異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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本日3話目くらいの投稿です。




お気を付けください(B70)










アオハル杯エキシビジョンマッチ(第1R)

 

 

 

 

 

 

『さあ一番人気になったのはオグリキャップ! 笠松以来のダートでその圧倒的なまでの強さを見せつけられるのか注目です!』

『先行策か、はたまた後方からかも注目ですね』

 

 

 

『二番人気はタイキシャトル! 最強マイラー、現役での敗北は二着一回のみという圧倒的な強さですがダート初出走が不安視されているのでしょうか』

『しかしながらその強さと、海外の芝をものともしない適応力は間違いありません。この子も注目のウマ娘ですよ』

 

 

 

『三番人気はマルゼンスキー! “怪物”の異名を取る圧倒的なスピードと加速を今日も見せつけられるのか!?』

『チームリギル同士の対決にも注目ですね』

 

 

 

 

 

 

 歓声が聞こえる。

 ダートではこれほどにはならないだろう、と思ってしまう地鳴りのような歓声。ここで勝てれば、良いレースができれば、あるいはダートに少しでも注目してもらえるのだろうか――――。

 

 

 

 

 

(………マルゼンさん、タイキシャトルさん、エルコンドルパサーちゃん………オグリキャップさん、皆、私よりずっとずっと凄い)

 

 

 

 

 

 アイドルの力がファンの数だとするのなら、オグリ先輩の圧勝だろう。迫れるのはハルウララさんくらいか。

 けれどファンで及ばずともマルゼンスキーも、タイキシャトルも、エルコンドルパサーも、芝で圧倒的な実力を誇り、人気を得ている。

 

 ここで場違いなのは、むしろ普段ダートで走っている私の方だった。

 

 

 

 

 

「おいファン一号、なんか激励してこい」

「いや、それは良いんだが……少し言う内容考えてるんだよ……」

 

 

 

「いやもうゲートインしちゃうから今すぐ行け」

「ちょ、ちょっと待て本気で考えてるんだって!」

 

 

 

「スズカなら『ゴールで待ってるから一番に俺に飛びこんできてくれ』とか」

「ファル子ぉ! ゴールで待ってるから一番に俺に飛びこんできてくれ!」

 

 

 

 

「え?」

「はい、スマートファルコンさんゲートインお願いしまーす」

 

 

 

「あ、はい……え?」

 

 

 

 

 

 なんだか『ゴールで待ってるから一番に俺に飛びこんできてくれ!』とか聞こえたような…………え? ちょっと待って!? ウマドルだしそういうのはちょっと困るというか、ダメなんだけど!? もしかして噂になってた一着だとトレーナーが好きなところにチューしてくれるって本当だった!?

 

 

 つまり、つまり――――。

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

『さあゲートに入って、体勢整いました――――――今、スタートしました!』

『6人とも綺麗なスタートですね』

 

 

 

 

「―――――しゃぃ☆」

 

 

 

 

『まずハナを主張していくのはスマートファルコン! 素晴らしいスタート! 競りかけていくのはマルゼンスキー!』

 

 

 

 

(へぇ、いいスタート。やるじゃない。でも――――あたしも負けないわよ!)

 

 

 

 

『続いてタイキシャトル、エルコンドルパサーがすぐ後ろ! その更に後ろに1バ身ほど離れてオグリキャップ、最後方にハルウララ!』

 

 

 

 

「みんなが、トレーナーが待ってる!」

 

 

 

 

 

 

―――――『≪キラキラ☆STARDOM≫』

 

 

 

 

 

 砂の海を越えて、大勢のファンが待つライブ会場へ向かう――――そんな希望の具現。 

 マルゼンスキーをも引き離して大胆な逃げを打ったスマートファルコンに、客席がざわつき始める。

 

 

 

 

 

 

「おい、あれって大逃げか…?」

「マルゼンスキー相手に!?」

 

「そんなの――――」

 

 

 

 

 大逃げすると言っても限度がある。そもそものスピードが違う相手に大逃げを仕掛けたところでバテて終わるのが関の山。大逃げとは戦術の中でも奇策でしかないのだ。特にGⅠクラスのレースで大逃げ勝ちできるウマ娘なんて滅多にいない。

 『無理だ』と誰かが呟こうとして、歓声に呑み込まれる。

 

 

 

 

 

「いけーーっ! ファル子――――!」

「お願い、アンタならやれる!」

「ダートウマ娘の意地、見せてやれー!」

 

 

 

 

 

 

 元からスマートファルコンのファンだった男たちが、ダートで共に走ったウマ娘たちが送る歓声に背中を押されるように更に加速していく。

 それに付き合うようにタイキシャトルと、スリップストリームを上手く使うようにその背後につくエルコンドルパサーも上がっていく。

 

 

 

 

 

『さあ後続を引き離して先頭に立ったのはスマートファルコン! 2バ身ほど離れてマルゼンスキー! そのすぐ後ろに上がってきたのはタイキシャトルとエルコンドルパサー! オグリキャップは後方に少し離れた! ハルウララも懸命に走っています!』

 

 

 

 

『スマートファルコン先頭! スマートファルコン先頭で最終コーナーに入る! だがマルゼンスキーが徐々に詰め寄ってきている! タイキシャトルとエルコンドルパサーまだ動かない!』

 

(――――この感じ、不味いわね)

 

 

 

 

 

 レースには“流れ”がある。

 それは例えば不意を突いて大逃げを決めたカツラギエースだったり、菊花賞における幻惑逃げのセイウンスカイであったり。

 

 止めなければ負ける――――だが、仕掛けたところで共倒れになるリスクが高すぎる、それが完成度の高い逃げの厄介な点だった。

 

 

 

 

 エキシビジョンマッチということでそもそもの人数が少なく、仕掛けどころも少ない。このまま逃がせば、それこそ逃げ切り勝ちを許しかねない――――。

 

 

 

 

「―――なら! かっ飛ばすわよ!」

「っ!?」

 

 

 

『マルゼンスキー動いた! マルゼンスキーがスパートを掛けた! 最終コーナーを曲がるスマートファルコンの外、一気に詰め寄ってきたのは赤い勝負服のマルゼンスキー!』

 

 

 

 

 

 モノが違うと称された加速で砂を蹴り飛ばし、一気に加速して後方僅かに外に付ける。いつでも抜きされる位置―――――そう思わせつつも、走り慣れない砂にマルゼンスキーも冷や汗を流した。

 

 

 

 

(思ったより加速がつかない! というより―――この子、速い…!)

 

 

 

 

 

 芝であれば、間違いなく抜き去っていただろう脅威の加速。

 けれど、ここ。ダートにおいては、スマートファルコンこそがこの中の誰よりも――――ウララちゃんは別だ―――走りぬいてきた。泥を浴びて、敗北して、それでも走り続けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

「くっ――――!?」

「―――――ぁぁぁああああっ! 負けないっ! 負けるもんかぁあああ!」

 

 

 

 

『スマートファルコン! スマートファルコン先頭! 最終直線に入って、マルゼンスキーを1バ身引き離す! 速い、これは決まったか―――――』

 

 

 

 

 

 まさにサイレンススズカを彷彿とさせる『逃げて差す』走り。

 観客の歓声がより一層高まり、地鳴りのようなそれとともにゴールが見えて。

 

 

 

 振り切った―――そう思ったそのわずかな気の緩みを捉えるように、怪物の足音が響いた。

 

 

 

「掴んでみせる――――みんなの、輝く夢を!」

 

 

 

 

 

―――――『≪聖夜のミラクルラン!≫』

 

 

 

 

 

 

『――――オグリキャップだぁ! 外からオグリ、外からオグリキャップが来た! 更に内からタイキシャトルとエルコンドルパサーも上がってくる! ハルウララは第三コーナーを抜けた!』

 

 

 

『速い! 驚異的な末脚! スマートファルコンも伸びるが―――これは届くか! 高低差のある東京レース場の坂に脚が止まってしまった!』

 

 

 

 

 

(―――――っ、ダメ、まだ―――!)

 

 

 

 

 まだマルゼンスキーに競りかけられていなければ余裕があったかもしれない。

 が、全力を振り絞ってしまった今、東京レース場の坂を登り切り、逃げ切るにはあまりにも後方の勢いが良すぎた。

 

 

 

 

『――――オグリキャップ並ぶか!? 並んだ! 坂を乗り越えて、スマートファルコン粘る! まだ粘る! 日本のダートレース最長の直線、残り200m!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――まだ勝負は!」

「これから!」

 

「「デース!」」

 

 

 

――――――『≪ヴィクトリーショット!≫』

――――――『≪プランチャ☆ガナドール≫』

 

 

 

 

 

 

『おおっと内から一気にエルコンドルパサー! タイキシャトルの背後で力を温存していたエルコンドルパサー! タイキシャトルが外に出ると同時に一気に前に出たぁ! そのままオグリキャップとスマートファルコンに並んで――――並ばない! 交わした!』

 

 

 

 

 

(後は任せマシたよ!)

「これがアオハル杯なりの戦い方デース!」

 

 

 

 

 

 スマートファルコンの大逃げでハイペースの消耗戦にし、タイキシャトルの背後で力を温存したエルコンドルパサーが一気に抜き去る――――完全に作戦が嵌った。

 

 

 

 

 

「そうか―――――だが、私も負けられない」

 

 

 

 

 

 想いを背負っている。

 一人大きく離されたハルウララ、チームの勝利のためにスマートファルコンに競りかけ、自らの勝ち目を手放したマルゼンスキー。

 

 

 此処で応えなければ―――――どうして報いられるだろう。

 

 

 

 

「これが、私の…! 全力だ…!」

 

 

 

 

―――――『≪勝利の鼓動≫』

 

 

 

 

「いぃっ!?」

「はあああああぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

『オグリキャップ! オグリキャップが更にスパート! エルコンドルパサー必死に逃げる! ゴールまであと100!』

 

 

 

 

 

『大歓声のゴール前最後の攻防! エルコンドルパサー粘る! 粘る! オグリキャップ並ぶか!? ほぼ並んだ! だがエルコンドルパサーも脚色は衰えないっ! 内エルコンドルパサー、外オグリキャップ大接戦でゴォォール!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『これは分かりません! 決着は写真判定! 写真判定です!』

 

 

 

 

 

 

 

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