異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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あなたの夢、わたしの夢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――これで最後だと思うと、少しばかりの感慨が胸を突く。

 

 

 

 ひりつくような闘志。自分以外にも8人のGⅠウマ娘と、有マ記念に出れるくらいには実力ある7人のウマ娘たちがいるけれど、その闘志のほとんどが向けられているのを感じる。

 

 

 

『勝ち続ければ、全てが敵になる――――』

 

 

 

 お兄さんの言葉だ。

 まるでどこかでそんな状況を見たことがあるかのようだったけれど、結局のところ私のやるべきことは変わらない。

 

 

 

(誰よりも速く、誰よりも先に――――)

 

 

 

 

 世界最強を手にして、その景色を見た。

 大好きなお兄さんが私のことを好きだと言ってくれて、チューしてくれて、お嫁さんになった。

 

 私よりも末脚が速いウマ娘はいる。長い距離を走れるウマ娘も。

 けれども大逃げに耐えられないのは、それがあまりにも苦しすぎるから、らしい。

 

 天性のスピードと、息を入れる技術。

 誰よりも先頭を走りたいという抜きんでた闘志。お兄さんに先頭民族と言われることもあるけれど。でもきっと、私が勝ち続けられる理由は――――。

 

 

 景色を見ること、お兄さんに最高の走りを見せること、一番にお兄さんの元にたどり着くこと。――――他の子の勝ちたい気持ちよりも、私の気持ちの方が強いから――――!

 

 

 

 

 

 

 あふれた闘志、限界を超えた集中力が景色を変える。

 共にレースに臨む優駿たちにもきっと見えているのだろう。一面の銀世界、そして二連星が。

 

 

 

 

『―――――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

(だから―――――必ず一番に、貴方のところに帰りますから)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 真っ先に飛び出したサイレンススズカに僅かに遅れて、セイウンスカイとサニーブライアンが追走する。出遅れはなく、次いで先行するのがタイキシャトル。その外にスペシャルウィーク、内にエアグルーヴ。少し離れてグラスワンダー、キングヘイロー、メジロドーベル。後方にメジロブライト。

 

 

 じりじりと引き離すサイレンススズカに、それでも食いついていくサニーブライアン。その後ろに入って体力を温存しようとするセイウンスカイ。

 

 

 

 

『揃ったスタート。さすが選ばれた16人、優駿です! そしてさあ行った行った! 先頭に立ったのはやはりサイレンススズカ! 内、セイウンスカイ。外にサニーブライアンですが徐々に引き離そうかというところ! その後方にタイキシャトルが二番手集団の先頭に立った。エアグルーヴはその後方に控える感じ、スペシャルウィーク並びかけていく』

 

 

 

 

(やっぱり落ち着くわね、日本のターフ)

(――――くそっ、速すぎる!)

(嫌になる速さだけど――――展開は想定通り!)

 

 

 

 軽やかに駆けていくサイレンススズカに、追いすがる二人を眺めるのはタイキシャトル。

 幾度となく併走したタイキシャトルからするとスズカを気持ちよく走らせたら勝機が無いのは分かっている。上手くトップスピードに乗る前に先頭を奪うしかないが、長距離でそれをやるのは自殺行為。けれど、勝機が0%と1%なら――――。

 

 

 

 

「―――勝負、デース!」

 

 

 

『おおっと!? タイキシャトル、早くも上がっていく!? 掛かってしまったのか、はたまた作戦か!? サイレンススズカから2バ身ほど離れてサニーブライアン、その後方にぴったりマークするセイウンスカイ。そこから更にじりじり上がってくるタイキシャトルまでおよそ2バ身!』

 

 

 

 

(動いた!? ここだ――――!)

(くっ、化け物揃いだな…!)

 

 

 

 

 

『スペシャルウィークも続いて上がっていく! エアグルーヴは控えるのか! しかし釣られるように後方もペースを上げています! 正面スタンド前、大歓声に送られてサイレンススズカが先頭!』

 

 

「スズカ――――っ!」

 

 

 

 

(あっ、お兄さんっ)

 

 

 

 

『サイレンススズカがペースを上げた! サニーブライアン粘っているが徐々に離されているか!? さあセイウンスカイどう出る!? その横からタイキシャトルが並びかけてきた!』

 

 

 

 

(スぺちゃん、続かせてもらいます)

(ペースが……速すぎる!? でも、追いつくにはこれしか―――)

 

 

 

 

『さあグラスワンダーはスペシャルウィークに付いていくのか!? 少し遅れてその外メジロドーベルもじりじりと上がっていく! その後ろからマチカネフクキタル、キングヘイロー!』

 

 

 

 

(……っ、やはりスズカさんに勝つには早めに仕掛けるしか…!)

(―――くっ、キングがそう簡単に音を上げるとでも!?)

 

 

 

 

『さあ1、2コーナーを回って先頭はサイレンススズカ、リードを開いて4バ身ほど! 二番手かわってタイキシャトル、上がっていく! サニーブライアンの後方ぴったりとセイウンスカイ!その後ろからスペシャルウィークとグラスワンダーもじりじりと上がってくる! やはりハイペース、超ハイペースの戦いになった!』

 

 

 

 

 

 

 

 

(―――――結婚式の景色、楽しみね)

「さあスズカ、勝負デース!」

 

 

 

 

 足音で誰かを察したスズカは、走り方を変える。

 息を入れ、脚を溜める走りからスパート――――全てを燃やし尽くすための走りへ。

 

 

 

 

(まだ少し、遠い。けれど―――――届かせる!)

(ここまでならまだ全力で走れる距離――――あとは、根性デス!)

 

 

 

 

―――――――『Silent Stars』

 

 

 

―――――――『ヴィクトリーショット!』

 

 

 

 

 

『行った! サイレンススズカに競りかけていくのはタイキシャトル! 両者向こう正面の中間でスパート! 僅かにタイキシャトルが前に出たか!? だがサイレンススズカ譲らない! ここでセイウンスカイが抜け出した! その後ろにサニーブライアンが続いて、外からスペシャルウィークとグラスワンダー! これは大変なことになってきました!』

 

 

 

 

 

(っ、ホント、勘弁してほしいけど――――大物、釣りに行かなきゃ勝てないよね!)

(ほんとに最後まで持たせる気あるの!? ……ああもう!)

 

 

 

 

『3,4コーナーに入っても熾烈なデッドヒートは続いている! だがサイレンススズカ先頭! その後ろにタイキシャトル。後ろからセイウンスカイも仕掛けてくるが――――外から! 外からスペシャルウィーク!』

 

 

 

 

 

(スズカさん――――これが、貴女を追いかけてきた私の―――今できる全部! 最高の走りで、追いついて見せます!)

 

 

 

 

 

――――――■■総大将

――――――『シューティングスター』

 

 

 

 

 

 

 いくつもの夢を、流星を束ねてスペシャルウィークが加速する。

 これまで競ってきたライバルたち、憧れた人、支えてくれた人たち。その想いの全てを力に変えて、前へ。

 

 

 

 

 

(全てはこの時のために――――スぺちゃん、貴女にも。そして―――スズカさんにも。たとえそれがどれほど高い頂であっても――――立つのは、私です!)

 

 

 

 

 

 それは、全てを切り払う薙刀の如き切れ味――――。

 『怪物』が本来備えていた驚異的な末脚、それを完全に解放するためだけの領域。だがその鮮烈さは、他の領域すらも塗りつぶす。

 

 必勝を幻視させる勝ちパターンを、理不尽なまでの、暴力的な末脚が切り捨てる。

 

 

 

 

 

 

―――――不撓不屈

 

 

 

 

 

 

『スペシャルウィーク、一気にセイウンスカイに並――――ばない! 交わした! スペシャルウィークが一気に三番手! その背後にグラスワンダー! 後方からメジロブライトも上がってきている! エアグルーヴ、マチカネフクキタルも徐々に進出!』

 

 

 

 グラスワンダーの領域に食いつかれながら、それでも流星を輝かせてスペシャルウィークが駆ける。僅かでも速度を緩めれば、抜き去られる―――。それを根性で捻じ伏せて、なおも前へ。

 

 

 

 

 

 

『さあサイレンススズカとタイキシャトルが先頭で最終直線! 僅かにサイレンススズカが前に出たか!? だが一気にスペシャルウィークとグラスワンダーが上がってきている!』

 

 

 

 

(―――――やるわね、タイキ)

(っ、流石すぎマス、スズカ)

 

 

(――――追いつく、追いつくんだぁ――――っ!)

(まだ、まだぁーーーーッ!)

 

 

 

 

『サイレンススズカ先頭! リード半バ身でタイキシャトル! 後方からスペシャルウィーク、グラスワンダーが一気に詰め寄ってくる! 残り200を切った! 残り200メートルを切った! タイキシャトルにスペシャルウィークとグラスワンダーが並びかけて、交わした!』

 

 

 

 

 

(でもね、タイキ、スぺちゃん、グラスも―――――私は、絶対に――――お兄さんの……私たちの夢は、譲らない!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 サイレンススズカの領域。星々の領域が“深さ”を増す。

 銀世界が闇の中に、黒に沈む。時が止まったようなその暗闇の中で―――。

 

 

 

 

 

 

―――――■■■の■■■

 

 

 

 

 

 

 

 タイキシャトルが、スペシャルウィークが、グラスワンダーが息をのむ。

 限界を超えた、その先―――底の見えない暗闇の領域に呑まれたサイレンススズカは――――。

 

 

 

 

 

 

「スズカぁ! ――――好きだぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 目を見開く。

 脚に、四肢に、身体に、魂に――――“熱”がこもる。

 

 精神は肉体を超越する。

 ちょっとやけっぱちで叫んだお兄さんに不満はあるけれど、それでも。そんな恥ずかしがり屋で、いじわるなお兄さんも大好きだと思う。

 

 

 

 

 

 

――――異次元の逃亡者

 

 

 

 

 

 脚を踏み込む。

 重かった脚が、嘘のように軽い。燃えるように全身にあふれる“(好き)”をこめて、飛ぶように駆ける。

 

 暗闇を抜け、星空の下。

 小さな教会と、大好きな人の姿が見えた気がした。

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカが更にスパート! サイレンススズカ先頭! 外からスペシャルウィーク! 更に大外グラスワンダー! だがこれは届かないか!?』

 

 

 

 

 

 

『サイレンススズカ、完全に先頭! リードが開いた! グラスワンダーとスペシャルウィーク一歩も譲らないがこれは決まったか!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカ! サイレンススズカだ! 無敗のまま先頭を駆け抜けて、今――――ゴール! 凄まじいハイペース、魂を燃やすような消耗戦を制したのはサイレンススズカ!』

 

 

 

 

 

 

『タイムは――――2分27秒3!? レ、レコードです! またしても世界レコード! サイレンススズカが有終の美を飾りました!』

 

 

 

 

『そして今、ウイニングライブならぬウイニング・ラン――――観客席の方に走っていきます!』

 

 

 

 

 

 

「お兄さんっ。これが、私の見せたかった景色です――――」

 

 

 

 

 

 

 気を利かせてくれたファンの人が撒いた花びらに迎えられて、ウェディングドレス勝負服のままお兄さんに飛びつく。慣れた動きで回転して勢いを受け流したお兄さんは、ちょっとあきらめ顔で、そのまま私を抱きしめて。

 

 

 

 

 

 

「…………そうだな。やっぱりお前が一番速くて、一番可愛くて。俺の、夢そのものだよ」

 

 

 

 

 

 どちらともなく寄せ合う唇に、祝福の声が響く。

 世界一のウマ娘で、異次元の寂しがり屋で。きっと、世界で一番幸せな自信のある花嫁は。

 

 ちょっぴりの恥ずかしさと、胸いっぱいの幸せを感じながら言った。

 

 

 

 

 

 

「―――――お兄さん、だいすきっ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

「――――あなたはここにいるサイレンススズカを、病める時も健やかなる時も、富める時も貧しき時も、妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

 

「はい。誓います」

 

 

 

 

 

 

 純白の花嫁衣裳に身を包んだスズカに目をやる。

 レースのためではない、結婚のためだけの衣装に身を包んだスズカを見ると、走るためではなくこちらを優先してくれている、と自惚れたくなる。綺麗だし。

 

 ………今まで、この子をこんなに綺麗だと感じることはなかったかもしれない(可愛いとは割といつも思っているけど)。

 

 

 

 

「新婦サイレンススズカ、あなたもこの者――――を病める時も健やかなるときも、富める時も貧しき時も、夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」

 

「……誓います」

 

 

 

 

 

 何故か一番前で号泣している俺の母親に釣られたのか、ちょっと泣きそうなスズカと指輪を交換し、軽くキスする。

 

 

 

 その後はどちらの両親も泣いていて話にならないし、沖野先輩は「世界一になるだけあって、世界一イチャイチャしている夫婦」などと言っていたのでやはりゴルシを嗾けよう。スズカは喜んでたしウケてたが、俺は恥ずかしい。

 

 なおべったりくっついているスズカが原因のような気もするが、まあスズカだし。

 後はウマ娘用の超巨大ケーキに入刀したり、何を思ったかケーキを口移ししてきたスズカのせいで大いに囃し立てられたりしたが、まあ今は許す。後で覚えとけよ…。

 

 

 

「いいよねー、結婚かあ。僕も結婚するなら無敗の七冠くらい取らせてくれるトレーナーがいいな」

「お前それ割と条件緩いんじゃね…?」

 

 

 

 アプリ的には、テイオーなら余裕だろうし。

 めっちゃ冷たい目で「はぁ」とか深いため息を吐かれたが。

 

 

 

 

「私は、そうですね……やはり互いに公私を支えあい、互いの道を照らし合えるような方でしょうか~」

「グラスと照らし合えるとかよっぽどのトレーナーだろうな……」

 

 

 

「ふふふ、トレーナーさん? どうして私にはそんな感じなんでしょうか~」

「レース関係ならまだしも、グラスと釣り合う男って何さ」

 

 

 

 こんなんでも大和撫子だし、レースも強いし。

 でもなんとなく男の理想は高そうな気がする。

 

 

 

 

 

「………わー、結婚式やっぱりいいなぁ! やっぱり憧れちゃうなぁ……」

「妹ちゃん何してんの」

 

 

 

 

 アヤベさんの顔、というか身体でめっちゃはしゃいでいる妹ちゃん。

 どうやら俺が霊媒体質なせいで、近くにいると上手いこと噛みあってしまうらしい。やろうと思えばすぐに主導権を握り返せるのに、妹が本当に楽しそうなせいで多分止めるに止められないアヤベさんの苦労が偲ばれる…。

 

 

 

「ケーキも美味しいし、お兄さん様々だよー。ぎゅってして眠るとスズカお姉ちゃんの言ってた通り眠れたし」

「……カレンチャンとか抱き着くとたぶん喜ぶよ?」

 

 

 

「あの優しそうなお姉ちゃ――――「ちょっと、変なこと吹き込まないで…!」わっ、ごめんね、お姉ちゃん怒っちゃうからまたこんど!」

 

「ああ。楽しんでこいよ」

 

 

 

 

 手を振って走っていく姿を見ると、なんとなく『ぴょいっと♪ はれるや!』で例の滑り台をしているアヤベさんを思い浮かべてしまう。尊厳破壊スライダー…。

 

 

 

 

「これは、花信風のような……良い風ですね~。幸せな気持ちになれる風、私も風待ちしてみましょうか」

 

 

 

 

 つまりそれは結婚したいな、ということだろうか。

 可愛いからすぐ相手が見つかるよ、というのは流石にデリカシーが無い気がするし、ゼファーの強烈な個性を考えるとスタイル目当ての男もいそうなのがな…。

 

 

 

 

「…………」

「やはりあなじのような方ですね。もちろん今は私の憧れた風を目指すべき時、そのような時でないことは――――」

 

 

 

「いや、それはいいんじゃないか。ゼファーの目指した風は、つまらなそうに走っていたか?」

「……いいえ、そのようなことは」

 

 

 

 

「誰よりも楽しそうだから、憧れる。ああなりたいと思う。そんなものじゃないかな。ゼファーのやりたいことをするのがきっと一番の近道だよ」

「……………凱風な方、ですね。春一番のように時々ですが」

 

 

 

 

 春一番って年に一回くらいしか無くない?

 ねえゼファーさん…?

 

 

 

 

「お兄さま、ライスもあんな風になりたいな………」

「うーん、やっぱりカレンにもウエディングドレスが似合うと思わない? ね、お兄ちゃん」

 

 

 

 なんか一部詰め寄られてるので近づかないようにしよう。

 めっちゃ目線で助けを求められたが、スルーしたら目線で「お前を〇す」と言われたような。よし、スズカのブーケトスであのへん狙ってもらおう。

 

 

 

 で、ここまでずっとスズカが俺に抱き着いていたりする。

 話し通し、立ち通し。

 

 お酒も入ると一部のトレーナーが暴走したりと、トレセン学園らしい騒がしい雰囲気のまま結婚式は終わって。そして――――。

 

 

 

 

 

「じゃあ私たち今日は親同士で飲むから」

「上手くやるのよー」

 

 

 

 

 

 

 

 卑猥なハンドサインなどしつつ去っていく母親二人に、不思議そうな顔のスズカ。

 仕方がないのでスズカと風呂に入り(水着は着せた)、当然のように俺のベッドの上でのんびりと枕の匂いなど嗅いでいるスズカにため息を一つ。

 

 

 

 

「お兄さん、今日は楽しかったですね」

「うん」

 

 

 

「…………お兄さん?」

「なあスズカ……ちょっと頼みがあるんだが」

 

 

 

 

 

 うまぴょいしようぜ! とか言っても通じないだろうな…。

 やはりここはチューからの自然な流れで―――。

 

 

 

 

 

「あなたのお嫁さんですから、何でも言って下さい。……だいすきなお兄さん?」

 

 

 

 

 ちょっぴりはにかむように微笑むスズカは、とても可愛くて。

 

 

 

 

 ああ、今日は――――星が綺麗だ。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 何処かで鳥が鳴いていた。

 そういえばレース直前だったのでクリスマスもロクに祝えてなかったな、なんてことを考えて――――。

 

 

 

 

 

「………ぉー、にー、ぃー、さん……」

 

 

 

 何故かカラオケで徹夜した後みたいな声のスズカが、顔を真っ赤にしながら頬を膨らませていた。ご機嫌斜めである。

 

 

 

 

「………いじわるっ、変態……」

「いやだってお前、何年我慢したと思ってるんだ……」

 

 

 

「………むぅ……チューで許してあげます」

「えっ、もう1レース?」

 

 

 

 

 冷蔵庫から禍々しい色のジュース、本日3本目くらいの『うまぴょいドリンク』を取り出すと、スズカは必死になって毛布に隠れるが尻……というか尻尾が隠れていない。

 

 

 

 

「いやあの、スズカ……本気で傷つくからやめて?」

「お兄さん。私、お兄さんのことは大好きですし、なんでもしてあげたいな、って思ってますけど―――――レースで言うなら3000mを5本くらい走らされた気持ちなんです。もう景色を楽しむ余裕もないんです」

 

 

 

「はい」

「………これ以上はもう、身体が……」

 

 

 

 

 

 すみませんでした…。

 

 

 

 

「じゃあまた明日……今晩な」

「………はい。……はい?」

 

 

 

 

「………お兄さん」

「なんでしょうか」

 

 

 

 

「………今日は、チューだけじゃ、ダメですか…?」

「………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなことを言いつつも、なんやかんやで自分からハグもチューもしてくるノーガードなスズカで。

 少しだけ変わった日々を、変わらない大好きな人と過ごす。そんな景色。

 

 そんな、前から少しだけ変わった俺たちの夢を。

 二人で改めて歩み出したのだった―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






ご愛読ありがとうございました。
スズカさんとお兄さんの旅路はこれにてひとまず終了になります。


とりあえず本編で出せなかった話なんかをいくつか出す…かもしれません。
アオハル編はいつかやりたいです。
あとここのお兄さんにハーレム展開させるのはアレなので、やるなら完全新規でやると思います。
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