バレンタイン短編
「――――スぺちゃん、最高のチョコって何かしら」
「ど、どうしたんですかスズカさん……いやまあお兄さんのことでしょうけど」
レース前よりキリっとした……むしろレースの時は楽しそうな分、今の方が真面目かもしれないスズカさんにスペはちょっと遠い目になった。
「一応、フクキタルは身体にチョコを塗ってリボンでラッピングするのを提案してきたのだけれど……流石にちょっと」
「わあ」
都会のウマ娘さんは変わってるべ……と妙な電波を受信してしまった猫みたいな顔になったスペだが、意外と常識がないようである、ないこともないスズカさんにちょっと安心した。
「溶けちゃうから」
「溶けなかったらやるんですか…!?」
「クーラーで寒くするのも検討したけど、風邪をひくってお兄さんが怒る気がするの」
「あ、そうですね」
なんかちょっとズレてる気がしないでもないけれど、スズカさんだし……偉大な芸術家もちょっと変わってる人が多いって言うし…。
「もしやるとしても水着は着るから大丈夫よ、スぺちゃん」
「あ、はい」
それ何も大丈夫じゃないような。
こ、こうなったら何かスズカさんが納得するようなチョコを提案しなくては!
「――――に、にんじんチョコ! とか?」
「スぺちゃん、お兄さんはウマ娘じゃないわよ?」
「うっ、そうですね。じゃあ……」
お兄さんが好きなのは……スズカさん。
うっ、確かにスズカさんチョコは喜びそうだけど……そ、それは流石に超えてはいけない一線のような!
「ミニチュアスズカさんチョコ人形…とか」
「………うん。ありがとうスぺちゃん、ちょっと型を作ってみるわね。あ、でもドーベル達にもアイデアを聞いてみないと。トリュフも捨てがたいし……」
「任せてください、スズカさん。それなら私が行ってきます!」
「あ、スぺちゃん!?」
それくらいなら私にも!
というわけで走って部屋を飛び出すと、充満しているチョコの匂い。
ちょっと辟易しつつキッチンに行こうとすると、何やらこそこそしているセイちゃんを発見してしまった。
「あれ、セイちゃん?」
「!? うわっ、す、ススススぺちゃん!? どうしたのさ、急に!?」
尻尾を跳ね上げさせて驚くセイちゃんにちょっと不審なものを感じつつ覗き込むと、何やらドーム状のチョコが。
「え? 別に何も――――あ、美味しそうなチョコ」
「あ。こ、これはちょーっと悪戯で使うからダメかなぁ! こっちの失敗したのは食べて良いから!」
「え、いいの!? やったー!」
「ふぅ……」
「でもセイちゃんもトレーナーさんにあげるんだね」
「うっ、い、いやー、日ごろの感謝を込めて……じゃなくて悪戯するだけですしー。寂しい独り身のトレーナーさんなら見事に引っかかってくれそうですから?」
言いながら失敗作であるらしい方を食べてみると、中はミントになっており。
ミントは人によって好みが分かれるものの、大抵のものは美味しく頂けるスペによって失敗作はすぐに溶けるように消えた。
「中身の味を変えるのはいいかも……」
「おやおや~? スぺちゃんもあげるんですか?」
「ううん、スズカさんが悩んでて」
「あっ。………もうあの人たちなら何でも喜びそうですけどね」
まあ確かに。
「うーん、もう駆け引きも何もないのは私的には燃えないかなあ」
「ううっ、なんか強者っぽい発言……」
そういうと何故かセイちゃんに目を逸らされた。
……なんでだろう。
「と、ともかく。後参考になりそうなのは……あ、キングとかいいんじゃない?」
「キングちゃんは確かに凝ってそう」
「じゃあ敵情視察としゃれこみますかー」
「うん! あれ、セイちゃんも行くんだ」
「だって私はもう準備万端ですしー?」
「そっか! さすがセイちゃん」
やっぱりセイちゃんもトレーナーさんのこと大好きなんだなあ、と生暖かい目で見ていると何か寒気でも感じたのか不思議そうにしていた。
で。
「―――――ダメよ! こんなことじゃ、一流のチョコじゃない……私が、私が一流でないと……まだよ! 諦めてたまるものですか! やってみせるわ!」
「トライフルだと……!?」
「どうしたの急に」
「いやなんだか言わないといけない気がして。ちなみにスぺちゃん、トライフルっていうのはイギリスのお菓子なんだけど、名前の由来に『気ままなおしゃべり』とか『つまらないもの』っていう意味があるらしいよ」
「さっすがセイちゃん、博識だね!」
「そんな意味合いのをプレゼントするなんて流石キングちゃんは大胆というか、なんというか。ある意味奥ゆかしいのかも…?」
「セイちゃん凄い調べてるね……」
「つまらないものですが」という感じなのだろうか。
はたまた特にそういう意識はなく、好きなお菓子なのか。真実はキングちゃんのみが知る。
「いや全然調べてないですけど。もともと博識ですけど」
「そういえばスズカさんはトリュフも考えてたんだけど、セイちゃんトリュフは?」
「トリュフは、って言われても……もともとキノコのトリュフに似てるから名前がついたってくらいですよ?」
「そっかあ……」
「あー、でもそのキノコ、媚薬として賞賛されたことがあるとか? まーネットの知識ですし、それを言うならチョコも媚薬ですけど」
「………スズカさんって、けっこう大胆だよね」
知らないのか、知っててやっているのか。
多分知らなそうだけれど。スズカさんはそういうのを引き当てそうな気はする。
「あー、そのキング? 男の人って手作りはちょっと不格好な方が喜ぶとかなんとか聞いたことがあるかもなんですけどー」
「……へ、へぇー。ま、まあ私は一流を妥協したりはしないのだけれど!? トレーナーが望むなら多少好みに合わせるくらいは――――」
どうやら問題は解決したらしい。
実際どうなのだろう、とセイちゃんを見るとちょっと遠い目をしていた。もしかしなくても優しい嘘かもしれない。
私たちはそっとその場を後にした。
その後、弟と妹の分をそっちのけでチョコドーナツをコーティングするドーベルさん(弟の分だと言い訳しつつ、トレーナーさんのを一番綺麗にラッピングしていた)とかタイキシャトルさんはチョコのバーガーという個性的なものを。
「むむむ。やっぱり皆さん個性的ですね……」
「まあスズカさんが一番個性の塊のような気もするけどね」
そして、自分の形のチョコを作っているオペラオーさんを発見。
スマホを取り出して電話。
「スズカさん、オペラオーさんと被ってます……」
『うそでしょ』
個性の塊仲間…。
とりあえず調査結果を伝えると、少し考えてからスズカさんは言った。
『………ありがとう、スぺちゃん。一つ思いついたことがあるから、試してみるわね』
―――――――――――――――――――
「というわけでお兄さん、おめでとうございます」
「ありがとう、というか0時なんだけど……」
さっき「お兄さん……今日は寝ないで下さい」って湯上りのスズカに言われて「!?」となっていたが、普通にバレンタインだった。
「……その、お兄さんに一番に気持ちを伝えるのは譲れませんから」
「うんまあ嬉しいけど。寝不足には気を付けてな」
取り出してきたのは普通の包装。
思ったより普通っぽいので安心しつつ開けてみると。
「その、ホワイトチョコのトリュフで。私の好きな景色を表現してみたんです」
「お、おお。可愛い」
ミニチュアのスズカと、まさかの俺。
笑顔のスズカと、ちょっと照れてる風な自分(妙に美化されている気はする)が並んでいるのは気恥ずかしい―――。
「ずっと一緒に、ずっと先まで……あなたと一緒に歩んでいくのが、今の私の、いちばん大好きな景色です」
サイレンススズカの
ホワイトトリュフミニチュア人形
故郷の雪も、あなたの隣も。
どちらも大好きな景色だから。
私たちの大切な思い出を感じてもらえるように作りました。
この景色の先へ、これからも一緒に歩んでいきたいです。
あと、お兄さん型のチョコは私が食べたいです。
派閥について
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スズカさんイチャラブ派
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他の個別ルート見たい派
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ハーレム派