異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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アオハル杯エキシビジョンマッチ(第5R)

 

 

 

 

 

 

 

 

『――――今、判定が出ました! トウカイテイオー! 一着はトウカイテイオー! 二着は……同着です! 二着にアドマイヤベガとスペシャルウィーク! ゴール前の激闘を制したのはトウカイテイオー! タイムは2分21秒3!』

 

 

 

『天高く拳を突き上げたトウカイテイオー! 場内は割れんばかりの大歓声です!』

 

 

 

 

(まだ0冠だけど――――まあ、いい経験にはなったかなー)

 

 

 

 皐月賞は指一本の予定だから、まだこれは始まる前の0本。

 笑顔で拍手しているスぺちゃんと、なんだか楽しそうなアヤベを見てるとボクだけ必死だったの? という気持ちになるけど。

 

 なんとなく先頭の観客席から憧れの目を向けながら声援をくれている小さな黒髪のウマ娘の子に手を振ってあげる。

 

 

 

 

「――――さて、勝ったよ。トレーナー!」

 

 

 

 

 別に愛を叫べとは言わないけれど、何か気の利いた一言くらい欲しいものである。

 そんな気持ちでドヤ顔と共に勝利宣言し。

 

 

 

 

「ああ。良い走りだった――――やっぱり皇帝を超えるならお前だろうな、テイオー」

「―――――」

 

 

 

 

 全く、このトレーナーは。ボクがどれだけカイチョーに憧れてるか知ってるはずなのに。調子の良い事いっちゃって、と言いたくなる。

 

 なのに。

 何故か、まるで何か“皇帝を超えたかもしれない姿”を見ているような――――そんな、何かを明確に思い浮かべたような目をされると何も言えなくなってしまう。

 

 

 

 

「……まだ、追いついてもいないんだけど?」

「別に追いつかなくても追い越せるさ。まあテイオーからすればルドルフの偉業をなぞるのが大事なんだろうけど」

 

 

 

 

「ボク、たまにトレーナーの頭の中身覗きたくなるよ」

「なんでさ」

 

 

 

 

「で、スズカの走りとどっちが良かった?」

 

 

 

 

 

 ピクリ、とトレーナーの背中に顔を埋めていたスズカが動く。

 

 

 

 

「いやお前それ聞く? ……んー、個人としてはスズカの走りに惚れてるからスズカ。観客としてならスズカは塩だからテイオー。トレーナーとしては―――まあ、今戦えばスズカが勝つだろうな、と」

 

「へぇー……」

「……! お兄さんっ」

 

 

 

 

 ぐりぐりと頭を擦りつけて甘えるスズカを宥めつつ、まあ納得する。

 今ならスズカが勝つ―――今回のセイウンスカイの幻惑逃げもそうだけれど、スズカの絶対的な逃げへの対策がまだない。

 

 個人としてスズカの走りに惚れているというのがなんとなく腹立たしいけれど、ボクも別にトレーナーにボクが一番凄いって分からせたいだけだし。別にいいし。

 

 まあそりゃああれだけ絶対的な戦術を作ったら自慢にもなるよね。うん。

 

 

 

 

(………とりあえず、スズカに勝てそうな条件から探そうかなー)

 

 

 

 まずこちらの土俵で、最終的にはトレーナーの鼻っ柱をへし折って分からせるつもりで。

 

 

 

 

 

(だって、皇帝を超える帝王になるなら―――何よりも、認めさせないとね)

 

 

 

 

 

 あの日、共に皇帝に焦がれた同士に。

 

 

 

 

「絶対にボクの走りを認めさせてあげるから、覚悟しておいてよね。トレーナー!」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 京都――――レースを映像で見ていたメジロマックイーンは、既に敗北が決してしまった事実を受け止めつつも抜かりなく準備を整えていた。

 

 

 

 

「分かってはいましたが――――いいえ、分かっているつもりでしたが。やはり、強いですわね」

『ああ、ったく。いいようにしてやられちまった』

 

 

 

 沖野としてはこれだけのメンバーを集めた以上は、スズカはともかく他は勝てるのではないかという思いがないでもなかった。しかし指導方針もあり自由に走らせているのだが、まさか向こうが対策をしてくるとは。幻惑逃げをラップ走法で潰してくるのはどういう読みをしてるのかと愚痴りたくなる。

 

 こっちは伝手をフルに活かしてなんとかかき集めた面子なのに、それぞれの戦法やら何やらを把握されている気がしてならない。

 

 だが、それでもここは負けられない。

 

 

 

 

「ですが、ここ―――長距離では負けられませんわ」

「うんうん、メジロといえば長距離だしねー」

「いやー、タイ焼き機の準備に手間取っちまったぜ」

 

 

 

 

 名優、メジロマックイーン。

 メジロが生んだ長距離爆逃げウマ娘、メジロパーマー。

 そして、タイ焼き機?を担いだゴールドシップ。

 

 

 

 

(……くっ、無視……無視ですわ!)

(なんでタイ焼き機…?)

「待ってろよ、びんちょう鮪!」

 

 

 

 

 

 スピカの誇る長距離エースと、頼もしい助っ人、そしてなんやかんやスピカ最古参のゴールドシップも信頼して……信頼……している。たぶん。

 

 

 

(不安要素は――――向こうの面子か)

 

 

 

 

「――――よしっ、私も負けていられない…!」

 

 

 

 素晴らしい仕上がりのナリタトップロード。

 は、まだいい。分かりやすく普通に強そうなだけだ。

 

 

 

 

「…………………」

 

 

 

 

 蒼い焔のようなオーラを纏い、普段の大人しそうな雰囲気はどこへやら。獰猛な肉食獣のようなライスシャワー。

 

 

 

 

「……いいえ、貴女も分かっているはずでは…?」

 

 

 

 なんか虚空に話しかけてる、普段の5割増しでヤバそうなマンハッタンカフェ。

 

 

 

 

(なんかナリタトップロード以外おかしくねぇ!?)

 

 

 

 

 こっちは落ち着けているのが二人とゴルシが一人。

 向こうはやる気満々の一人に、殺ル気満々のが二人。

 

 

 

 

『さあスタートの準備が整いました! 一番人気はこの娘、メジロマックイーン!』

『春の天皇賞を制した実力は疑う余地がありません。彼女の走りが、間違いなく今回のレースでも鍵になるでしょう』

 

 

 

『二番人気はライスシャワー』

『デビュー前ではありますが、その気迫はなんら劣るものではありません』

 

 

 

 

 

 

『三番人気、マンハッタンカフェ』

『彼女もただならぬ雰囲気を漂わせています。果たしてどんなレースを見せてくれるのか期待しましょう』

 

 

 

 

 

 

 

『――――さあ、京都の芝3000m。アオハル杯エキシビジョンマッチ最終戦―――今、スタートです!』

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

(―――――よし、スタート大丈夫! 爆逃げキメる…っ!)

 

 

『さあまずまず揃ったスタート! ハナを主張していくのはメジロパーマー。それに続くのはメジロマックイーン、その後ろライスシャワー。少し離れてナリタトップロード、マンハッタンカフェ。ゴールドシップは最後方から!』

 

 

 

 

 

 

(張り切ってますわね、パーマー。私も負けていられませんわ……!)

(ついてく、ついてく……)

 

 

 

(ペースはやっぱりパーマーさんだけ速い――――マックイーンさんは少し遅い)

(…………)

 

 

(さーて、どっから仕掛けっかな……)

 

 

 

 

『第三コーナー回ってメジロパーマー、更にリードを大きくとります。大逃げ、またしても大逃げです! 5バ身くらい離されてメジロマックイーン、その後ろぴったりとマークしているのがライスシャワー! 少し離れたところでナリタトップロードとマンハッタンカフェ追走。ゴールドシップはまだ動く気配がありません』

 

 

 

 

 

『さあ更に差が広がる広がる! 先頭メジロパーマー、15バ身くらいのリードを取りました! これは後方の子たちは大丈夫か!?』

 

 

 

 

 

 大きなリードにざわつく観客席。

 そんな空気を感じ取って、ナリタトップロードはちらりと前方のライスシャワーに目線をやった。

 

 

 

(こ、これって……もしマックイーンさんがスローで抑えたら――――)

 

 

 

 

 誰も届かず、そのまま敗北という事にもなりかねない。

 

 メジロパーマーを勝たせるための戦略なのでは―――そう考えてしまうが。

 沈黙したままのライスシャワーに気を取り直して背後に注意を向ける。

 

 

 

 

(ダメだ、ダメ! ライスちゃんが信じてるんだもの、私も信じなくちゃ…!)

 

 

 

 

 

 

 

 

(……っ、全く動じてくれませんわね…!)

 

 

 

 一方のマックイーンは僅かにペースを緩めてみたり、背後にマークしているライスシャワーの動揺を誘おうとしてみるものの――――尻尾を食いちぎられるのではというほどのプレッシャーで逆に精神をすり減らされている気すらする。

 

 

 

 

 

 

 そんな前方の駆け引きを意に介さず。パーマーが淀の坂に差し掛かるまで大人しくしていた葦毛が遂に動いた。

 

 

 

 

「――――っしゃあ! 面白くなってきたぜ…!」

 

 

 

 

 

―――――『不沈艦、抜錨ッ!』

 

 

 

 

 まるで錨を振り回すような、破天荒すぎるゴールドシップの領域が背後から迫るのを感じてマンハッタンカフェとナリタトップロードも動く。

 

 

 

 

(――――来たッ!?)

(――――……勝負、ですね)

 

 

 

 

 

―――――『アナタヲ・オイカケテ』

 

 

 

 

 

 漆黒のオーラを纏ったマンハッタンカフェがペースを上げ、奇しくもゴールドシップと全く同じ捲り戦法でスローになっているマックイーン目掛けて距離を詰めていく。

 

 

 

 

 

 

『さあここでゴールドシップが動いた! マンハッタンカフェも上がっていく! 先頭、メジロパーマー!』

 

 

 

 

 

 

(このままペースを保てばもしかしたら楽に勝てるかもしれない、けれど逆に向こうの末脚に敵わず負けるリスクもある――――ならば!)

 

 

 

 

 

 

『メジロマックイーン、動いた! メジロマックイーンがスパートを掛けた! 先頭メジロパーマーに一気に詰め寄っていく! しかしライスシャワーぴったりと背後に追従!』

 

 

 

 

 

 

(メジロのウマ娘として――――正面から打倒してみせますわ! ――――参ります!)

 

 

 

 

 

―――――『貴顕の使命を果たすべく』

 

 

 

 

 

(―――――……このペース、マックイーンさんのスパート………届く。届かせる…!)

 

 

 

 

 

(ま、だ……まだあああっ! 逃げ切って見せる…っ!)

 

 

 

 

『メジロパーマー早くも最終直線に入った! メジロマックイーンとライスシャワー、競り合いながら一気に距離を詰めてくる! 更に後方からマンハッタンカフェ! その後方にナリタトップロードと外を回ってゴールドシップ!』

 

 

 

 

 

「―――――っ、っとぉ! まだまだぁ!」

「そう簡単に―――行かせません!」

 

 

 

 

 捲っていくゴールドシップが内に入れないよう絶妙な距離を保つトップロードだが、ゴールドシップは意に介さずぐんぐんペースを上げていく。

 

 

 

 

(でもまだ……オペラオーちゃんの方が速い…! アヤベさんはもっと鋭い…! 私だって、負けていられないんだっ!)

 

 

 

 

 絶対に内には入れないという気迫のナリタトップロードにゴールドシップは笑みを深め、競り合いながらマンハッタンカフェを猛追する。

 

 

 

 

 

『メジロパーマー先頭! 一気に詰め寄ってくるメジロマックイーン――――外から! 外からライスシャワー! 内からマンハッタンカフェ! 後方から突っ込んでくるナリタトップロードとゴールドシップ!』

 

 

 

 

 

 

 

(――――お兄さま)

 

 

 

 

 いつだってライスのことを優しく見守ってくれているお兄さま。

 物語のお兄さまみたいに優しくて、素敵な人で――――ライスなんかにはもったいないくらいの人だけれど。

 

 

 

 

『誰が相応しいかは――――ただ、勝利だけが認めさせる』

 

 

 

 

 スズカさんと結婚したトレーナーさんは言っていた。

 強い相手に教え子が勝つことが何より嬉しいって。……そして、ウマ娘にトレーナーが相応しいか、トレーナーにウマ娘が相応しいかは勝たなければ証明できないって。

 

 

 勝って、勝って、勝ち続けて。

 そうしてあの人とスズカさんは皆に祝福されて結婚した。

 

 

 それはとても素敵で、本当に物語みたいで――――スズカさんは本当に幸せそうで―――――ライスも、ああなりたいって思った。

 

 

 

 

 

 

(ライスだって――――咲ける…っ!)

 

 

 

 

 

――――――『ブルーローズ・チェイサー』

 

 

 

 

(ライスだって――――お兄さまにとっての主役(ヒーロー)になりたい…っ! なるんだ!)

 

 

 

 

 

 

 

『メジロパーマーここまでか!? メジロマックイーン交わした! しかしここでライスシャワーが並びかける!』

 

 

 

「――――はぁあああああっ!」

 

 

 

 

『ライスシャワー交わしたっ! ライスシャワー先頭!』

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――

 

 

 

 

 

「……追いつきたい………アナタに…!」

『―――――』

 

 

 

 

 

 トウカイテイオーの宣言は、気持ちの整理をつけようとしてたカフェとしても気になるものだった。

 

 恋人、男女の関係はもう先約がある。

 でも、ウマ娘とトレーナーとして――――誰がもっとも優れた愛バか。それを争うことは問題がない。たぶん。

 

 

 

 

 そして一人だけ、カフェには心当たりがあって。

 『お友だち』ならば、あるいはスズカさんにも勝てるのではないか―――と。

 

 アドマイヤベガの走り―――妹と力を合わせたそれは、カフェにとっては大きな衝撃だった。力を借りる。それは、きっと――――。

 

 

 

 

 

 

 前を走っていた幻影――――『お友だち』がこちらに僅かにペースを緩めた気がした。

 

 

 

 

 

―――――どうする?

 

 

 

 

 

 問いかけるような、挑発するようなそれに、小さく息を吐いて、思い切り芝を蹴ることで応える。

 

 

 

 

 

 

 

 

(私は――――私も、自分の力で認めさせたい。……あの人、だけは)

 

 

 

 

 

 

 

 今はまだ、届きそうにないけれど。

 

 蒼い焔を総身から漲らせて走るライスシャワーを猛追する。食い下がるメジロマックイーンすら追いつけなくても。

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「――――はあああぁぁっ!」」」

 

 

 

 

 

 

『ライスシャワー! ライスシャワー完全に先頭! メジロマックイーンを交わしてそのままゴール! ――――ライスシャワーが勝ちました!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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