最後は幼馴染に負ける悪の話   作:チキンの山椒漬け

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第9話

 姫が顔を青ざめながら女子寮に向かう姿を見ながら、僕は僕でこれからこのトリニティでどんな風に動いた方が良いか、頭を巡らせていた。

 

 トリニティという学園の目的は勇者という存在を育てるという事。事前に災厄に対するカウンターを用意しておけば酷い事にはならないよね、というもの。

 

 だがトリニティに通う学生は勇者には到底なれないというのが僕の考えだ。元々仲の悪かった種族が同じ学園に通っているのだ。険悪にならない筈が無い。原作でも情報に踊らされた結果、互いを憎み争うような事態になった。

 

 そして種族蔑視が強い者も力があれば問題が無く学園に通えてしまう。せめて人格、思想による審査ぐらいはした方が良かったのではと思うぐらいだ。

 

 そうは思っても何時までも立ち止まっている訳にはいかない。案内された道順の通りに男子寮へと向かった。

 

 静かな一本道。青々と葉が茂る木々と合わさって絵にでもなりそうな光景だ。話によれば入学式に近づくにつれ、人の数も増えるのだとか。それに今は真昼間。上級生の方々は学園で勇者になる訓練を受けているのではなかろうか。

 

 男子寮に到着し管理人室へ向かった。管理人である神族の男性に諸注意を受けると共に、部屋の番号が書かれた鍵を貰った。ルームメイトと合わせて二本のみ。大事にしろという事らしい。

 

 僕は割り当てられた部屋に入ると、そこにあったのは備え付けの机とベッドが二つずつ。部屋の中を歩いて内装を確認しても使い勝手に問題は無さそう。

 

「今日はどうしようかなぁ?」

 

 持参していたトランクを開け、触媒と術式を用いて魔法を展開する。魔力を極力抑えて、誰にも察知されないように。

 

「姫は女子寮とか訳の分からない事言ってたし……」

 

 一応、人界で考えられる中では最高の性能を誇る魔法。予め構築しておいた術式に魔力を通す事によって一度だけ行使できる魔法だ。

 

「それにしても腹が減った……昼食って何時からだっけ?」

 

 部屋の全て、取り付けられた器具から装飾品に至るまで反応を調べる。少しでも異常があれば魔法に反応があるはずだけど……。

 

「反応無しか。……これは良かったと捉えるべきかな」

 

 正直何も無いのが不気味だと思うが、自意識過剰という可能性も無くはない。それにこの魔法で異常が観測出来ない程の魔法を使っているのであればもうお手上げだ。

 

 トランクの中からもう一つ、とあるモノを取り出す。傍から見ればちょっと小さめのアタッシュケースに見えるだろう。けどこれは改良型儀式兵器の形態の一つだ。

 

 普段から強化外骨格では持ち運びに不便というのもあるが、これはこれでとある機能を保持している。それはーー。

 

『アクティブ。ラーニングモードは解除されました』

 

 魔力光により状態の遷移を知らせるランプが無機質に光る。これは僕が作った人工知能の先駆けと言っていい。これはチートによって年月を踏み倒して出来た奇跡の産物だ。

 

 名をアテナ。前世に存在した戦いを司る神の名だ。戦闘術、指揮、兵站に関する知識を重点的にラーニングさせている。しかし戦闘だけが全てという訳ではなく全ての事柄を多角的に学ばせ、知性を獲得するかといった実験でもある。知性を獲得出来なくても問題は無いが。

 

「データチップ読み込みの後に、ラーニングへ移行しろ」

 

『イエス。ダウンロード開始。完了後、ラーニングモードへと移行します』

 

 丁度教材を学び終えたみたいなので次の教材を学んでもらう。アテナは命令を第一原則とさせてはいるが、とにかく学ぶという事を基本としている。アタッシュケースに取り付けられている様々なデータ収集機器によって人の声、動き、感情、日々の営みなんかも学んでくれたりする。転移装置を使うときは検閲が面倒なのでトランクに入れてはいたけどね。

 

「頑張ってね、アテナ。この学園で沢山の事を学んで欲しいな。僕の目的の為にもね」

 

 アテナは今の所、学園では"剛鬼"等の他の形態でも戦闘補助として使う予定だ。相手の動きや魔力の起こりを感知して行動の予測をしたり、赤外線や熱による敵の視認といった面で活躍させるのが目標ではある。戦闘に関して人を超越した能力を有する人を模倣した存在。そこら辺が最終目標になるかもしれない。

 

「さてと。アテナも学んでいる事だし、僕も図書室にでも行こうかな」

 

 トリニティに存在する図書室は四世界の叡智が集っているとよく言われる。本来では人族がどんなに訪れようと行動しても難しい。だが学生であれば話は変わる。ある程度見れる範囲には制限がつくらしいが、学生は簡単に閲覧出来る。

 

 古代魔法や戦闘術、滅界戦争の記録など様々。噂によれば禁呪まであるとかないとか。それだけの智識が有れば、魔法についても理解が進む。研究が、作成が、実用化が出来る。いくらチートで科学技術の革新に重点を置いても、やはり魔法は魅力的だ。

 

 姫はどうせ女子寮でワタワタしているだろうし。もしかしたらヒロインである白川紅と出会ってるかもしれない。

 

 僕は姫が上手くいく事を願いながらアタッシュケースと地図を持ち、トリニティの図書室へと向かった。

 

 

 ここに来てから一ヶ月。いよいよ入学式が始まる日だ。あの日慧と一緒に来た日から結構な時間が経っている。女子寮に男子、しかも人族が居るという事実はどうやら寮の人達に受け入れられるものじゃなく、視線は辛い。

 

 慧がとても羨ましい。いや、男子寮も偏見と差別で大変なのかもしれないが。そこら辺は聞けていない。それにあの日以来、慧とはあんまり会えていない。いや正確には会ってはいるんだけど。……図書室で。慧はいつも図書室に入り浸っている。司書の人曰く朝から晩までいるのだとか。

 

 俺から見た慧はどこか焦るように、何かを探しているように見える。悩みがあるのかもしれないと思い、慧に聞いても見たが決まって笑い、問題は無いと言う。

 

 昔、俺の悩みに対して慧が相談に乗ってくれたように、俺も慧の悩みを話して欲しいんだけどな……。やっぱり悩むのは凄く疲れるからな。

 

 それに本だけじゃなく人界に居た時のように俺と一緒に戦闘訓練をして欲しいという気持ちもある。これは我儘だと分かってはいるが、慧との戦闘訓練は勉強になる事が多いからどうしても考えてしまう。

 

 慧に紹介して貰った道場での経験は俺の糧になっている。魔法を使えないとしても、いや、だからこそ体系的な技術は必須だと学んだ。

 

 遠距離から魔法を撃ってくる相手にどうにか近づいても制圧出来なかったら意味ないしなぁ……。

 

 あの時は本当に大変だった。訓練なのに慧がーー。

 

「おーい、姫。聞こえているか? さっきからボーッとしているようだが」

 

 何処からか掛けられる女性の声。誰かはすぐに分かった。だって女子寮で疎まれている俺に話しかける人なんて一人しか居ない。

 

「んぁ? ああ、ごめん。少し考え事をしていた」

 

 俺は声がする方向に振り返った。

 

「まったく。今日は入学式なんだ。もうすぐ出掛けないと間に合わないぞ?」

 

 長い黒髪が特徴的。顔は端正で、少しぐらい顔が不満げに歪められていてもその美しさを損なう事は無かった。

 

「確かに。なら、急いで行くとするか」

 

「そうするべきだな。もっとも案内を頼む事になるが……」

 

 紅は申し訳なさそうに言う。単純に道を知らないのは紅が三日前に来たのが理由だし、別に平気なんだけどな。俺も行くわけだし。

 

「よしっ! 行くか!」

 

 再度持ち物を確認してから紅と一緒に部屋を出る為、ドアノブを握る。その時だった。

 

「あっ! そう言えば、姫」

 

 突然何かを思い出しかのように声を上げる紅。どうしたんだろうか?

 

「今度というか入学式の後、私にもう一人の人族を紹介してくれ。……多分学園では三人で頑張らなくちゃいけない事もあるだろし」

 

「あぁ。慧の事か。言われなくても後で紹介するよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「あいつ、結構……いや、なんでもない」

 

「?」

 

 紅は疑問符を浮かべている。当たり前だ。俺が言いたかったのは慧との仲が良くなれなかった時の話。慧って見た目に反して結構腹黒いというか何と言うか……。まぁ、きっと大丈夫だろう!

 

 俺はどこかに存在するかもしれない神に祈りながらドアノブを回した。

この作品を閲覧した理由

  • Tiny Dungeonの二次創作だから
  • タイトルとあらすじから
  • 転生タグとオリ主タグから
  • アンチヘイトタグから
  • 他理由から
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