最後は幼馴染に負ける悪の話 作:チキンの山椒漬け
「消えてなくなれぇぇっ!」
あ、うん。綺麗なお手前で……。
今僕がいるのはトリニティに作られた堅牢な地下ダンジョン。このダンジョンは各世界の中でも選りすぐりの技術者が集い、作られた障壁はどんな魔法を用いても壊されないらしい。
しかし今まさにソレがセインさんの魔力攻撃を受け止めきれずに一部が崩壊し、壁は砂利となっている。セインさんが姫を負傷させたモンスターに対して全力の魔力を注ぎ込んで放った一撃。ちゃんと測定していたけど、やはり規格外の魔力だ。やはり十翼、いや八翼の持ち主。あの竜族と魔族のハーフ、フォン=テルムでさえ六翼だからなぁ。やはりセインさんは恐ろしい。
今の所はノート=ルゥムの方が恐ろしくはある。しかしセインさんはこれから順調にいけば覚醒する可能性は高い。故に警戒しすぎて損は無い。それに現時点のセインさんはフォン=テルムと互角か少し上。つまり今のセインさんと同程度の実力者としてもう一人は確定デイルというわけだ。その上、魔界を代表する実力者はトリア=セインを筆頭に滅界戦争で数を減らしたとは言え、残っている。そんな軍に勝るような一個体が戦力としてゴロゴロ保持している三世界を相手取る事は、僕が統治する前の人界では逆立ちした所で無理だろう。
じゃあ今はどうなんだという話ではあるが、うーん、どうだろう?というのが正直なところ。現在進行形で研究中のクローン兵士、そしてそれに付随する身体改造研究は扉の話が進まればチャンスは巡ってくる筈だ。身体改造は同志に施したものは中途半端、劣化もいい所だから厳しい。後は人界軍の実力者に最近供給させ始めたアレはまだ普及率が良くない。けどアレは確実に他の種族に対して猛威を振るってくれるだろう。
だからそうだな……。今、僕が三世界に戦争を仕掛けたとしたら一年は持たせてみせると言ったところかな。こちらが完全に不意を突いたという前提の下に倫理感をゴミ箱に捨てた作戦を実行し続ければという但し書きが付くけどね。焦土作戦、人質、人間爆弾、毒ガス、ウイルス、民間人を狙った攻撃とかその他もろもろ。
まー、こっちの戦力が根本的に足りないからね、仕方ないね。だからさ、もしやるとしても許してほしいかな、学園長!
と、そんな思いを込めて目の前で頭を抱えている学園長ことトリア=セインを見つめてみる。
「ん? どうしたのかな? 皇殿」
視線には敏感なようで直ぐにこちらを見つめて問うてくる学園長。どうやら滅界戦争当時に散々暴れまわっただろう実力は全然衰えていないのかもしれない。
「いえ、娘さんは凄い人ですね。と。やっぱり自慢の娘……という奴ですか?」
「いや、なに。私としては本当に嬉しい限りなんだが、もう少しだけ思慮というものを……」
学園長は頭を抱えながら書類を書き進めていく。因みに書き進めている書類はダンジョン建築した各世界の業者に魔法障壁が欠陥で壊れたと難癖をつけて修理費用をまけてもらう為のものだ。僕も人界にいる建築業者に働き掛けを行ってくれと頼まれ、書類を作成する為に学園長室にいた。
「まあ、親の悩みというものは尽きないものなんですね。ですが楽しそうで何よりです。あ、後これどうぞ」
僕は質問と共に人界でもかなり希少な酒を学園長に渡す。
「おおっ、これは! 皇殿、かたじけないな。……いやあ、本当にヴェルは可愛くてなぁ……。昔はあんなに冷たかったヴェルが料理を覚えだした時には思わず笑みが出てしまったからねぇ」
本当にヴェル=セインの事が好きなんだろう。希少な酒を得られた事もあって、顔がだらしなく歪んでいる。到底他人に見せられたものではない。学園長に酒を勧めながら僕はその姿を見なかった事にして書類を書き進めていく。
盃に酒を注ぎ、学園長に飲むように促すと学園長は酒の魅力に耐え切れず簡単に酒を飲み始めた。少し飲み進めた辺りで僕は敢えて突っ込んだ質問をしてみた。
「やっぱり、昔は冷たかったんですか?」
酒を飲み判断能力が低下し、ヴェルの事で頭が一杯な学園長は口が軽くなったようで応えてくれる。……普段なら気づいて応えてくれる事は無かっただろうが。
「ああ、そうなんだよ。昔はヴェルもなぁ、他種族に対しても差別意識があったみたいでなぁ」
「ですが、血の儀式事件を機に心変わりをしたと?」
一応ね、一応の確認だ。最終確認と言っても過言ではない。もしかしたらあれは僕の思い込みで別の人だったかもしれない。もしかしたら姫とセインさんは別の所で知り合い、仲を深めたのかもしれない。もしかしたら姫の儀式兵器は別の人に託されたのかもしれない。もしかしたら今は原作と同じように見えて実際は実情が違うのかもしれない。
そう考えたが故の最終確認。なんなら違ってくれていた方が僕としては親友の恋路を応援できるかもしれないから嬉しいんだけどね。
「……」
だが結果は明白。学園長の顔は一瞬だけ凍り付き、元のキリッとした顔に戻った。皇である僕が血の儀式事件に巻き込まれた事は学園長も知っている。家族が皆殺しにされ、唯一の皇となった僕が血の儀式事件首謀者の引き渡しを要求したのも有名な話。ただ僕がヴェル=セインと遭遇していた事は可能性としては考えられただろうけど、藪蛇になるかもしれない事に首を突っ込めなかったんだろうね。
まあ、無理もない。ヴェル=セインが関わった事を隠すために必要な情報を引き出した後に実行犯は直ぐに処刑しただろうし、僕が皇の会合に行かなかった事を知っている大人は血の儀式事件の護衛が殆どで全員が殺された。僕がいたところを襲撃した魔族もまさか皇がいるとは思わなかっただろう。
それに僕が最高権力者となった際には箝口令も敷いたからね、仕方ないね。
「嫌だなぁ、学園長。怖い顔をしないで下さいよ。僕は弱いんです。人界も四世界随一の弱小種族なんです。今更、何かしようだなんて考えちゃいませんよ」
僕は息を吐くように嘘をついた。僕が思っている事は前は本当、後ろは嘘。弱いからこそ、強さの解明が必要だ。強さを自分のものにするべきだ。
ただ学園長は僕の気休めの嘘で安心することは無く、ただひたすらに僕のことを見つめている。
「……皇殿」
少しの沈黙の後に呼ばれた僕の名前。
「なんです?」
「私はこれでも一児の親だ。何かあれば私は皇殿を欠片も残さず燃やし尽くすだろうな」
声の調子は至って普通。しかしそれは何か剣呑な気配を纏ったヴェル=セインの母親、トリア=セインの忠告だった。ヴェル=セインに見劣りしない濃密な魔力、死の気配。滅界戦争の功労者、いやはや恐ろしい。
人界にも滅界戦争を生き残った猛者はいるがこれほどの力を持っているのかどうか怪しいところだ。羨ましい、だから僕はソレを、その力を奪いたい。
「安心して下さい、学園長。僕は何もしませんよ」
僕、皇慧という人物はね。
◇
その後、学園長と僕は至って普通に書類を書き終え、僕は学園長室を後にした。書類仕事を進めていくうちに学園長のお酒を飲む量は増えていき、段々とダル絡みに変わっていったので女子寮に行けばいいんじゃないですか、とアドバイスしておいた。
頑張れ、姫! 後は全部、姫に掛かってるぞ!!!
僕は風呂に入って今日の緊張を解しながら、姫や白川さん、それにセインさんの安寧を祈った。……その日、女子寮では原因不明の爆発が起きたとか起きていないとか。しかし女子寮ではどこも爆発した様子は無く、トリニティにおいて爆発無き爆発、学園の七不思議として噂されていた。
独自説明や戦力分析についてどう思う(修正は多分出来ない)
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増やせ
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別に何とも思わない
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このままいけ
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くどい
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結果のみ