異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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まだ本戦は始まってもないという衝撃…。




 


アオハル杯エキシビジョンマッチ(第3R)

 

 

 

 

 

 

『さあ続いてのレースは――――マイルレースです! 東京芝1600にて行われます。ただいま準備中ですので少々お待ちください』

 

『しかし今回も素晴らしいレースでしたね。最終的にはサクラバクシンオーが地力でねじ伏せる形になりましたが、ダイイチルビーの位置取りやニシノフラワーの末脚、ヤマニンゼファーの抜け出し、カレンチャンとサクラバクシンオーの壮絶な競り合い、キングヘイローの末脚と今後が楽しみな点がいくつもありました』

 

 

 

 

 

 放送を聞き流しつつ、ついに出番の来たスズカたちに目をやる。

 ジャージを脱ぐとウエディングドレス+緑ケープのワキちゃん固有衣装スタイルのスズカ、「お嬢の仇はウチが絶対取る!」と燃えているヘリオス、そして対戦相手を油断なく見据えるグラス。

 

 

 

「……ひょっとしたら最終戦になるかと思ったけど、案外早かったな」

「―――お兄さん、チューはしてくれないんですか…?」

 

 

 

「まだ引きずってたのかスズカ……」

「だって走り終わった時にめいっぱい褒めてもらうと、先頭の景色と合わさってすごく……気持ちよくて、嬉しいんですよ?」

 

 

 

 

 

「はいはい、じゃあ勝ったらしてあげるから」

「――――約束、ですよ」

 

 

 

「じゃあスズカはいつも通り走って貰って、ヘリオスは――――爆逃げでよろ」

「―――おけまる水産! っよーし! 今日だけパマちんには悪いけど、スズちゃんと爆逃げコンビ結成だね!」

 

 

 

「ええっと……でも、私の方が速いですよ?」

「――――ウェイウェーィ! ウチもパマちんと鍛えた爆逃げかますからね!」

 

 

 

 

 並の大逃げじゃスズカの速度にはついてこられず潰れるが――――いやまあ、スズカのテンションが上がるならいいかな。

 

 

 

 

「――――グラス」

「はい」

 

 

 

 

 あっちの面子は―――ウオッカに、ダイワスカーレットに、タニノギムレットか。

 なんか東京マイルにクソ強いウオッカがいるのが気になるが、タニノギムレットは確かNHKマイルで負けてたと思うので…。

 

 

 

 

「スカーレットはスズカとヘリオスに任せる。から、ウオッカのマークを頼む」

「承知いたしました」

 

 

 

 

 

 

「―――では、リギルの皆さんゲート前へお願いします」

 

「行ってきますね、お兄さんっ」

 

 

 

 

 

 スズカはハグを求めるように近づいてくると、軽くジャンプして首に抱き着き――――そのまま触れるだけのキスをして。ちょっと照れたように微笑んでから駆け出した。

 

 

 

 

「え。おま。スズカ――――ゴールで待ってる!」

 

 

 

 

 その不意打ちはちょっと反則じゃなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………

……

 

 

 

 

『――――さあ東京芝1600、天候晴れ、バ場状態は良――――出走者を紹介しましょう! チームリギルからまずは一人―――現役マイル王者、マイルCSの勝利も記憶に新しい“新たな怪物”グラスワンダー!』

 

『有マ記念ではスペシャルウィークとともにサイレンススズカを猛追し3着でした。ハイペースであっても凄まじい切れ味を誇る末脚は薙刀にも例えられています』

 

 

「――――」

 

 

 

 集中し、オーラのようなものを感じるグラスの目線の先―――ウオッカが何かを感じたのか挙動不審になっている。いややっぱりあれ怖いよな。

 

 

 

 

『二人目はメジロパーマーと並ぶ爆逃げウマ娘! ダイタクヘリオス!』

『未だ実績は少ないウマ娘ですが―――こうした起用が見られるのもアオハル杯の醍醐味でしょう』

 

 

「いくぜ、テンアゲコール! 雑草魂メラメラぽぉ~ん!」 

 

 

 

 

 

 

『―――そしてこのウマ娘を抜きには語れません! 現役無敗、14戦14勝、GⅠ10勝――――日本、ドバイ、凱旋門、アメリカを席巻した希代の大逃げウマ娘――――サイレンススズカ!』

 

『マイルは初挑戦ですが、3000mと2000mの世界レコードを持つ最強ステイヤーにして中距離王者は果たしてマイルでも異次元の逃亡劇を見せてくれるのでしょうか』

 

 

 

 

 割れんばかりの歓声で会場が揺れたように思える中、スズカは気にした様子もなくゲート前へ。

 

 

 

 

 

『そしてチームスピカからは―――』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(――――ふふっ、お兄さん、驚いてましたね)

 

 

 

 

 レースの時はあんまり周囲を気にしすぎると上手く力が出ないので、だいたいお兄さんのことを考えていると丁度良かったり。緊張もぽかぽか温かい気持ちに押されてどこかに消えてしまうし。

 

 

 一応、グラスに差されるとかヘリオスさんに競りかけられるとか、色々本当は気にした方がいいんじゃないかなって思わないこともない。

 

 でも、お兄さんが好きに走ればいいと言ったから。

 自分の背中を任せられる人がいる――――命懸けのレースで、命を預けて良いと思える人がいることの、なんて幸せなことだろう。

 

 

 

 

 

 

(だから、勝ちます。誰よりも私を信じてくれる人のために――――私が、誰よりも信じている人のために。例え、何人が相手でも――――!)

 

 

 

 

 

 

 

『ゲートイン完了、出走の準備が整いました―――――』

 

 

(―――――今っ!)

 

 

 

 

 

――――――『Silent Stars』

 

 

 

 

『―――――今、スタートしました! サイレンススズカ、真っ先に飛び出した!』 

 

「っ!?」

「早いっ!?」

 

 

 

 

 

 星の輝く雪景色―――そして輝く二連星。

 ゲートが開くのとほぼ同時か若干それより早いくらいに展開された“領域”。

 

 あまりに早すぎるその走りに、後続は雪に脚を取られているかのように錯覚してしまうほどの圧倒的な加速。

 

 

 

 

「ま、負けるもんですかっ!」

「――――おしゃおしゃ~! アゲてけぇ~!」

 

 

 

 

 

『ダイワスカーレットとダイタクヘリオスが続いた! そこから大きく離れてウオッカとタニノギムレット、そしてその背後にぴったりとグラスワンダー!』

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

『いいか、スカーレット。スズカの逃げは基本的にどうにもならない。だからもうとにかくお前の走りやすいように走れ! そして後ろから来るウオッカに勝て! もう難しいことを考えるのはナシだ!』

 

『で、ウオッカはスカーレットに勝て!』

 

 

 

『それ、結局スズカさんに勝てないんじゃ…?』

『お前らがそんなこと考えるのは十年早い。とりあえずお前たちの今後の糧に――――』

 

 

 

 

 とりあえずトレーナーはウオッカと一緒に〆ておいたが、言いたいことは分かる。世界最強のウマ娘相手に現時点で勝てると思えるほど思い上がってはいない。ただ、実際に走らなければ分からないことはあった。

 

 

 

 

 

(追いつけない―――っ! 全力で走っているのに……!)

 

 

 

 

 

 非常に癪だが、ウオッカの脚は、強さだけは知っている。

 だから、少しでも逃げを乱せれば――――そういう思いがないでもなかった。

 

 

 

 

(――――スカーレットがああまで離されるかよ…!)

 

 

 

 

 

 故に、その動揺は後方にも伝わる。

 誰よりもよく知るライバルであるが故に、如実に。

 

 そして居ても立っても居られずペースを上げそうになる――――掛かりかけたウオッカを宥めるように、ギムレットが吼えた。

 

 

 

 

「まだだ! ワタシに酔え――――破壊に、禁忌に、このワタシにこそ酔えッ!」

 

 

 

 

 

―――――『霹靂のアウフヘーベン』

 

 

 

 

 

(ギム先輩!?)

 

 

 

 

 無理やりにひねり出した領域で雪景色を塗りつぶす。

 それはほとんど意味のない領域ではあったが――――意味はあった。唯一人にだけ。

 

 故に、本来であればここから一矢報いる未来もあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「――――いいえ。ですが、それも此処までです」

 

 

 

 

 

 背後――――。

 膨れ上がる鬼気に、思わず振り返った二人を撫で切るように栗毛の影が通り過ぎていく。

 

 

 

 

―――――『不撓不屈』

 

 

 

 

 

(たとえ眼前にどんな山々が聳えようとも――――立つ(断つ)のはその、頂―――!)

 

 

 

 

 切り払われ、千切られた領域に思わず失速した二人に興味を示さず駆け抜けていくその背中を、呆然と見た己を叱咤する。

 

 

 

 

(莫迦な!? ワタシの領域を破壊しただと――――だが)

 

 

 

「行け、ウオッカ! “ここで往かねば届かん”!」

「――――っ!? う、おおおおおっ!」

 

 

 

 

 

『最終コーナーを回って先頭は変わらずサイレンススズカ! 1バ身リード! 今日はあまり大きく引き離していない! その後ろにダイタクヘリオスとダイワスカーレットの激しい競り合い! ――――グラスワンダー! グラスワンダーが上がってきた! 更にウオッカもスパート!』

 

 

 

 

 

 

 

「―――――まだ、まだぁああ!」

「諦める、もんですか―――っ!」

 

 

 

 

『ダイタクヘリオスとダイワスカーレット、必死に食らいつくがその外から! 外からグラスワンダー! これは並ばない! グラスワンダー交わした! サイレンススズカとグラスワンダーの一騎打ちになるのか!? ――――いや、内からウオッカだ! 内を突いてウオッカ!』

 

 

 

 

 

「うおおおおおっ、ここだあああああっ!」

「っ、やりますね…!」

 

 

 

 

『ウオッカがダイワスカーレットとダイタクヘリオスの間を抜けてグラスワンダーを追う! 先頭サイレンススズカ、リードを保てるか――――』

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 条件は整った。

 領域は完成し、自分の奥底から更なる力が絞り出されるのを感じる―――けど、まだ足りない。

 

 

 

 先頭の景色、その先にあるもの。

 誰もいない草原を越えて、あの人と約束した雪景色を超えて。

 

 胸に熱く灯る、新たな想いを――――。

 

 

 

 

 

(――――もっと、もっと先へ―――――――)

 

 

 

(雪も星空も超えて――――彩られていく、景色!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――『先頭の景色は、譲らない』――――――『Silent Stars』

 

 

 

 

 

 

 

 

 雪景色と草原が混じり合い、青空と星空が混じる。

 いつしかレース場に戻った景色を切り裂いて、白い流星となったサイレンススズカが駆けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――サイレンススズカ! サイレンススズカ後続を引き離す! 二番手はグラスワンダーだが離れている! サイレンススズカだサイレンススズカだ!』

 

 

 

 

 

 

 

『――――これが、世界最強の貫禄ッ! サイレンススズカ、押し切った!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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