異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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帰省

 

 

 

 

 

 

 時は年末。

 有マ記念と、後クリスマスをなんとか乗り越えた俺たちに待っていたのは大掃除と、あと恒例のアレ。

 

 

 

 

「――――スズカ、忘れ物は無いか?」

「はい。大丈夫だと思います」

 

 

 

 

 クリスマスプレゼントとして渡したコートを羽織り、荷物を入れたキャリーケースを引くのはなんとなく距離感がある気がしなくもないスズカ。

 いつもなら腕とかに抱き着いてくるのに……いや、物足りないとかではない。それでもなんとなく袖は掴まれているが。

 

 

 

「よし、じゃあ行くか」

「はい」

 

 

 

 車に乗り込み、向かうのは俺の実家――――去年は帰れなかったが、今年は捻挫の静養も兼ねての帰省(というには近所だが)である。決して『帰ってこなかったらお前の秘密をワキちゃんのスマホに送り付けるからな☆』という親からの脅迫に屈したわけではない。ちなみにご近所なのでウチもスズカの家もどちらも寄る予定。

 車で行けばそう遠くもないというか、トレセン学園近くの商店街に通ってたくらいには近所だったりする。

 

 

 

 

「帰るのも久しぶりだなー」

「そうですね」

 

 

 

 と、なんとなくスズカがぼんやりしていることに気づく。

 

 

 

「スズカ、眠かったら寝とけよ。すぐ着くけど」

「………はい。その、お兄さん」

 

 

 

 珍しく歯切れ悪いスズカに、ちょうど赤信号だったので目を向け――――。

 スズカはちょっと恥ずかしそうに耳を下げて、顔を少し伏せながら言った。

 

 

 

「……その、寝顔……見ないでくださいね?」

「………見ないよ?」

 

 

 

「……約束ですからね?」

 

 

 

 なんでそんな年頃の乙女みたいな……年頃の乙女だった。

 スズカの恥ずかしいポイントは謎だが、嫌がるならしない。何故かちょっとドキドキしてしまったのは不覚だが。

 

 運転に集中していれば問題は無いだろう。

 そんなわけで、スズカは脱いだジャケットを大事そうに自分に掛け。なんとなく目線が合ったので、小突かれた。

 

 

 

 

「……お兄さんの意地悪」

「ごめんって」

 

 

 

 

 ダメって言われると気になるのは人間の心理……真理かもしれない。

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 今度こそ運転に集中し―――――。

 だいたい10分程度。短いドライブだが、疲れてたのかスズカはぐっすり寝ていた。夜眠れなかったのだろうか……いつもは二人で寝てるとぐっすり寝てるんだけどな。

 

 

 

「スズカー?」

「………すぅ」

 

 

 

 返事が無い。じゃあ起こさねばならないので仕方ない、というわけで助手席を見ると。スズカはコートを大事そうに抱えてちょっとだらしない顔をしていた。

 さて、どう起こしたものか。

 

 なんとなく湧いてきた悪戯心の命じるまま、スズカの耳元付近を撫でつけてやる。と、更に顔が幸せそうに緩む。

 

 

 

「………んゅ………おにーさん、もっと……」

「……起きろー」

 

 

 

 起きないので、仕方なく耳をカリカリと引っ搔いてやると、気持ちよさそうに表情が惚けていくがやはり起きる気配はない。

 

 

 

「スズカー?」

 

 

 

 と、不意にスズカの腕が広げられ。

 むぎゅっと抱きしめられ、引き込まれた先で頬にキスを受けた。顔を逸らさなかったら直撃していたので、ちょっと残念なような安堵したような。

 

 

 

「えへぇ、チュー……」

「スズカぁ!?」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 ぱちり、とスズカの目がはっきり開く。

 至近距離―――というかゼロ距離で目が合い、後ずさろうとして座席とシートベルトに阻まれたスズカはあわあわしながら言った。

 

 

 

 

「お、おおおお兄さんっ!? どうして…!? ウソでしょ!?」

「いや、起こそうとしたら急に抱き着かれたから……」

 

 

 

 その前に悪戯が原因のような気はするが、ちょっと本気で怒られそうなので黙っておく。

 みるみるうちに顔が真っ赤になるスズカだが、混乱してがっちりと抱き着かれたままなので離れようが無かったり。

 

 

 

「スズカ、とりあえず腕を離すんだ……」

「……あ、あれ、わたし今――!?」

 

 

 

 

 と、そこで車のガラス越しにめっちゃいい笑顔でこちらを見ている俺の母親と、スズカ母を見た。

 

 

 

「――――やっと来たわね!」

「孫の顔が楽しみになってきたわー」

 

 

 

 

 くっ、弱みを握られた…!?

 いや、前からメッセージアプリで抱き合ってる菊花賞の時の写真とか送られてきた時点で大分アレだったが。

 

 

 

「……ぁぅぁぅ」

「スズカー!? 腕、腕離せ!」

 

 

 

 

 体勢的にスズカにべったり密着しているので、こちらから脱出するには手をシートに突くしかない。仕方ないのでスズカの顔の近くに手をついて。ほぼ壁ドン。

 

 なんかもう目を瞑って何かを待つようなスズカの額を軽く小突いた。

 

 

 

 

 

「寝ぼけてないで起きろ。荷物下ろすぞ」

「………えっ? お兄さん、どこまで夢ですか……?」

 

 

 

「全部夢だよ」

「お兄さんが……してくれたのも?」

 

 

 

 ボソッと呟かれたせいで完全に如何わしい感じになってる!?

 何をしたんだ夢の中の俺!?

 

 

 

「何を!?」

「………」

 

 

 

 スズカは恥ずかしそうにコートを被ってしまったので答えてくれそうにもない。

 可愛いけど、今はそれちょっと困るんだが。

 

 

 

 

「黙らないで!? ほら外で誤解してる悪い大人がいるからな!」

 

 

 

 

 で、スズカのお母さんもウマ娘なので車の中の音くらいは普通に聞こえる。

 外で「お赤飯炊かなくちゃ」「お祝いね!」などと盛り上がっているのにげんなりしつつも、スズカを引き離してシートベルトを外し、抱き上げる。

 

 

 

「ほら、捻挫あるんだし降ろすぞ」

「………はい」

 

 

 

 

 なんとなくしおらしいスズカは普段よりも更に小さく感じる―――が、去年よりは成長してるなぁ、となんとなく身長も伸びて、妙な色気のあるスズカを努めて意識せずに車から降りる。

 

 

 

 

「おかえりなさい。子どもの予定があったら教えてね?」

「あるか! 無敗の五冠ウマ娘をなんだと思ってるんだ」

 

 

 

 はっきり言って既に日本のトゥインクルシリーズの至宝である。

 そんなことでレースに出られなくなったら大バッシング間違いなし。

 

 

 

「えー、だってなんか空気が甘酸っぱいしー。ねー?」

「ねー?」

 

 

 指で卑猥なサインを送ってくるスズカ母をワキちゃんに見せないようにしつつ、無視して家に上がる。

 

 

 

 

「で、昼どこで食べるんだ?」

「そうねー、一応ご馳走は用意してあるわ。……お赤飯ないけど」

 

 

 

 無敗の五冠のお祝いだよな。そうだと言ってくれ…。

 むやみやたらと元気な母だが―――俺が子どもらしくなく、手が掛からなかったので無邪気さと寂しがり屋に全振りしたワキちゃんに余計に惚れ込んだと思われるので、若干止めにくい。

 

 ワキちゃん母は入院のこともあって手が掛からないし娘の面倒をみてくれる俺を有難がってたので、結局ないものねだりなのかもしれないが。

 

 

 

 

「早くお嫁に来て頂戴ね、ワキちゃん。この子ったら昔からレースとワキちゃんしか頭にないから、見捨てられたら結婚できなさそうだし」

「余計なお世話過ぎる」

 

 

 

 だって可愛い幼馴染がサイレンススズカ並みの才能があると思ったら育てたくなるじゃん。実質光源氏計画とか言ってはいけない。レース的な意味では合ってる。

 天才ジョッキーが夢見た理想の走り。……まあ、その走りが結果的に本人の希望と合致していたからこそではあるが、それを実現するためにワキちゃんを利用した。ので、なんでもサポートする覚悟はある。あるが、それと自分の欲望は別にすべき。

 

 

 

 

「……お兄さん、好きな女の人とか……」

 

 

 

 そう言ってチラチラ見てくるワキちゃんだが、普段と違って抱き着いてもこないし頬擦りもしてこない。やっぱり調子が狂う――――と思ってると、母親が余計なことまで話し出す。

 

 

 

「いないいない。部屋にあったお宝本も栗毛の美人さんだったわよー」

「何してくれてんだー!?」

 

 

 

 なんで!? ちゃんと机の引き出しの中にうまいこと隠しておいた秘蔵本をなんで暴いてくれちゃってるの!? もっとこう目につくところに置いてあるのもあったじゃん!?

 

 

 

「あっ、来なかったら画像送ってたわ」

「何考えてんの?!」

 

 

「???」

 

 

 

 全然わかってなさそうなワキちゃんに心底安堵するが、この母が一番の鬼門な気がする。どうしてもワキちゃんを娘にしたいと思ってるらしい。もう実質娘みたいなものだろうになんて贅沢な。

 が、ワキちゃん母もばっちりコーディネートしているワキちゃん(ちょっと本気で可愛い)を上下に見ながら言った。

 

 

 

「どうしてウチの子とうまぴょいしないのかしら…」

「こんなに可愛いのに……何が不満なの?」

 

 

「お前らそれでも親か!?」

 

 

 

 

 とんでもないことを推奨するんじゃない!

 というかもっと情操教育とかしっかりしてほしかった! いやまあ病院の入退院を繰り返してたから機会が無かったのは知ってるけど。

 まさかそれでやたらとお風呂入れるのとか寝かしつけるのとか頼まれてた!?

 

 

 

「「だって将来性あるし、性格も相性もばっちりだし」」

 

 

 

 確かにワキちゃんのお陰でリギルに拾ってもらったのでスズカ、グラス、テイオーの怪我さえなければ最強クラスの三人が揃ってるし特別ボーナスで懐も潤ってるけど。ワキちゃんに至っては無敗の五冠でCM依頼とかもバシバシ来ているのでもう一生食っていけると思う。

 

 直近ではオーダーメイドの蹄鉄を作ってもらってた会社とか、シューズの会社とか、何故かいちご大福の会社とか、どこから漏れたのか寝具のCMまである。あとはよく買ってる水のペットボトルのCMか。ブライダル雑誌の依頼はトレーナーの一存で蹴らせてもらった。これが権力の力だ…!

 

 

 

 

「――――義息子よ。私の娘を好きに教育していいわよ?」

「このタイミングで言われるとなんかすごく嫌だ……」

 

 

 

 というかその理論で行くと、原作にない部分――――寂しがり屋で匂い大好きで抱き着いて頬擦りしてきて布団奪って枕スーハーして温泉に全裸突撃してきて抱き着いてチューしてくるのは全部俺の責任ということに―――――俺の責任だわ…。

 

 おかしい。スズカさんはもっとこう……先頭民族でフクキタルに辛辣で何考えてるのか理解不能なだけでクールな美少女っぽく見える先頭民族だったはず……。

 

 

 

 

 

「というかここまで育てたのにぽっと出の男に搔っ攫われていいのかしら?」

「ワキちゃん可愛いし男は放っておかないわよねー?」

 

 

 

 嫌だけど。

 それは死ぬほど嫌だけども、ワキちゃんがちゃんと世間を知って、後悔しないくらいに成長してからでないとフェアじゃないと思うのである。

 

 

 

「……とりあえずご飯食べよう。腹減ったよ」

「あ、お兄さんよそいますね」

 

 

 

 

 どうやらご馳走は本当のようで。……カロリー制限もまあ、今日くらいはいいだろう。チキン、ハンバーグ、オムライス、いちご大福など。とりあえず好きな物並べといたぞ! とばかりの面々だが実際好きである。

 なんとなくいつもの席に着くと、いつも通りすぐ隣の席にワキちゃんが食器を用意し。せっせとお米をよそってくれる。

 

 

 

「サンキュー。箸出すな」

「はい。お願いします」

 

 

 

「「夫婦……?」」

 

 

 

 

 そこうるさい。

 あんたらが食事にしないからせっかくのご馳走が冷めちゃうだろうに。

 

 

 

「ワキちゃん、俺たちの分だけよそえばいいぞ」

「はい」

 

 

「「えー、酷い」」

 

 

 

 しかし素直なワキちゃんはちゃんと二人分だけよそってくれる。かわいい。容赦なく二人で手を合わせて食べ始めるところ(このへんはフクキタル相手と同じ無慈悲さを感じる)で慌てて親二人も参戦してくる。

 

 

 

「よし、食い尽くすぞ。あとで運動すれば実質ゼロカロリー!」

「はい!」

 

 

「いちご大福あるわよ」

「アイスもあるわよ」

 

 

 

「いちご大福!」

「アイス!? 何アイス!?」

 

 

 

 即座に冷凍庫を開けると、何故か鎮座している業務用のチョコレートアイス。馬鹿な……某有名アイス店のヤツでは…?

 

 

 

「あと三冠のお祝いにケーキもあるわよー」

「お高い店で頼んじゃった」

 

 

 

 なんとなくワキちゃんと目を見合わせ、頷き合った。

 

 

 

「ゆっくり食べよう」

「はい」

 

 

 

 決してチョロいわけではない。

 ただご馳走を粗末にしないのが大事なんだよ、うん。

 

 そんなこんなでメインのご馳走をあらかた食べ終え――――とりあえず消費期限の短いケーキから食べることになったのだが。

 

 

 

 

「じゃーん」

 

 

 

 豪華なケーキではある。

 好みに合わせてチョコレートケーキであり、わざわざ二段になってるし飾り付けのフルーツもかなり種類があって美味しそうに見える。のだが。

 

 何故かど真ん中に『お兄さん♡ワキちゃん』と書かれたプレートが。

 いや何それ。小学校の黒板か何かかな。これを頼まれた時、店員さんは親同士が悪乗りして小さい子どもをくっつけようとしてるのを想像したかもしれない。が、立派な社会人(中央トレーナー2年目)と学生(無敗の五冠)なんだよ…。

 

 

 

 

「はい、ケーキ入刀お願いします」

 

 

 

 スッと渡されたのは何故か長い包丁。柳刃包丁…?いや正式名称知らないが。

 

 

 

「あ、プレートは割っちゃダメよ。はい、ワキちゃんこっち咥えて」

「…? ふぁい」

 

 

 

 プレートのお兄さん部分を咥えさせられたワキちゃんはなんとなく頬を赤らめて満足気。そのまま全部食べてくれて一向に構わないのだが。

 スズカ母が何やら不穏な笑みで俺の背中を押した。

 

 

 

「はい、娘のあられもない姿を見た責任をとってお兄さんこっち咥えて」

「嫌ですが!?」

 

 

 

 

 というかいつのこと!?

 残念ながら心当たりはありすぎて反論できないが。マジで鬼門だなこの家! ボソッと『ヤる気ないなら全力で娘を煽るしかないわね』とか聞こえてくるんだけど。何この人こわい。

 

 実際のところ、ワキちゃんに捨て身で攻められて耐えられる自信なんてものはないわけで。

 

 仕方ないので従うしかない。急に接近したことで真っ赤な顔でオロオロするワキちゃんには悪いが、サッと咥えて嚙み砕く。顔が近いし無駄に顔がいい。ついでにいい匂いもする。

 まあスズカそっくりな砂糖菓子に比べればプレートの文字くらいなんてことはない。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 なんかあからさまに愕然としているワキちゃんだが、親の前でポッキーゲームとか罰ゲームにしても悪質すぎる。

 

 

 

「チッ、意気地なしめ」

「甲斐性なしー」

 

 

 

「まじで何なんだこの家は……」

「チュウが……」

 

 

 

 帰ってこなければよかったか…。というか酒でも飲んでるのか?

 なんか名残惜しそうなワキちゃんに吸われているプレートを見て微妙な気分になりつつ、いちご大福を手に取る。

 

 

 

「ほーら、いちご大福だぞー」

「………ちゅー」

 

 

 

 ネズミになってる…。

 まずい。なんかキスに執着し始めている。このままワキちゃんを更なる変態にするわけにはいかないので、軌道修正を試みなくては。

 

 

 

「ほーら、頭撫でちゃうぞー」

「…………むぅー」

 

 

 

 吸いつくされたプレートが噛み砕かれていく。

 なんとなく哀愁を感じる…。というか機嫌が直らないんですが。

 

 

 

「チューしなさいよー」

「責任とれー」

 

 

 

 あんたらが無責任すぎる…!

 くっ、こうなったら走りに行くしかない。

 

 

 

「ワキちゃん、思い出の公園に走る……のはダメだが、散歩に行かないか」

「……公園?」

 

 

 

「久しぶりに二人っきりで行きたいなー?」

「………はい!」

 

 

 

 よし乗った!

 景色関係で大抵の不機嫌は吹っ飛ぶあたり頭サイレンススズカである。

 

 そんなわけで夕方までひたすら散歩に付き合い―――ついでにいつものルートで商店街に寄ったらワキちゃんは小さい女の子にサインを求められ。そつなく応じる姿に成長を感じたのだった。

 

 

 

 

 で。家に帰ると二人で風呂に入れようとしてくる親の攻撃を振り切ってワキちゃんだけ脱衣所に押し込み。笑顔でとんでもない宣言をされた。

 

 

 

 

 

「あ、ワキちゃんの部屋は物置になってるからお兄ちゃんの部屋で寝てね」

「ソファも撤去しておいたから☆」

 

 

「――――なんて?」

 

 

 

 

 もうやだこの家!

 

 

 

 

 

 

 

 

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