※イベスト時空なので特に時系列には関係ないです
「あー、楽しかった~! やっぱりトランプもみんなでやると面白いね!」
「スズカさんも来ればよかったのに。もしかしてあんまりみんなと一緒にいたくないのかなぁ……」
「いや、そういうわけじゃない。あいつはなんというか、その……トレーナーのところだ」
「「ああ~~」」
ちょっと気まずげなエアグルーヴだが、同室のウマ娘二人は納得しかなさそうな顔で頷いた。
スズカとトレーナーの仲は全校生徒、というか世界的に有名なわけで。ついでにそのラブラブぶりと、常に一緒にいることくらいは周知の事実であった。
「いいなぁ……私もスズカさんのトレーナーさんみたいに甘やかしてくれて、仕事ができて、優しい彼氏が欲しいなぁ」
「エアグルーヴさんはどんな人が好きなんですか?」
「いや、私は―――」
「コイバナ! 合宿と言えばですよね!」
「ちなみに私はライスシャワーさんのトレーナーさんみたいな人が好きです!」
「はぁ……まあ、私生活がだらしのない男はお断りだな」
(((そんなこと言ってダメ男製造してそうだなぁ)))
周囲から一斉に生暖かい目を向けられて動揺したエアグルーヴは、とりあえず隣にいたカフェに話を振った。
「私だけ語らせるな! カフェはどうなんだ?」
「……私、ですか? ………そう、ですね。気の多い男性はどうかと思います……」
「一途な人がいいんですね! スズカさんのトレーナーさんみたいな?」
「………まぁ」
「でもせっかくなら好きなところ! いいところで考えましょう! ね!」
「良いところは……人のために頑張れる人、でしょうか」
「あー、スズカさんのトレーナーさんみたいな?」
割とウマ娘の怪我予防やら何やらで奔走していることが多い男である。
一人の天然が地雷を踏み抜きにいっている間に周囲は戦々恐々としていたが、特段何か怪奇現象が起こることもなく。
「……まあ、そうかもしれません」
「うーんやっぱりいいよねー」
「じゃ、じゃあ次! タキオンさん!」
「私かい? そうだねぇ、最新の薬を躊躇いなく飲んでくれる健康的で度量が広い人が良いね」
(度量の問題なのかな…?)
(それつまりトレーナーさんなんじゃ?)
(モルモットさん……)
「じゃあ水着で悩殺するんですか?」
「え? いや、水着はほら……肌面積が気にならないかい?」
「え?」
「そんなの気にするんですか?」
「ウマ娘用でない服を平然と着るタキオンさんが、ですか…?」
「いや君たち私のことをなんだと――――」
「「「(アグネス)タキオン(さん)」」」
「流石に風評被害が混じっていないかい!?」
そんなわいわいと賑やかな騒ぎに混ざりつつも、エアグルーヴは心ここにあらずだった友人に想いを馳せる。
(――――普段とはまるで違う毎日だ。好きに走れず、トレーナーとも距離を取らなくてはならない……スズカの気持ちはたぶん理解できる。ただ――――)
「……いや、これは私のエゴか」
―――――――――――――――――
「……すー、はー………。うん、いい空気……」
「おい」
何やらずっしりとした重みを感じて目を覚ますと、布団の上にジャージ姿のウマ娘が。というかスズカがいた。流石にこちらにも羞恥心はあるので寝間着の臭いを嗅がないでほしい。
外はまだ空が白んできたくらいで、確実に約束の時間ではないはず。なのだが……。
「えっと……眠れなくて。きちゃいました」
「………はぁ。仕方ないな」
寝た気はしないが、それでもまだ頑張れる。
いったんスズカをどかして身体を起こし、同室のトレーナーを起こさないようにこっそりと着替えて外へ。
……目の前で脱がれると慌てて逃げるくらいの羞恥心はスズカにも芽生えたらしい。喜ばしいような、やっとそこかというような……。
――――――――――――――
(――――ああ、やっぱり心地いい! 走れば走るほど、景色がキラキラ輝いて――――)
(脚が勝手に前へ前へ進んでいくみたい! どこまででも、どこまででも行けてしまいそう! ふふっ!)
「お兄さんっ、どうですか? ――――あら?」
さっきまでアドバイスとか感想とか、あるいは走りに関係のない合宿の雑談をしてくれていたお兄さんは、いつの間にか眠っていて―――。
木に凭れるようにして眠るお兄さんに、不満半分、心配半分でとりあえず呼吸しているのを確認。
「おにいさーん」
「………ぐぅ」
「……むぅ~………やっぱり疲れてるのかしら…」
少しばかり早起きしてもらいすぎたかもしれない。
寄りかかっている木も固そうだし……ということで、なんとなく膝枕。
「お兄さん、今なら……二人っきりですよ?」
「……………」
返事は無い。ちょっぴり申し訳ない気持ちになり、なんとなく頭を撫でてみたり。
「…………合宿、かぁ」
集団生活はやっぱり苦手で。
できればずっとお兄さんと一緒にいて、好きなだけ走っていたい。けれど、それができないのなら―――。
………
……
…
「…………ん、あれ……?」
「おはようございます、お兄さん」
目の前――――本当に目の前にスズカの顔。そして軽く触れ合う唇に、強制的に意識が叩き起こされた。
「――――その、おはようございます、のチュー……なんですけど」
「…………おはよう」
朝から破壊力が高すぎるのでは。
しかも何故か頭の下に柔らかい感触があるし。ジャージを纏った綺麗な平原も見えるのでもしかしなくても膝枕。
「……悪い、完全に寝てた」
「いえ、その……ごめんなさい、どうしてもお兄さんに会いたくて、無理を言ってしまって……」
「いや、別にいいよ。俺もスズカと居たかったし」
「………お兄さんって、こういうときズルいと思います」
「なんでさ」
「なんでも、です」
イマイチ寝ぼけて頭がはっきりしないが、そろそろスズカは配膳当番の時間だったか。俺も朝食を取ったらすぐ仕事にいかないと―――。
そんなことを考えていると、スズカはぎゅぅっと抱き着いてきて。ウマ娘の力の強さとスズカの寂しがりっぷりをひしひしと感じつつ抱きしめ返す。
「お兄さん、私も……頑張ります」
「ん。……無理そうだったら遠慮なく言えよ。すぐ行く」
「……その、合宿が終わったら――――…わたしも、お兄さんにご褒美……あげますね?」
「――――」
返事をする隙も無く駆けだしたスズカの背中が遠くなる。
ほとんど変わらない背丈だけれど。それでも何かスズカが大きくなろうとしているような―――そんな予感を感じた。
――――――――――――――――――――
「――――あっ、エアグルーヴ」
「む。てっきり間に合わないのではないかと思っていたが――――杞憂だったみたいだな」
「……ぅ。ごめんなさい、心配かけて」
食堂に向かうと、配膳係をすっぽかすことを想定してか準備していたエアグルーヴの姿が。……本当に面倒見がいいというか、申し訳なくなるくらいいい友人だ。
「まあ、スズカを唆したのは私だからな。責任は取ろうと思ったまでだ――――それに、落ち込むスズカを見るのもいい気分ではない」
「……ありがとう、エアグルーヴ。ところでその、一つお願い……というか、相談があるのだけれど」
「む。………乗りかかった船だ、言ってみてくれ。ここで聞かねば気になって仕方なくなりそうだ」
「実は―――――」