最後は幼馴染に負ける悪の話 作:チキンの山椒漬け
突然だが儀式兵器という物をご存知だろうか?
儀式兵器とは人族が他種族に対抗する為に作り上げられた武装。魔力を持たない人族が魔力を扱う為に魂の一部を具現化し武装とした物。
儀式兵器は変幻自在。儀式において術者のイメージした武装をそのまま出力し形とする。
例えば刀。イメージした刀、そのものが作り出され相手を切り刻む事が出来る。
例えば翼。魔族の翼をイメージした儀式兵器。それは翼を失った魔族にもう一度翼を与え、器官として役割を果たし続けている。
一度だけ使用者の成長と共に進化するが、それは本題では無いしどうでもいい。
本題は儀式兵器における変幻自在という部分だ。イメージした通りになる儀式兵器。一度固定すれば変化する事は例外を除き存在しない。
だが僕はイメージ通りの形状へと変化し、イメージした通りの性能を発揮する武装そのものを欲しいと思った。
だから実験した。研究した。作成した。チートを存分に使い、儀式兵器について更なる研究を重ねた。儀式兵器に改良を加えた。
しかし現実はそう上手くはいかない。僕は誰もがイメージした通りの武装を戦況に応じて使い分ける姿を想定し、理想としていた。簡単なイメージで最高の性能を。
そんな理想とは裏腹に改良型儀式兵器は厳格なイメージが必要とされた。イメージというよりは設計図だ。頭の中に設計図を寸分の狂いも無く思い浮かべなければ、改良型儀式兵器は性能を十全に発揮することが出来なかった。
魔族の監査官を殺した僕の鎧、形態"剛鬼"も改良型儀式兵器だ。元は量産体制が整っていない部品や希少素材をふんだんに使った強化外骨格。普通に実用化は無理そうだった……。魔力消費量的にも。儀式兵器でなければ維持出来ないぐらいに。
"剛鬼"の外見は特徴的でイメージしやすい。けど"剛鬼"は研究し尽くした僕でなければ部品の一つ一つの性能を明確にイメージする事が出来ない。設計図を正確にイメージ出来ないまま作らせた"剛鬼"は被験者の体をズタズタに引き裂いた。だから軍人に教育を施すのもアリだけど、そんな事をするなら別の手段の方が現実的だ。イメージを少しでもミスれば自爆する兵器なんて使い物にならない。
他にもこれから作るクローン兵士に教育を予めインプットさせておけば問題ないかとも考えた。しかしクローンは思考を行うことはできても意識が脆弱だ。意志の力が多少なりとも絡んでくる儀式兵器を扱うには課題が残っている。
結果として僕の改良型儀式兵器は僕しか使えない。実質産廃と言える。けど僕個人の戦力としては申し分無い。戦闘力という点でもトリニティでは充分に戦えるレベルだとは思う。
だから平気なはず……。
湧き上がるトリニティという未知の環境への恐怖を理論で抑えつける。大丈夫、僕は世界に喧嘩を売るんだから。これぐらいで凹んでたら笑えない。ぼくは絶対に大丈夫……。
◇
招待状が来てから一ヶ月後、僕と姫はトリニティに通う為に並行世界へと転移した。転移する前には皇と言えど、しっかりと検査や記録が行われて時間がとられた。全種族で共同管理しているから忖度が無いのだろうけど。
人族に存在する転移装置は一つしか存在せず、誰が装置を使用したかは厳格に記録される。何故なら他世界へと侵攻できる唯一の道といっても過言では無いからだ。
滅界戦争時代では転移装置は無尽蔵に作られ、どの世界にも好きなだけ軍を送り付けられたらしい。しかし戦争が集結してからは転移装置について協定を結ばれ保有できる台数、そして稼働させる台数について制限がついた。
稼働するのは一台のみ。それも転移する先はトリニティのみ。それが各世界から人族に与えられた制約。他の世界も大差がある訳では無い。
故に戦争を仕掛けるならトリニティを制圧する事が一番手っ取り早い手段だ。他世界全てに繋がる転移装置を保有しているが故に。
転移装置は門の形をしていて人が何人も同時に渡れるぐらいには大型だ。軍に関しても問題なく派遣出来そうに見える。
「何見てるんだ? 慧」
「んー? 何でもないよ。それより早く手続きしに行こうよ」
姫が訝しげにこっちを見てくるけど、サクッと話を変える。トリニティに来る前に貰った地図で役所を探す。手続きは早めに行わなきゃあとが面倒なのは事実だし。
「そうするか。でもやっぱり楽しみだな、トリニティは。……人族はいないけど」
姫が言葉と共に周りに目をやる。釣られて僕を街の様子を見れば敵意、嘲り、疑心の嵐。異物を拒絶する他種族の思いがあった。人族は区別されるけど、これは差別だね。結局は人族に全責任を押っ被せただけなのに。
ちょっとだけイラッとする。心の中にある火に油が注ぎ込まれた感じ。燃え尽きそうだった復讐心が再燃出来そう。
「まぁしょうがないよ、姫。負けは負け。次から頑張れば良いんだよ?」
そう。次は勝てばいい。勝てば官軍。歴史がそれを証明している。
「お、おい! 冗談でも見過ごせ無いぞ、それは!?」
姫が驚愕と共に目を見張る。そうか、姫は勇者になりたいんだっけ。昔から変わらずに今でも。
一度思い出そうとすれば原作知識が教えてくれる。姫が勇者の本質に気づき、勇者足り得る実績を積む姿を。
さしずめ僕は世界の平和を揺るがす悪の親玉かな。別に早めに姫を殺すつもりはない。……友達だからね。
「分かってるよ。流石に軽率だった。けどこんなに敵意が剥き出しだと文句の一つや二つ、言いたくなるよ」
「それは……まぁ……」
流石に否定し切れない様子。いかに未来の勇者と言えど冷たい視線はキツいみたいだ。
ちょっと微妙な空気になりつつ役所への道を進む。異物を見るような視線は途切れる事は無かったが、歩いていく内に慣れていった。
因みに街並みは綺麗で見ているだけでそこそこ楽しめた。それが救いだ。
◇
役所に届ける申請や誓約書の類いも出し終わり、トリニティへの立ち入り許可証を貰った。他にも注意事項が書かれたパンフレットや住む事になる寮の場所、部屋割り当りを教えて貰った。
寮の部屋は一部屋に二人が住む事になるが、僕のルームメイトはいない筈だ。
姫はまだ帰ってきていないから確定ではないけど。原作であれば人族は二人しかおらず、その二人で寮の部屋を割り当てられていた。けどその相手というのはヒロインの一人、つまるところ、女性だ。名前は白川紅。その二人で女子寮にぶち込まれるという倫理観を無視した行為が行われていた。
けど僕がいる事で姫が原作と違う状態になるのは避けたいな、とも思っていたりする。白川さんには申し訳ないけど、この世界唯一の友達と言って差し支えない姫の嫁探し、もとい原作は今の時点においてまだ使い道はある。だからこそ一人部屋だ。姫には恨まれるかもしれんが。
ガハハッ。勝ったな、風呂入ってくる。
と、しょうもない前世のネタを思い出していると青い顔をした姫が役所から出てきた。
「あ、あれ? どうしたの、姫。青い顔して」
なんか面白……ハプニングな予感。姫は僕の顔を認識するや否や、堰を切ったように喋り始めた。
「聞いてくれよ! 慧! 俺、女子寮に住めとか言われたんだけど!?」
「言ってる事やばいじゃん」
クソワロタ。これで原作通り、ヒロイン達を攻略してってね。頑張れ、姫。
僕にとってもそれが1番都合がいいからね。
この作品を閲覧した理由
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Tiny Dungeonの二次創作だから
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タイトルとあらすじから
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転生タグとオリ主タグから
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アンチヘイトタグから
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他理由から