※本日2話目です
『さあまず前に出たのはセイウンスカイとミホノブルボン! 僅かにミホノブルボンが前だがセイウンスカイが競りかけていった! セイウンスカイがハナを主張!』
(――――まずは小手調べ、かなっ)
(っ!?)
誘うようにペースを上げるセイウンスカイ。
並のウマ娘なら引っかかってしまっただろうそれに、ミホノブルボンは僅かに動揺しつつもスルー。
(へぇー、なら――――)
それならそれでよし、と更にペースを上げていくセイウンスカイ。
それを見ながら、ブルボンはチーム結成の後にひたすらやらされた練習を思い出していた。
―――――――――――――――――――
とりあえずトレーナーの端くれとして、チームに招集したミホノブルボンに受けてもらいたい練習が一つあった。
「ブルボンの強みはラップ走なわけだが、一つ弱みがある。なんだと思う?」
「……純粋に私より速い相手には敵わない、という懸念点でしょうか」
まあスズカと同じで駆け引きを拒否してるからな。
が、同じようで全く別物だ。どうあがいても先頭になる先頭民族、スズカはあらゆる干渉を受けない。
だが、ただ一定の高速ペースを刻むミホノブルボンには干渉する余地がある。
そう――――キョウエイボーガンのように。
基本的に気性に問題があることが多い逃げ馬。
果たして前を走られて放置できるのか? それもレースの興奮状態で、だ。スズカならキレる。……いやまあ、俺がバイクで前を走って煽ったりと特訓したから、少しは耐えられると思うのだが。
「というわけで、スズカ」
「はい」
「併走よろしく」
「……えっと、どのくらいにしますか?」
「煽りで」
「……ご褒美………」
「後で好きなだけしてやるから」
「……! じゃあお兄さん、今日は一杯褒めてチューして下さいね?」
そうして始まったのが、サイレンススズカにひたすら前から煽られる併走?練習だった。
ハイペースでこれでもかと差を広げられたり、前で少しペースを落として抜きされそうな雰囲気を出されたり。むしろスローペースで前をふさぐような動きをされたり。
ラップ走しかしてこなかったブルボンは逃げの奥深さを知るとともに、その厄介さを知った。釣られたが最後、自分の強みを失うことになると。
そもそも短距離向きであるブルボンは、どれだけ努力を重ねていても掛かった状態でスタミナを残すことはできない。スパートしないことでスタミナの消費を抑える意味もあるのである。
―――――――――――――――――――
(――――オーダー再確認。私の今すべきことは―――『チームのために走る』です)
『――――なんと大逃げ! セイウンスカイ、まさかの府中2400で大逃げです! これはジャパンカップのカツラギエース、日本ダービーのサイレンススズカに続く大逃げか!?』
(セイちゃんの作戦に引っかからなかった―――――ということは)
(つまりプランBと、想定内ではあるねぇ)
(やんなっちゃうなぁ、もう!)
(オーダー継続。作戦に変更ありません)
(大逃げなら僕たち散々一緒に走ってるからねー)
(………勝負は、最後の直線)
『先頭、セイウンスカイ。4バ身から5バ身離れてミホノブルボン。その後方2バ身後ろにトウカイテイオー、その後ろにアグネスタキオン。そして1~2バ身ほど空いてスペシャルウィーク、ここにいます。最後方にアドマイヤベガ。全体が10バ身くらいに収まっています』
(ペース、問題なし。さっすがブルボン)
まだ経験の浅いテイオーとアヤベはペースに関しては不安があった。
が、ラップ走を得意とするブルボンさえペースを守れれば自然と最適なペースで走れる。つまり、超豪華かつ自分も勝ちに行けるラビットである。
これでセイウンスカイは幻惑逃げを実質封じられたことになるが――――。
『さあ隊列は変わらず、大きなリードを開いたセイウンスカイ。少し息を入れたのか少し差が縮まりましたが大欅の向こう側を回っていきます!』
『ミホノブルボンが迫ってきた! トウカイテイオーも徐々に進出! マークするようにアグネスタキオン! スペシャルウィーク上がってきた! その外からアドマイヤベガ!』
『さあ徐々にバ群がひと固まりになってきた! 先頭はセイウンスカイ! リードがまだ3バ身あるがミホノブルボン詰め寄ってきた! トウカイテイオー、アグネスタキオンも来ているぞ!』
(―――――さあ、大物釣りあげちゃいましょうか…!)
―――――『アングリング×スキーミング』
それで負けるようなら、黄金世代で二冠など獲れていない。
一気に加速したセイウンスカイが着実に詰めて来ていたブルボンを引き離し―――。
「――――さあ、無敵のテイオー伝説っ! いっくよぉーッ!」
―――――――『究極テイオーステップ』
『トウカイテイオーだ! トウカイテイオーが来た! 二番手ミホノブルボンが徐々に差を詰めるが、外からトウカイテイオー! セイウンスカイ、リード残り1バ身!』
(セイちゃんも、テイオーさんも、皆、本当に凄い――――)
(――――でも、負けない……負けられない! 私が――――お母ちゃんの、応援してくれる皆の――――)
――――――『シューティングスター』
「――――勝ちたい…っ! 勝つんだ!」
(――――スズカさんに追いつくためにも! セイちゃんにも、グラスちゃんにも、エルちゃんにも! キングちゃんにも! ブライトさん達にだって!)
『――――スぺ、お前は―――どんなウマ娘になりたい?』
「なるんだ―――――みんなの夢に!」
――――――日本総大将
『スペシャルウィーク! スペシャルウィークが来た! 内から間を割ってスペシャルウィーク! 並ばない! あっという間に交わした! スペシャルウィーク先頭! 外からトウカイテイオー!』
「――――っ!? まだまだぁあああっ!」
「根性ぉぉぉぉっ!」
『内スペシャルウィークわずかに先頭! だが外トウカイテイオーも一歩も譲らない! 三番手争いはミホノブルボン―――――』
――――――――――――――
そして先頭争いから離れた後方。
アグネスタキオン(真面目には走っているが必死では走ってない)はさておき、スパートをかけたにも関わらず前に追いつけないアドマイヤベガは歯を食いしばって必死に脚を動かしていた。
(――――…前が、遠い!)
得意な距離のはずだった。
有力な逃げが二人いて、ハイペースになるから有利だと思っていた。
その悉くを覆して、圧倒的な加速で前に出たスペシャルウィークと、スピードで対抗するトウカイテイオー。
(私は――――)
輝く星にも、大切な妹の夢にもなれないの…?
(ねぇ、お姉ちゃん。本当はこういうのダメなんだろうけど……。トレーナーさんがね、エキシビジョンマッチならいいんじゃないかって)
(え………?)
(……私も、お姉ちゃんの力になりたい。……一緒に、走ってみたい)
(……………そっか。そうね――――本当はダメかもしれないけれど)
(私も、貴女と一緒に走りたい)
二人の想いが、溢れるように身体を蒼と碧のオーラが覆う。
右と左、異なる色の焔を宿したアドマイヤベガは、二人で一筋の流星となってターフを駆けた。
――――――『ディオスクロイの流星』
――――――――『ジェミニの双流星』
「『―――――ハアアアアアッッ!』」
『スペシャルウィーク先頭! トウカイテイオー追いすがる! ―――外から! 外からアドマイヤベガ! アドマイヤベガが一気にトウカイテイオーに並びかける! 交わすか!?』
―――――――――――――――――
(――――そっか。これがレース――――レースに絶対は無い)
死力を尽くしてなお、勝つことができない大舞台。
どうやっても勝てないかもしれない強敵。
大きすぎて届かないのではと思わされる憧れ。
およそ天才ともてはやされてきたテイオーが、知らなかったもの。
(でもそんなの今更だよね)
サイレンススズカ。
どうやっても追いつけないと思い知らされた、トレーナーが全てを懸けて育て上げた怪物。
けど、そんなことで諦めると思わないでほしい。まあトレーナーがまな板好きな変態なのはそれはそれとして。
走りに関して負けるつもりはない。本当に見るべきが誰の走りか――――それを思い知らせるまでは!
(負けない……負けるもんか! 負けたことが無い? 届かない悔しさなんて、いつも味わってきた…!)
――――『絶対は、ボクだ』
不死鳥の如く再加速し、アドマイヤベガを一瞬だけ差し返す。
そして、その一瞬さえあれば十分だった。
(――――だから、借りるね。カイチョー!)
――――『汝、皇帝の神威を見よ』
本家本元、カイチョーのような凄まじい威圧感なんて無い。
それでも身にまとった雷光が、誰よりも憧れた光が他の何よりも力をくれる!
誰よりも焦がれた、二人で見たあの日の輝きを!
この輝きを、見逃させたりなんてしない!
スぺちゃんも、アヤベも、全部出し尽くしたよね?
作戦も、位置取りも、スタートも領域もコースも。もう関係ない。
あとは、純粋なスピードと根性の勝負!
ゴールまで、誰が意地を張り通せるか―――。
「―――――さあ、勝負だぁあああああっ!」
「はああああああああっ!」
「『あああぁぁ――――ッ』」
『内にスペシャルウィーク、中トウカイテイオー、外アドマイヤベガ! 残り100m最後の攻防だ! 三者とも全く譲らない! 誰が前に出るのか!? トウカイテイオー僅かに前か!? スペシャルウィーク差し返す! アドマイヤベガも譲らない! ――――今、一直線でゴール!』
『これは―――全く分かりません! やはり決着は写真判定!』
勝ったのは
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スペシャルウィーク
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トウカイテイオー
-
アドマイヤベガ
-
同着