最後は幼馴染に負ける悪の話   作:チキンの山椒漬け

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第13話

 

 ダンジョン最下層の広場に佇む圧倒的な力を持つ少女。黒い翼を携える少女は大鎌をある男に向けていた。そんな様子を僕は見ていた。疼く心を抑え、塗り固めながら。

 

「ば、馬鹿な!? パーティーを裏切るというのですか!?」

 

 うん、どんまい。現在、木っ端魔王ことラーロン君は魔王の血族、その頂点たるヴェル=セインに刃を向けられている。まあ、その前に姫が気づくまでヴェル=セインに襲われていたけど、まあ茶番だ。

 

「残念ね。私、あなた達と行動は共にしてたけど、パーティーに参加した覚えはないわ。私が組むのは姫だけよ!」

 

 んな、アホな……。傲慢で差別主義者なラーロン君だけど今だけは同情するよ、うん。その後の行動、ほぼ全部がギルティだけど。

 

 ヴェル=セインとラーロンが言葉をいくつか話した後、粛々とラーロンはヴェル=セインの魔力を乗せた大鎌によって吹き飛ばされていた。うーん、やっぱり八枚羽。火力が違う。純粋な魔王の血族という事も合わさっているのか。ラーロンにぶつけた魔力攻撃は死なない程度とは言え、普通に高火力。それをほぼノーモーションでとは……。いやはや、恐ろしい。

 

 そして姫とヴェル=セインが抱き合い始めたかと思うと、姫も吹き飛ばされた。

 

「ワロタ」

 

 ヴェル=セインの顔は真っ赤に染まっており、どうやら見られたのが恥ずかしかった様子。瞬間、広間の天井からひゅーっと何かが落ちる音とともに、ゴーレムが降ってきた。

 

「ヒメェッ!!」

 

「この期に及んで敵だと!?」

 

「まさか、これが最終ボスなんですかっ!?」

 

 うーん、カオス。ギーガーと腕を振るいあげているゴーレム君は魔力コーティング、物理装甲もかなりのもので割と出来はいいと思う。

 

「うるさいっ! 姫の邪魔よ、さっさと居なくなれぇっ!」

 

 大鎌によって振るわれる一撃。ほぼノーモーション。しかし振るわれた一撃はゴーレム君の装甲に振れるや否や……。

 

「「あ」」

 

 あ、うん。どんまい、ゴーレム君。まあ、魔王の血族が相手だからね、仕方ないね。ラーロン? あれは、血統的には雑種だからノーカンで。というか、これ以上の実力を持つ奴が跋扈する世界を三つ攻略するつもりなのか、僕。……やっばー。

 

 そんな半分現実逃避をしながら取り敢えず姫の首に氷を当てて応急処置をする。話は刻々と進んでいて、試験の評価のポイントである指輪をたくさん白川さんが受け取っていた。ラッキー。

 

 そこからはすぐだった。ヴェル=セインーーセインさんを含めみんなで自己紹介をして交流を一応深めた。セインさんは皇という名前には一応反応していたけど、僕があの場にいたことは気づいていなさそう。呑気に姫と話して楽しそうだった。

 

いや違うな、別にそれはいいんだ。恋をした少女が男性に向けてアプローチしている姿は見ていて微笑ましい。あの血の儀式で僕達が襲われた時、彼女は母親の役に立とうと頑張っていただけ。その心に付け込まれ、騙され、利用され、彼女自身すら殺されそうになっただけ。

 

 それに師匠を殺したのは別の魔族、それも魔王妃トリア=セインによって処罰、というか処刑されただろう。娘に手を出されて黙っているような人には見えないし。

 

 そうだから。言語化するとしたならば、心の中にある黒い炎を誰かにぶちまけたいんだろう、僕は。間接的に殺したのは、加担したのは事実だ。儀式の時、師匠を含めた護衛より魔族側の数は明らかに多かった。どうせセインさんが居ようが居まいが、稼げる時間以外に結果は少しも変わらなかっただろう。僕のチートもそれを告げているのが腹立たしい。

 

 だからといって僕は炎をどうやって消化すればいいのかまるで分からない。だから全部壊そう。奪おう。殺そう。そう決めた。

 

 五年で積み重なった憎悪の肉に愉悦という皮を被り、友達という仮面で蓋をする。ほら、見なよ。そこに姫やセインさん、皆がいるよ。仲良くしよう、そうしよう。ほら、仲良くすればいい事があるよ、きっとね。

 

「どうもこんにちは、セインさん! 僕は皇慧。よろしくね?」

 

 

 さてさてセインさんとの顔合わせが終わったわけだが、次にやって来るはずなのは確か……銀月の妹か。本名、アミア=ルゥム。銀月であるノート=ルゥムの妹であり神界第二王女。

 

 正直言って彼女に関して言えば然したる興味は無い。理由は簡単、神族としてそれ以上の完成系である兵器がいるからという事。そして彼女自身の戦闘方法は種類豊富な魔法によるゴリ押し、もとい制圧を得意としている。そんなアミア=ルゥムはトリニティに保管されている書物から知識を得て魔法を開発している段階。故に彼女に関してはそこまで興味が沸かない。

 

 そんな事を考えながら帰路につく。先程姫達とも別れて男子寮に一人寂しくではあるが。そして姫達と別れる前に姫をパパと呼ぶシャルさんと会った。

 

「ある意味、事案だろ。あれ」

 

 まあ、流石にそんなことは言わなかったけど。心底、軽蔑した目を姫に向けて軽く心は抉っておいたが。本人は誤解だ!と叫んでいたが……有罪で。

 

「しかし、まあ。シャルさんにあんなに嫌われているとわな」

 

 何故だか分からぬが、僕はシャルさんに避けられていた。姫が聞いたところによると、何となく苦手らしい。……あれか、実験対象として見てた事に気づいたか?

 

 なんせいずれ可能性の世界の住人となるカミシアになるのだから少しは考慮してほしいものだが。そういえば、可能性の世界の住人達、というか二人に対しても僕の計画の邪魔にならないように注意を払わなくちゃいけないわけだけど……。

 

「……後、一人いたような気がするけど、……誰だっけ?」

 

 やばい、思い出せない。敵がいるという事は分かっている。可能性の世界の住人である少女二人、それにもう一人、片方に加担する男がいたはずだ。でも誰か、思い出すことが出来ない。

 

「そんな能力だっけ……あー、面倒くさいなぁ」

 

 知っている筈なのに思い出せないという気持ち悪い思いをしながら男子学生寮の階段を上がる。そして僕の一人部屋の扉を開ける。ギーッと建付けの悪い音がする。

 

「ただいまー。まあ、誰も…」

 

 瞬間、僕が用意していた端末から異常事態を知らせる報せが来た。

 

「つ!? まさか……やった! 賭けに勝ったぞ!」

 

 急いで端末を開き、情報を取り寄せる。ログの出元は原作主人公こと姫が持っている両手剣、デクス。デクスに仕込んだ機能の一つとして、時計として時間を刻んでいるというものがある。しかしそれは僕が持つ情報端末の大本と絶えず交信を行うようになっている。そこで時間に関して大元とデクスの刻む時間に関して同期ズレを起こした場合に直前の情報ログを全て送るように設定していた。

 

 当然、通信には何かが原因でバレるかもしれない危険性を孕んでいる。だからある程度、交信する日を絞って行っていたわけだが、狙い通り。可能性の世界では人界、魔界、神界、竜界、トリニティ全ての時間が停止していたのは確かのようだ。

 

 そしてそんな上位世界とも言えるような可能性の世界に住む住人、カミシアとミヤ。僕がこれからする事はある意味取り越し苦労かもしれない。だが姫と敵対する可能性がある以上、この二人は敵となる可能性を孕んでいる。故に対策をしなければ詰むかもしれない。

 

「各種センサ、問題無し。記録情報も充分だ。……これならいける」

 

 僕はデクスから送られてきたログを元に、可能性の世界について考察、実験、解析を行っていく。僕のチートとも言うべき力、"一を聞いて百を知り、新たな一を作る"という特性を利用して可能性の世界という存在そのものに近づいていく。まあ二人の住人に気取られる可能性はあるけど、流石に無いと踏んでいる。

 

「彼女達は別に(作者)でも傍観者(プレイヤー)でも無い。ただ世界に住み、大地を踏みしめる人だ」

 

 そう、彼女らは少し特別な力を持った、ただの人。

 

傍観者(プレイヤー)のように重要な場面を逃さず把握出来るような千里眼、持ち合わせちゃいない」

 

 だからこそ安心して研究が出来るというものだ。魔力、湿度、湿度、大気圧、座標位置、空間、時間、デクスから送られてきた情報を頼りに解明する。本来なら無理筋な話ではあるが僕は違う。チートをフルに活用して穴抜きパズルのように情報を嵌め込み、仮定に仮定を重ね、解き明かしていく。

 

 久しぶりの大苦戦。人界に居た時は設備も情報も人材も足りない。だけど、さしたる問題には感じなかった。ヴェル=セインを見てから燻り始めた黒い炎を燃料に突き進む。

 

 時間はもう深夜。しかし今までで最高とも言えるようなパフォーマンス。気分は爽快だった。何故なら。

 

「……解析完了」

 

 扉は僕の味方となった。何故なら記憶維持が出来るのだから。前の失敗を次に引き継ぐ事が出来るニューゲーム。

 

「時間は僕の味方だ!」

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