理解すると僕に向けて距離を詰めてくる。だが数的不利を抱えた僕がまともに相手するはずも無い。

 

「土遁の術……なんつって」

 

 土魔法を使って目の前に大きな壁を作る。白川さんが戻ってくるまでの時間稼ぎだ。数瞬もすれば打ち砕かれるような壁だが、それだけあれば白川さんが戻ってくる時間を稼げるというもの。

 

 しかしそこからが難題だった。前衛二人の実力を侮っていたみたい。ちゃんとお互いのカバーをしてくる。時間を掛ければ倒せるのは確実ではあるが、それではラーロン相手の姫が厳しい。こっちから白川さんか僕がラーロン相手に加勢に行くという手もあるが、それを話す時間すら惜しい。

 

 そんな感じで戦闘状況が膠着し始めた時、加勢が入ってきた。一階級と思われる竜族の少女達。ラーロンの方を見るとそこにいたのは金鱗ことウルルさん。なんだか、ラーロンは悔し気で見てて面白い。しかし状況は完全にこちら側。ここを逃したら出てくる瞬間がなさそうなものだけど……。

 

「そこまでよ」

 

 来た。膨大な魔力が空間を支配する。圧倒的なまでの存在感が、威圧感が、そして感じるプレッシャーとは不釣り合いな綺麗な声。

 

 遂に現れた。僕の師匠を殺したアイツが。家族を奪った魔族という種族の頂点が。目に映るのは黒い髪を持つ綺麗な少女。”血の儀式”の時と変わらないような圧力を携えた怪物。

 

 しかし少女の目に映るのはただ一人。僕ではない。姫だ。それ以外、全てが些事であると言わんばかりの態度。いや実際、そうなのであろう。

 

 倒したい。殺したい。力の根源を解析したい。僕の心から鎮火しかけていた黒い炎が今一度、天高く狼煙を上げ始めた。

 

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