異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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感想下さった方ありがとうございます。返信する余裕がなくて申し訳ないです。

短いですが本日2話目です。

 


夏合宿編4話

 

 

 

 

 

「さぁ! グラスを手にとりたまえ! 待ちに待ったBBQパーティ―――否、ビーチパーティだ!」

 

 

 

 

 タキオンの音頭と共にあちらこちらで歓声が上がる。

 ビーチフラッグで遊ぶ子がいれば、パラソルの下で話す子も。

 

 そんな中、普段と違う水着姿のエアグルーヴを見つけて、スズカもゆっくりと近づく。

 

 

 

「エアグルーヴ」

「楽しんでいるか、スズカ」

 

 

「このにんじんは美味くてな。―――お前は今日の立役者だろう、たくさん食べろ」

「お手本がいるから、そんなに凄く大変だったわけじゃない…と思うのだけれど」

 

 

 

 『とりあえず得意な人に振るのが仕事』とはよくお兄さんが言っていることである。

 参謀役の似合うエアグルーヴ、仲間を纏める能力のあるポッケ、心霊方面に限らず知識が深く落ち着いて判断できるカフェ、持ち前の発想力で突破口を開いてくれるタキオン。

 

 そのほか、トレセン学園は頼もしすぎる面々が揃っているので。『みんなが楽しめるように』という理由であれば凄い力が発揮される。

 

 

 

「全くお前という奴は……そういえば、ポッケがビーチバレーをすると張り切っていた。私も誘われたのだが……お前もどうだ?」

「そうね。参加してみようかしら」

 

 

 

「ふっ、そうか。夏合宿に来たばかりの頃のお前からは考えられんな」

「……あんまり思い出さないでほしいのだけれど」

 

 

 

「それは無理な話だな。覚えているか、寮生活にもまた、慣れるまで時間が掛かっていたことを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカ! 何度言えば分かる、夜は門限を守れ! 朝のランニングは早めに戻れ! あとトレーナーを寮に連れ込もうとするな! トレーナー寮にも侵入するな!』

 

『その……お兄さんがいないとどうしても落ち着かなくて……ごめんなさい』

 

 

 

 

『……む。なんだその目の下のひどい隈は……というか部屋の物音が凄いと話が来ているが……』

『―――……少し歩いていると落ち着くからかしら……』

 

 

 

 

 少しか…?

 と、下の部屋の生徒が聞けば思っただろう。ついでに泣いてる声がすると隣の部屋の生徒から心配そうに相談されていたりするので、余計に心配なのだが。

 

 

 

 

『……偶にでいい、寮生と話すようにしてくれ。お前は自由奔放な上に無口だろう。不良だと怖がられているぞ』

『う、うそでしょ……』

 

 

 

 

 どちらかというと心配されているのだが、まあ多少大げさに言っておいた方がよさそうだった。

 

 

 

 

「あの時も私は提案しただけで、頑張ったのはお前だった。時折忘れながらも、時間に気を付け、食事をとり、話しかけられれば、たどたどしくも応じるようになり―――まあ、長電話が酷くなったが」

 

 

 

 

 スマホの使い方を覚えてしまったばかりにずーっとトレーナーと話し込んでいると話題になったものだ。

 

 

 

「定額プランじゃなかったら5万円くらいだったかしら……」

「いや話しすぎだろう」

 

 

 

 

「まあ実は小柄で幼いウマ娘が大好きなお兄さんと離されて涙の夜を過ごしている――――という風に心配されていただけだが」

「うそでしょ!? 道理で不良だと思われてるにしては皆優しいなって……」

 

 

 

「ちなみに皆遠く離れた場所、それこそ海外にでもいると思っていた。まさかトレーナー、しかも担当トレーナーだと思ってるのは一人もいなかったな。私も含めて」

「……ぅぅ」

 

 

 

「それでもお前も少しずつ寮の催しに参加するようになって、雰囲気も明るくなって、嬉しかった。―――まあ、まさかトレーナーの家に転がり込むとは思ってなかったが」

「………ありがとう、エアグルーヴ。いつも気にかけてくれて」

 

 

 

 

「………いや、今回に関しては違う。今にして思えば、半分は自分のためだった」

「エアグルーヴの…?」

 

 

 

 

「……。私の思い出の中に、お前の姿も残したかった。お前と過ごした夏の日々が欲しかったんだ。いつの日か、きちんと思い出せるように―――」

「ふふっ。ううん、ありがとう。―――でも、私は卒業してもエアグルーヴに会いに行くつもりなのだけれど」

 

 

 

 

 不意を突かれたように、エアグルーヴの表情が固まる。

 どんな思い出も、いつかは風化してしまうかもしれない。けれど、一緒に思い出せる仲間がいれば―――きっと、また違う輝きをみせてくれるから。

 

 

 

 

「……やれやれ。卒業後もスズカの世話をするのか、私は?」

「えっと、私とお兄さんの子どものお世話……とか?」

 

 

 

「やめろ。スズカが増えたら手に負える気がしない」

「ふふっ、エアグルーヴなら私より上手に教えられそうだなって」

 

 

 

 

 また、いつかきっと夏が来て。

 その時に思い出す。友人と過ごした大切な日々を―――。

 

 だから、今は全力で楽しんで。

 ビーチバレーで跳びまわり、皆でアイスを食べて。

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

 

 人気のない浜辺で、大切な人と向き合う。

 お兄さんに見て欲しくて選んだ水着は、ちょっとだけ大胆に大人っぽいビキニ。下はパレオを巻くけれど。

 

 きっと褒めてくれるとは思いつつも、ドキドキしながらその時を待つ――――もしかしなくても、レースより緊張するかも。

 

 

 

「凄く綺麗だよ、スズカ」

「……お兄さん。私も、夏の思い出が欲しいんです――――」

 

 

 

 

 甘えるように胸元に頬を寄せて。そっと力強い腕で抱きしめられる。

 頷いてくれたお兄さんを連れて―――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――お兄さん、すごい速いです! 風が気持ちいい――――最高の景色が見られそう!」

「こんなことだろうと思ったよ!」

 

 

 

 

 そう、お兄さんは実はジェットスキーができるんです。

 トレーナーには必須なんだとか。本当でしょうか。

 

 なのでお兄さんにジェットスキーで引っ張ってもらうトーイング?をしてもらうことに。

 

 

 あんまり水の上は走れないですし……。

 あとこれだと常にお兄さんが見えているので、景色としては最高です。

 

 

 

 

 

「私と、お兄さんだけの景色――――」

 

 

 

 

 ちょっと走りたくなってきたので、脚を動かす。

 ジェットスキーの速度が90km/hくらいらしくて、ウマ娘は60~70km/hくらい。でも引っ張ってくれている力を上手く使えば――――。

 

 

 

 

「お兄さーんっ!」

「スズカぁ!? おま、危ないから水面走るな! というか走れるのか!」

 

 

 

 

「追いつけないので、何か叫んでくださーい!」

「ぐ――――ああもう、水着めっちゃ可愛いぞー!」

 

 

 

 

 

 

 波がとても厄介だったのだけれど、なんとか乗り越え。

 さすがに若干減速したジェットスキーに追いついて横から飛び乗るという我ながらけっこう危ないことをしつつ――――救命胴衣越しにお兄さんに抱き着く。

 

 

 

 

「――――頼むから危ないことするな!」

「――――でも、ここからの景色も見たかったんです!」

 

 

 

「そんなことで水面走るなよな……!」

「お兄さんに触れていたいのはそんなことじゃないですよ?」

 

 

 

 

 

 触れているだけで安心して、でもドキドキして。

 ちょっと怖いくらいだけれど、それでももっと触れたいと思ってしまう。

 

 

 

 

「お兄さん。この景色も、私、きっと忘れませんから」

「……見たくなったら、またいつでも見せてやるさ」

 

 

 

 

 だから頼むから危ないことは止めてくれ、とがっくり肩を落とすお兄さんにちょっぴり申し訳ない気持ちになりつつお礼のことはもちろん忘れていない。

 ……忘れていないけれど、お兄さんが喜ぶことってつまり―――。

 

 

 

 

「……どうして男の人ってえっちなことが好きなんですか?」

「それはスズカになんで走るのが好きか聞くようなものだぞ」

 

 

 

 

 どちらも本能だ。とつぶやくお兄さん。

 分かるようなわからないような。

 

 お兄さんに触れると安心するのとか、一緒にいたい気持ちとか。

 本能でひとくくりにされるのはなんとなく嫌だけれど。

 

 

 

 

「ねぇ、お兄さん。私、みたい景色が沢山あるんです」

「……いくらでも見せてやるよ」

 

 

 

 

「海の向こうも、山の向こうも。どこまでも、いつまでも――――だから、ずっと一緒にいてくださいね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、二人で水着を着てお風呂に入り―――。

 珍しく二人で朝寝坊することになるのだった。

 

 

 

 

 

 お兄さんも私ほどじゃないけれど寂しがり屋な気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





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