異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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大逃げ式投稿スタイル

逆噴射しても許して





夏合宿編3話

 

 

 

 

 

 

『――――その、私ももう少し合宿に馴染めるように……頑張ってみようかな、って』

『……そうか。いや、良いことではないのか?』

 

 

 

『でもその……普段からあまり関わらないのに……迷惑じゃないかしら?』

『気にしすぎだ。皆、スズカと話したいと思っているさ』

 

 

 

『そ、それはそれで申し訳ないような―――』

 

 

 

 

 

 そんな会話があり、流石に昼間は練習もあって特に変わらなかったが――――夜。

 あまり夜更かしできないこともあり、毎晩恒例になりつつあるトランプが用意され。

 

 

 

「はーい、じゃあ今日もトランプやる人!」

「やるやる~」

 

「では私も参加しよう」

「……えっと、じゃあ私も……いいかしら?」

 

 

 

「「スズカさん!?」」

 

 

 

 

 反応がスぺちゃんそっくりだったのでちょっと驚いたスズカを他所に、憧れのスター参戦とばかりに大盛り上がりの同室ウマ娘たち。

 

 

 

「いいんですか!? やりましょやりましょ!」

「あの……恋バナ! 恋バナすることになってるんですやりましょう! スズカさんも聞かせてください!」

 

「ええっ!? ……そ、その……お手柔らかに、ね?」

 

 

 

 

(全く、やはり杞憂だったな――――)

 

「おいエアグルーヴ、やらねーのか」

「いえ、恐らく今は……」

「あー、これがトレーナー君の言っていた後方腕組み師匠面というやつだね」

 

 

 

 

 

 そもそも無敗の三冠ウマ娘であるし、生涯無敗な上に海外もドバイ、欧州、アメリカと最高峰のレースを勝利している。威圧感に悩む会長と違って良くも悪くもレース外での威圧感は皆無。むしろトレーナーに甘える姿が世界に知れ渡っている。

 

 それがつい最近までの出来事ということもあり。エアグルーヴとしては非常に複雑な心境であるが、一般生徒からの人気という観点ではスズカの方が会長をも上回るかもしれない。

 

 

 

「……じ、実際その、どうなんですか……うまぴょいとか…?」

「えっ」

 

 

「アブノーマルなプレイもするんですか!?」

「ええっ!?」

 

 

 

 

「え、エアグルーヴぅ……」

「おいお前たち! スズカがお子様――――初心者なことくらいは知っているだろう! あまり過激なことを聞くな」

 

 

「「はーい」」

 

 

「エアグルーヴ!? うそでしょ……」

 

 

 

 

 まあ話題はともかくバ鹿話に興じることは打ち解けるのに悪くはないだろう。

 初心者(既婚者)とは一体…という感じだが、公衆の面前であれだけいちゃつけるスズカにロクな知識がなかったことは周知の事実。

 

 

 

「実際初うまぴょいはいつなんですか!?」

「……け、結婚してから…?」

 

 

「ペースは!? 掛かり気味になったりします!? タイムは!? 何レースくらいするんですか!?」

 

「えっ、レース…? ペースは分からないのだけれど……■レースくらい…? タイムは……■時間とかだったような……」

 

 

 

「「…………それトレーナーさん死ぬのでは?」」

「うそでしょ」

 

 

 

「いやだって搾り取られてる……」

「夜のステイヤー……やっぱりステイヤーはエロいって本当だったんですね。デカ耳ステイヤーのライスさん最強…?」

 

「……私の方を見ないで欲しいのですが」

 

 

 

 

 ステイヤー怖い…。

 そんな目線を受けてすごく嫌そうなカフェ。意味分かってなさそうなポッケ。

 興味深いねーと言いつつ淡白なタキオン。

 

 そんな各々に畏怖の目を向けられてスズカもちょっとキレた。

 

 

 

「お兄さんがしてきたのに!?」

「「えっ」」

 

 

 

 

「審議! 審議です!」

「エアグルーヴさんどう思いますか!?」

 

「いや、どう思うも何も……長年の反動ではないのか?」

 

 

 

 思春期の性衝動を抑え込むくらいには自制しているトレーナーである。

 まあ多少激しいくらいはありそうだが。

 

 

 

「ちょっと尋常じゃないですって!」

「スズカさんサキュバスの可能性が……あっ、エアグルーヴさんもまだ無いのか……」

 

 

「いや、お前たち………」

 

 

 

 

 まあ無意識に甘えてくるスズカに抑えが利かなくなって―――という可能性は十分にある。そして「エアグルーヴさんも身持ち固そうだもんね」みたいな生暖かい目が飛んでくるがいやそんな経験をしているのなどスズカくらい――――の、はずだ。いやまさかあるのか。

 

 

 

 

「だって私彼氏いるので」

「許嫁がいるので」

 

「………」

 

 

 

 

 色々と言いたいことはあるものの、叱るのも違うだろう。というか仮にも女子校(のようなもの)だぞ。普通は出会いも何もないだろうに。

 仕方なく言いたいことは飲み込んで、とりあえず仲間と思われるカフェ、ポッケ、タキオンに目線を向ける。

 

 

 

「………はぁ。私はまあ、そういう相手がいませんので」

「? 好敵手ならコイツらかなー」

「今のところそういった実験の予定はないねぇ」

 

 

 

 

 

 最早トランプ関係なく、好きな男性の仕草やら匂いやら服やら嬉しかった言葉などなど。次から次へと話題が変わりつつも姦しく夜が過ぎていく―――。

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――

 

 

 

 

 

(急にポッケに呼ばれたけれど―――場所、ここで合ってるかしら?)

 

 

 

 海辺、砂浜。夏の太陽―――走ったら気持ちよさそうだなぁ、なんてことを考えつつも誰もいないのが気になってつい左旋回してしまう。

 

 

 

「よぉ、スーズカ♪」

「ポッケ……と、その後ろにいるみんなは……?」

 

 

 

「おうおう! ポッケさん、このウマ娘っスね、標的は! ――――なんかめっちゃテレビでみた感じの人なんスけど!? 遠慮しなくていいんですか、本当に…!?」

 

「標的……遠慮……? えっと、なんだか嫌な予感がするのだけど……」

 

 

 

「そりゃあ、決まってんだろ? ――――オラァ!」

「きゃぁっ!?」

 

 

 

 瞬間、取り出される水鉄砲―――けっこう容赦のない水量のそれを、スタート用の急加速で辛うじて回避。そのまま大逃げを打つ―――。

 

 

 

「――――おいコラ逃げんな! 今日休みだろ、水鉄砲で大乱闘しよーぜ! 俺、頭数揃えてきたしさ!」

 

「これスズカさん用の水鉄砲でーす!」

 

 

「あ、ありがとう……じゃなくて! どうして急に……?」

 

 

 

 

 言っている間に放たれた水鉄砲を無駄に洗練されたステップで避けるスズカに、ポッケも笑みを深めて予備の水鉄砲を手に取る。

 

 

 

「ちっ、やるじゃねーか。なら二丁でいかせてもらうぜ―――!」

「お兄さんとよく遊んでいたから……勝てば言う事を聞いてくれるって」

 

 

 

「おっ、いいな。それ採用―――わぷっ!?」

 

 

 

 片方が弾切れした瞬間、方向転換したスズカが一発。ポッケの耳に直撃させ、容赦のなさすぎる攻撃に悶絶するポッケに、ちょっと申し訳なさそうにしつつ水鉄砲を向けるスズカ。

 

 

 

「ええっと……トドメは刺したほうがいいのかしら…?」

「水……耳に水が――――くっそ……上等だ、とことんやってや――――ぐはぁ!?」

 

 

 

 

 バシャ、バシャ、バシャ。

 容赦なさすぎる追い打ちに慌てて周囲からの援護射撃がはいるが、ポッケを盾にして回避したスズカはそのまま逃走。

 

 

 

「この、やるじゃねーかスズカァ! アッハッハハ!」

「私の勝ちね。それで、どうして急に?」

 

 

 

「別にィ? お前とマジんなって遊びてーなって思っただけだよ。そんなんやんねーだろ? 普段はさ」

 

「……ポッケ。えっと、ありがとう…?」

 

 

 

 

「さーて、一発してやられたことだし……おーい、そろそろお前らも交ざれよ! タキオン、カフェ、エアグルーヴ!」

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

(そうして、走り回って撃ち合って、全員ずぶ濡れになって、空が茜色に染まっていたことに、誰も気づかないくらいで――――エアグルーヴを海に付き飛ばしたりなんてこともしてしまったりして)

 

 

 

「スズカ、ちゃんと水分は取れよー。君たちもなー」

 

 

 

 途中でスポーツドリンクをサーバーごとお兄さんが運んできてくれたり。

 

 

 

「ほらスズカ、アイス」

「……! ありがとうございます、お兄さんっ」

 

 

 

「あっ……バナナアイス!」

 

 

 

 アイスが好物のバナナ味だったり。

 何故か他にも容器ごと買いこまれていたけれど。

 

 

 

「……これは……どこかの業者ですか」

「いや、車でひとっ走り仕入れてきただけだけど。カフェも食べてくれ、アイス」

 

 

 

「先ほどドリンクも頂きましたが……」

「コーヒー味もあるぞ」

 

 

 

「……別に、アイスまでコーヒー味が好きというわけでは……ですが、ありがとうございます」

「ああ。こっちこそありがとうな」

 

「―…お兄さん、食べさせてください」

 

 

 

 

 何故かカフェさんと話しているお兄さんに構って構ってと寄ってみたり。

 

 

 

「スズカお前汗凄いぞ……しっとりしてる」

「……えっと、嫌ですか…?」

 

 

 

 

 汗とかは気になるけれど。 

 海水で冷えた身体にお兄さんのぬくもりが心地よくて。なんとなく甘えるようにお兄さんの腕に身体を寄せて。

 

 

 

「嫌じゃないけどお前……めっちゃ見られてるぞ」

「え?」

 

 

 

「これが噂の――――!」

「スズカさん最高。推せる」

 

「………できれば人目に付かないところの方が……」

「いやー、これが噂の……興味深いねぇ。是非とも前後でデータを取らせてもらいたいが」

 

 

 

 

 満足気に倒れ伏しているポッケ以外は興味津々といった様子で。

 なんとなくいたたまれなくなってお兄さんの後ろに隠れた。

 

 

 

「スズカ………」

「まあ、ポッケ君の作戦は成功と言えるのではないかな?」

「……」

 

 

 

 

「……そうだな。これで、私の目的も果たせたよ」

「………目的、ですか…?」

 

 

 

「私も、スズカとの思い出が―――いつか思い出せる何かが欲しかったのさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 星空の下で、みんなで集まって花火で遊ぶ。

 楽しそうなスズカの笑顔が眩しくて、少し離れた場所で念のための消火用バケツを準備しながら眺める。

 

 

 

「よ、しけた面してるなー」

「なんですか沖野先輩。おハナさんのところに行かなくていいんです?」

 

 

 

 

「いや、アイツも俺が来たら気が休まらないだろうが。それよりお前、自分の嫁のことはいいのか?」

「いや、せっかく成長してるところを邪魔しちゃだめでしょうに…」

 

 

 

 一応、教師と教え子という関係でもあったわけだし。

 ……いや、今でもルドルフ会長と同じで半分生徒で半分指導側みたいな微妙な立ち位置なのだが。

 

 

 

「なんだ、寂しくないのかー?」

「寂しいに決まってるでしょうが」

 

 

 

 

 結局毎朝必ず会っているし、すれ違う時は笑顔で手を振ってくれたり抱き着いてきたりするが、ほぼ接触はなし。

 

 

 

 

「よし、じゃあお前も夜の街に繰り出そうぜ」

「また行くんですか……」

 

 

 

 美少女ウマ娘だらけのトレセン学園のトレーナーは、割と行きつけの夜の店があり。

 色々と溜まるものとか堪らない諸々があって人によっては毎晩のように通って高い給料をすり減らしているのだが。

 

 

 

 

「だってお前――――」

「でも、好きな子の笑顔を見る方が大事だと思いません? スズカにとって今しか経験できないことで、俺にとっても今しか見られないものですよ」

 

 

 

「もうお前交じってくれば?」

「嫌ですが?」

 

 

 

 

「―――お兄さん?」

「うおっ」

「どうした、スズカ」

 

 

 

 

 するりと抜け出して隣にやってきたスズカは、にっこりといい笑顔を浮かべて。ついでに何故か花火を用意しながら言った。

 

 

 

 

「何の話をしてるんですか?」

「いや、普通にトレーナーとしての雑談だけど」

 

 

 

 

 性欲のコントロールもトレーナー業務のうち。

 そんな気持ちを込めて言い放つと、スズカはちょっと耳を動かして不満げにした後、花火の持ち手を押し付けてくる。

 

 

 

 

「じゃあ、構って下さい。寂しいです」

「いいけどお前……友達と遊ばなくていいのか?」

 

 

 

 

 

 すたこらさっさと逃げ出す沖野先輩を尻目に、スズカは勝手に背中側から抱き着いてきて。密着する熱を感じながら、二人で花火に火をつけた。

 

 

 

 

「……今しかできないことって、多分あんまりわからなくて―――もしかしたら、あとから後悔するのかもしれないですよね」

「まあ、そうかもな」

 

 

 

 

 過ぎ去って、失ってからしか分からないものもある。

 スズカの鼓動を背中に感じながら、一瞬だけの輝きを見せる花火を眺める。燃え尽きて、火が消えて。灰になって散っていく光。

 

 

 

 

「……でも、私、後悔しませんから。今だけじゃなくて、未来も。これまでの思い出も。貴方がいてくれたから、私の景色はいつだって輝いていて―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………お兄さんにも、忘れない思い出を沢山作ってもらいますから。だからその……ええっと―――……覚悟してくださいね?」

 

 

 

 

 

 ずっとスズカと過ごしてきた。

 春も夏も秋も冬も超えて、祭りやクリスマス、バレンタインに節分、何気ない日々の思い出も。俺はもう十分すぎるくらいだから、スズカにもっと色々な思い出を、学生らしいものも作って欲しかったのだけれど。

 

 背伸びしたスズカの唇が、頬に触れる。

 そのまま脱兎のごとく駆けだしたスズカを目で追いながら、小さく呟いた。

 

 

 

 

 

「よし、俺も――――ちょっと出かけてくるか。沖野先輩ー!」

「お兄さんっ!」

 

 

 

 

 しこたま怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

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