異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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少し時系列が飛んで、正月明けの話になります。



 


幕間:スペシャルウィークと友情トレーニング

 

 

 

 

 

 

「――――スズカさんのメニュー、私も挑戦してみたいです!」

 

 

 

 サイレンススズカは、スペシャルウィークにとって憧れの先輩であり。その夢である『日本一のウマ娘』に恐らく一番近い――――『皇帝』か『異次元の逃亡者』かと言われるくらいには――――ウマ娘である。普段はなんというか、つかみどころがないが。

 

 そんなわけで、『とんでもなくキツイ』と評判のそのサイレンススズカのトレーニングメニューに挑戦してみたいというウマ娘はそれなりにいる。

 

 で、勝手に見て盗もうとするのもまあ常套手段ではあるのだが。

 チーム『スピカ』の沖野トレーナーは、少し……いや大分頭を悩ませつつも、一つの結論を出した。

 

 

 

 

「うし。じゃあアイツに相談してみよう」

「アイツ…?」

 

 

 

「スズカのトレーナーにな」

「ええーっ!?」

 

 

 

 

 普通そういうのって教えてくれないのでは。とかいろいろ考えるスペシャルウィークだが、沖野トレーナーとしてはそうでもないらしい。

 

 

 

 

「だってアイツも言ってただろ、スズカだからできたってな。結局のところアイツにとって重要なのはサイレンススズカであって、そのスズカを鍛えたメニューじゃない」

 

「???」

 

 

 

 どういう意味だろう?

 全く分からないが、トレーナーさんには何かしらの確信があるらしい。でもとりあえずお兄さんがスズカさん大好きなのはまあ分かる。

 

 

 

「つまり、同じメニューで鍛えてもスズカに勝てないならスズカの方が上だってアピールできるわけだな。メニューが凄いわけじゃないぞ、と」

 

「はぁー」

 

 

 

 つまりスズカさんを盛り立てるためならメニューも惜しくはないし、絶対負けないと思っているということだろう。いやそれいいのだろうか。

 

 

 

「まあ良くはないな。だが結局のところトレーニングメニューなんてウマ娘に合ったやり方じゃないと意味なんてない。あのスタミナの暴力みたいなトレーニングメニューがスぺに意味があるかというと――――」

「言うと…?」

 

 

 

 

 

「――――分からん!」

「ガクッ!?」

 

 

 

 そんな。そこはウソでもあるって言ってほしかったです!?

 とコケるスペシャルウィークだが、トレーナーさんに言わせると、長距離適性なんてものは実際に走ってみないとなんとなくしか分からないものらしい。

 

 

 

 

「長距離はスタミナもそうだが、息を入れるタイミングやら位置取りやらが一気に複雑になる。読み合いの面が強くなるわけだ―――つまり戦略か直感か、どちらかは持っていないと正直厳しい。それこそスズカみたいなハイペースとスタミナの暴力で突破するなら別だが」

 

「……トレーナーさん、私どっちも無いような…?」

 

 

 

「いや、スぺの直感は悪くない。仕掛けるタイミングとかな。後は戦略に引っ掛けられないだけの最低限の知識と、それを押し通すスタミナと根性だな」

 

「根性……」

 

 

 

「日本一のウマ娘を目指すなら、皐月賞、東京優駿、菊花賞のクラシック三冠は避けては通れない。そして、中でも重要視されているダービーは2400m、高低差のある坂もある。ここを突破するのは簡単じゃあない。ミドルディスタンス――――中距離で結果を残すウマ娘はある程度は長距離を走れる、なんて言われる場合もあるが、要はその息の入れ方と仕掛けるタイミングだな」

 

「な、なるほど…?」

 

 

 

 

「――――まあ、要は三冠を達成した先達に意見を求めるのは悪いことじゃあない。……グラスワンダーが同期だから、アドバイスは期待できないが」

「あ」

 

 

 

 

 そういえばグラスちゃんも担当なんでした…。

 ライバルに塩を送るような真似は流石に期待できない。けど、それでも――――!

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 

「――――良いですよ。スぺちゃんなら長距離適性もありそうですし。スズカも喜ぶと思いますし」

「「ええ~…」」

 

 

 

 

 軽くOKされて拍子抜けしてしまった。

 プールではスクール水着に着替えたスズカさんと、グラスちゃん、そしてタイキシャトルさん……は、プールサイドで伸びているけど。ともかく、スズカさん達はひたすらにクロールと平泳ぎを交互に泳いでいた。

 

 

 

 

「お前、頼んどいてアレだがいいのか? グラスワンダーとか」

「いや、グラスもライバルがいた方が燃えるタイプですし。正直、皐月賞に関しては最大のライバルはスぺちゃんじゃないと思ってるので」

 

 

 

「ほう」

「……むぅ」

 

 

 

 むむむ。流石にそうまで言われるとちょっともやっとします…。

 と、言いつつもトレーナーさんもどことなく理解はしているみたいな。

 

 

 

「ぶっちゃけてしまえば、素質で一番抜けているのは彼女でしょう――――」

 

 

 

「「エルコンドルパサー」」

 

 

 

 

 トレーナーさんたちの声が重なる。

 エルちゃん…。まだその走りをしっかりと見てはいないけれど、スズカさんのトレーナーさんに言われると何やら重たいものを感じるような――――トレーナーさんが軽いわけでは………あるかもしれないですけど。

 

 

 

 

「エルコンドルパサー、グラスワンダー、セイウンスカイ、キングヘイロー。そしてスペシャルウィーク。彼女たちが今のところの有力候補ですね」

 

「ツルマルツヨシはどうなんだ? 俺としては彼女もけっこうなもんだと思うが」

 

 

 

 

 そう、ツルちゃん!

 それを聞くと、スズカさんのトレーナーさんはちょっと難しそうな顔で黙り込んでしまった。

 

 

 

「体調のことは不確定要素すぎますからね…。スズカやサニーブライアンもそうですが、突き抜けた走りには怪我のリスクがあります。――――なんとなーく、スぺちゃんやゴールドシップあたりはものすごく頑丈な気がしますが!」

 

 

「ゴルシは……まぁ、そうだな」

「ですね…」

 

 

 

 

「そんなわけで、現時点ではさっきの五人が有力候補でしょう。それも、近年稀に見るくらいの」

 

 

 

 

 

 高い評価に、思わず唾を飲み込んでしまう。

 と、トレーナーさんは少しおどけた雰囲気で言った。

 

 

 

 

「お、じゃあスズカにも勝てると思うか?」

「それにはこう返させてもらいますよ――――サイレンススズカに勝てるのは、想像を絶する末脚の持ち主くらいだ、と」

 

 

 

「想像を絶する、ねぇ。エルコンドルパサーはどうなんだ?」

「速いですが、スズカほど変態じゃないですね」

 

 

 

 

 それ褒め言葉じゃないんじゃ…。

 とはいえ、トレーナーさんもなんとなく「だよなぁ」と納得顔である。

 

 と。スズカさんのトレーナーさんはスズカさんがプールから上がったのを見届けると、トレーナーさんに目を向けて言った。

 

 

 

 

「あ。そういえばトレーニングメニュー見る代わりに、ゴルシに『爆弾みたいな名前した友達いる?』ってメールしてみてもらっていいですか?」

「何だそれ。ちょっと怖いんだが……まあいいか」

 

 

 

 

 ちょっぴり興味が湧いてきたので、トレーナーさんのスマホ画面を横から覗いていると――――。早速返信が。

 

 

 

 

 

『繧ク繝」繧ケ繧ソ繧ヲ繧ァ繧、縺ョ縺薙→縺?繧搾シ溷・エ縺ェ繧牙、ァ莠コ縺ョ莠区ュ縺ァ蜃コ繧後↑縺?°繧峨↑縲ゅざ繝ォ繧キ縺。繧?s縺悟セ後〒辟シ縺阪◎縺ー菴懊▲縺ヲ繧?k縺九i謌第?縺励m繧医↑繝シ』

 

 

「ひいいいっ!? なんですかこれ!?」

「……おい、普通に怪文書なんだが?」

 

 

「あー、駄目か―」

 

 

 

 

 怖すぎますよ!? なんでそんなに軽いんですか!?

 

 

 

「いや、めっちゃ軽く「いるぞ?」って言われるか意味不明なものが返ってくるかどっちかだろうなって」

 

「一体どんな奴を探してるんだよ……」

 

 

 

「スズカに勝てるかもしれない、ハイペースで変態的な末脚を発揮する爆弾ですかね」

「……私の方が速いです」

 

 

 

 

 

 スズカさん!

 ふんす、とお兄さんにアピールするスズカさんですが、お兄さんはちょっと意地悪な顔をして言います。

 

 

 

「ま、詳細不明で対策もできないからな。とりあえずドバイだ」

「……むぅ」

 

 

 

 頭を撫でられて「誤魔化されませんよ?」という顔をしているスズカさんですが、耳と尻尾は凄くうれしそうで。

 

 

 

 

 

「で、現時点のグラスにダービーが勝てるかというと、正直厳しい。皐月賞にエルコンドルパサーが出るかどうかは正直怪しいけど、ダービーはなんとなく出るような気がしないでもない」

 

 

 

「………たとえ、エルが相手でも……負けるつもりは……あり、ません」

「グラスちゃん!?」

 

 

 

 ちょっと顔が青いし、あのグラスちゃんが見るからに疲れ切ってる!?

 と、足にまかれた赤いアンクルになんとなく目が行き――――トレーナーさんが差し出した謎の青くて生臭い液体に目を剝きました。

 

 

 

 

「はい、ロイヤルビタージュース」

「あ、あの………飲まないと、いけませんか?」

 

 

 

「飲め。スズカも」

「はい。―――――んく。お兄さん、苦いです」

 

 

 

「知ってる。でもなー、これ何入れても美味しくならなかったんだよな」

「これでもマシなんですよねー…」

 

 

 

 なんとなく遠い目をしているスズカさんにお兄さん……。

 けどなんだかそんな軽く飲めるものじゃないような。グラスちゃんがあんな顔してるの初めて見たんですけど…!?

 

 グラスちゃんも覚悟を決めた顔で一息に飲んで――――そのまま倒れました。

 そして数秒後に復活。怖い…。

 

 

 

「あ、スぺちゃんはとりあえずこれつけて。スタミナアンクル」

「はい。――――重っ!? これ、すごい重いですよ!?」

 

 

 

 

 足首に感じる、かつてない重量感。

 え、これで本当に泳ぐんですか!?

 

 

 

「溺れそうになったら沖野さん、救助してあげてください。アンクルは外しやすいように紐をつけてあるので」

「溺れる前提かよ…」

 

 

 

 

 なんとなく普段から突飛、というか変な練習ばかりのトレーナーさんも呆れ…というか恐れ気味です。というかそれでお兄さんも水着だったんですね。

 

 

 

「大丈夫、レースと違って死にはしないから」

「レースってそんな物騒でしたか!?」

 

 

 

「大丈夫、レースと違って助けに入れるから」

「……あっ、はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなわけで、私たちの地獄の特訓は始まりました――――。

 恐る恐るアンクルを付けたまま水に入った私は、綺麗に水に沈み。グラスちゃんが鬼気迫るような表情で必死に泳いでいるのを見て、なんとか脚を動かします。

 

 

 

 

「ご、ごんぼぼぼぼ(こ、根性~~!)」

 

 

 

 

 必死で脚を蹴りだすと、なんとか顔が浮き上がって呼吸ができますが―――襲い掛かってきたのは、前を泳ぐグラスちゃんとスズカさんの蹴った水しぶき。

 

 

 

 

「ま゛え゛ばばばばばば(前がああああ)」

 

「さあ泳げ! 前に進むか、沈むか! 真後ろにいたら息ができないぞ! 後ろで息を入れてもいいが、周回遅れはロイヤルビタージュースだ!」

 

 

 

「そ゛れは嫌ですー!?」

「ごめんなさいスぺちゃん、負けられないんです…!」

 

 

 

 

 更にグラスちゃんが鬼気迫る表情に!?

 うん、確かにあれは飲みたくない! でもこれ泳げない!

 

 

 

 

「あ、ちなみに今度は本物のロイヤルビタージュース(原液)だから。さっきの調整済みご褒美ドリンクと一緒だと思うなよ」

「「!?」」

 

 

 

 

 

 

「既に第一線で戦うスズカに負けるのは仕方ない。が、同期に負けたままでいいのか? 答えは――――行動で示してもらおう」

 

「お兄さん、私は……?」

 

 

 

 

 と、余裕そうに立ち泳ぎで浮かびながらお兄さんに話しかけるスズカさん。スズカさんの脚力どうなっているんですか!?

 

 

 

「えー。じゃあ……グラスとスぺちゃんを周回遅れにする度にご褒美ポイントが溜まる。二人は周回遅れにされる度にロイヤルビタージュースのボリュームがちょっぴり増える」

 

「ご褒美は―――――誰にも譲らない!」

 

 

 

 

 

―――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 いえスズカさん、この場合ご褒美がもらえるのはどうやってもスズカさんだけなので頑張らないでくださいっ!?

 

 ドッパーン、と冗談のような水柱を立ててスズカさんが加速。グラスちゃんが思い切り直撃して少し沈んでいきますが、ミサイルみたいに発射されたスズカさんを見ているとそんなことに気を取られている余裕はありません。

 

 

 

 

 何故かプールに星空が見えるような……幻覚?

 とにかく前へ、前へ――――よたよたバシャバシャ泳ぐ私とグラスちゃんの横を、今度はやけに静かに、けれども凄い勢いで抜き去っていくスズカさん。

 

 

 

 

「はい、1周回遅れー。10ml追加なー」

 

「「ひいいいい!?」」

 

 

 

 

 その強烈な臭いが水面から顔を上げただけで!? 実は肥しとかだったりしないですかそれ!? しかしスズカさんは意に介さず、息継ぎしながら器用にお兄さんに話しかけます。

 

 

 

「お兄さん―――――ご褒美は――――!?」

「1周分だと、ブラッシングとかかな……」

 

 

 

 

「全部―――集めると――――どうなりますか――――」

「えー。じゃあ5周でデート。二人は5周回遅れで『不味い、もう一杯』の刑に処す」

 

 

 

「―――――デートっ!」

「「い、嫌ですー!?」」

 

 

 

 

 それ絶対にスズカさんが本気になるやつですよね!?

 必死になって、それでも抜かされて――――3周も差を付けられたところで、ようやく気付く。

 

 

 

 

(も、もしかして――――スズカさんの水しぶきが少ないのは、無駄な力を使っていないから!?)

 

 

 

 

 疲れ切って、今にも沈みそうな身体を、なんとかスズカさんの泳ぎに近づけようと蹴り方を変える。少しだけ水しぶきが小さくなり、前にいたグラスちゃんに並びかける。

 

 

 

 

(こ、根性~~~ッ!)

 

 

 

 

 もう脚も呼吸も限界が近い。

 無駄な動きができる余裕が無い――――だからこそ、だろうか。

 

 スルリと、自分でも驚くほどにスムーズにその泳ぎに近づけていた。

 

 

 

 

 

 

「ほら、ラスト25m!」

「気張れ、スぺ! 根性だ! 日本一になるんだろ!」

 

 

 

 

「こ、根性ォ――――ッ!」

 

 

 

 前に、進む! 進める! これなら泳げる! 泳ぎ切れる!

 と、そこでスズカさんのトレーナーさんが叫んで。

 

 

 

 

「グラス――――その程度か!? お前の覚悟は、そこで沈む程度のものか!」

「―――――い、いえ。私は―――――勝ちます!」

 

 

「――――ッ!?」

 

 

 

 

 

 悪寒――――背後に、薙刀を振るうグラスちゃんを幻視する。

 ヌルリ、と研ぎ澄まされた刃のような泳ぎ。並びかけてくるグラスちゃんに負けないように、必死で脚を動かし、腕で水を掻く。

 

 

 腕が重くても、今にも沈みそうでも。

 これがただの練習でも、それでも―――負けたくない。勝ちたい―――!

 

 

 

 

「「はああああああ―――――ッ!!」」

 

 

 

 

 

「先頭の景色は譲らない――――!」

 

 

 

 

 スパッ、と差し切ったスズカさんに思わず無言になる私たち。

 そして、それがちょうど5周目の周回遅れで。

 

 

 

 

 

「はい、ロイヤルビタージュース固め濃いめマシマシ2杯!」

「「ひいいいい!?」」

 

 

 

 

 

 

 飲んだ瞬間、あまりの絶望的な味に二人で悶絶し。

 なんとなくグラスちゃんとこれまでより仲良くなった気がしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

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