『――――とりあえず、理事長がエキシビジョンマッチの勝者に出してくれた報酬が「一カ月スイーツ優待券」な。後は応相談だとさ』
「スイーツ、スイーツ!」
スペシャルウィークは歓喜した。必ずやかのスイーツ満漢全席な報酬を手に入れると誓った。のだが。
脳裏に浮かぶのは有マ記念で圧倒的な強さを見せた―――最後まで届かなかった、憧れの背中。
ドリームトロフィーリーグに行くまでもなくリベンジのチャンスが来たのは、もう一度一緒に走れるのはとても嬉しい。
けれど勝つための作戦どころか勝てるビジョンすら浮かばないのが現実で。
「スズカさんに、テイオーさん、グラスちゃんも」
強敵揃いのチームリギル。
相手に不足が無いどころか、こちらがどれくらい足りないのか考えないといけない。
そこで急いで友達にメッセージを送ってみたものの。
出遅れが響いてエルちゃんは既にあっちのチーム。セイちゃんは『えー、ちょっと考えさせて?』とあんまり乗り気じゃなさそうで……キングちゃんはなんとか引き受けてくれたけれど。ツルちゃんはそもそも体調不良……。
まだだめだ。
私たちだけじゃ、きっと勝てない―――。
「どうしよう………誰か、頼れる人……」
こういう時、同期以外と全然話していなかったことを実感してしまう。
どうすればいいのか、そんな悩みを抱えたまま歩いていると。不意にそんな不安も振り切ってくれそうな朗らかな声が聞こえた。
「――――どうかしたの? そんならしくない顔しちゃって」
「ああっ――――!」
―――――――――――――――――――
「――――長距離ならメジロにお任せ下さいまし!」
「おう、このメジロゴルシちゃんにお任せ下さいまし!」
ドン! と平たい胸を張ってマックイーンが宣言した。
デデーン! と豊満な胸を張ってわざわざその横でゴルシが宣言した。
沖野トレは頭を抱えた。
「ちょっとゴールドシップさん!? なんで名前を変えてるんですの!?」
「ええー、いいんじゃんかー。……ダッテ、ゴルシチャンもまっくいーんとオナジなまえにシテミタクッテ……」
明らかに泣き真似だが。
割とマックイーンはお人よしで騙されやすい体質であった。
「わ、わかりました……わかりましたから! ちょっと、泣き止んでくださいまし!」
「うっし、じゃあメジロゴルシちゃんとマックイーンと、あとは……パーマーでいいんじゃね?」
「パーマーなら不足はありませんわね。というわけで、いいですわねトレーナー」
「ああ、オッケーだ。これで長距離は問題ないが―――」
やはりネックはダートと短距離か。
ついでに中距離の層も厚くしないといけないので、ゴルシかパーマーを中距離に回すの検討する。“あの”サイレンススズカがマイルで出る以上は他の距離はなんとしても制しておきたい。
長距離でマックイーンが後れを取るとしたらトレーナーの責任だと考える沖野は、中距離のエースにスペを置くとして――――適性からウオッカとスカーレットはマイル。
他のトレーナーに頼むにしても流石におハナさんには借りられないだろうから、ここは――――。
「スイーツ優待券で釣れると思うんだが――――理事長に怒られるだろうなぁ」
沖野はちょっと胃が痛い気分を味わいつつ、腐れ縁のトレーナーに電話を掛けた。
――――――――――――――――――――
「やっぱり頼むならタキオンさんかしら。すごく頼りになるし」
「やっぱ頼むならギム先輩だよなー。めちゃカッコイイし」
「――――やっぱりタキオンさんに決まってるわ!」
「いいや、ギム先輩だね!」
誰に頼むか、ウオッカとスカーレットの意見は割れた――――が、結局のところ二人とも頼めばいいだけの話であり。
割とウオッカとスカーレットに甘いところしかない二人があっさり引き受けたため、中距離はとりあえず暫定的にスペシャルウィーク、アグネスタキオン、タニノギムレットに決まるのだった。
――――――――――――――――――
「―――――ということは、短距離とマイル、そしてダートですわね!」
メッセージアプリのグループ機能を使用して、今現在の集まり具合を確認すると暫定で
短距離:キングヘイロー
マイル:ダイワスカーレット、ウオッカ
中距離:スペシャルウィーク、アグネスタキオン、タニノギムレット
長距離:メジロマックイーン、ゴールドシップ、メジロパーマー
ダート:■■■■■■■、■■■■■■■、
ということになる。
「とはいえ、メジロは天皇賞制覇を掲げて邁進してきた長距離の家柄―――正直、ドーベルがマイルを走れるくらいでしょうか」
「オッケー、ドーベルに送っとく?」
「……問題は、マイルの相手があのスズカさんということですが」
「あー……最低限勝ち目を作るなら、こっちも爆逃げしないとだよね」
自由に走らせたら圧勝されるのは恐ろしいことにBCクラシックが証明してしまっている。ということは――――!
「ズッ友!」
「ヘリオスさんならマイルも走れそうですわね!」
「すぐ送ってみる!」
そして、数秒後。
「えっ、『マジごめんお嬢ラブで先約しちゃった』って」
「――――…先手を打たれましたわ!?」
――――――――――――――
時は少し遡り。
「――――…おや」
「………」
風の向くまま、ふらふらと歩いていたゼファーが出会ったのは丁度練習後のクールダウンをしていたダイイチルビー。
秋華賞を終えて、短距離への転向を表明した彼女から感じる“風”。それに好ましいものを感じていたゼファーは徐に声を掛けた。
「――――こんにちは」
「……こんにちは」
「その疾風の如き爽やかな風、お貸しいただけないでしょうか」
「…………」
瞑目して意味を考えるダイイチルビーに、ゼファーはそういえば「勧誘したい相手がいたらこれを渡せ」とトレーナーに言われていたことを思い出して、紙を手渡した。
「『ファン感謝祭におけるアオハル杯エキシビジョンマッチ協力のお願い』、ですか」
「はい」
「『チームリギルBチームとしての参加』………トレーナー」
「当日の予定は問題ないよ」
宣伝としても、レース界隈への貢献としても。
ルビー個人としてもダイイチ家としても大いにメリットがある。現在世界最強と言っていいサイレンススズカと距離は違えど同じチームになることも、ハイレベルなレースに参加できることも、注目を集めるだろうことも。
それを察していたトレーナーは既にスケジュール帳を取り出して予定を確認していた。もう執事か何かじゃなかろうかこのトレーナー。
「承知いたしました。ダイイチルビー、お引き受けいたします」
「それはなんとも恵風ですね。ありがとうございます」
「――――ちょっと待ったぁ! お嬢、何かイベント参加するの!?」
「………まぁ」
「ウチも! ウチも参加する!」
「…………とのことですが」
「これは……次々と順風が巡るように―――――」
「つまりそれはオッケーってコト!? だよね!」
「―――――はい」
「やっっったぁーー! お嬢と同じチームとかまじアガる!」
「………では、次の予定がありますので私たちはこれで。何かチーム関係の予定がありましたら連絡をお願い致します」
「はい」
「ってお嬢いないー!?」
―――――――――――――――
「あの……カフェさん? これコーヒーに合いそうなお菓子持ってきたんだけど……」
「………はぁ。今度は何の用ですか」
マンハッタンカフェがアグネスタキオンと半分ずつ使っている部屋――――いつもの如く足を運ぶと、前ほど刺々しくはないものの不機嫌そうなカフェに出迎えられる。
ついでに「お友だち」にも中指立てられてるし…。
「いやその……アオハル杯のエキシビジョンマッチでさ。長距離走れる子を思い浮かべたらカフェが一番に思いついたというか……他にいないというか」
「………一人くらいはいるのでは?」
うん、まあ完全にいないわけでもないけども。
「………えーと、俺の知り合いに頼んでライスシャワーを呼んでもらおうかなとは思ってるけど。でも俺が頼むならやっぱりカフェかなって」
「………………」
すごいなんとも言えない趣深い表情で黙り込んでしまったカフェをじっと見つめていると、不意に顔を逸らされた。
「………あまり見つめないで欲しいのですが」
「えっ、ごめん」
とりあえず考えてくれてはいるみたいなので、「お友だち」が淹れてくれたコーヒーで一服。
「………最近は、学内の霊障も収まってきたようですね」
「カフェと『お友だち』のお陰だよ」
「………まあ、どこからともなく困りごとを集めてくる人もいましたからね」
「……―――俺か!? いえすみませんいつもありがとうございます」
そんな人をトラブルメーカーみたいに……いやまあアヤベを筆頭にちょっと史実再現に霊障みたいなテイストが入ってる時は全面的にカフェに力を借りてたから間違いないんだけれども。
「……そうですね。いつも、眩しいくらいに走り回って………」
「………」
「……でも、私は―――――そんな」
「やあやあカフェ! 少しいいかな、アオハル杯のエキシビジョンマッチが――――おや」
急に入ってきたタキオンは俺の顔を見て、表情が消えているカフェの顔を見て、それからもう一度俺の顔を見て言った。
「ふむ。お取込み中のようだね――――」
「……決めました、とりあえずタキオンさんのチームには負けてもらおうと思います」
カフェの目に青い焔が見えた気がした。
なおこういう時いつもタキオンを締めてた「お友だち」も何故か今回ばかりは隅っこで小さくなっていた。