最後は幼馴染に負ける悪の話 作:チキンの山椒漬け
第14話
教室の椅子に座り本を読んでいた僕の視界にはアミア=ルゥムが姫に決闘を申し込む姿があった。大変だねぇ……。姫とアミア=ルゥムは気づいていないようだけど、セインさんが道案内をしてくれる約束が無くなりそうで内心、アミア=ルゥムにキレそうになっているのが分かる。
トントン拍子で話は進んでいき向かう事になった闘技場。しかし僕は姫達に断って闘技場を離れてきた。理由は簡単、興味がないからという事に尽きる。
どうせアミア=ルゥムは姫に対して心を開くからだ。女性関係以外はとても誠実な姫は、アミア=ルゥムの人族に対する偏見を打ち砕くに違いない。なにせアミア=ルゥム自身、人族は欲望のためなら何だってするという偏見が揺らいだから姫に勝負を挑んできている訳だ。だからどうせ姫を気に入るに違いない。
それに彼女自身の戦闘に関しても特に関心が湧かない。これが銀月であるノート=ルゥムであれば、性能を一度見てみるという側面でも観戦したであろうが……。アミア=ルゥム、彼女は純粋な魔導士と言って相違ない。多彩な魔法による面的制圧及び身体能力をブーストするゴリ押しの近距離戦だ。順当に才能を伸ばした普通の戦い方。よって見るに能わず。
彼女が研究中の魔法、レーヴァテインについても火力は出るが魔力効率は最悪、術者にも相当な実力を発動してる間に絶えず求められるというのも欠陥だ。
だから僕としては書物で読んだ時もお蔵入りというか、研究対象としての採用見送りをしたというか。そんな感じの残念魔法だと個人的には思っている。僕が魔法に求めるのは純粋な魔力効率、継戦能力、火力、射程と言うのも理由ではあるが。
そんな事よりも大事なことが今はある。もうすぐ人界から僕が同志と呼んでいる協力者が来る。同志、それは僕が元々人界で選別していた人材。人界においても公に僕と同志に繋がりは無い。ここ、トリニティにおいても僕と同志の繋がりを作ることは無い。連絡方法は至ってシンプル。トリニティで深く浸透している新聞に掲載する広告にメッセージを含ませるというもの。
そのメッセージを暗号表に基づいて解読すれば簡単に読み取れるというもの。魔法が発達した時代、魔法による連絡が発達してきた時代においてこんな古臭い伝達手法を用いるところは無いんじゃないかなぁと思わないわけではないが。
暗号表についても僕は全部暗記しているし、同志に関しては脳に刻み込んでおいたから暗号表が他に漏れる心配は無い。他には寝返りや捕縛、尋問による情報漏洩が心配されるところではあるけど、いざとなれば体内に仕込んだ爆弾や毒、脳にある精神破壊の刻印が効力を発揮してくれるだろう。
因みに同志はこの事実に納得して作戦に参加している。といっても指揮官は僕、作戦に関わっているのも二人だけ。ただ同志に関しては他種族を恨んでいるという事だけは確実だ。なにせ血の儀式事件という同時多発テロにおいて数少ない生存者なのだから。
彼は元々、軍部に所属していた。僕が人界を統一する際に軍部に対しても働きを掛けていた時に出会ったのが初めだ。そこから同じ血の儀式事件の生き残りである僕の話を聞いた上で他世界への侵攻という展望を語ると大変興味を持ってくれた。
どうやら捨て石覚悟でこの作戦に参加してくれるらしい。というか実際、捨て石にするしか無いという話をしたんだけど……。何故ならトリニティの警備とは魔界、神界、竜界が主に協力して警備をしている為、魔法による捜索はお手のもの。どんな手段を用いても必ず見つけ出す凄腕だ。つまりは僕の作戦に一回参加したら確実に死亡するという致死率100%の代物。……その作戦を立てた僕も、それを聞いて嬉々として作戦に参加してる同志もどこか壊れているのだろうか?
とはいえ、どこかで用いれる駒が増えたという事は喜ばしい事だ。僕としては魔剣に関して彼を用いて回収および解析が出来れば嬉しいと考えている。
彼が通常の人族のような力しか持たないのであれば、魔剣奪取というのは難易度が高かったかもしれない。しかし同志は割と特別といっていいような力を持っている。これが今、僕がトリニティに来て一年半も経ってから投入される原因でもある。
同志と僕が呼ぶ彼には口封じ用の改造以外にも幾つかの改造を施してある。一つは身体能力の底上げだ。人族では到底出せないような竜族に近いような力を薬物の継続投与、人工筋肉などを用いて引き出せるようになっている。二つ目は脳を改造することによる思考スピードの高速化だ。戦闘において思考するスピードは速ければ速いだけ有利に働く為だ。
そして三つ目。これがある意味で難題だった。正直言って改造する必要性自体は感じられるけど、改造が成功するかも怪しいし完成系よりも性能は確実に劣るもの。それは魔族の翼である。正確には僕が作った魔族の翼と同じような機能を持った人工の翼。しかし僕は技術や手術方法を人界に送っただけでどんな風になったのかは見ていない。結果は送られてきたけど実物が楽しみではある。
そして一年半も経ってから投入される原因と言ったのは二つ目、三つ目の扉の事を考えると他に改造を加えられそうな気がする為、手術の期間を最長まで伸ばしたのだ。同志は扉の事を知らないし理解できない為、少し不満そうにしていたが抑えてくれて助かった。
まあ、そんな同志の為にもトリニティに来た際に変なところで足を掬われないようにいろいろと調べているわけだ。光学迷彩や魔力絶縁体を仕込んだ五百時間連続稼働のドローンを使って。トリニティにおける通常時の警邏の巡回コース、時間帯、犯罪者が発生した際の警備の動き等々。調べておくべき事項はたくさん存在する。
そんな訳で手持ちの情報端末にデータをまとめていた訳だが、作業をしていると唐突にとある通知が来た。
「あれ? 姫、勝ったのか。ふーん……へぇ! 最後の魔法弾を咄嗟にデクスで防いだのか。しかもアミア=ルゥムをそのまま切り伏せたと。……やるじゃん!」
原作では惜しくもアミア=ルゥムに負けていた姫だがどうやら今回は勝てたらしい。情報を送ってきたのはアナザー。未だ学習中のアテネと違い、デッドコピーのアナザーではあるが状況判断、そして行うべきことを判断する事ぐらいはできる。そんなアナザーは姫が最上位管理者となっているけど、僕が割込みで色々と命令をやらせている状態だ。勿論、姫は気づいていない。
だがアナザー自体は戦闘サポートもやれない事は無いし、訓練の際に学習の補助を行っているから別に悪い面だけじゃないよ。……きっと。
「それに戦闘自体も魔法攻撃を捌ける場面が無いわけでもない……か」
戦闘ログを見てみると序盤、アミア=ルゥムから魔力弾による制圧射撃を少しの回避動作とデクスーー両手剣を使った薙ぎ払いで対処している。……まぁ、その後に放たれた倍以上の魔法弾の前には全力で回避するしか手が無かったようではあったが。
「やっぱり、姫は成長してる」
原作よりも確実に。デクスという魔力が必要ない魔力剣や幼少の頃から修練に励んでいたという事も要因だろう。しかし原作の姫と比べると今の姫の方が確実に強いという事は容易に分かる。友達としては嬉しい限りだが、僕の計画を邪魔するかもしれない敵として見れば……正直、微妙な気持ちだ。
僕が蒔いた種ではあるけれど、やはり石橋を叩き割るぐらいには警戒は必要か。それが分かっただけでも今回のコレは意味があった。
「姫が強くなるなら俺も強くならなきゃね」
俺はログを閉じて一時中断していた作業の続きを始めた。