最後は幼馴染に負ける悪の話   作:チキンの山椒漬け

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第7話

 学園"トリニティ"。多大なる犠牲を出した滅界戦争が終結した際に魔族、神族、竜族、人族が協力して作られた教育機関だ。

 

 目的は至って簡単。滅界戦争を終結させた勇者のような人材を自ら育てるといったもの。その為に態々四界ではない平行世界を作り出し運営されている。

 

 因みに四界が力を合わせたのにトリニティ、つまりはトリオという言葉が使われている。理由はお察しだが……。

 

 それにトリニティの生徒は差別意識が強い者が多く、こんな奴らが勇者という希望になり得るかは微妙という事を前世の知識が教えてくれる。こんな差別意識が蔓延る学園でただ二人、いや三人だけの人族の片割れが僕の友達でもある原作主人公ーー白鷺姫だ。

 

 そんな教育機関からの招待状が来た。思わずこんな物は見なかった事にして破って捨てたい所だけど、断るにしても受けるにしてもちゃんと書面で返さないといけない。

 

 そして招待状に付随していた手紙を読み進めていくと、納得が出来ない事も無くもないような内容だった。

 

 曰く、今回の件を魔界は重く受け止めている。人界における暴動や批判を抑える為に魔界は尽力する事を約束する。そして皇家に対する暗殺未遂は到底許されない行為である。故に皇家の安全を確保する為、一旦別世界ーー学園"トリニティ"に行く事を提案していた。

 

 一見こちらを慮っているような提案ではある。しかし全くそんな事は無く、むしろこちらとしては有害だ。

 

 魔族が人界に対して尽力する?

 それは魔界の介入を許し政治に口出しされる可能性があるということ。それに調査チーム以上に人界を勝手に嗅ぎまわられては困ってしまう。

 

 別世界に僕が行く?

 一応最高権力者である僕が人界から居なくなれば、普通なら良からぬ事を考える奴が出てきてもおかしくない。それに僕の不在により人界における権力が低下する可能性は無くはない。

 

「どう考えてもアレのせいだよなぁ……」

 

 思い出すのは汚染された実験体がフォン=テルムに告げた言葉。具体性のある言葉では無かったけど、僕の事を警戒している筈だ。

 

 明らかに問題がある提案。これを飲ませるつもりは相手には無いのだろう。一旦、拒否させた後でこちらの譲歩を引き出そうとしているのが容易に分かる。

 

 だが全てを突っぱねるというのも問題だ。未だ人界の戦力は整えられていない。軍の再編成も気づかれないように行う事は難しい。それに物量、質共に兼ね備えたクローン兵士の生産も着手出来ていない。故に魔界とバランスを崩してしまう事は悪手だ。

 

 なればこそ僕はこの提案を受け入れよう。デメリットを看過してでも世界のバランスを重視しよう。勿論、人界入りする魔族はこちらで選別し全員に監視をつける。調査チームの例があるからこそ、魔族は拒否出来ない。

 

 そして僕が別世界の学園"トリニティ"に行く事。これは権力の低下がネックだ。普通であればというの但し書きがあるけどね。僕がチートと立場を最大限使い潰したおかげで人界は一枚岩と言ってもいい。

 

 僕に叛逆した者、人界の利益を損なう者が例外無く直面する悲惨な末路という恐怖。僕が齎す金や権力や技術革新を起こし続けるという利益。飴と鞭を用いる事により人界は誰が見ても完全に統一されていると言っても過言では無い。

 

 今回の暴動が起きた所で揺るぎはしない。そして僕が別世界に行ったとしても十年単位で時間が経過しない限り、権力は維持され続けると確信出来る。

 

「魔法技術はあんまり研究出来てないし、丁度良いとも言えるかな?」

 

 そしてメリットとしてトリニティに存在する書物を読む事が出来るといったもの。トリニティに集められた書物は四界の叡智が集結しているらしく、人界では読めない魔法に関する研究が深められる。

 

「それに……」

 

 僕がトリニティに行けば立ち回り次第で確実に得られるだろう知識がある。それはクローン兵士の質を向上させる上で必要なものだと僕は考えている。

 

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。早速、僕は魔界と交渉する為に便箋を手に取った。

 

 

 結果として交渉はこちらの勝利と言って良かった。こちらが被害者という事を前面に押し出し続けた結果だ。勿論、魔族誘拐について突っ込まれたが人族が魔族に誘拐された事件について書かれた記録を引っ張り出して対応した。

 

 魔界が派遣する人材も滅界戦争において活躍した者は弾けたし、厳格な監視下に置く事も許可された。そして監視されている魔族の失踪や問題行動が起きた場合、魔界にペナルティを科す契約となった。やっぱりどんな交渉でも被害者面する事は正義だと思った。

 

 そしてもう一つの提案、僕がトリニティに行く事が正式に決まった。こちらは譲歩を引き出す事は難しかったが、学園寮にて一人部屋になる事が特例として認められた。

 

 本来学園寮は二人で一つの部屋を使用する。最初は寮の部屋不足を理由に渋っていたが、フォンやフォンが率いた調査チームに対して責任を追求しない事を約束したら簡単に許可が取れた。

 

 寮に関しては半分出来たら良いな程度の考えだったけど。僕が学園世界で様々な研究をする上で一人になれる場所は必須だったから。例え技術体系が違く、相手が科学に関して知識が何も無いとしても出来るだけの策は取っておきたかった。

 

「初めての一人暮らしという奴か。少しだけ楽しみだな」

 

 ワクワクする気持ちが無い訳では無い。研究所に篭ったままずっと研究するのも良いけれど、環境が変わるというのは刺激になって良いかもしれない。

 

「え? 慧って何処かに引っ越すのか?」

 

 僕の隣に座りながら魔法に関する書物を読んでいた姫が独り言に反応して聞き返してくる。

 

「あれ、知らなかったっけ?」

 

 僕は惚けながら姫に笑いかける。姫は首を捻るが、結局何も思いつかなかったようで解答を急かしてくる。

 

「僕も行くんだよ」

 

「何処に?」

 

 未だ察しがつかない姫の鈍感さに面白さを感じない訳では無いが、流石に答えを告げる。

 

「トリニティにだよ!」

 

「え? ……えぇっ!?」

 

 姫は完全に予想していなかったようで目を見開き驚愕する。幼い頃から共に遊んできた友人、親友とも言えなくも無い。とは言え、僕は皇の者。トリニティまで一緒に行くとは考えていなかったようだ。

 

「だ、大丈夫なのか? その……政治とか」

 

「ああ! 大丈夫、大丈夫。僕に敵対的な勢力は全部叩き潰して来たから問題は無いよ」

 

 僕はニッコリと姫に笑いかける。人の心が分からないような感じで微笑むのを意識しながら。

 

「……それが一番の問題じゃ無いか?」

 

「何か言った? 姫」

 

「いや、何でも無いぞ。うん。マジで何でもない」

 

 敢えて聞こえないフリをする。また僕何かやっちゃいました?

 まぁ、そんな冗談はさておき。

 

「それよりさ、姫」

 

「ん?」

 

「これからもよろしくね」

 

「あぁ! こちらこそ頼む。よろしくな、慧!」

 

この作品を閲覧した理由

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