「――――いやぁ、それは難題だねぇ……原因不明の骨折の予防? 脚が速すぎるのが原因かもしれない? 同じ個所に負担をかけすぎて骨が脆くなる可能性? 実際にそんな走りをするウマ娘がいないことには―――」
「実際、ウマソウルの影響で骨折回避とかってあり得ると思う?」
「……ふぅむ。無いとはいえないが――――」
「足底の圧力検査はやってみたんだが―――」
最近、タキオンさんの研究室が騒がしい。
……空き教室を引き続き使うためとはいえ、やはり受け入れるのは少し早急過ぎたかもしれませんね。
コーヒーを淹れ、とりあえず一息。
と、騒がしい原因でもある若い男の人……新人トレーナーが何やら甘い匂いのする箱をテーブルに置いた。
「悪いな、騒がしくして。お詫びだから気にせず食べちゃってくれ」
「……はい。ありがとうございます」
少なくとも無暗に紅茶を飲ませようとしてくるタキオンさんよりは律儀な人らしい。
コーヒーにも合いそうなフルーツタルトに少しばかり気分も高揚する。数は……4つ?
自分、タキオンさん、後はまあトレーナーさんも食べたいのだとして……1つ多い。
「……あの、4つありますが」
「え、だって4人だろ」
「え?」
「は?」
なんとなくトレーナーさんの目線の先を見ると、席について「俺?」とばかりに自分に指をさす「お友だち」の姿。思わず意外といった声を出してしまった私に対して、かなり本気で愕然としているのはタキオンさん。
「双子じゃないのか?」
「………待ちたまえ。どう見てもこの部屋には私、カフェ、そして君しかいないぞ?」
「無視は良くないぞ。……えっ、マジ? うそでしょ……」
助けを求めるように見てくるトレーナーさんに、少し疑惑の目線を「お友だち」に向けるが無言で首を振られる。
『何もしてないぞ』
「そうですか……」
「何をしてないんだ…?」
聞こえている…?
試すように「お友だち」が席を立つと言った。
『今日のタキオンのパンツは黒だ』
「ブッハ!? ちょっ、おま、何!?」
「一体何を言ってるんですか……」
「何も聞こえないんだが……? いや、内容が気になりすぎるぞ。教えてくれたまえ」
とりあえず「お友だち」のケーキからフルーツを一個没収する。
しかし本当に聞こえているらしい。そこまでの霊的な才能がありながら、よく無事にこれまで生きてこられたものである。………あれ?
「……なるほど、どうやら守護霊がいるようですね」
「なんとかかんとかパトローナム…?」
「大体そんな感じです」
「……そっかあ。というか伝わるのか……」
意外そうなトレーナーさんだが、私だってもっと小さい頃には有名な児童文学くらいは読んでいる。守護霊の呪文と違ってこの人が何かしているわけではないのだが、よからぬものを寄せ付けない効果はありそうである。
大きくて、四本脚の生き物………なんとなく、
『というかウマソウルじゃないか?』
「………なる、ほど?」
「えっ、ウマソウル!? どこ!?」
トレーナーさんが振り返ると、スッと姿が消える。……器用ですね。
それはともかく。
「……あの、『お友だち』は身体がないので。これは食べられないかと」
「そうなの?」
やんなっちまうぜ、とでも言いたげなオーバーリアクションで頷く「お友だち」を見てトレーナーさんは何やら考え込み。
「……君の身体を借りる、とか? 憑依合体みたいな」
「……………」
……それは、できなくも…ない?
まあ少しばかりどうかと思う点もあるけれど、「お友だち」だけ食べられないというのは彼女がどう思っていたとしても個人的には不満だった。
『できなくもないな。ソイツ、やたらと「向こう」に近いからな、要石代わりにはなる。霊には大層モテそうだ』
「……そうですか」
「モテたくねぇ…」
「おーい、私も混ぜてくれよー」
……まあ、「お友だち」にならいいかな。
いつか追いつきたい背中。目標になってもらっているささやかなお礼。
「では、やってみましょう」
「お、おう……お友だちとやらもいいのか?」
『………ケーキ食うだけなら』
あ、ケーキ食べたいんですね。
これは少しばかり本気でいきましょう。
「ではとりあえず……初めてのことなので、確実にいきましょう」
「おう。どうすればいい?」
「まず、私の胸に手を置いてください」
「胸に手を……なんて?」
「おーい、カフェ。私のことを忘れていないかい? おーい」
ちょっとお友だちにケーキを食べさせるのが楽しみになっていたこともあり、動きの鈍いトレーナーさんの手を取って胸、胸骨の上あたりに当てる。そして無言でトレーナーさんの頭をひっぱたいた「お友だち」にもトレーナーさんの手を当てて――――。
「『………マジでできたな』口が勝手に動くのは変な感じですが『とりあえず手を離せ痴漢』」
「冤罪…っ!? いてっ!?」
トレーナーさんは後ろからウマソウルに頭をぶつけられているけれど、気にはならなかった。とりあえずケーキを一口。………あんまり普段と変わらない?
「あまり変わりませんね『主導権がある側に感覚もあるのかもな』」
「お友だち」がケーキを一口。
するとなんだかものすごくうれしそうな感情がこちらにも伝わってくる。
「『うめぇ……お前ケーキ係になれよ』」
「いや、俺ちょっと面倒みてる子がいるからいつもは無理だぞ?」
「『は? カフェに不満があるなら処すぞ』一体何を言ってるんですか『胸だってな、これから大きくなるんだよきっとな』本気で何を言ってるんですか…」
「そういうんじゃないけど、一緒に夢を追いかけてるヤツがいてさ……元々タキオンに協力してもらってるのもそれ関係だし」
「……そう! そうなんだよ! 私もいるんだよ! くぅ、今はモルモット君が不在なのをこれほど悔しく思うとは…」
なんだか知らないけれど、「お友だち」とこうしてケーキを食べられたのは本当に嬉しくて。その後研究に戻った二人はそのままに、「お友だち」とケーキについて語り合った。
あの果物はどうだとか、ソースが良かったとか。
走ること、それ以外は友だちらしいことなんてできていなかった――――そんな当然のことに今更気づいて。
(……ですが、少し楽しみですね)
それから、「お友だち」とコーヒーの話をすることも増えた。
何が合うとか、何が食べたいとか。
いつもあのトレーナーさんは決まって同じ曜日、同じ時間に来るので、お菓子を用意するのに都合は良かった。
結局タキオンさんとお友だちの大反対により、胸に触れさせるのは禁止になり。代わりに頭に触れてもらうことになった。……胸より、時間が掛かるんですが。
お友だちとケーキを食べるのを心待ちにしているのが分かってしまうのか、落ち着かせるように頭を撫でられるようにもなり。
………
……
…
およそ半年後。
すっかり馴染んだある日のお茶会で、唐突にトレーナーさんが言った。
「すまん、少し相談があって……妙な被害に悩まされてるウマ娘がいるらしいんだ」
「妙な被害…ですか?」
「ああ、ひょっとしてアレかな? 何故か蹄鉄が落鉄する被害」
何やら事情を知っていそうなタキオンさんに目線をやるが、「実は生徒会から調査を依頼されてねぇ。まずは蹄鉄に含まれる――――」説明が回りくどいのでトレーナーさんに目線を戻す。
「つまり原因不明の落鉄が相次いでいるんだ。しかも一部のウマ娘、というか特定のトラックだけに」
「……場所が限定されている、というのは怪しいですね」
「そう! それも科学的には証明できない―――」
「まあそれで友達が怪我をした子がいてな。なんとか原因を突き止めてほしいって」
「……そうですか」
けっこうなお人よしですよね、この人も。
どう考えてもトレーナーの業務外なのに、わざわざいつもより入手困難なケーキを仕入れてくるあたり、損な性分というか。
「……わかりました。ケーキのお礼くらいは協力させてください」
「ありがとうな」
別に今は「お友だち」と入れ替わるわけでもない、頭を撫でる必要はないような…。まあ、別に不快ではないので構いませんが……。
「――――と、いうわけで現行の科学では説明がつかないんだよ!」
「さっき聞きました。ではやはり夜間調査でしょうか」
「ああ。夜なら大丈夫――――ん、悪い。電話だ」
何かを察したような苦笑―――ちょっと楽しそうだ――――で携帯を取り出し、通話ボタンを押す。なんとなくウマ娘の聴力で会話も聞こえてきてしまうが。
「もしもし――――『お兄さん、どこですか…!?』いや今タキオンのところだけど」
『……一緒に帰ろうって言ってくれたのに……』
「え? スズカ、授業はどうした。もう終わったのか?」
『…? トレーナーがいない人向けの面談があるので、はやく終わるって言いましたよ?』
「……あ゛っ。悪い、忘れてた。すぐ行く」
『おーにーい、さんっ! 私の方からも走っていきますね…!』
「無駄に全力で走るなよ!? ……くっ、悪いまた後で!」
「はい」
「……ふーむ、あれが噂の」
走って出ていくトレーナーさんを見送り、なんとなく何か言いたげなタキオンさんにジト目を浴びせてからコーヒーを一口。今更ながらケーキを食べ損ねたと「お友だち」が愕然としているけれど、まあ確かに普段は気が利くトレーナーさんらしくはない。いつもなら「お友だち」の分だけ終わらせてから行きそうだ。
「カフェ、聞きたいかい?」
「いえ、結構です」
「実は彼はあのチームリギルに急遽サブトレーナーとして就任した。その理由というのが、先ほど電話してきた“彼女”だよ。――――サイレンススズカ。マルゼンスキーを彷彿とさせる段違いの実力を持ちながら、とある新人トレーナー以外の指導を拒否した」
理由は……まあ、先ほどの電話でなんとなく分からなくもない。
執着、というより好意があるのだろう。
「タキオンさん、とりあえずコーヒーが冷めます」
「……はいはい」
――――――――――――――
「――――それなりに大物でしたね…」
夜の校庭。あらかじめトレーナーさんが生徒会に連絡してくれたことですんなりと話が通った。ウマ娘を落鉄させるという凄まじく悪質な霊の正体は、どうやら過去に痴情の縺れで解雇されたトレーナーの生霊だった。
どういうわけか全くこちらの攻撃が通用しなかったため危険だったのだが、トレーナーさんが機転を利かせて「お友だち」を憑依させてくれたので、「お友だち」が生霊の核、元担当ウマ娘の蹄鉄を物理的に粉砕した。
「いやぁ、危なかったな……」
「……危険なので近づかないように、とお伝えしたはずでしたが?」
「危険だったのはカフェも同じだろ。勝算もあったし」
……まあ確かに、守護霊こと謎のウマソウルが生霊を蹴り飛ばしてくれたので十分な隙はあった。逆に言うとそのくらいの隙しかなかった、のだけれど―――。
「………ところで、胸を触る必要が?」
「――――だって頭じゃ間に合わなかったじゃん!?」
それはそうですが。
……思い切り触れられたせいで、まだ顔が熱いような気がする。
「……せめて一声かけてください」
「いや、だって人命救助だし……緊急避難……」
と、「お友だち」が怒りのブローをトレーナーさんに叩き込み。
悶絶するところを冷たい目で見下ろす。
「………助かったので、今日は見逃してあげます」
「…………ぐ、おおぉ……全然見逃されてる感じがしない……」
ゲシゲシ、と蹴りを入れる(手加減はしてるはず)「お友だち」を見ながらなんとなくもやもやしたものを感じる。
「……ともかく、お疲れ様です」
「…………痛っ、生徒会からお礼があると思うが何がいい?」
「……お礼、ですか」
いつもできるから、自分にしかできないから霊の対処をやっていた。
報酬があるというのは不思議な気分で、なんとなく浮かんだものを言った。
「……そうですね。この前のケーキに合う、コーヒーでしょうか」
「―――――…」
そうしてまた皆でケーキを食べて、騒がしいタキオンさん、嬉しそうな「お友だち」、お人よしなこの人と――――。
「……? どうかしましたか」
「いや、笑顔だと可愛いな、と」
「………え?」
私は、笑っていたのだろうか。
なんとなく自分の顔に触れると、確かにそんな感じはする。が、なんとなく「お友だち」の蹴りが激しくなった。
「いだだだだだっ!? 褒めたのになんでっ!?」
「……笑顔でないと可愛くない、と聞こえますね」
「いや言葉の綾! 神秘的な感じから可愛い系ってだけ!」
「そうですか」
それからもこの関係は続く―――そんな考えは間違ってはいなくて。
同時に、ひどく甘いものだった。
派閥について
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