異次元の寂しがり屋   作:アマシロ

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エキシビジョンマッチ後

 

 

 

 

 

 

 

 

――――…やはり、届かなかった。

 

 

 

 壮絶な競り合いの末勝利したライスさんと、マックイーンさんを遠巻きに眺めながら乱れた息を整える。

 パーマーさんが沈んだ以外は1から5着まで大混戦ではあったのだが、さらっと3着に紛れ込んでいるゴールドシップさんにも負けて4着。モチベーションさえあればあれほどまでに強いのか、と彼女を過剰なほど警戒していたトレーナーさんの謎の慧眼に何とも言えない気分になる。

 

 

 

 

 才能、という面では恐らく自分も恵まれているのだろう。

 けれど体質的に無理はできない上にスズカさんやテイオーさんが持つスター性という面では劣ると、頭の冷静な部分で考える。

 

 

 勝利は勝利。

 でも実際に勝ったライスさんや、ゴールドシップさんを抑えたトップロードさんと比べると私は――――。

 

 

 

 

 

 

『良い走りだったぞ、カフェ。カフェの捲りのお陰でマックイーンも動かざるを得なかったし、あれならもしマックイーンがスローで抑えてても勝ててた』

 

 

 

 

 

 ………。

 いや、本当に、この人は…。

 

 別にトレーナーとして当たり前のことをしているだけで、特別なことではない……と、思うけれどこうして私の手柄にするほどでもないと思うのだが。

 

 

 

 

「………まあ、トレーナーさんの指示のお陰ですし…」

『やれと言われるだけで出来たら苦労しないだろ。レースは水物だし、トレーナーは走らないんだし』

 

 

 

 

 ……そんなに、優し気な目をされると困ってしまう。

 ただでさえ『お友だち』筆頭に怪異のこともあってトレーナーの人たちとあまり意思疎通をとるのが得意ではないというか、慣れていないのに。

 

 

 

 

『ともかく、三人ともよくやってくれた。ゴールドシップを抑えてくれたトップロード、マックイーンを動かざるを得なくしたカフェ、そしてマックイーンを差し切ったライス。ばっちり作戦を完遂してくれた3人が掴み取った勝利だ―――ライブ、期待してる』

 

 

 

「――――……あの、トレーナーさん」

 

 

 

 

 

 

――――…私の走りは、わずかでも、貴方に届きましたか。

 

 

 

 

 まだ、自分でも満足できない走りではそんなことは聞けないけれど。

 何も言わずに待ってくれているトレーナーさんに、問いかけた。

 

 

 

 

「……皆の勝利、ということですね」

『ん? そうだな、もちろん』

 

 

 

 

「―――…では、ご褒美は期待しています…」

『……え゛っ』

 

 

 

 ちらり、と喜びのあまりトレーナーさん(お兄さま)に抱き着いてしまい動揺するライスさんと、そんなライスさんを優しく抱き留めて撫でているトレーナーさん(お兄さま)を画面に映しつつ催促。

 

 

 

 

「―――…ライスさんに、勝ったらトレーナーは感極まってキスすると……伝えましたね?」

『………キスは言ってない! ハグ!』

 

 

 

 

「――――……なるほど、ハグですか。では、帰ったらお願いします」

『あの、カフェさん!? テイオーはなんで両手を広げてるのかな…!? いやあの、スズカ、ヘルプ!』

『……? お兄さん、ご褒美のハグは大事です』

 

 

 

『お前ちょっと寛容過ぎない!? 俺スズカが男にハグしてたらめちゃくちゃ動揺する自信あるけど!』

『……? 痴漢は締め落すより蹴る方が安全なような……?』

 

 

 

『痴漢相手じゃなく』

『……あの、お兄さん。ウマ娘がハグするのは大事な人か絞め落とす時ですよ…?』

 

 

 

 

 そもそもパワーが違うから危ないです。

 と、急にマトモなことを言い出したスズカさんにちょっと驚いた風のトレーナーさんは一拍置いて、ハグの構えのテイオーに何かを恐れるような視線を向けた。

 

 

 

 

『……待って、テイオー。それはどっち? ちょっ、笑顔が怖いんだけど!?』

『えー。ちょっとトレーナー、勝者に対して扱いが酷くない?』

 

 

 

 

 

『ぎゃああライブ楽しみに待ってぐおおおおおお!? ギブギブギブ! 胸当たってるぞテイオー!』

『―――――当たってないけどぉ!? ボクの胸は腕と大差ないってことかー!』

 

 

 

『いでででで!? いや違うそう言ったら放してくれるかなって……スズカ! スズカヘルプ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

『――――あなたたちなら、アオハル杯の優勝も夢ではありません』

 

 

 

 

 樫本トレーナーが、あぶれ者、はみ出し者の私たちを集めて言った言葉だった。

 管理主義―――無駄に仲良くする必要なんて無く、ただひたすらにアスリートとして自分を磨く日々はこれまでの苦しさが噓のようで。

 

 

 

 生ぬるいお遊びで走っている面々になんて絶対に負けないとさえ思えた。

 それだけタイムは伸びていたし、それだけに働きづめる樫本トレーナーのことが心配だった。

 

 

 

 

『――――これが、私のやるべき仕事ですので』

 

 

 

 そんなことを言って、私たちの体調や睡眠時間、タイム、その他の問題全てを考慮したメニューに調整してくれているトレーナー。

 ウマ娘と比較するまでもなく身体の弱いトレーナーを誰からともなく心配するようになって。でも不思議と以前のような息苦しさや居心地の悪さはなかった。

 

 

 

 私たちは互いをそれぞれプロの卵として認識しているし、妙な連帯感のために無理に周りを巻き込まないだけの過去の経験があって。トレーナーを心配するのは全員が無理なく賛同できる内容だったから。

 

 

 

 

 

『確かにドリームトロフィーリーグに出るような人たちが強いのは分かります。けど、重賞勝ちしたことない条件で出走というハンデなんですよね? さすがにそれなら―――』

 

『……私もそう思っていました。ですが、彼女は違う―――ある意味で管理主義の究極……私にはどうすることもできない』

 

 

 

 

 

『そんな!? 樫本トレーナーでも……?』

『ええ。………人生全てを管理に捧げたトレーナーがいます』

 

 

 

『人生全て!?』

『わ、私たちだってアスリートとして人生を走りに捧げるくらいは―――!』

 

 

 

『あ、いえその……結婚、です』

『『『『あっ』』』』

 

 

 

 

 

 ぶっちぎりのヤベートレーナーとウマ娘。

 トレーナーと結婚するために引退したとか、生徒と結婚を認めさせるために世界を制した男とか色々言われている夫婦である。

 

 

 

 

『まさかマイルでもあれほどまでに走れるとは……あれは最早、長距離も走れるマイラーと考えるべき存在です』

『世界最強ステイヤーなのにですか!?』

 

 

 

『……世界的な大レースは2000から2400に集中していますが、日本では言うまでもなくクラシック三冠が最大の栄誉―――それに合わせてトレーニングを積んだのでしょう』

『ちょ、ちょっと待ってください。ということは、長距離よりもマイルの方が強いってことじゃ……?』

 

 

 

 

 

『―――その可能性が、十分にあります』

 

 

 

 

 

 それは、樫本トレーナーが必死になるのも無理はないというか……。

 無理では?

 

 

 

 

『それはもう、マイル以外で勝った方が楽なんじゃ……?』

『戦略としてはもちろんそれもいいでしょう。ですが教え子を負けにいかせる指導者など私は認めません。まだ距離が短い分だけ可能性はあると思いますし………それに、もし勝利できたなら管理主義の力をこれ以上なく広めることが……』

 

 

 

 

 

 

 悩む樫本トレーナーのため、皆で集まって考えたのは一つの作戦だった。

 一度は拒絶され、諦めてこっそりやろうとしたら例のトレーナーが『樫本トレーナー説得するならパワポ使えば?』なんてことを言ってきたのでダメ元でやってみたら何故か説得に成功してしまった。

 

 

 

 

 ………いやあのトレーナー何者…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

「―――――……なんとなく、スズカさんが夢中になる気持ちも分かった気がします」

「いや、あの。カフェさん……?」

 

 

 

 

 ご褒美ハグを要求され、謎にスズカ公認でハグすることになってしまったのだが、てっきりテイオーばりに締め上げてくるかと思いきやむしろ遠慮がちに普通のハグをしてくるカフェに動揺してしまう。

 

 

 

「………いえ。ありがとうございます」

「こちらこそ…?」

 

 

 

「……では、私はこれで」

 

 

 

 

 

 

 ……カフェのマンハッタン要素でハグに寛容…?

 とかアホなことを考えていると、スズカはいつも以上に甘えてくるし……。

 

 

 スズカ曰く『今、反動が来てます』とのことだが、乙女心はさっぱり分からん…。

 

 

 

 

 

 ちなみにテイオーはあっさりと皐月賞を勝利。

 ルドルフのパフォーマンスに倣って指一本を掲げた。

 

 春天はメジロマックイーンが圧勝。

 ネットではマックイーンに勝ったライスが一体何者なんだと話題になっているので、これで間違っても菊花賞で勝ってヒール扱いはされまい。むしろマックイーンに勝ったライスが負ける方が問題まである。

 

 

 

 

 むしろテイオーのダービー後の怪我が怖かったのだが、

 

 

 

『つまり全力じゃなくて勝てるだけの力で勝てばいいんでしょ?』

 

 

 

 なんて言いつつルドルフばりの1バ身差で勝利。

 なんで一生に一度の大舞台でそんな調整ができるんですかね。心臓に毛が生えてるのかコイツ……。

 

 

 

 

 

 余裕綽々のその風格に『新たな三冠ウマ娘現る!』と世間も大盛り上がりである。

 ルドルフ以来じゃなくスズカ以来の無敗三冠か!? となっているので無敗三冠そのものの期待は下がった気がするのだが、スズカの活躍から早くもテイオーの海外挑戦が囁かれ始めている。

 

 

 

 

『皇帝の果たせなかった無念を晴らすのか!?』

『日本の帝王は海外に通ずるか』

『サイレンススズカ、シンボリルドルフとの無敗三冠対決は』

 

 

 

 まあそれだけ期待されていると言えるが、けっこう好き勝手書かれている。

 とりあえずスズカの秋天(出てないけど)以来の心配がなくなったのは非常に嬉しい。そんなこんなしていると6月末に行われるアオハル杯の一回目の予選に向けて各々で結成したチームが発表された。

 

 

 

 全20チーム。ランダムでトーナメント式に振り分けられ、とりあえずチーム数を削っていくことになる。

 

 6月末の1回目で10チーム、12月末の2回目で5チーム、ここで奇数となり一番評価の高かったチームはシードとして免除して4チーム。6月末に本戦を行って2+1チームまで絞ったら最後12月末に3チーム入り乱れて決勝戦をするらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――が、まあさすがにリギルやスピカが相手でもないと負けるわけがないわけで。

 

 

 

 

 

 

 初戦、二戦目であっさりと勝利。

 テイオーは無敗の三冠を獲り、ジャパンカップに勝利して春の天皇賞でのTM対決へ。

 そしてミホノブルボン世代がデビューする中で、遂にアオハル杯本戦が始まるのだった。

 

 

 

 

 

 俺たちのアオハル杯はこれからだ―――!

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 
※テイオーの個別やっちゃうと向こうで書くことないので…。

本戦と決勝だけ真面目にやります。
そもそも本編完結してるのに無駄にだらだらやろうとするからエタるのだと気づきました。

次回はスズカさんと季節もののイチャイチャをする予定(願望)です

この戦いが終わったらIFルートの方書くんだ……。

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