異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

25 / 103
展開の都合上、海外ウマ娘の名前を微修正してます


年度代表ウマ娘

 

 

 

 

 

 

――――その日、トゥインクルシリーズのファンは皆テレビに注目していた。

 

 

 年度末、その年活躍したウマ娘を讃えるための式典。

 URA賞の授賞式があるためである。

 

 都内のパーティ会場に集まったウマ娘たちはGⅠウマ娘がずらり。カメラなど取材陣も多く入っているが、注目はやはり――――。

 

 

 

 

 緑を基調にしたドレスを纏い、足首のサポーターが痛々しいものの特段庇う様子もなく歩く、栗毛のウマ娘。前人未踏のクラシックでの無敗五冠を達成し、更に同期のサニーブライアンが有マ記念2着とシニアウマ娘相手でも強さを見せつけたことで同世代の弱さという疑念も払拭。いよいよ『皇帝超え』が現実味を帯びてきた異次元の逃亡者。

 

 誰も追いつけないその強さに『最速の機能美』とすら言われ始めたサイレンススズカは、同チーム、同トレーナーであるグラスワンダー、あと同期のタイキシャトルと話しながら入場し。拍手に出迎えられて困惑しつつも、やんわり手を振り返した。

 

 

 

 

「ワオ! 凄い歓迎デスね!」

「やはり大人気ですね~、スズカさん」

「トレーナーさん……いませんね」

 

 

 

 きょろきょろと誰かを探す姿に、ウマ娘たちは訳知り顔、特にリギルの面々はあきれ顔だったりしたが、元々追いかけていた記者たちもそれは承知しているようで。特段気にされることもなく、今年GⅠ勝利を挙げたウマ娘たちが入場してくる。

 

 

 

 

 それを後目に、なにかに導かれるように――――微妙に鼻が動いていたのでグラスは探知犬が頭をよぎった―――スズカは隅っこでこそこそしていたトレーナーを見つけると、走らないように全力で自制しながら突進して抱き着いた。

 

 

 

 

「……お兄さんっ」

「ちょっ、スズカ!?」

 

 

 

 なるべく目立たないように、と隠れていたわけだが。

 まるで長年引き離された恋人のような再会ぶりに、フラッシュ―――はウマ娘が驚くのでダメだが、しっかりと年度代表ウマ娘が確実視されているスズカを追っていたカメラが連写される。

 

 

 

 

「おいスズカ撮られてるから!」

「……あっ」

 

 

 

 スッ、と顔を赤くしてトレーナーの背後に隠れるスズカだが、それはそれとしてやっぱり撮られる。これはもうダメだなと判断したトレーナーは、フラッシュ嫌いで有名なエアグルーヴの近くに退避。完全に呆れた顔をされたが一応追い返されはしなかった。

 

 

 

「こうなることくらいは予想できていただろう、たわけ」

「最近大人びてきてるしいけるかなって…」

 

 

 

 

 あまり抱き着いたり頬擦りしてきたりしなくなったのだが、やっぱりドレスの着替えや化粧を含めて長時間(2~3時間くらい)離されるのは我慢ならなかったらしい。

 

 

 

「着替えが終わるのを待っていれば良かっただろう」

「……いやだって、着替え終わった娘たちが生暖かい目で見てくるから」

 

 

 

 ニマニマした笑みで「あっ、噂のお兄さん」「へぇー、こんな人なんだー」とか言われつつ女子更衣室の前で待ってるのは普通に拷問であった。

 なまじ確実に年度代表ウマ娘ということでメイクも気合が入っているし、なんとなく胸にも詰め物が…。

 

 

 

「たわけ」

「……すみません」

「???」

 

 

 

 目つきが鋭くなったエアグルーヴに注意されてスズカに謝るが、全く分かってなさそうなスズカに安堵する。

 けっこう盛ったな、と思ったのもバレてるようで、エアグルーヴが完全にゴミを見る目になっている。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで式典も始まり、おおよそ予想していた通りに推移―――なおダートに関しては受賞者なしだった――――し、年度代表ウマ娘になったサイレンススズカが壇上に上がった。例年通り、ここからインタビューである。

 

 

 

 

「では戦績を振り返らせていただきます。今年のクラシック三冠、皐月賞、東京優駿、菊花賞を制覇し、更にシニア混合のジャパンカップ、有マ記念を無敗で制したサイレンススズカさん。本年度の戦績は8戦8勝です――――まず、率直に今のお気持ちは」

 

「はい。とても嬉しいです」

 

 

 

 

 基本的にスズカは口下手なので、笑顔で言いたいことだけ言っておけ、と半ばあきらめ半分に送り出したが、まあ顔と声が良いので笑顔があれば大体なんとかなるはず。記者、特に月刊トゥインクルの人とかはスズカが聞かれたことしか答えないのは承知しているので、さっそくとばかりに挙手した。

 

 

 

 

「年度代表ウマ娘になって今感謝を伝えたい人は誰ですか?」

「お兄さ―――トレーナーさんです。10年前から私の走りを信じて、導いてくれて。そのお陰で今の私の走りがあるんだと思います。ありがとうございます、トレーナーさん」

 

 

 

 

 真剣な顔で、しかしほんのり笑みを浮かべて会場側――――こちらに宣言するスズカの不意打ちに、ちょっと涙腺が緩んだ。この前まで一人で風呂も入れなかったのに……立派になって。

 

 

 

 

「今後の展望については、何か考えていらっしゃいますか?」

「怪我が回復し次第、海外への挑戦を目標に練習を再開する予定です」

 

 

 

「これまでのレースで一番厳しかったレースはありますか?」

「有マ記念です。普段からアクシデントに備えていたお陰でなんとか勝てたと思っています」

 

 

 

「ドリームトロフィーリーグへの移籍も考えているのでしょうか」

「まだ考えていません」

 

 

 

 

「現在注目しているウマ娘はいますか?」

「……そうですね。スぺちゃん、スペシャルウィークです」

 

 

 

 てっきり同期かシニア級、あるいは海外のウマ娘だろうと思っていた記者たちが一斉に疑問符を浮かべるが、その子そういう空気読まないから普通に強いライバルとかそういう含みはないし、未デビューの子でも注目してたら普通に挙げるぞ。いや、スペちゃんは一応そろそろデビューだが。

 

 

 

 

「その、スペシャルウィークさんのどこに注目されていますか?」

「……えっと、スぺちゃんは末脚が良くて……あと食事量の調整も頑張ってるので」

 

 

 

 スズカさんー!?

 と唐突に全国にダイエットを暴露されたスぺちゃんが絶叫している姿がなんとなく脳裏に浮かんだ。

 と、空気を読んだトゥインクルの乙名氏記者が次の質問をする。

 

 

 

 

「では、海外挑戦する上で走りに注目しているウマ娘はいますか?」

「……えっと――――あ。トレーナーさんと話したのは、サガミクスさんを」

 

 

 

 

 

 やっぱりまだ来年クラシック級になる、つまり日本ではほぼ無名のウマ娘を挙げたので困惑しきりと言った雰囲気である。

 

 

 

 

「では海外挑戦に向けて意気込みをお願いします」

「はい。……海外でも、私とトレーナーさんの走りが一番だと証明したいと思います」

 

 

 

 

 

 

 

 で。その後何故か要望多数ということでトレーナーの会見まで行われた。

 ニコニコとこっちの横顔を見ながら隣に座っているスズカだが、お前それ全国に流されるんだぞ。絶対分かってないだろ。

 

 

 

 

「トレーナーさん、初めての担当ウマ娘が無敗の五冠という偉大な記録を成し遂げたことについてコメントをお願いします」

 

「そうですね、この子に関しては出会った時から周囲とはまるで違うと感じていました。サイレンススズカ自身の力で成し遂げた功績だと感じていま――――スズカ、ちょっと待ってて」

 

 

 

 

 ぷすぷすと脇腹を突っついてくるスズカだが、どうした急に…。

 

 

 

 

「……お兄さんのお陰です」

「スズカの力です――――ぐはっ!?」

 

 

 

 

 無視したらスズカの尻尾が背中を直撃した。なんでさ。

 しかし本気で不機嫌にならないとこんな攻撃はしてこないので、チラリと横目で窺うと耳が絞られていた。めちゃ不機嫌である。何がそんなに不満なんだ。

 

 

 

 

「……えー、スズカが俺を信じてくれたからこその結果だと思います。大逃げという特殊な走りに彼女の才能があると感じてはいましたが、同時に一般的ではないそれを如何に達成するのか、その部分は彼女の才覚のお陰です」

 

 

 

 

 遠まわしにスズカが凄いよ、と言ったが婉曲すれば大丈夫なようで機嫌は直った。

 ご機嫌になったスズカがまた横顔観察に戻ったのを確認しつつ、次の質問を待つ。なんか記者さんたちの視線が生暖かい気がするのだが。

 

 

 

 

「サイレンススズカさんの魅力についてどうお考えですか」

 

 

 

 

 魅力!? いや、走りのだよな。危ない危ない。これで脚が綺麗とか言ったら完全に事故である。流石マスコミ、引っ掛け技を持ってるな。

 

 

 

「そうですね、やはりその圧倒的な大逃げ―――最初から最後まで先頭を走るその姿、そして楽しそうに走るところでしょうか」

 

「無敗の三冠を達成した時のお気持ちと、サイレンススズカさんにどんな言葉を掛けられましたか」

 

 

 

 

「嬉しかったですね。長距離でも勝つというのを二人の目標にしていたのですが、ただ無事に帰ってきてくれるだけでも本当に嬉しかったです。確かかけた言葉は『凄かったぞ、ありがとう』だったと思います」

 

「『スズカ、凄かったぞ。ありがとう』だったような…?」

 

 

 

 

「ほぼ同じだろ」

「名前……」

 

 

 

 一応テレビだからなこれ…。

 妙なこだわりを見せるスズカはさておき、乙名氏さんが言った。

 

 

 

「海外挑戦における目標についてお聞かせください!」

「そうですね。日本のトゥインクルシリーズの強さを海外に見せることができればと考えていますので、そのためにスズカのサポートに徹します」

 

 

 

「素晴らしいですっ! 公私ともにサイレンススズカさんのために全力を尽くし、世界制覇の暁にはなんでも願いを叶えるということですね!」

「いえ違います」

 

「なんでも……!」

 

 

 

 パァッと顔を輝かせるスズカだが、お前だから全国放送だって。

 

 

 

「いやお前も聞いてただろ」

「お兄さん、チュ――――」

 

 

 

 

「常識の範囲内なら叶えて上げたいですね!」

「………」

 

 

 

 チューは常識の範囲内なのか思案顔のスズカはそっとしておいて。

 そんなこんなで若干怪しいところはありつつも、無事にインタビューは終了し―――。

 

 

 

 

「サイレンススズカさんはトレーナーさんに叶えて欲しいことはありますか?」

「……チュー?」

 

 

 

 チュー、じゃねぇ!?

 まさか言わないよな、と思っていたがこんなこともあろうかとチューで始まる地名を調べておいた!

 

 

 

「………チュービンゲンに行ってみたいんだよな! ドイツの!」

「……あ、はい」

 

 

 

 頼むから頷いてくれ、と目線で訴えるとなんとなく頷いてくれるスズカ。

 ドイツ生まれと言えば……エイシンフラッシュ!

 

 

 

「スズカの友人のスマートファルコンのルームメイトのエイシンフラッシュに教えて貰ったんですが、素敵な場所みたいなのでどうしても行ってみたいと。お城も素敵なんだよな、スズカ」

 

「お城……行ってみたいですね」

 

 

 

 

 こいつ……俺がいない方がマトモなのでは…?

 二人でインタビューになると急激にポンコツ化したスズカに、ちょっと本気で対策を考えないといけないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。