最後は幼馴染に負ける悪の話   作:チキンの山椒漬け

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未だ学園に行く気配すら無いので巻でいきます


第5話

 血溜まりに佇む二対の翼を持つ黒い影。不気味に笑いながら、剣を振るう。何をするのかと思えば、首が無くなった遺体を執拗に切り刻み始めていた。服に、顔に、首輪に、翼に血がつこうが関係無い。ただひたすらに切り刻んでいた。

 

 フォン=テルムが率いる魔族チームはお互いに手信号で連絡を取り合い、この不気味な人物に悟られないように引き上げようとした。見つかったなら戦闘になる事は明白だったからだ。

 

 しかし、こんな異常な状況で平静を保てない人物が調査チームの中に一人だけいた。その人物はフォンと同じように将来を約束され実力はあるが比較的年齢が若く、経験が少なかった者。

 

 何を思ったのか、否、無意識の内に魔法を行使しようとしてしまったのだ。すると魔力の起こりを感知し、実験体が死体を切り刻む事を止め振り向いた。実験体の顔は歪に笑っていて、照明の光が首輪に反射する。

 

 次の瞬間、爆発的なスピードで魔法を行使しようとした魔族に襲い掛かった。

 

「え?」

 

 一息で目の前に現れた実験体に魔法を発動させようとした魔族は首を刎ねられる。

 

「っ!? 何をしているのですか!」

 

 ーーはずだった。フォンが二本のハーケンを駆使して首を刈り取らんとする一撃を弾き、運命を捻じ曲げた。しかしフォンの顔は歪んでいる。何故なら実験体の一撃は竜族の血を引いているフォンの手が軽く痺れる程に重かったからだ。

 

 これはフォンが知る由もないが、実験体に施された魔法術式が関係している。実験体は術式を脳に刻み込んだ事によりプロセスを省略し魔力を流すだけで魔法を行使できるようになっている。そして実験体は無謀にも同一の身体強化魔法を身体への影響を度外視して重ねがけしていた。命を削り瞬間的な火力を出す事、それが一撃の重さの理由だった。

 

「も、申し訳ありません!」

 

「今はいいです! それより転移魔法を!」

 

 フォンは転移魔法を得意とする魔族を促し、予め決めていた場所に転移させるように命じた。

 

「は、はい!」

 

 命じられた魔族は転移術式を組み上げていく。他の者はフォンに加勢しようとしたが、激しい戦闘に無理やり介入しフォンの邪魔になる事を恐れ、身体強化魔法をかけ援護に徹していた。

 

 命じている間にもフォンは実験体の斬撃を何回も弾いている。しかしそれはフォンにとって薄氷を踏むような戦闘だった。

 

 実験体は今まで対峙した事が無い独特な戦闘術を使っていた。斬撃や刺突といった動きの起こりが見えなかったのだ。そして一撃一撃が全て重い。

 

 しかしフォンにとってある要素がプラスに働いた。実験体はフェイントをする事無く、真っ直ぐに首や胸等を狙って来ていた。故に意識を集中させ、魔法によって強化された身体能力を使い防御に徹すれば凌ぐ事が可能だった。

 

 そして後は転移魔法で離脱するだけ、の筈だった。

 

「ニ…ガサ…ナ……イ」

 

「うそっ!?」

 

 実験体は予め脳に刻まれていた魔法の一つ、転移阻害を使い撤退を不可能なものにした。しかもフォンとの戦闘を続けながら。魔法を発動したというのに溜めや硬直が一切ない。この点では慧の実験は成功と言ってもいい。

 

「転移無効化ですか……ならば捕縛します! 各自フォーメーションを!」

 

 フォンは状況を理解し、メンバーに指示を下す。ここまで来てしまったのなら、もう後戻りは出来ない。ならば手がかりになるこの男を捕えなければ、と考えた故に。

 

 そこからはまさに針に糸を通すような戦闘だった。フォンを中心に周りの魔族が拘束魔法や支援魔法等を放ち、実験体を捕縛しようとしていた。

 

 戦闘能力に関してはフォンはかなりの実力者。他の面々は調査に必要な技術を持った者を選別していた為、直接の支援は難しかった。

 だが、だからこそフォンは実験体の戦闘技術に少しずつ確実に慣れていく。そして一歩、また一歩と確実に実験体のリソースを削っていった。

 

 ガギンッと金属同士が激しくぶつかり合う音がする。既に打ち合った回数は百を超える。フォンは息は上がっているがまだまだ余力を残している。しかし実験体はもう限界だった。魔法の多重使用によって限界以上に身体、器を酷使した事も原因ではあるが、一番の理由はフォンとの戦闘によるダメージだ。

 

 体はボロボロ、翼を傷つけられた事により魔力の増幅も打ち止め、そして回復魔法によるリバウンド。実験体は立てている事が奇跡に近かった。

 

「……そろそろ降参はいかがでしょう?」

 

「ム…リ……ダ…ナ」

 

「そうですか。それは残念です」

 

 問に対して実験体は取り付く島もないように返答するが、フォンは気にした様子もない。なぜならもう捕縛可能な段階に入っていると確信しているからだ。

 

「オマ…エ……タ…オス!」

 

 最後の一撃と言わんばかりに振るわれる斬撃。今までより速く、重い正面からの一撃。

 

 フォンは油断無く受け止める。ハーケンと剣が激しくぶつかり、轟音が鳴り響く。フォンが思わず耳を塞ぎたくなるぐらいの大きさだった。

 

「…………」

 

「え?」

 

 だからだろうか? 周りの者にら聞こえないような声。フォンは思わず惚けてしまう。幻聴かと自分を疑うフォンであったが、目の前の二対の翼を持つ男は仕切り直しとばかりに距離をとった。

 

 実験体は剣を中に構えたのを見てフォンもハーケンを構えた次の瞬間。

 

「グッ!?…ガァッ!」

 

 実験体は剣を手放し倒れ込む。自由になった両手は自らについている首輪を引きちぎろうとしている。しかし首輪は無情にも機能を発揮し続けた。

 

 魔族調査チームはどうすれば良いか分からず実験体の傍に集まり対応考えている時、フォンは見た。苦しみながらも理性が宿った目でこちらを仰ぎ見る実験体の姿を。

 

 程なくして魔族の回復魔法も効果無く実験体の鼓動は掻き消えた。魔族達の耳には夜だと言うのに周りから喧騒が聞こえてきた。隠蔽は不可能と判断し、人族の上層部に協力を求める判断を行った。人族の上層部の中に腐敗した者がいるという証拠を握っているという事を加味した上での判断だった。

 

 そんな中、フォンは盗聴されている可能性を捨て切れず、調査チームの誰にも告げていない事があった。それは実験体が話した内容。フォンにギリギリ聞こえる声量で伝えられた言葉。

 

 それは……。

 

「スメラギニキヲツケロ」

 

 人界最高権力者の関与を示す言葉だった。

この作品を閲覧した理由

  • Tiny Dungeonの二次創作だから
  • タイトルとあらすじから
  • 転生タグとオリ主タグから
  • アンチヘイトタグから
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