イベストのネタバレありますのでご注意ください
夏合宿編1話
(初夏が過ぎて朝の風がもっと暖かくなり――――気持ちよく走れなくなってくる頃。私たちの夏合宿はそんな空気のさなかに、始まる)
きっとそれは、あまり暑さが得意じゃないウマ娘の性質を考慮していて。
できるだけ良い状態でトレーニングできるようにとか、そういう意味合いもあるのだろうけれど。
………
……
…
「いやぁ~始まるねぇ! 楽しい楽しい、夏合宿が!」
「はーん? なんか企んでんなぁ、タキオン」
「『長期的な集団宿泊活動によるウマ娘の心身の変化』についての研究ですよ」
「ちょうき…は?」
「本学園において夏合宿とは――――」
「カーフェ! なんだいなぜ君がその機密書類を―――」
「共有スペースの床に落ちていましたが」
「やっぱり妙な事企んでたな」
「待て待て。あくまで私は真面目に夏合宿を楽しむだけだ。が―――ほら、色々と影響がありそうだろう? 彼女とか」
目線の先には、愁嘆場――――らしきもの。
「――――…いやあの、スズカ? いい加減バスに乗って? お前の席そっちだから」
「嫌ですお兄さんの車で行きます」
ゲート入りをゴネるウマ娘の如く、トレーナーに抱き着いて梃子でも動かぬとばかりの栗毛のウマ娘が一人。
「おいスズカ、遠足じゃなく合宿だからな。集団行動の何たるかを――――」
「でもエアグルーヴ、バスにはお兄さんがいないのよ…?」
「バスにトレーナーの席がないのも、トレーナーの車に生徒の席がないのも当たり前だ。さあさっさと来い」
「うそでしょ……じゃあお兄さんの上に座ります」
「いやそういう問題じゃないから。向こうで合流しような」
「ほら、行くぞスズカ」
「おにいさーん……」
エアグルーヴに引きずられて乗車する無敗の三冠ウマ娘。
こんな三冠ウマ娘見たことがありません、と脳内で誰かが言った気がした。
座席に座らされたスズカは、エアグルーヴが隣のウマ娘に話しかけられた隙に窓を開けて――――そのまま脱出! ああっとサイレンススズカ窓から出てしまった!
そしてトレーナーの車に乗り込もうとしたところであえなく御用。
何やら話し合った末、何故か頭にタオルを被せられてしばらく密着した後、タオルは被ったままとぼとぼとバスに戻ってきた。
「……スズカ、いつの間に脱走したんだ…」
「ちょうど窓が開けられたから……」
「で、そのタオルは?」
「お兄さんがくれました」
「……で、その顔は?」
「えっ? 何か変かしら……?」
すごーく緩い顔をしたスズカに何があったか凡そ察したエアグルーヴは、頭痛を堪えるように額に手を当てつつもスズカの席を大外……もとい、窓から遠い位置に変更するのを決断した。
「……あれで強いんだから意味分かんねぇよなぁ」
「興味深いとは思わないかい?」
「…………なんというか、悪趣味では?」
「カフェも興味津々なのは分かって――――いたたたた!?」
「…悪趣味ですね」
「うわぁ」
見えない何かにアイアンクローをキメられているような格好のタキオンに冷ややかな目を向けるカフェと、目に見える心霊現象に固まるポッケ。
夏合宿はどうやら最初から波乱含みのようだった――――。
―――――――――――
「はーい、全員到着しましたね。これからは基本的に集団行動となります。普段以上にみんなで協力し合うことを意識しましょう!」
「トレーナーがいる子たちはトレーナーの指示に従ってね。というわけで、いったん解散!」
と、先生が言った瞬間スズカはスタートダッシュを決めて駆け出し。
何故かこちらへ。
「トレーナーさーんっ!」
「よしバス我慢して偉いぞスズカ。じゃあ室長のエアグルーヴのところに行くように」
帰れ。ゴーホーム。
一瞬で耳が萎れたスズカは即座に気を取り直すと笑顔で指を絡めつつ手を握ってくる。何この無駄な早業。
「うそでしょ……じゃあお兄さんも来てください」
「いや俺これからミーティングあるから……頑張った分だけご褒美あげるから、な?」
「ご褒美……一緒に走ってくれるとか…? でもそれって普段通りのような……」
「全力で甘やかしてやるから」
「じゃあ夜の自由時間に甘やかしてくれますか?」
「え゛っ………新手の拷問じゃ………いやわかった! 自由時間に全力で甘やかしてやるから合宿に集中してくれ」
さすがに他の生徒がいっぱいいる中で教育に悪そうなことはできない。
(この合宿場の夜は)やけに静かですねぇ……まあでもスズカも頑張ってたし! 俺も頑張らないと! 俺たちが止まらない限り、景色は続く――――。
そんな茶番はさておいて、笑顔でエアグルーヴのところに戻ったスズカを見送りつつこちらも仕事にいかねば。
「頼むから大人しくしていてくれ、スズカ…」
「大丈夫よ、エアグルーヴ。私、お兄さんのために頑張るわ…!」
………
……
…
「ほう、ここが今日から我々が共に過ごす空間か――――まずは隅々まで調査、と。見晴らしは……悪くない。ところであれはないのかい、菓子盆は!」
「バーカ、旅館じゃねーんだぞ。おっ、冷蔵庫ある! コーラ入れようぜ! コーラ!」
「ほら、皆荷物は部屋の隅にまとめておけ。初日といえど忙しいからな、さっさとジャージに着替えるぞ」
(こうして、夏合宿は幕を開けたのだけれど――――)
―――――――――――
「………はぁ」
(夏合宿が始まって、まだまだ3日目……なのに)
「――――アグネスタキオン、サイレンススズカ、ジャングルポケット、マンハッタンカフェ。以上、207号室は全員揃っています」
(みんなで朝の体操。……普段なら、今頃はお兄さんと一緒にランニングの準備をしている時間で――――)
「メニューが基本的に一律で決まっているというのはいいねぇ。皆のデータがとりやすくて助かる」
(普段なら、朝のランニングから帰ってシャワーを浴びたりしている頃で―――)
「な、みんなでトレーニングしねぇ? せっかく同室なんだし、わざわざ相手探す手間も省けるしさ!」
(いつもなら―――…)
(………思い切り、お兄さんにくっつきたい。ぜんぜん、足りていない……)
せめて思い切り走れれば気晴らしになるけれど。
一人で走るのは………それに、勝手にどこかに行くわけにもいかないし…。
(……でも、ダメ。好き………やっぱり会いたい)
夜、部屋で並べられた布団にとりあえず座ってみて。
迷惑かもしれないけれど、やっぱり会いたい。
今日は朝ごはんの時に手を振り返してくれたけれど……手も握れていないし。近くにいるのに、声も聞けていない。
……お兄さんも、きっと嫌じゃない……はず。
お仕事は忙しいのだろうけれど……。
思い立ったが吉日とばかりに立ち上がり、こっそりと――――。
「――――待て、スズカ。どこに行こうとしている」
「……! そ、その……今からお兄さんのところに行こうかな……って」
「なるほどな。しかしじき、消灯時間だ。今からだと、トレーナーも見回りの準備で忙しいだろう」
「うぅっ、それはその……そう、よね………」
「まったく……合宿の場でも変わらずだな。お前のその性格は」
「……早朝ならば走る時間も、トレーナーの指導を受ける時間も取れるだろう。ただ、配膳当番には遅れないよう気を付けろよ」
「……! ありがとう、エアグルーヴ!」
「なー、隣の部屋の連中がトランプしないかってさ。お前たちもどうだ?」
「あ……ごめんなさい、私ちょっとお兄さんのところに行ってくるわね」
今日はとりあえず顔を見てぎゅっとハグするくらいでも…いいかな。
でもお兄さんは約束なのでチューくらいはしてくれても……続きは朝ね。
「結局行くのか……」
――――――――――――――
「お兄さーんっ!」
「おい呼ばれてるぞモテ男」
「ありがとうございます実はおハナさんとただならぬ仲の沖野先輩」
「いやそれは無いだろ。自慢じゃないがアイツに好かれるようなところが何一つ無い男だぞ俺は」
「うそでしょ……」
何なの? この世界のトレーナーはにぶトレーナーになる法則か何かあるの?
とかそんな衝撃を受けていると、拗ねて頬を膨らませたスズカがこちらの腕を抱き寄せて―――胸がないので何もあたらないが、それはそれとして暖かくて柔らかい。主に腕とかお腹が。
「お兄さん、消灯時間までいっぱい甘やかしてくれる約束は…?」
それ初日にしたやつだけどやっぱり継続? まあそうだろうなぁ…。
「まあ今日もよく頑張ったな。……当番とかどうだ?」
「明日は配膳当番なんです。でもお兄さん、早起きすれば朝会えるんじゃないかって、エアグルーヴが」
「……朝ね。6時でいい?」
「4時くらいがいいです」
早いよ!?
こっちは見回りとかもあるんだけど!
あとビーチにゴミが落ちてないかとか毎日トレーナー達で確認してるんだけど!?
「……」
「……」
「5時半」
「4時半」
「5時15分」
「5時」
「5時10分……」
「じゃあ起こしに行きますね!」
…………俺、無事に合宿乗り切れるかな…。
次の中で気になるキャラは
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トウカイテイオー
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グラスワンダー
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ヤマニンゼファー
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マンハッタンカフェ
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アドマイヤベガ
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アストンマーチャン
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カレンチャン
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メジロマックイーン
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セイウンスカイ
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ファインモーション
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ライスシャワー
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ナリタタイシン
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キタサンブラック
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サトノダイヤモンド
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上記以外
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サイレンススズカ(本物)
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サイレンススズカ(ワキちゃん)
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桐生院トレーナー
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樫本トレーナー
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ライトハロー