最後は幼馴染に負ける悪の話 作:チキンの山椒漬け
「スメラギニキヲツケロ」
は? ……え?
実験として作ったクローン兵士が急に知る筈の無い情報を喋り出したんだけど?
ついでに言えば魔族に情報を流して裏切ってくれやがったんですが……。
僕が実験体に取り付けた首輪の機能には録音機能も取り付けていた。だからこそフォン=テルムに警告をした事をしれた。備えあれば憂いなしだ。
取り敢えず情報端末から首輪に毒を打ち込む信号を送った。毒は速やかにその効果を発揮し、実験体は激痛と共に心臓の鼓動を止める。
そして同時に別件で近くに配備させていた治安維持部隊を急行させる。実験体の死体も欲しいし、公式に魔族が居た事を記録しなければ後々の策にも影響が出るからだ。
ついでに裏切られる心配の無いマスコミに今回の件に関する情報を送った。民意というのは、いつの時代も怖いもので油断すれば命を奪われかねない。
だから人民の情報操作を円滑にする為にもマスコミは大切だ。だから表向きには関係無いように見せ掛けつつ、大手マスコミ各社の上層部の手綱は握っている。
まぁ、今回は僕を追い詰めて貰うわけだけど。人界において僕が表向き居なくなっても、もう僕に反抗するような者は居ない。反抗する人間はいつの間にか消え、更迭され、命が掻き消える。そうでなくとも、ちゃんと弱みを握り、いつでも破滅させられる。人によって弱みが真実であるか偽、嵌められた物であるかは分からないけど。
そして僕は突入していく治安維持部隊をモニターで眺めながら、実験体の詳細なデータが記録された情報端末の入力キーを叩く。
実験体の死体から直接データを取れればもっと楽なんだけど。チートの精度も良くなるし。
膨大な記録データを参照しつつ、何か異常が無かったか、特にフォン=テルムと戦闘してからのデータを重点的に確認していく。
「肉体損耗値はえげつないなぁ。やっぱり肉体が人族じゃ無理があるか」
身体強化魔法を並列処理し、重ねて行使すると肉体は勿論駄目になる。他にも魂に存在する魔法の受け皿、器が多量の魔力に耐えきれていない。
「けど、別にこれは問題じゃない。こんなのは予想出来ていたんだから」
これは僕が想定していた通りの結果と言える。今回の実験体は極論、魔族の翼を繋げただけだ。魔族の翼は想定通りの働きだったし、魔法を行使すればそれ通りの損耗が……。
「あれ……もしかして魔法のプロセスの問題か? これ」
急いで脳波データや体内の魔力量、魔力波形等のデータを閲覧する。実験体は戦闘を行っていくにつれ脳波は衰弱を、体内魔力量は減少していった。しかしある一定の時間が経過した時から脳波が活性化した。体内の魔力量も翼からの供給が増え増加した。
そして魔力波形。魔力には人族、魔族、神族それぞれ個人差があるが魔力波形に僅かな違いがある。これが実験体の魔力波形は人族から魔族により近くなっていた。
「今回魔力の供給量を増やす為に翼を脳に接続して円滑に使用出来るようにしたけど、もしかして……。それに魔法の行使過程も脳に直接魔力を流し込んでるし、今回の翼は監査官殿の物」
今回、僕は翼を一から作るより本来の魔族が持つ翼の効力を試そうとした。だから新鮮だった死体から翼を拝借した。勿論、衛生面は気にはした。
「クローン故の無垢が残存思念、魔力に汚染されたと考えるのが妥当かな。データ的にも」
時折、魔力は感情によって増幅され予め決められた性能を超越すると言う。魔力という存在の底知れなさを知った気がした。
◇
それから一ヶ月。人界において皇の名は燃えに燃えていた。始まりは魔族の調査チームの功績を称える記事が出た事だった。
それらは皇慧の命令により出された物であったが、記事の中身は嘘三割、真実七割と言った所。
そして結果的に反社会的勢力やカルト宗教の壊滅へと繋がった。魔族調査チームは元々魔族の誘拐、取引を調査していた訳だがその中で他の犯罪に関する証拠等も集めてしまっていた。
故に壊滅という結果だ。集めた証拠だけで全ての組織を潰せるのかという疑念が魔族側に浮かばない訳では無かったが、調査チームはそれ所では無かった。
明らかな越権行為が問題となった。戦闘行為、許可されていない捜査、立ち入り禁止場所への侵入、違法スレスレの行為。
問題にならない訳が無かった。しかし通常なら人界と魔界の取引により、社会貢献という功績によって相殺される可能性があった。
だが今回は違う。人界における民意が原因だ。魔族がこんな功績を出したというのに治安維持部隊は何をやっていると言った声が続出した。罵声、抗議、暴動、様々な形で怒りが噴出した。これは今回だけでなく"血の儀式"事件から、もしくはそれ以前から積りに積もった声だった。
治安維持部隊の無能を追求する声はやがて政府に対する不満に変わった。そして狙ったかのように出されたとある一つ記事。それは……。
『皇家の悪行の数々』
そう題された記事がとある三流雑誌の見出しを飾った。中身はデタラメばかりではあったが、妙にリアリティがあった事により人民の間で急速に拡散された。
この件が決定的となり人界上層部は人界を統治する事に、暴動を治める事に多大な労力を割く事になった。
魔族の越権行為が原因となって発生した今回の一連の流れ。これはもう揉み消す訳にもいかず、人界と魔界の問題にまで発展していた。
◇
最近周りがずっと騒がしくて研究所に籠っている皇慧です。なんでだろうね?
皇家不要論が一部の過激な人達によって唱えられ、人民が暴動を起こしたせいで何処かに身を隠さなくてはいけなかった。別に隠れなくてもいいんだけど、とある建前の為には必要だった。だから研究所に行った訳だけど。実験体の死体からデータを取って研究が進んだから、有意義な時間を過ごせて良かった。
研究所の中でも政治はしていたけどね。体制は磐石にしたから簡単な指示をするだけでいい楽なお仕事。
ついでに現体制に対して反抗している人のコントロールも行った。不要論を唱える人の中にはサクラもいるからね。サクラ自体には犯罪は行わせないように徹底させ、煽動だけをさせた。情報漏洩対策もしてるから問題は無い。
そして抗議運動が暴動に変わっていく際に魔族の調査チームは魔界に帰って行った。大変そうだね。多分酷い事にはならないと思うけど。
「皇様。官邸に届いていた手紙が郵送されて来ました」
「ん、二通? ありがとう。誰からだろう?」
手紙が届くなんて久方ぶりだ。予め中身を見てもらって問題無い物だけこっちに回すように言っていたから。
封筒の中に入っていた便箋を取り出す。そこに書かれていたのは……。
「あっ、姫からか!」
原作主人公であり僕の友達、白鷺姫からの手紙だった。便箋に書かれていたのは僕の安否を尋ねる内容。焦りか緊張か分からないが文字が震えている。文章からも分かるがかなり心配している様子。
「そっか。今、僕って毒殺されかけた事になっているんだった」
魔界に関する駄目押しとして、毒殺されかけた事にしていた。首謀者として壊滅した反社会的勢力の残存メンバーを仕立て上げはしたけど。
文章を読み進めると姫のこれからについても書かれていた。要約するとトリニティーー学園に行くらしい。
「もうそんな時期か。姫、ちゃんと全種族の王女を攻略するのかな?」
僕が人界の戦力を増やすからあんまり関係はないけど、もし姫が王女達を攻略していれば最悪な事態は避けられるかもしれない。ヴェル=セインを頼る案なのは業腹だけど。
でもこれは人界が他世界に負けた場合の話。保険はあっても問題無いだろう。負けるつもりも無いし。
僕としては師匠や家族を殺された事に対する怒りは残っている。だがそれは消滅しかけているといってもいい。だって怒りは持続する事はとても難しいから。
昔誓った時とは違い、今の僕は復讐の為に全世界を侵略するのでは無い。手段が目的へと変わり始めている。
世界に挑む、今ではそれこそが僕の行動原理となった。破滅願望とも違う一種の欲望。自覚はしつつも止まらない。止まらせてはいけない。
そんな確信が僕にはあった。
「まぁ、それはそれとして……。もう一通ってなんだ?」
見れば封すら切られていない。封筒に書かれていた送り元を確認する。
「は? トリア=セイン!?」
魔王妃からの手紙。急いで封を切り、中を確認する。そこには……。
「トリニティへの招待状……?」
姫が通う事になる学園、トリニティからの招待状だった。
この作品を閲覧した理由
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Tiny Dungeonの二次創作だから
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タイトルとあらすじから
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転生タグとオリ主タグから
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アンチヘイトタグから
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他理由から